2015年3月21日土曜日

アメリカン・スナイパー


American Sniper/2014年/アメリカ/132分
監督 クリント・イーストウッド
原作 クリス・カイル、スコット・マクイーウェン、ジム・デフェリス
脚本 ジェイソン・ホール
撮影 トム・スターン
海軍技術顧問 ケビン・ラーチ
出演 ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー、ルーク・グライムス、ジェイク・マクドーマン、ケビン・ラーチ、コリー・ハードリクト、ナビド・ネガーバン、キーア・オドネル

ちょうど劇場に足を運ぶ前日に奇しくもブラッドリー・クーパー演じる主人公のクリス・カイルを射殺したエディ・ルース被告に仮釈放なしの終身刑が言い渡された旨のニュースを見聞し、これに関わる一切を知らなかったぼくは若干のネタバレ感を抱きつつの鑑賞となりました。

事実を基にしたこの物語、がーんとなったのはクリス・カイル氏がぼくより一つ年下で既にもうこの世にはいないというまさにその事実でした。
鑑賞中は、やはり遠い国のぼくの現実とはかけ離れた出来事…と言う距離感があったのですが、この事実を認識することにより、この物語がぐっと手元に手繰り寄せられた気がします。
しかし、ふと改めて思い直してみると冒頭でクリス・カイルの手により一瞬のうちに葬られた母と子については、(まあ、彼と彼女に主眼を置いたお話ではないのであたりまえかもしれませんが)残酷だと思いつつも気持ちがそのようには入っていかなかったので、自分の視点が固定されてしまう恐怖を戦争の無残さとともに感じた次第です。

この映画を観ていて常に感じていたのは「これって西部劇だよなあ」と言うこと。白人とインディアン、対峙する二人の名うてのガンマンみたいな構図がばっちり出来上がってて、それに現代的な主人公の苦悩(戦争によるPTSD)をのっけて最後は因果応報、皮肉なラストで締めくくる。実話ですから出来すぎですけれど、演出それ自体はクリント・イーストウッド監督の手腕で戦争を西部劇に仕立て上げちゃったみたいに感じました。それが良いのか悪いのかは判断がつきませんし、この映画自体、反戦を声高に叫ぶでもなく、またがっつりプロパガンダとも言えず、淡々とこういうことがありましてと、ぽんと投げ出されたように提示されているので無音のエンドロールの中、なんとも重々しい気分になります。

ただ、そんなにずっしり心に響いたか、あるいは戦争映画としてぼくのフェイバリットになったかと問われると実はそういうわけでもなくて、上述のような西部劇的展開にいささか辟易したのに加え、最も気になったのが赤ちゃんがですね、プラスチックだったんですね。完全にお人形さんでした。
クリント・イーストウッド監督は早撮りで有名だそうですが、そういうところの手を抜かれるとすごい「ええっ!」てなっちゃって気になってしょうがないんですよね。だから、重々しい気分で無音のエンドロールを眺めながらも考えていたのは「赤ちゃん、プラスチックやったで」と言うことだったりしました。そこも含めてドラマパートの演出が雑っぽいんですよね、なんとなく。

ブラッドリー・クーパーは良かったです。ビルドアップした役作りと繊細な演技で、この人の懐の深さを感じさせました。『世界にひとつのプレイブック』でもそうでしたけど、精神を病む系の人物やらせるとうまいですね。眼つきが抜群に良いです。ちなみに必死にフェイクベビーの手を動かすブラッドリーさんのGIFを貼っておきます。ちょっとかわいい。

2015年3月13日金曜日

シェフ 三ツ星フードトラック始めました


Chef/2014年/アメリカ/115分
監督 ジョン・ファブロー
脚本 ジョン・ファブロー
撮影 クレイマー・モーゲンソー
音楽監修 マシュー・スクレイヤー
出演 ジョン・ファブロー、ソフィア・ベルガラ、ジョン・レグイザモ、スカーレット・ヨハンソン、ダスティン・ホフマン、オリバー・プラット、ボビー・カナベイル、エムジェイ・アンソニー、ロバート・ダウニー・Jr.

その日は会社で嫌な出来事が重なり、鬱蒼とした気分で足取り重く劇場へ向かったのですが、鑑賞後は「おしゃー!ぼくも、包丁一本さらしに巻いてフードトラックで日本一周だ!明日会社に辞表出して脱サラだ!」とテンションだだ上がり、大変に元気を貰った次第です。

製作、監督、脚本、主演と四役をこなしたジョン・ファブローが『アイアンマン3』の監督オファーを蹴ってまで作り上げた今作、「ああ、本当にこういうのがやりたかったんだね」と微笑ましくうなずくしかないスーパーポジティブ、スーパーハッピー、スーパーみんな良い人な仕上がりでした。アイアンマンは登場しませんが、ある意味“スーパーおとうさん”ヒーローものと言えるかもしれません。

序盤こそ、苦難と挫折を味わうものの、そこからはもう青天井にすべての物事がうまく運びます。あまりのうまく行きように「これ、もしかして息子が死ぬとか、まさかのウツ展開でバッドエンドなのかな」との疑いが首をもたげましたが、そんなものは一蹴。突き抜けるように爽やかな話運びでまさかの復縁エンドです。

主人公のカール・キャスパーが視線を外してタタタっと目にも止まらぬ早業で野菜を切っていくように、映画自体も俊敏なカメラワークときびきびとしたカット割りで、テンポ良く進んでいきます。そこにノリの良いラテンミュージックが伴奏して、首根っこを引っ掴まれるような強引さでぐいぐいとラストまで引っ張られていき、「そんなうまくいくわけないだろ」的な思いは後に残され、爽快な後味でした。世知辛い世の中で日々デスクワークに身をやつしているぼくにとっては、こういう映画もぜんぜん、というかむしろ「アリ」です。

そして、もちろんこういう映画なので最大のポイントなのですが、料理がどれもおいしそう!すごい食べたい!そして、料理しているその所作が美しく楽しそう!ぼくも料理したい!という身体的な飢餓感と満足感を同時に与えてくれる点が素晴らしいと思います。その辺りがしっかり撮られていることで映画に説得力がありますし、ジョン・ファブローの手腕はおそらく相当鍛錬したであろうその料理の腕前とともに見事です。

役者陣も総じて良かった。パーシーくんも可愛かったし、なんと言ってもご贔屓のジョン・レグイザモが最高でした。この人が脇についているだけで安心感があります。今作では結構重要なポジションで画面の支配率も高かったので大変に満足。

やたらと写真をせがむ警察官や足にビニール袋を履かせるチョイ役のロバート・ダウニー・Jr.とのやりとり、キ○○マにコーンスターチなど、ところどころにオフビートな笑いを忍ばせているのもスパイシーな隠し味と言うところでしょうか。とにもかくにも「人間や物事の良い面を見よう!」と言うある種、自己啓発本的な徹底したポジティブさとオプティミズムにビシっと筋が通った佳作。そんな綺麗ごとはごめんだね、と言う方はぜひリドリー・スコット監督『悪の法則』をご覧ください。今作の対極にある作品です。

それにしても、料理の才能があるって素晴らしいですよね。だって、スカーレット・ヨハンソンがソファに横になって肩を丸出しにしながらパスタの出来上がりを待っていてくれるんですよ。