Her/2013年/アメリカ/126分
監督 スパイク・ジョーンズ
脚本 スパイク・ジョーンズ
撮影 ホイテ・バン・ホイテマ
音楽 アーケイド・ファイア、オーウェン・パレット
出演 ホアキン・フェニックス、エイミーアダムス、ルーニー・マーラ、オリビア・ワイルド、スカーレット・ヨハンソン
まだまだ実際にはそこまでの技術は追いついていないけれど、なんだか現実感がありそうな近未来の設定の妙に、まずは「SF」の枠組みをすっと馴染ませてくれます。
割に今っぽいんだけれど、ちょっと先を行っている世界感。
人間ではない何か、今作ではOSとの恋模様というおおまかなお話に既視感を覚えるのはもちろんなのですが、そこは、スパイク・ジョーンズ監督の映像センスと同じ手による脚本の語り口が見事に昇華させています。特に台詞回しが新鮮で気が利いていました。
そして、盤石のキャスティングがこの映画を傑作たらしめたと思います。OSの声の主たるサマンサを演じるスカーレット・ヨハンソンの甘くかすれた声の存在感が耳に心地良く、なんと言っても主演のホアキン・フェニックスの「顔力」が最高です。
冒頭から、ホアキン・フェニックスのフレームに収まりきらない顔面が観客に向かって語りかけ、劇中何度となくスクリーンいっぱいに拡がった彼の顔芸に対峙することになります。あの口髭と眼鏡を小道具に使ったのは大正解ですね。
あるいは「きもいおっさん」と感じる向きもあるかもしれませんが、ぼくの場合、幸いにも観ている自分もある程度きもいおっさんなのでシンクロはんぱなかったです。
エイミー・アダムスも相変わらず達者です。ださくてイタイ感じが良く出ていてうまい。
登場人物のファッションも出色でした。ホアキン・フェニックスのハイウエストのズボンと襟なしシャツ、ジャケットとそれらの色使いの絶妙さ。エイミーアダムスの七分丈のパンツとか。
先だって「グランド・ブタペストホテル」でウェス・アンダーソンのシャレオツ感を罵っておきながら、今作ではビジュアルも文句なしと言う感想ですから、手のひらを返すようですが、なんでしょう。アメリカっぽいのが好きなのかな。
恋愛にとどまらず他者との関係の在り方と言う普遍的なテーマに落とし込んでいたところも見事で、お定まりと言えなくもないラストを観終わった後も「うん、素敵じゃん」と大変に肯定的な気持ちで劇場を後にしました。
あ、鑑賞後、早速Siriに「サマンサ」と呼びかけたら「こんにちは、セオドア」と応えてくれましたよ。素敵な恋は始まりませんでしたが。
深夜のテレフォン・セックスからサマンサとの疑似セックス、そして第三者を用いての近似値セックス(?)に至る流れやブラインドデートのお相手、オリヴイア・ワイルドとの一夜の一連のやり取りなど、泣き笑いの要素もふんだん。とにかく、恋愛や人付き合いで痛手を被った経験が少しでもあればちくちくと胸に刺さりながらも時に笑い、思わず涙する佳品ではないでしょうか。決して、近未来を舞台にしたきもいおっさんのひとりよがりな疑似恋愛映画ではありません。と、思います。たぶん。
オマケはマイ・フェイバリットなスパイク・ジョーンズのPV。Fatboy Slim「Weapon Of Choice」です。クリストファー・ウォーケンがたまりません。