2014年3月27日木曜日

アナと雪の女王


Frozen/2013年/アメリカ/102分
監督 クリス・バック、ジェニファー・リー
原案 ハンス・クリスチャン・アンデルセン
脚本 ジェニファー・リー
音楽 クリストフ・ベック
歌曲 ロバート・ロペス、クリステン・アンダーソン=ロペス
出演 クリステン・ベル、イディナ・メンゼル、ジョナサン・グロフ、サンティノ・フォンタナ、ジョシュ・ギャッド

近隣の上映環境は、2D字幕、2D吹替え、3D字幕の3択。吹替え版で松たか子の唄う主題歌が大変素晴らしいとの話も聞いており、うんうんと迷いましたが、同時上映の短編「ミッキーのミニー救出大作戦」は3Dで観るべし!との情報を得て、結局3D字幕版での鑑賞となりました。
この「ミッキーのミニー救出大作戦」は確かに3DならではのちょっとしたTDLのアトラクションのような出来栄えになっておりなかなかしゃれた作りで評判通り楽しめました。

ところが、この3D環境、専用のグラスをかけるとものすごく視界が暗くなるんですね。画面がそれこそサングラスを通して見ているようになってしまうのです。
実はこのせいもあってか、ちょっと上映中眠くなってしまって。ところどころウトウトしてはハッとなり…が中盤以降続きました。もう一つ思い当たる節としては、ぼく、ミュージカルが苦手なんですよね。喋ってるかと思ったら突然唄いだすから、ちょっと気が遠くなると言う…。いや、もちろん主題歌の「Let It Go」は素晴らしい歌曲でしたし、イディナ・メンゼルの歌唱力は身を震わせるものがありました。

ストーリーもディズニーのクラシカルなアニメの伝統を引き継ぎつつ、やはり当世風にひねりを効かせたり、シニカルなユーモアも盛り込んであって、大人の鑑賞にも十分に堪え得る、むしろ大人ならではの楽しみがある脚本に仕上がっていたと思います。
でも、なんだか(上映中、居眠りしてたこともあって)、なにかこう例えば同じくジェニファー・リーが脚本を手がけた「シュガー・ラッシュ」を観たときのような「わあ!面白かった!」と言うような昂揚感はなかったのです。

それでもCGアニメのクオリティ、特に氷や雪の表現ってすごく難しいと思うのですけれど、まさに無生物に命を吹き込むアニメーションならではのその手腕と言うか技術は見事としか言いようがなく、ほえーと感心して見惚れていたのですが。
ですので、ぜんぜん素晴らしい良い作品で見応えもあり面白いのですが、感想を聞かれると「うん、良かったよ」くらいのテンションです。

「愛」が大きなテーマだったですね。真実の愛とは何か。今作ではラストでアナが取った行動によって、エルサはその答えを知るわけです。自己犠牲こそ真実の愛だということですね。うーむ、なるほど、と唸りました。しかし、まあ、あんまり愛がどうのこうのと言う話になってくると、現実社会でしがなくサラリーマンなんかやってやもめ暮らしをしていると随分と捻くれてしまい、思わず昔流行ったサントリーのザ・カクテルバーのCMで長瀬正敏が呟く「愛だろ、愛っ。」を思い出してしまっていささか鼻白む自分が嫌になりますね。

こちらをご覧ください。



あと、雪だるまのオラフの造形が可愛くなくってぜんぜん愛着が湧きませんでした。

2014年3月21日金曜日

ロボコップ



RoboCop/2014年/アメリカ/117分
監督 ジョゼ・パジーリャ
脚本 ジョッシュ・ゼッツマー、ニック・シェンク
撮影 ルラ・カルバーリョ
音楽 ペドロ・ブロンフマン
出演 ジョエル・キナマン、ゲイリー・オールドマン、マイケル・キートン、アビー・コーニッシュ、ジャッキー・アール・ヘイリー、サミュエル・L・ジャクソン

