2014年2月26日水曜日

エージェント:ライアン


Jack Ryan: Shadow Recruit/2013年/アメリカ/106分
監督 ケネス・ブラナー
脚本 アダム・コザド、デビッド・コープ
撮影 ハリス・ザンバーラウコス
音楽 パトリック・ドイル
出演 クリス・パイン、キーラ・ナイトレイ、ケネス・ブラナー、ケビン・コスナー

今回は、たぶんそういう映画なんだろうとポップコーンを抱えてコーラを飲みながら鑑賞してみましたが、まさにそういう映画で久しぶりに肩の力を抜いてぽーっとスクリーンを眺めていました。
あんまり、この手のアメリカ万歳!CIA大活躍!のアクション映画が得意ではないのでいまひとつ気持ちが乗らなかったのですが、それなりに退屈せずに楽しめました。可もなく不可もなくというのが正直な感想です。

ただ、ひとつだけどうしても許容できないファクターがあって、それはキーラ・ナイトレイなんですね。ぼくはこの女優さんが大の苦手なのです。どこがって言われると困るのですが主に顔が。そしてその表情が。見ているとすごく不安な気持ちに苛まれるのです。知ったこちゃないでしょうけれど、なにか心の中にキーラ・ナイトレイ的な闇を抱えているのかもしれません。


ストーリーは特に捻りもなく、若き日のジャック・ライアンが色々あった末にCIAにリクルートされて、巨大な陰謀に巻き込まれていき、突如めちゃんこな有能振りを発揮して立ち向かうというもので、いかにもアメリカンな感じ。

お定まりのアメリカVSロシアと言う構図で描かれており(ぼくはその辺の事情にまったく疎いのでついつい「ロッキー4/炎の友情」を思い出してしまい、なんか古くない?と感じてしまうのです)爆破テロと経済テロを同時進行で勃発させ第二次世界恐慌だ!という敵役の実業家チェレヴィンの手腕になるほどと感じつつも、ワゴン車1台に液体爆弾積んで、というスケール感にちょっと疑問符も…。

9.11の場面から物語は始まり、テロの恐怖に常にさらされているアメリカにとっては非常に切実な内容なのかもしれないですが、いまいちケネス・ブラナー演じるチェレヴィンの執念ちゅうか怨念ちゅうか動機みたいなものの根源的なところが伝わってこずあんまり緊迫感を持てなかったです。

ケネス・ブラナーは監督と二足のわらじでこの敵役を安定した味のある演技で好演していたので、何となく申し訳ないんですけれど。

俳優陣ではケビン・コスナーがかっこよかったですね。しばらく低迷していましたが、「マン・オブ・スティール」の父親役に続き渋い役どころを演じており、やっぱり年を取るとそれ相応の円熟味が出てきて良いものだなあ(※イケメンに限る)と感じました。

クリス・パインは「スタートレック」のヤング・カークでもおなじみですけれど“若き日の”とか“若僧”を演じることが多いですね。何を演じても一緒に見えちゃうところが残念ですがある意味こういう類の映画には向いてると言えなくもないです。ぼくはあんまり興味が持てない俳優さんですが。

ちょっと、んーと思ったのがアクションシーン。カメラがめちゃくちゃ動いて何やってんだかわからない。あと、編集もテンポが良いと言えば聞こえは良いのでしょうがずいぶんと荒っぽいなあと言う印象でした。ところどころ場面の切り替わりが早くて繋がりが良く分からず、ん!ってなりました。


ハリウッドのコマーシャルムービーと割り切ってしまえば普通に楽しめるけれど、もうひと工夫あると良かったかなあとは思いました。だって「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」とか「007スカイフォール」とかあるわけですし。「ボーン」シリーズとか。比肩するとなんとなく見劣りがする。

でも、たまには息抜きにこういう映画も良いです。なんとなくお正月におとそ気分で観たかったかな。もちろん、ポップコーンは欠かせない!

