2015年1月10日土曜日

毛皮のヴィーナス


La Venus a la fourrure/フランス・ポーランド/2013年/96分
監督 ロマン・ポランスキー
原作 L・ザッヘル=マゾッホ
脚本 デビッド・アイビス、ロマン・ポランスキー
撮影 バベル・エデルマン
音楽 アレクサンドル・デプラ
出演 エマニュエル・セニエ、マチュー・アマルリック

正月休みに初詣に出掛けたついでに屋台のおでんとカップ酒で一杯ひっかけた後、お屠蘇気分で鑑賞しました。予告編は何度か目にしており、楽しみにしていた作品ではありましたが、期待に違わずこれが大変に面白かった。

新年初笑いにふさわしく、時にどきりと、あるいは背筋に寒いものが走りながらも始終にんまりが止まらず、ところどころ思わず声をあげて笑ってしまう場面もあり、愉快痛快な快作でありました。
ロマン・ポランスキー御年80歳にして、この境地。拍手喝采です。
このポランスキーと言い、アレハンドロ・ホドロフスキー、リドリー・スコットなど元気な爺さんの素敵かつパワー溢れるエネルギッシュな映画を観る度、本当に元気が湧いてきます。嬉しくなっちゃうし、こういう大先輩を前にしてまだまだ泣き言なんか言ってられないと勇気を貰いますね。

ワンシチュエーションでしかも二人芝居とくれば監督以下スタッフの手腕もさることながら、それを下支えする役者の力量が問われます。この主演の二人が素晴らしい。
分けてもワンダを演じるポランスキー夫人であるエマニュエル・セニエ。とにかく、おっぱいに説得力があります。乳首のチラ見せも惜しみません。登場するや否や早口でまくしたてるあばずれっぷりから、いざ、役に入り込んだ時の神々しいまでの豹変。圧倒的な魅力で引き込まれていきます。本能的にと言わんばかりに役を理解しつつも、作品に対してはまるで無理解を装い、大オチに持っていくまでのスピード感のある演技はまさに支配的と言っても良い、女優ワンダと劇中のワンダ夫人を体現する素晴らしいものでした。
そして、クシェムスキー/トマを演じるマチュー・アマルリック。自信家で傲慢な作家の一面と徐々に覗かせていくマゾヒスティックかつサディスティックな欲望の側面を音を立てていくように巻き込まれながら崩れ落ちていく様を見事に表現していました。彼の何とも言えない捨てられた子犬のようなあの目付きと顔力でおもしろかわいそうな感じが良く出ていてはまり役でしたね。

元となるマゾッホの小説の冒頭に引用される、ユディト書の十六章七節「神、彼に罪を下して一人の女の手に与え給う」が皮肉たっぷりにエンディングまで物語を運んで行ってくれて、このストーリーを通して行われるワンダとクシェムスキーのコミュニケーションがまるっとそのまま、非常に現代に通じるテーマ性のある男女のコミュニケーションの話になっていて尚且つ娯楽性たっぷりで飽きさせない。何より説教臭くないのが最高です。素敵な爺さんの作るおもしろい映画の共通点は説教臭くないことですね。

あと、フランス映画を観るのは別にまったくこれが初めてではなく何十本と観ているわけですが、こんなに溢れるほどのフランス語を身に浴びたのはなんか初めてのような気がして、それが大変美しく感じ、耳に心地よくて何とも不思議な体験でした。