2014年5月24日土曜日

WOOD JOB!(ウッジョブ)〜神去なあなあ日常〜


2014年/日本/116分
監督 矢口史靖
原作 三浦しおん
脚本 矢口史靖
撮影 芦澤明子
音楽 野村卓史
出演 染谷将太、長澤まさみ、伊藤英明、優香、西田尚美、マキタスポーツ、光石研、柄本明

鑑賞後感が非常に爽快で、宣伝文句の青春林業エンタテインメントの名にふさわしい作品でした。矢口史靖監督のいわゆる「ユニークな題材」系の映画制作の巧みさが十二分に発揮されて、特に林業という日の当たらない職業を題材にとりながら、普遍的な一人の青年の成長物語としてしっかりと描かれており「青春ってイイよね!」と、マイア・ヒラサワが唄う主題歌「Happiest Fool」とともに足取り軽く映画館を後にしました。

ぼくは、随分と以前にひょんなことから一泊二日で林業体験をしたことがあり、ちょこっとだけその方面に興味があった時期があるのです。なので、間伐や伐倒などについては自分の知識と照らし合わせながら、これも面白く観ることができました。もちろん、本職の方の視点から見て今回の映画がどこまでのリアリティを持っているのかは分かりませんが、概ねのところは未知の世界を掴んでもらえる職業紹介映画にはなっているのではないでしょうか。

伐倒した杉に高値がついて、染谷将太が「山の杉を全部切って売っちゃえば良いじゃん」と軽口を叩くのをたしなめる伊藤英明の「子々孫々」云々の台詞が林業という仕事の特異性を表していて改めて敬意を払うと同時に心に沁みました。

この、子孫繁栄と言うテーマがわかりやすく提示されていて、舞台となる神去村には老人から中年世代、子どもたちが家族の垣根を越えて暮らしており、また、優香と伊藤英明夫婦はあけすけに子づくりに励み、クライマックスの奇祭はまさにそれを願ってのダイナミックなもので圧巻でした。
ぼくの住む地方にもこの類の祭りがあるのですが、五穀豊穣・子孫繁栄と言う原始的な実りへの祈りと山海などへの畏怖の念は神聖で静寂、かつエネルギッシュで、それに参加するもの、傍観するものにある種の狂気のようなものをもたらして、ぐぐっとパワフルな画面になりますよね。

子孫を残すための性を率直に描く一方、ホモセクシュアル的な香りもぷんぷんと漂っていました。染谷将太×伊藤英明って言うのは、一つのジャンルとして確立されても良いのではないでしょうか。特に御神木をふんどし姿の二人が息遣いも荒く汗をほとばしらせながらのこぎりで挽きあう様子をカットバックのスローモーションで捉えたシーンはあまりにも暗喩的でにやにやがとまりませんでした
へたれ染谷将太と筋肉バカの伊藤英明コンビは往年の「噂の刑事トミーとマツ」を思い出し、この二人で何かシリーズものを作ってくれないかなと期待するほどです。




主役の二人を含めキャスティング、役者陣の演技も良かったです。ほぼノーメイクの長澤まさみと優香。長澤まさみについては皆さん褒めるでしょうから(ぼくは今作に関しては及第点くらいです)、あえて強調したいのが優香です。優香最高でしょ!もう33歳ですよ!もちろん十分すぎる程に可愛いし、あの素朴であっけらかんとしたエロさ。喧嘩してぶち切れの後、仲直りして一変、甘えていちゃつく姿に優香の本領を見ました。
脇を固める西田尚美、光石研、押えどころの柄本明も相変わらずの巧者でした。

しかし、なんと言っても、伊藤英明の卓越した身体能力と隆々とした筋肉にうっすら脂肪の乗った肉体美、どハマリの役をもらって渾身の演技を魅せた存在感がこの作品の肝だと思います。伊藤英明のベストアクトじゃないでしょうか。
遠景からイヌのように走ってきてぐーっと画面手前まで駆けつけ並走していたトラックに飛び乗るシーンとか最高でした。軽トラの運転の荒ぶりも笑えたし、力強くチェーンソーを操る彼は完全に山の男でしたね。まあ、はっきり言って惚れました。

兎にも角にも、抑制の効いた笑どころと展開のテンポ良いリズム感、思わずもらい泣きするツボどころや畏敬の念を抱かせる自然の描写など一抹のお仕事映画にとどまらない良質な娯楽作品に仕上がっていて満足でした。

関係各所は期待するところでしょうが、この作品を観て林業の就業事情に変化がもたらされるかと言うと、それはそれで難しいと思います。仕事それ自体以外にも居住環境など生活面や暮らしの趣きがまったく変わってしまうと言う問題がありますからね。コンビニもウォシュレットもないですから。映画館もないし。とは言え、日々せこせことストレスフルなサラリーマン稼業に身をやつしているぼくも「田舎暮らしで林業か…」と憧憬の念を抱かざるを得ないものはありました。物事の良い面を見よう!という仕掛けですね。もちろん、冒頭にも述べたように自身の体験によって、日本の林業が瀕している局面は少なからず理解してますし、田舎暮らしのしんどさってのもこれまた個人的な経験から想像の範疇です。

とは言え、まだ自分が何者なのか分かってない、居場所が何処なのか見つからない人間が何か「あ、もしかしたらこれなのかも、ここなのかも」ってなんとなく掴んでいく、そして他者との関わりを深めていく(恋愛も含めて)、これってやっぱり「青春」であって、青春ってイイですよね!