2014年2月24日月曜日

新しき世界


新世界 New World/2013年/韓国/134分
監督 パク・フンジョン
脚本 パク・フンジョン
出演 イ・ジョンジェ、チェ・ミンシク、ファン・ジョンミン、パク・ソンウン

僕の地元名古屋でもようやく公開されその初日に鑑賞してきました。しかも、二週間の期間限定上映というからさみしい話しですね。
韓国では470万人を動員したとのことで、さすが民度が高い!まさにその大ヒットぶりも納得の傑作でしたよ。鑑賞後じんわりと「ああ、良かったー!」と言うあの面白い映画を観た後の感触が体中を駆け巡りました。

「え!今日の晩ご飯、からあげにカツ丼!豚汁もあるの!」と言うぼくの大好物てんこ盛りの激シブ韓国ノワールに浮き足立つことこの上ない映画なのですが、アイデア自体は「インファナル・アフェア」などに代表される潜入捜査官もので既視感があるのは確か。また、そこかしこに「ゴッドファーザー」がオマージュされていたり、「仁義なき戦い」っぽくもあったりして。
しかし、そこがまた良いのですよ!

とにかく、演者さんたちの顔が良い!やたらと顔面をクローズアップするシーンが多用されるのですがみなさん味のある顔してます。主役のイ・ジョンジェはもちろんなのですが、ぼくは(初めて見る俳優さんですが)敵対する幹部を演じるパク・ソンウンの小憎たらしいにんまり顔が好きでしたね。
そして、この映画のもう一人の主役とも言える、主人公の兄貴分を演じるファン・ジョンミン。登場シーンこそ軽い感じで飛行機のスリッパを履いたまま空港に降り立ったり、イ・ジョンジェに偽者の時計をプレゼントしたりとユーモアたっぷりに場をさらっていきますが、後に凄まじいまでの侠気とありえないほどの強さを見せつけます。クライマックス、エレベーターの中での暴れっぷりは息を呑む迫力のシーンで見ているこっちもいろんなところが痛くなってきます。ちなみに全編を通して、ほとんど拳銃を武器にすることはありません。だいたい刃物かバットです。痛いです。刺す、切る、殴るの三拍子です。
あ、あと映画はいきなりえぐい拷問シーンから始まり、そこでセメントをごくごく飲まされるのですが、それを見て「んーまずい!もう一杯!」という懐かしいCMを思い出しました。

こちらをご覧ください。




この映画の日本でのキャッチコピーが『“父”への忠誠か、“兄”との絆か。』なのですが、いわゆるこの“父”が主人公をヤクザ組織へと潜入させた警察の上司カン課長であり、演じているのは韓国きっての名優チェ・ミンシクです。役作りなのかずいぶんとぷくぷく太っていましたが、こいつが悪いんです。ある意味ヤクザより悪い。しかし、やっぱり演技がうまい。どこかチャーミングな側面さえ見せてくれます。まあ、悪いと言ってもそこは警察官ですからやむなくなんですが。延辺からのすごいキャラのたった○○○軍団に粛清される憂き目にあってしまう最期のシーンも悲しいながらも可笑しみがありました。この延辺から召集された○○○軍団がまた面白いのですよ。これでスピンアウト作ってくれないかな、って言うくらいです。

ラスト、それこそゴッドファーザーを髣髴とさせる粛清の場面が終わり、煙草をふかしながら物思いに耽るイ・ジョンエをカメラが捉え物語も終わりか、と思いきやここからが本当のエンディングシーン。これが最高!若きイ・ジョンエとファン・ジョンミンのワンエピソードが語られ最後の最後に見せるイ・ジョンエの表情がこの映画のすべてを物語っています。

冒頭にも述べたとおり目新しさっていうのは薄いのですが、それでもこれだけ骨太で重厚感があり現代的でありながらも泥臭い映画をオリジナルの脚本でここまでの作品に仕上げるって、やはり韓国の底力はすごいな、と感じました。
この映画、男性はもちろんなのですが女性が見ても(そしてある趣味の女性であればより)存分に楽しめますよ!アツイです!

