2016年/日本/108分
監督 真利子哲也
脚本 真利子哲也、喜安浩平
撮影 佐々木靖之
音楽 向井秀徳
出演 柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎、池松壮亮、北村匠海、三浦誠己、でんでん
昔から旬のものを食べると寿命が75日延びるとか言いますよね。今の時期なら初鰹をきりりと冷えた日本酒をキュッとやりながら頂きたいところです。今作、まさに今しか観ることができないであろう、現在の邦画界を背負って立つ若手俳優の旬の演技をたっぷりと美味しく頂戴できる傑作となっております。
わけても主演の柳楽優弥。わずか14歳でカンヌ国際映画祭男優賞を受賞した是枝裕和監督『誰も知らない』での主演から早12年余り、紆余曲折を経つつもその存在感と卓越した演技力で最近は多数の作品に出演しておりますが、今作においても言わば神懸かり的な演技で観客の目を捉えて離しません。作品を通して台詞はほんの数行でしょう。しかし、ほとばしるエネルギーとカリスマティックな存在感、まとわりつくようでありながらもキレのあるアクションで大変に説得力があり、彼なしではこの作品たり得なかったと言っても過言ではないと思います。
そして、菅田将暉くんの相変わらずの役者ぶり。うまいんですよねえ。最低のクズ男を演じているのですが、これが本当に観ているこちらが心底胸が悪くなるほどのクズっぷりで、こいつ殺してやりたい!死ねばよいのに!と思うほどそちら方面に感情移入させてくれます。序盤、キュートな感じで出てくるのでなおさらですね。もちろん、彼も柳楽優弥演じる芦原の狂気に取り込まれて(あるいは内なる狂気を引き出されて)セルフコントロールを失ってしまう、いわゆる自我が形成されていない不幸な若者の一人ではあるのですが。
もう一人、紅一点の小松奈菜なんですが、ぼくが彼女をスクリーンで拝見する折にはだいたいが人工的な美少女と言うそのルックスに依って立つ役どころだったのです。すんごい綺麗だし魅力的なのですがイマイチ面白味に欠けるな、と言うのが今までの印象でした。ところが今作の那奈役、明らかに一皮剥けたというかワンランクステージが上がったお芝居を見せてくれました。すごく人間臭い、人間味のある演技で、内に秘めた邪悪さと爆発する激しい野生の両面を文字通り身体を擲つように演じています。この女優さんに対する評価がものすごく高まった一本でもありました。
映画はありていに言って暴力を描いています。と言うか、ほぼそれ以外何も描いていません(そのタイトルを彷彿とさせる村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』でモチーフとなる兄弟愛はほんのりベースにありますが)。オチもありませんし、さしたるドライブもしません。全編を路上でのファイトシーンが占めますが、カタルシスを得られるかどうかは人によるでしょう。ぼくは、向井秀徳が唄う主題歌が流れるエンドロールを眺めながらふと深い悲しみに襲われました。そう、音楽は向井秀徳が担当しているのですが、冒頭のノイジーなギターリフから始まり、なかなか格好良くてしびれましたよ。
ファイトシーンについてですが、いわゆる昨今のスポーツアクション的なものではなく、路上で素人の殴り合い見かけたらあんなのなんだろうなあと言うリアルさがあります。人を殴打したり蹴ったりする際の効果音もペチッとかビシッみたいに割にマジで痛そうな感じ(本当に当ててるのかなと思っちゃいます)で、カメラも遠景で俯瞰的に撮っているのですごい目撃者感がありそういう意味でも新しい暴力描写の発見みたいな手応えはありました。個人的には初めて北野武の映画に触れた時のような衝撃かもしれません。
『ズートピア』みたいな感じで人に勧めるのは憚られますが、まあ俳優陣の旬の演技が観たい、あるいは現在語られ得る青春群像劇の一つの形を捉えておきたい、または単なる向井秀徳ファン、みたいな人はぜひ劇場へ足を運んでご覧になったほうが良いと思います。賛否両論あるでしょうが、ぼくは非常に好みの作品でしたね。あ、ちなみにぼくは街でストリートファイトを見かけたら(あるいは仕掛けられたら)、100メートル10秒台で走って逃げるタイプです、悪しからず。
池松っつあんもチョイ役で出演しています。
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