毒戦 Drug War/2013年/香港・中国合作/106分
監督 ジョニー・トー
脚本 ワイ・ガーファイ、ヤウ・ナイホイ、ジョニー・トー、リケール・チャン、ユ・スィ
撮影 デビッド・リチャードソン
音楽 グザビエ・ジャモー
出演 ルイス・クー、スン・ホンレイ
もう大人ですし良識ある一映画ファンですので劇場マナーを守り静かに鑑賞していましたが、心の中では「すげえ!すげえ!」「いいっ!いいっ!」と声が出っぱなしでした。
それほどエキサイティングな映画であったということで、まだ年明け間もない1月ですが早くも今年ベスト級の感触たっぷりの超弩級の面白さでした。
冒頭の運び屋エピソードこそ「うへえ!」となりましたが(ぼくはうんこ恐怖症なのです)、そこからの緊迫感たっぷりの神経戦を経て中盤から突如始まる爆発的な銃撃戦の嵐に手に汗握り歯を食いしばりの緊張感溢れかつ刺激的な映画体験でした。
スン・ホンレイがジャン警部を好演、文字通り劇中での囮捜査間としての演技っぷりも見事。突如、着替えだして「ははは」と笑い出した時には、ん?となりましたが、ああそういうことだったのかと納得。しかも、超絶ものまねがウマい。後のものまね四天王ですね。
そして、捜査上致し方なくコカインを吸引して「虫が這いずり回ってる!」と中毒になったところを、お水がぶ飲みと氷風呂でなんとか切り抜ける姿にリアリティがあるんだかないんだかわからないままに「す…すげえ」と感じ入りました。
中盤登場する、聾唖兄弟。これが最高に格好良い!最初はなんだか情けない感じで義理に厚く涙もろい風情で兄貴分の嫁さんの弔いに本物のお金を燃やしたりして泣かせの展開なのですが、いざとなったらめちゃんこ強い!聾唖のため敵の襲撃に気づくのが兄貴は赤い警報ランプ、弟はなんと常時身に付けている防弾チョッキにずどん!と穴が開いて初めて「うわ!」ってなるというアイデアも秀逸ながら、その後の拳銃使いにこいつらただものじゃない感が半端なかったです。思わず「デスペラード」を思い出すガンアクションでした。
終盤にもこの兄弟が良い感じで登場して、ひと暴れした後にあえなくを最期を迎えるわけですが、この二人でぜひともスピン・オフを作って欲しいほどの魅力的なキャラ立ちでしたね。
なんといっても最大の見せ場はラスト、小学校前でのスクールバスを大道具に使った怒涛の銃撃戦。ジョニー・トー監督の「よし、こいつら全員殺しちゃお!」と言う意気込みがスクリーン越しにびしびしと感じられてこれぞ真骨頂と言わんばかりのシーンの連続にギンギンでした。
いわゆる「キタノ撃ち」(ぼくが勝手にそう呼んでいるだけですが)で、直立不動で水平に銃を構えてはあっちを撃ちこっちを撃ちとしながらも、随所にアイデアやドラマが細かく盛り込まれていて、ぼくが姑なら窓の桟をすっと指をなでて(隅々まで掃除が行き届いてる、できるわねこの嫁!)と独りごちるところです。
それにしても、結局はルイス・クー演じるテンミンの超手前勝手な自己保身が全ての元凶ということで、まあそれに相応しい惨めったらしい最期を迎えるのですが、巻き込まれた人々は本当にはた迷惑な話です。香港の7人衆なんかその最たる犠牲者ですよね。
香港の7人衆、黒幕のわりにみんなしょぼかったのが笑えました。特におなじみラム・シューのネーミングもそのままのファットが良かったですね。
決して後味が良いとは言えず、救いようのない話でありながらも劇場を後にする時には一抹の爽快感とたっぷりの満足感を味わえた、まさにぼくにとっての傑作でした。