2014年2月20日木曜日

ウルフ・オブ・ウォールストリート


The Wolf of Wall Street/2013年/アメリカ/179分
監督 マーティン・スコセッシ
原作 ジョーダン・ベルフォート
脚本 テレンス・ウィンター
撮影 ロドリゴ・プリエト
音楽 ハワード・ショア
出演 レオナルド・ディカプリオ、ジョナ・ヒル、マシュー・マコノヒー

映画が始まって小一時間ほど経ったところでしょうか、繰り広げられるあまりの乱痴気騒ぎぶりに観るに堪えかねてか隣の老夫婦は途中で席を立って劇場を後にしました。ある意味、この映画の面白さを象徴している出来事ですね。とにかく、全編を通してのエネルギッシュなまでの下品さ、これが最大の持ち味だと思います。

「タクシードライバー」に衝撃を受け、「グッドフェローズ」に痺れまくった、スコセッシ=デ・ニーロの「バカ」映画路線大好物の僕としては、この系譜を受け継ぐスコセッシ=ディカプリオの5度目のタッグとなった今作品を大変楽しみにしていましたし、鑑賞後、これはまさにウォールストリート版「グッドフェローズ」だ!スコセッシ=ディカプリオががついに最高傑作を生み出した!と興奮冷めやらぬ気持でした。

とは言え序盤、まずはマシュー・マコノヒーにやられました。
ランチのシーン、大きな手振りと独特なリズムで饒舌にディカプリオにストックブローカーの極意を説く。曰く、重要なのはJERK OFFとCOCAINEだ、と。そして、とんとんとんと胸を叩きながらハミングと奇声。これ、マシュー・マコノヒーのアドリブだそうですね。一生忘れられない名シーンです。鑑賞後もずっとこのシーンを真似してました。
こちらをご覧ください。

※注 マシュー・マコノヒーのハミングが延々1時間ほどループします。


あと、もう一つ冒頭でこれは誰しも思いつくギャグだと思うのですが「フェラーリでフェラ」と言う名場面もありましたね。

圧巻は賞味期限切れの「レモン」が後から効いてきてクラブハウスでディカプリオがぶっ飛んでからジョナ・ヒルがハムを喉に詰まらせて…のエピソード。どんだけこのくだりで尺ををもたすんだよってくらいたっぷりと描写してくれます。芋虫のごとく階段をごろごろして、よじよじと車まで這いずり完全に放送禁止状態でランボルギーニを駆るディカプリオ。お互いブリブリにラリッた状態で電話を奪い合うディカプリオとジョナ・ヒルのやりとりはゆーとぴあのゴムパッチン芸を思い出して抱腹。ポパイのほうれん草をカットバックしてなんとコカインで覚醒し、窒息死しそうなジョナ・ヒルを救い出す不謹慎さに思わず拍手喝采です。

マーティン・スコセッシも御年71歳だそうですが(デ・ニーロと同い年ですね)、これはもちろん最高の褒め言葉ですがホントに「バカ」ですね。179分に渡るこの長尺のパーティーをディカプリオその他のキャスト・スタッフたちを携え嬉々として取り仕切っている姿がありありと浮かんできて観ているこちらもホントに嬉しくなってきます。絶対撮影中コカインキメてるだろ!って気はしますが…。

もちろん、これは賛否両論あるかもしれませんが僕はこの映画のディカプリオの演技は彼のベストアクトだと思いますし、今現在この役を演じ切れるのは彼しかいないでしょう。もともと「栄光と挫折」みたいな役がはまる人ですし、それでいてあのマスクゆえ嫌味気がない。相変わらずのベビーフェイスではあるけれども貫録も出てきて、ウォールストリートをぐいぐいと勢いでのし上がっていき、ドラッグとセックスに力強く溺れていく様を渾身の力で演技していました。

実は、僕が現在勤務しているのは訪問販売の営業会社でして、あのディカプリオの朝礼でのアジテーションは観ていて「超あるある」でした。営業マンを鼓舞する経営者は時代の新古、洋の東西を問わずですね。僕は事務方なので完全に引いちゃってますけれど、それでもグッとくるものがあります。

いつも、映画の中で食事シーンが出てくるとその鑑賞後その食べ物を食べたくなるのですが、これだけドラッグが出てくると…キメタクナリマスネ!

ラスト、ディカプリオの怪しげなセミナーで「このペンを売ってみろ」と問われ、受講者は皆一様にペンの素晴らしさを伝えようとします。その答えは劇中あるシーンで提示されディカプリオがワンセンテンスで表現しています。「需要と供給」。まさにぼくが欲しかったものを与えてくれたスコセッシ=ディカプリオコンビに感謝です!

