2014年3月15日土曜日

それでも夜は明ける



12 Years a Slave/2013年/アメリカ・イギリス合作/134分
監督 スティーブ・マックイーン
脚本 ジョン・リドリー
撮影 ショーン・ボビット
音楽 ハンス・ジマー
出演 キウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチ、ポール・ダノ、ルピタ・ニョンゴ、ブラッド・ピット

黒人監督初のアカデミー賞作品賞、ルピタ・ニョンゴの助演女優賞など数々の授賞の栄冠をモノにした話題の作品ということで、予告編でも何度か目にしており、作品柄、覚悟を決めてというか折り目をただして鑑賞しました。

キツかったーというのが正直な感想です。
人種差別、奴隷制というものが存在していた、あるいは存在していると、もちろん知ってはいますし、過去にも映画に限らず様々なメディアでその実態を目にはしていました。でも、やっぱりぜんぜんそれは遠い国のお話しであって自分のリアルとは隔絶された世界の悲劇のひとつとしての認識しかないわけです。
ですので、今作品を鑑賞して自分がいかに世界で何が行われていたか、また、何が起こっているのか、なんにも知らない日々のほほん暮らしの大馬鹿三太郎だということに改めて気づかされ、ただただ、できるだけ目を背けずしっかりと見続けこの物語を飲み込もうと努めました。

奴隷としてのプラッツが木に首を括られ爪先立ちで何時間も放っておかれるシークエンス。延々と時にアングルを変えてカメラがそれを捉えるシーンの残酷さにまだか!まだか!と身悶えしました。カンバーバッチがロープを切ってドサっと地面に転げ落ちた時にはこちらもグッタリです。すごい描写でした。

描写と言えば撮影が良かったですね。寄り過ぎるぐらいのアップショット、かと思いきや突き放したようなロングショット。この引きの画が印象的でした。あまりカメラが動き回らずフレーミングされた画面の中で登場人物が感情を押し殺し、爆発させわめき散らし泣き叫ぶ。アメリカ南部のカラッとした暑さを思わせる陽射しの陰影も相まってどうにもこうにも息が詰まるような緊張感を生み出していました

助演女優賞授賞のルピタ・ニョンゴはもちろん主演のキウェテル・イジョフォー、そして、マックイーン作品の常連であり、ぼくの大好きなマイケル・ファスベンダー、皆それぞれ素晴らしい演技でした。渾身、という言葉がぴったりでしょう。ぼくの浅はかな想像力でも今作でどの役柄を演じた俳優さんもホントに辛かっただろうな、と感じました。
もちろん、大変に意義と誇りをもって仕事をされたことと思います。

ぼくは原則的に娯楽と現実逃避を目的として、つまりレジャーとして映画を観たり小説を読んだりしているのでやはりこういう作品は辛い映画体験になります。しかし、今作に関してはテーマはもとよりその映画としての芸術性や完成度が優れている点で後世に語り継がれるモノでしょうし、まあ、ぼくがこの映画を鑑賞したことをきっかけに何か人種問題などにぐっとのめり込んで勉強したり運動したりすることはなく、また日々のんべんだらりと過ごしていくわけですが、それはさておき、映画の持つパワーの凄さをがっしりと感じた作品ではありました。

昨年度のベストにリドリー・スコット監督『悪の法則』を挙げたのですが、あれも後味の悪い映画(そういうのは大好きなんですけれど)でしたが、あそこで描かれている人間の悪意より、もっと根源的な善悪を超えた「性」みたいなものを考えさせられて、ああ、でもぼくも当然ひとりの人間なんだしこの物語もあの物語もやっぱり地続きなんだなあ、と独りごちた次第です。


鞭を打つ人間、鞭で打たれる人間、どちらも嫌ですよね。