やくざ映画を観た後、こう肩をいからせて大股歩きになってみたり、幼き頃、ジャッキー・チェンの映画を観てなんだか強くなったような気がしてカンフーの真似事をしたりってあるじゃないですか。
やっぱり「ロボコップ」を観た後は、動きがぎこちなくロボット的になりますよね。角を曲がる時に首が先に動いて体が後からついてくる、みたいな。

ポール・バーホーベン監督のオリジナル版は当時劇場で鑑賞し、その暴力的でグロテスクな描写に衝撃を受け、しかしながらその造形の格好良さにシビれたのとパントマイム的な動きの面白さに刺激を覚えて、随分と興奮した記憶があります。ロボコップごっこが流行ったような…学校とかで。吹越満のロボコップ演芸なんてのもありましたね。

こちらをご覧ください。


さて、今回のリメイク(リブート)版ですが、ヒューマンドラマに仕上がってましたね。レイティングの関係もあるのでしょうか、どぎつい描写もなかったです。ブラックユーモアな感じもなし。まあ、オリジナルがカルト的人気を誇る名作だけに、こちらもそんなに期待値を上げて観にいったわけでもないので、これはこれで楽しめました。

中でも白眉だったのが、ロボコップとなったアレックス・マーフィーが初めて妻と息子に対面するために我が家を訪れるシーン最先端の医療とテクノロジーを集結させて完成されたそのサイボーグがウィーン、ガシャ、ウィーン、ガシャと歩み寄りおもむろに手を伸ばして「ピンポーン」とチャイムを押す。その一連の流れでもう堪え切れなくなり思わず静まる劇場で吹き出してしまいましたよ。
あれ、ぼくが息子の立場だったらあの姿形でおとうさんが帰ってきたらもう抱腹絶倒ですね。感動の対面シーンだけに不謹慎さが相まって笑いが止まりませんでした。

そして、今作でのロボコップの黒を基調としたスタイリッシュな造形、これは賛否が分かれるところでしょうがぼくは割に好きでした。流線型のフォルムで、こちらも黒く洗練されたデザインのバイクに跨って疾走するところなんかは新しいヒーローの登場を予感させて、格好良いじゃん!と思いましたね。もちろん、あのメタリックシルバーの無骨な感じも、これぞ、ロボコップ!って感じがするので捨てがたいですけれど。

姿形と言えば、アレックス・マーフィーのボディのパーツをすべて取り外して、わずかに残った生身の部分だけのあのビジュアルは大変にショッキングでした。
「ほとんど残ってないじゃないか!」と言うアレックスの叫びは悲痛でしたね。これと言い、最後の戦いで片腕を失いぼろぼろの状態で立ち向かう姿と言い、形容しがたいカタワ感(大変申し訳ありません、不適切ですがどうしてもこの表現になってしまうのです)というのがロボコップの真骨頂ではないでしょうか。

その意味では、肝心の脚本や演出、脇を固める登場人物が今一つ魅力不足だったなあ、と言う感は否めません。監督は名作の誉れが高い「エリート・スクワッド」シリーズのジョゼ・パジーリャだけあって銃撃戦はさすがの迫力、敵役のボス、ヴァロンのアジトに乗り込んでのまさにFPSまんまのガンファイトのシークエンスはナイトスコープやサーモスコープなどの映像の切り替えも騒がしく見応えがありました。しかし、ドラマをあんまりエモーショナルに味付けしないのがこだわりなのか、淡々とした進行の印象を受けました。もうちょっとけれんみたっぷりな演出やお芝居が随所にあっても良かったんじゃないでしょうか。

