2016年3月5日土曜日

サウルの息子


Saul fia/2015年/ハンガリー/107分
監督 ネメシュ・ラースロー
脚本 ネメシュ・ラースロー、クララ・ロワイエ
撮影 エルデーイ・マーチャーシュ
音楽 メリシュ・ラースロー
出演 ルーリグ・ゲーザ、モルナール・レベンテ、ユルス・レチン、トッド・シャルモン、ジョーテール・シャーンドル

ムービーウォッチメンで取り上げられた際には、まだ名古屋での公開が始まっていなかった為、このタイミングでの鑑賞となりました。ちょうど先日、アカデミー賞外国語映画賞受賞の報を聞いたところです。鑑賞後、たばこを買いにコンビニエンスストアに立ち寄ったのですが、外国人の店員さんと少しやり取りがあり、笑顔を交わして店を出たところで一気に緊張が解け「はーコミュニケーションが取れるって幸せ」と喜びが体を駆け巡りました。余程、張り詰めて鑑賞していたのでしょう。

主人公、サウルの硬く強張った表情と、彼の肩越しに見える風景に的を絞って極端に深度の浅いカメラで捉え、スタンダード・サイズのアスペクト比を用いて展開される映像は、観ているこちらの視野を限定的にさせることでより一層オフショットで行われている凄惨かつ残虐な作業がいかなるものかと言う想像を掻き立て、またその音響、叫び声や呻き声、啜り泣き、ガス室のドアを叩く音、何か国語でやり取りされるひそめた声や怒号が耳にこびりついて離れません。

不勉強ながらゾンダーコマンドと言う役割を担った人々がいたということは初めて知りましたし、そもそもぼくはできるだけこういった類の歴史的背景や事象から目を逸らしつつ日々のほほんと生きていたい人間なので、今作の鑑賞はあまりに恐ろしく衝撃的で、薄々は知っていることを改めて目の前に突き付けられ、首根っこを掴まれてぐいぐいと問われているような感じで非常に苦しい体験でした。

言葉が通じないのはもとより、話が噛み合わない、そもそも話にならない、つまり対する相手がこちらを一人の人間として認めていない状況ってのはすごい恐怖ですよね。それがいわゆる戦争下なんでしょうけれど、その中で自分の人間性や尊厳をどう保っていくかが今作で描かれるサウルの取ったある意味、狂気の沙汰とも言える行動なのだと思います。

戦後70年を経た今尚語られ、そして今だからこそぼくらが知り、語り継ぐべき物語があると思いますし、そう言う意味で今後、アウシュヴィッツ収容所やホロコーストを描いた映画のエポックメイキングとなる作品だと感じました。

主人公サウルを演じるルーリグ・ゲーザ。職業俳優ではなく詩人さんのようです。この人の顔がすごく良いんですよね。

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