2014年9月26日金曜日

舞妓はレディ



2014年/日本/135分
監督 周防正行
脚本 周防正行
撮影 寺田緑郎
音楽 周防美和
振付 パパイヤ鈴木
主題歌 上白石萌音
出演 上白石萌音、長谷川博己、富司純子、田畑智子、草刈民代、渡辺えり、竹中直人、濱田岳、岸辺一徳、小日向文世、妻夫木聡


何度か予告編を目にしており、鑑賞前から「舞妓はレディ~♪」というフレーズが頭の中をぐるぐると回っていました。「どこまでもどこまでも走れ走れいすゞのトラック~♪」なみの粘着力でちょっと気が狂いそうでしたけれど。

800名を超えるオーディションから主役の座を射止めた上白石萌音ちゃん、可愛かったですね。
田舎から出てきたばかりの朴訥とした娘っ子が舞妓へと、さながら蝶が羽化するように神秘性すら感じさせて成長していく様を演じたその演技力に脱帽しました。
白塗りに紅をさした舞妓の姿になって「わあ、綺麗!」とならないといけないわけで、その完成形から引き算しての役作りと演技は大変にご苦労があったと思いますし、彼女をキャスティングしたのは大正解でした。そして、びっくりしたのがその歌唱力。歌がうまいのはもちろん、ちょっとかすれがかった、でも、高音になると透き通ったように伸びていく歌声が素晴らしい!

周防正行と草刈民代は往年の伊丹十三、宮本信子のコンビを思い起こさせますね。映画自体も伊丹十三作品に通じるところがあって、ワンアイデアでエンターテインメント映画を仕上げていく手法と手腕が重ね合わさります。

芸事を描いているだけあって脇を固める俳優陣も芸達者揃い。周防監督作品おなじみのメンバーに加え、今回、出色だったのは髙嶋政宏。テレビ、映画のみならず舞台も多数踏んでいる役者さんですから、今作のようなカリカチュアライズされた役柄とミュージカル仕立てには相性抜群。存在感たっぷりで笑わせてもらいました。
そして、相変わらずの演技の幅広さで巧者ぶりを発揮するのが田畑智子。これ、存外難しい役だと思うのですがさらっとこなしていてさすがだなあと感心しました。
他にも、富司純子を筆頭に岸辺一徳、濱田岳など総じてその達者ぶりで映画を引き締めていました。妻夫木聡が登場した時はきゃーっ!となりましたよ。

ただですね、“ゴキブリはん”こと言語学者役の長谷川博己、初見の俳優さんだったのですが(後で聞いたら、ずいぶんと人気のある方でした)、この人がぼくは全く好みではなく、インチキ京都弁も聞き苦しくて、ミュージカルパートも「ううっ」となり、そのキャラクターからしても、いったいなんで春子がこの男に好意を寄せるのかまったく理解できず、ラストシーンは思わず「は?」とスクリーンに向かって聞き返したほどでした。すみません、完全にぼくの男性の趣味の話です。

映画はストーリーこそ、先日鑑賞した「TOKYO TRIBE」なみに「ごめんなさい、聞いてませんでした」くらいの類型的かつ既視感のあるもので、終盤明かされる春子のお母さんのくだりも「お、おう」と言ったライトな感じでぼくは受け止めましたが、日本版「マイ・フェア・レディ」として先に述べた出演陣とともに周防正行監督の芸達者な画面作りと演出で、一級の娯楽作品として楽しんで鑑賞できる一本だと思います。

竹中直人と渡辺えりは、いささか食傷気味ですけれど。いなかったらいなかったで寂しいのかな。

※竹中直人さん、今作では男衆(おとこし)と言う芸妓さんや舞妓さんの着付け師役で出演。

TOKYO TRIBE



2014年/日本/116分
監督 園子温
原作 井上 三太
脚本 園子温
撮影 相馬大輔
音楽 BCDMG
主題歌 AI
出演 鈴木亮平、YOUNG DAIS、清野菜名、市川由衣、叶美香、中川翔子、佐藤隆太、染谷将太、でんでん、窪塚洋介、竹内力、佐々木心音、中野英雄、高山善廣