演じる役者陣、お久しぶりのマイケル・キートンはとにかく自社の製品を米国で売りたい一心なのはわかりますけれど、その割には言動がぶれる印象でしたし、ゲイリー・オールドマンは相変わらずの好演で大変に良かったのですがこの人の軸足もちょっと良く分からない。マッドサイエンティストなのは間違いないんですけれど、なんか良い人って言う。これ、ゲイリー・オールドマンじゃなかったら(彼の演技力がなかったら)微妙な人物像に見えたと思います。
ロボットに戦闘を教え込む教官役、見覚えあるなあと思ったら、ジャッキー・アール・ヘイリーですね。ロールシャッハ!彼なんか憎々しくて非常にチャーミングな役柄だったんですけれど充分に活かし切れていないと言うか、最期も背後からアレックスの相棒にパンと撃たれて終わりだし、もうちょっと見せ場が欲しかった。

サミュエル・L・ジャクソンはオープニングとエンディングに華を添え、狂言回し的なおいしい役どころで、この人の台詞回しは本当にうまいし、ついつい魅入っちゃうんですけれど、ハリウッドで最も美しく「Mother Fucker」を発音し巧みに操ると評判の彼のそれが今回はピー音でかき消されてしまったのがなんとも残念でした。

あ、あと音楽良かったです。

2014年3月15日土曜日

それでも夜は明ける



12 Years a Slave/2013年/アメリカ・イギリス合作/134分
監督 スティーブ・マックイーン
脚本 ジョン・リドリー
撮影 ショーン・ボビット
音楽 ハンス・ジマー
出演 キウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチ、ポール・ダノ、ルピタ・ニョンゴ、ブラッド・ピット

黒人監督初のアカデミー賞作品賞、ルピタ・ニョンゴの助演女優賞など数々の授賞の栄冠をモノにした話題の作品ということで、予告編でも何度か目にしており、作品柄、覚悟を決めてというか折り目をただして鑑賞しました。

キツかったーというのが正直な感想です。
人種差別、奴隷制というものが存在していた、あるいは存在していると、もちろん知ってはいますし、過去にも映画に限らず様々なメディアでその実態を目にはしていました。でも、やっぱりぜんぜんそれは遠い国のお話しであって自分のリアルとは隔絶された世界の悲劇のひとつとしての認識しかないわけです。
ですので、今作品を鑑賞して自分がいかに世界で何が行われていたか、また、何が起こっているのか、なんにも知らない日々のほほん暮らしの大馬鹿三太郎だということに改めて気づかされ、ただただ、できるだけ目を背けずしっかりと見続けこの物語を飲み込もうと努めました。

奴隷としてのプラッツが木に首を括られ爪先立ちで何時間も放っておかれるシークエンス。延々と時にアングルを変えてカメラがそれを捉えるシーンの残酷さにまだか!まだか!と身悶えしました。カンバーバッチがロープを切ってドサっと地面に転げ落ちた時にはこちらもグッタリです。すごい描写でした。

描写と言えば撮影が良かったですね。寄り過ぎるぐらいのアップショット、かと思いきや突き放したようなロングショット。この引きの画が印象的でした。あまりカメラが動き回らずフレーミングされた画面の中で登場人物が感情を押し殺し、爆発させわめき散らし泣き叫ぶ。アメリカ南部のカラッとした暑さを思わせる陽射しの陰影も相まってどうにもこうにも息が詰まるような緊張感を生み出していました

助演女優賞授賞のルピタ・ニョンゴはもちろん主演のキウェテル・イジョフォー、そして、マックイーン作品の常連であり、ぼくの大好きなマイケル・ファスベンダー、皆それぞれ素晴らしい演技でした。渾身、という言葉がぴったりでしょう。ぼくの浅はかな想像力でも今作でどの役柄を演じた俳優さんもホントに辛かっただろうな、と感じました。
もちろん、大変に意義と誇りをもって仕事をされたことと思います。

ぼくは原則的に娯楽と現実逃避を目的として、つまりレジャーとして映画を観たり小説を読んだりしているのでやはりこういう作品は辛い映画体験になります。しかし、今作に関してはテーマはもとよりその映画としての芸術性や完成度が優れている点で後世に語り継がれるモノでしょうし、まあ、ぼくがこの映画を鑑賞したことをきっかけに何か人種問題などにぐっとのめり込んで勉強したり運動したりすることはなく、また日々のんべんだらりと過ごしていくわけですが、それはさておき、映画の持つパワーの凄さをがっしりと感じた作品ではありました。