2014年2月5日水曜日

小さいおうち


2014年/日本/136分
監督 山田洋次
脚本 山田洋次、平松恵美子
撮影 近森眞史
音楽 久石譲
出演 松たか子、黒木華、片岡孝太郎、妻夫木聡、吉岡秀隆、倍賞千恵子

山田洋次監督の作品は寅さんですらまともに観たことがないんですよね。
そこで、今回の「小さいおうち」です。直木賞受賞作である恋愛小説の映画化ということですが、ぼくは原作は未読でしたし映画に関してもまったくと言っていいほど前情報を入れていなかったので、まっさらな状態で鑑賞しました。

昭和初期、戦争で不穏になっていく時代を背景に当時の中流家庭の様子を描きながら松たか子の不貞を巡って映画は進行していくのですが、舞台である赤い屋根の「小さいおうち」に女中奉公していた倍賞千恵子演じる老いた布宮タキの回顧録という形をとってストーリーが語られていきます。
この回顧録、親戚の妻夫木聡に勧められて大学ノートに鉛筆を舐めながらコリコリと書いていくのですが、すごい文章力なんですよね。読ませる。しかも、タキには知りえない描写や他人の主観の事まで語られているのはご愛嬌でしょうか。

また、これに妻夫木聡があーだこーだと文句をつけるわけですが、これがなんだかわざとらしいというか取ってつけたような批判もあって(この部分になんか作り手の意図みたいなものが透けて見えて)いささかうるさかった。
このふたり、随分と仲が良いのですが結局どういう血の繋がりの関係なのかわからずじまいでした。
そして、倍賞千恵子の得意料理らしく、妻夫木聡にとんかつをふるまってくれるのですがこれがさくっと揚がって大変においしそう。しかし、ご飯がよそってなかったので「お米なしでとんかつかよ」とふと心配になりました。
他にもお正月に出たお雑煮、昭和パートでも松たか子のふるまいで吉岡秀隆が食べていましたがこれも旨そうでした。

どんな話かわからないまま鑑賞しているその序盤、女中のタキが松たか子の足をさする場面があって、すわ!百合展開かと色めき立ちましたが、ぜんぜんそんなことはなかったですね。
この若い頃の布宮タキを演じる黒木華のナチュラル・ボーン・女中っぷりが非常に良かったです。
全体として演出のせいなのか役者陣の演技が大仰でわざとらしく感じたのですが、この黒木華演じるタキの女中っぷりと内に秘めた感じの抑制の効いた演技は好ましかった。
また、実際のところは知る由もないのですが、昭和初期の中流家庭の暮らしっぷりが丁寧に描きこまれているようで、特に片岡孝太郎の衣装や着替えのシーン、松たか子が着物を装うシーンなどに感じ入りました。
吉岡秀隆との秘め事の帰り、あわてて帯をさかさまに結っており「べとべとして気持ち悪い!」と、タキに廊下を拭かせるところなんかは情事を想像させてエロティックでしたね。

東京大空襲で赤い屋根の小さいおうちが焼夷弾で破壊され燃えるシーン、チープなセットと演出の絵面だったんですけれどぼくは背筋に寒いものが走りました。なんだか「ああ、もう取り返しがつかない。なくなっちゃった」ってすごく悲しくなりました。
晩年の布宮タキの家にはその赤い小さいおうちの絵が飾ってありました。と言うことは板倉正治と後年再会したってことですかね。いつもらったものなんだろう。
もっとも、布宮タキの死後、遺品整理の内に無造作に捨てられてしまったのですけれど。ほんものの赤い屋根の小さなおうちと同じようにこちらも跡形もなくなってしまう。

それにしても、妻夫木聡は33歳で大学生役、吉岡秀隆は43歳で新入社員役と相当無理がある年齢ながらまあまあこなせちゃうのがすごいですよね。いつもおんなじ役柄に見えちゃって困りますけれども。そして、松たか子の不倫のお相手としては吉岡秀隆演じる板倉正治は役不足のような気もします。あの男の性的魅力はどこにあるのか?ぜんぜんわからない。

映画はすべてが品良く描かれていて、現実世界では品の良いものが好きなくせに映画では下品なものを好むぼくにとっては決して退屈ではないけれどもいささかの物足りなさを感じてしまう作品ではありました。でも、倍賞千恵子の「私は、長く生きすぎたの」という台詞に彼女はいったい何に打ちひしがれたのだろう、と深い余韻を残しましたし、なんだか良い意味でしんみりとした気分にはなりましたよ。

なによりも、とんかつが食べたくなりました。