ぼくが初めて日本語ラップを耳にしたのは今から二十数年前、中高生の頃だったと記憶していますが、その時まず感じたのは「ダサイ!」「気恥ずかしい!」というものでした。
今では今作の原作者である井上三太のG-Pen aka Sanchama名義、「ONIDEKA SIZE」をYoutubeでヘビロテして独り、部屋でクールに踊っているくらいなのですが、この全編ラップミュージカル仕立ての「TOKYO TRIBE」を鑑賞しての第一印象で久方ぶりに、当時感じたダサさと気恥ずかしさをまずは覚えた次第です。

G-Pen aka Sanchama 「ONIDEKA SIZE」



例えばいわゆる普通のミュージカルで演者さんが音痴だったりしたらそれはやっぱり「え?」ってなるわけで、そういう意味で今作のようにラップに関して、その技巧の程度に差があるとちょっと「ううっ」となったりするわけです。ただ、染谷君の死んだ目でラップとか敬愛する窪塚洋介のフリースタイルなラップとか大好きだったりするのですが。

ところで、肝心の映画自体の総評については、大変に楽しませていただきました、ありがとうございます、と園子温監督にお礼を述べたい心境です。
悪ふざけや悪戯、下品で低劣低俗なものって(作品のクオリティによりますが)度を越せば超すほど面白いものですし、ぐるぐると画面酔いしそうなカメラワークと監督の信頼できるおっぱい及びパンチラ描写で頭がくらくらして、ある種、アトラクションのようなライド感があり大変に満足しました。

ストーリーに関してはほとんど「あ、ごめんなさい、聞いてませんでした」と言う感じでまったく頭に入ってこなかったのですが、鍛え抜かれたボディで迫力の変態オーラを放つ鈴木亮平と吹き替えなしのヌードで挑んだ清野菜名の処女性をまとった清々しい美しさを中心に、この類の映画と役どころでは安定・安心の窪塚洋介、まったく抑揚をつけず始終徹底した狂いぶりの演技でラップでもないのにほとんど台詞が聞き取れない竹内力、そして彼が演じるブッパに思う存分おっぱいを揉みしだかれる叶美香などキャスティングも抜群で、出演陣の皆さんも監督同様、この映画の製作が楽しくてしょうがなかったんだろうなという雰囲気が伝わってきて微笑ましかったですね。

賛否両論ある映画と言われるのはもっともなところなので諸手を挙げて人にお勧めできるものではないですが、そもそも園子温監督の作品で好みの分かれない映画ってないですからね。こちらもハナからそのつもりだったのが功を奏したのかもしれません。(良い意味で)くだらないんだろうなあ、と思って観にいったらホントにくだらなくて最高!って言う。

冒頭、新米警官役の佐々木心音ちゃんのおっぱいとその肉体を使って説明されるTOKYO TRIBEの勢力図のシーンが一番好きでしたね。

2014年9月12日金曜日

フライト・ゲーム


Non-Stop/2014年/アメリカ/107分
監督 ジャウム・コレット=セラ
脚本 ジョン・W・リチャードソン、クリス・ローチ、ライアン・イングル
撮影 フラビオ・ラビアーノ
音楽 ジョン・オットマン
出演 リーアム・ニーソン、ジュリアン・ムーア、スクート・マクネイリー、ミシェル・ドッカリー、ネイト・パーカー、ルピタ・ニョンゴ

以前、フジテレビ系列で「脳内エステ IQサプリ」と言うクイズバラエティ番組がありまして、問題に対して正解・不正解にかかわらず解答に納得がいかないなどの場合「モヤっとボール」をセット中央に放り込む趣向だったのですが、今作を鑑賞後、まさにモヤモヤしてこの「モヤっとボール」をスクリーンに投げ込みたい気持ちで劇場を後にしたのでした。

※モヤっとボール

原題は「ノンストップ」。そのタイトル通り、息もつかせない展開でそれなりに引き込まれて鑑賞しましたが、いわゆるミステリーの仕掛けの部分に疑問符がたくさん浮かび集中力を欠いたところへ、コトが進むにつれなぜだか画面からはさほどの緊迫感が伝わってこず、いざ真犯人からペラペラと語られる犯行の動機に至っては「…ん?」とよく聞き取れないまま首を捻り、そうこうしているうちにジュリアン・ムーアが最後「Depends on」で締めて…って結局、お前のホントの行先はどこだったんだよ!そして、職業とかさ、ディテール話せよ!との僕の叫びもむなしくエンドロールが流れていったのでした。