昨年度のベストにリドリー・スコット監督『悪の法則』を挙げたのですが、あれも後味の悪い映画(そういうのは大好きなんですけれど)でしたが、あそこで描かれている人間の悪意より、もっと根源的な善悪を超えた「性」みたいなものを考えさせられて、ああ、でもぼくも当然ひとりの人間なんだしこの物語もあの物語もやっぱり地続きなんだなあ、と独りごちた次第です。


鞭を打つ人間、鞭で打たれる人間、どちらも嫌ですよね。

2014年3月5日水曜日

ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅


Nebraska/2013年/アメリカ/115分
監督 アレクサンダー・ペイン
脚本 ボブ・ネルソン
撮影 フェドソン・パパマイケル
音楽 マーク・オートン
出演 ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ、ジューン・スキップ、ステイシー・キーチ、ボブ・オデンカーク

ここぞとばかりに意地汚くたかる親類縁者に母親が怒り心頭で罵るシーンでfuck yourselvsと言っていたので、なるほど罵る相手が複数の時は複数形になるんだなあと妙なところで感心し、son of a bitchの複数形がsons of bitchesと知った時以来の衝撃でした。高齢の出演者が多いせいか英語が聞き取りやすくスラングとかもなかったようで、ああこういう言い回しをするんだ!などと英語の勉強になりました。

モノクロにしたのはもちろんあえてなんでしょうけれど、その意図がぐっと汲み取れるほどではなかったです。時代背景やストーリー、登場人物のリアルさと言うかグロテスクさをぼかしたかったのでしょうか。カラー版も見てみたいですけれどあんまり印象変わらないような気もします。

ブルース・ダーンは良かったですね。ちょっと今年は分が悪くアカデミー賞はノミネートにとどまりましたが素晴らしい演技でした。アルツハイマーまではいってないけどいささかボケ気味、頑固でほとんどアル中、しかし頼まれると断れないお人好しと言う複雑な人物を抑制の効いた演技でしかし能弁に魅せてくれました。
入れ歯を失くして線路で探して見つけ出し「父さんのじゃない!…冗談だよ」「俺のじゃない…俺のに決まってんだろ!」のやり取りとか手紙を強奪されて「諦めなよ…やっぱり探しに行く?」ばっと振り返って「無言(目がキラキラ)」のシーンとかチャーミングで好きでした。

まあ、ほとんどの登場人物が主人公を含めて人間の嫌な部分を見せつけ、だめな言動をかますと言うていたらくですからこちらも良い気分にはならないのは確かです。しかし、老人、外国、モノクロという自分的なリアリティの薄さからどこか遠くのすごくフィクショナルな話に見えつつも、いやこれはぜんぜん自分と地続きだよ、めっちゃ普遍性あるよ、と鑑賞中に心によぎってからは、これぞアレクサンダー・ペインの力量というかこういう作品ならではの本領発揮に気圧されて参ったな、と言う感じでした。そこで、ラストのトラックのシーンが効いてくるわけです。なので、どちらかって言うと見た目とか口に入れたとたんって言うより後味ほのかにってタイプの映画ですね。

これ、邦画の副題が「ふたつの心をつなぐ旅」ってなってるんですけれど、もともとあの家族って主人公がお父さんっ子、兄貴がお母さんっ子ぽいですよね。だから主人公とお父さんが旅に出てドラスティックに心が繋がるって感じはあんまりしなかったです。もともと、お父さんはともかく主人公はお父さんよりですもんね。あの兄貴とお父さんの絆がここへ来て深まる!みたいなのだったら納得の副題なんですけれど。

それはそうと歳を取るとなんでメニューに載ってないもの頼もうとするんですかね。