Chef/2014年/アメリカ/115分
監督 ジョン・ファブロー
脚本 ジョン・ファブロー
撮影 クレイマー・モーゲンソー
音楽監修 マシュー・スクレイヤー
出演 ジョン・ファブロー、ソフィア・ベルガラ、ジョン・レグイザモ、スカーレット・ヨハンソン、ダスティン・ホフマン、オリバー・プラット、ボビー・カナベイル、エムジェイ・アンソニー、ロバート・ダウニー・Jr.
その日は会社で嫌な出来事が重なり、鬱蒼とした気分で足取り重く劇場へ向かったのですが、鑑賞後は「おしゃー!ぼくも、包丁一本さらしに巻いてフードトラックで日本一周だ!明日会社に辞表出して脱サラだ!」とテンションだだ上がり、大変に元気を貰った次第です。
製作、監督、脚本、主演と四役をこなしたジョン・ファブローが『アイアンマン3』の監督オファーを蹴ってまで作り上げた今作、「ああ、本当にこういうのがやりたかったんだね」と微笑ましくうなずくしかないスーパーポジティブ、スーパーハッピー、スーパーみんな良い人な仕上がりでした。アイアンマンは登場しませんが、ある意味“スーパーおとうさん”ヒーローものと言えるかもしれません。
序盤こそ、苦難と挫折を味わうものの、そこからはもう青天井にすべての物事がうまく運びます。あまりのうまく行きように「これ、もしかして息子が死ぬとか、まさかのウツ展開でバッドエンドなのかな」との疑いが首をもたげましたが、そんなものは一蹴。突き抜けるように爽やかな話運びでまさかの復縁エンドです。
主人公のカール・キャスパーが視線を外してタタタっと目にも止まらぬ早業で野菜を切っていくように、映画自体も俊敏なカメラワークときびきびとしたカット割りで、テンポ良く進んでいきます。そこにノリの良いラテンミュージックが伴奏して、首根っこを引っ掴まれるような強引さでぐいぐいとラストまで引っ張られていき、「そんなうまくいくわけないだろ」的な思いは後に残され、爽快な後味でした。世知辛い世の中で日々デスクワークに身をやつしているぼくにとっては、こういう映画もぜんぜん、というかむしろ「アリ」です。
そして、もちろんこういう映画なので最大のポイントなのですが、料理がどれもおいしそう!すごい食べたい!そして、料理しているその所作が美しく楽しそう!ぼくも料理したい!という身体的な飢餓感と満足感を同時に与えてくれる点が素晴らしいと思います。その辺りがしっかり撮られていることで映画に説得力がありますし、ジョン・ファブローの手腕はおそらく相当鍛錬したであろうその料理の腕前とともに見事です。
役者陣も総じて良かった。パーシーくんも可愛かったし、なんと言ってもご贔屓のジョン・レグイザモが最高でした。この人が脇についているだけで安心感があります。今作では結構重要なポジションで画面の支配率も高かったので大変に満足。
やたらと写真をせがむ警察官や足にビニール袋を履かせるチョイ役のロバート・ダウニー・Jr.とのやりとり、キ○○マにコーンスターチなど、ところどころにオフビートな笑いを忍ばせているのもスパイシーな隠し味と言うところでしょうか。とにもかくにも「人間や物事の良い面を見よう!」と言うある種、自己啓発本的な徹底したポジティブさとオプティミズムにビシっと筋が通った佳作。そんな綺麗ごとはごめんだね、と言う方はぜひリドリー・スコット監督『悪の法則』をご覧ください。今作の対極にある作品です。
それにしても、料理の才能があるって素晴らしいですよね。だって、スカーレット・ヨハンソンがソファに横になって肩を丸出しにしながらパスタの出来上がりを待っていてくれるんですよ。