でも、ジュリアン・ムーアは相変わらずこの手の役は巧いですね。彼女のおかげで映画が引き締まった気がします。そして、リーアム・ニーソンの無双っぷり。ぼくはこの役者さんは好みではなく特に思い入れがないのですが、アクションも達者にこなし、もちろんドラマパートの重厚で渋みのある演技は抜群の安定感で、かつてはハリソン・フォードとかが担ってた役割を継承しつつありますね。
エクスペンダブルズ4あたりで出演しそう

荒っぽいミステリー仕立ても、リーアム・ニーソンありきの演出とジャウム・コレット=セラ監督の力量、さすがハリウッドの底力で撮影と編集のスキルの高さと、ジョン・オットマンのスリルフルな音楽が相まって非常に娯楽性の高い作品に仕上がっていたとは思います。

でも、なんと言っても見所はCA役で出演しているアカデミー女優、ルピタ・ニョンゴの髪型でしたね。最高にクールでした。

2014年9月6日土曜日

イントゥ・ザ・ストーム


Into the Storm/2014年/アメリカ/89分
監督 スティーブン・クォーレ
脚本 ジョン・スウェットナム
撮影 ブライアン・ピアソン
音楽 ブライアン・タイラー
出演 リチャード・アーミテージ、サラ・ウェイン・キャリーズ、マット・ウォルシュ、アリシア・デブナム・ケアリー、アーレン・エスカーペタ、マックス・ディーコン

鑑賞中、結構な頻度で座席がぶるぶると揺れまして、すわ!ギミックか!と驚いていたのですが、どうやら劇場がターミナル駅の近くにあるため電車が通るたびに振動が伝わっていたようです。あるいは、スクリーンから迫りくる竜巻の脅威に慄き、ぼく自身が小刻みに震えていたのかもしれません。89分と短い尺の中でたっぷりと緊張感を味わった次第です。

いわゆる日本人にとっての地震が、米国人にとっての竜巻に相当するのでしょうか、馴染みのない災害だけに、その破天荒なディザスターっぷりに「すごい」「こわい」「まじか」と圧倒されっぱなし。その描写のアイデアとクオリティに、文字通り劇場内で嵐の中に飲み込まれました。

割に無名の俳優さん達を使っていたのもリアリティが増して良かったです。お父さんはなんちゃってヒュー・ジャックマン、お天気お姉さんはなんちゃってサンドラ・ブロックみたいでした。あの、ジャッカスみたいなでぶのばかコンビもパンチが効いててグッドでしたね。ポイントを押さえた丁度良いタイミングでうまく場をさらっていきました。

何よりこの映画のワンアイデアであるPOV方式が非常に効果的に機能していたと思います。ぜんぜん邪魔な感じでもなく、不自然さもない。いわゆる神の視点のシーンの場合、それを忘れるくらい決定的にド迫力な見せ場になっているので混乱もないですし。

実在する職業なのかどうかわかりませんが、竜巻ハンターっていう設定も面白いですよね。リーダー格のピートが念願かなって「目」の中に入り静寂に包まれるシーンは神々しさすら感じさせその前後の荒々しさと相まって素晴らしいカットでした。

ぼくは、ジャンルとしてのパニックものやディザスターものはあまり好みではないのですが、今作に関してはその臨場感あふれる映像はもとより、脚本が良く練られいて伏線の張り方や回収も巧みですし、俳優陣も真摯で抑制を効かせた演技で非常に好感を持ちました。

最後は、家族の絆、そして強いアメリカみたいなところに落とし込んでいるのが、やっぱり感はありましたが、あのでぶコンビの愛嬌もあって許容範囲です。

なんとなく昨年鑑賞した「アフターショック」を思い出し、これがイーライ・ロス製作あるいは監督だったらいくらでもグログロになるよなあ…なんて思ったりしましたが、今作はそこら辺の描写(この映画に登場する人物は皆さん良い人ばかり)よりは竜巻の持つ脅威の力そのものがもたらす自然災害の様子をこれでもかと言うくらい描いているので、これはこれで大変に恐怖しきりで、このジャンルの映画とPOV方式での撮影アイデアにおいてエポックメイキングな一本になったのではないでしょうか。

奇しくも、防災週間。災害時のスマホ撮影にはくれぐれも注意しようと思ったのでした。あと、調子こいて可愛い女の子に「良かったら、手伝うよ!」とか言わない。