監督 是枝裕和
原作 吉田秋生
脚本 是枝裕和
撮影 瀧本幹也
音楽 菅野よう子
出演 綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず、加瀬亮、鈴木亮平、樹木希林、リリー・フランキー、風吹ジュン、堤慎一、大竹しのぶ、前田旺志郎、池田貴史
以前に受講した書評講座で、書評家の豊﨑由美先生が「“ほっこり”って表現、やめませんか」と苦笑交じりに仰っていたのを思い出しました。今作を鑑賞した後、真っ先に頭に思い浮かんだのがこの“ほっこり”だったので。実際にほっこりしたわけではありませんが、そういうレビューがあってもさもありなんです。
改めて本棚にあった吉田秋生による原作をざざっと読み返してみたのですけれど、是枝裕和による脚本は非常に良くできているな、と感じました。ただ、ぼくはさほど原作に思い入れがないので、人によっては異を唱えるかもしれません。あくまで、是枝テイストの作品に仕上がっていますので。
会話の中に「あれ」って言う指示代名詞を入れ込んでそれを成り立たせるのは映画的発見ですよね。その「あれ」の含む言外の微妙な意味合いも家族ならではの相互理解の上に成り立っていて、しかも観ているこちらも置いてけぼりにならない。何となくわかるんですよね。他にも「気をつけなさい、転ぶわよ」みたいな台詞で大竹しのぶと綾瀬はるかの母娘関係を繋げて提示したり、ダイアローグの妙に感心しました。
お気に入りのシーンは法事が終わって家族みんなが家に戻ってくるのをローポジションのアングルから捉えて(いわゆる小津的なやつですね)、そこでみんながてんでばらばらに動いてフレームの中に立ったり座ったり、出たり入ったりするところです。画面の真ん中で大竹しのぶは早速アイスを食べたり、右端手前では無遠慮に長澤まさみが着替えたり、それを綾瀬はるかが叱ったりってのが固定されたカメラと舞台装置の中で演者さんがすごく躍動的にアクションしていて「あ、なんかすごい映画的なシーンだな」と思った次第です。
(原作に比べて、あるいは映画として)抑揚を欠いている、平板で人物描写や物語に深みがないみたいな批判もあるのかな、とも思いますが、これは是枝裕和と言う監督の作家性に対する好みの問題かもしれません。ぼくは、今作に関しては非常に好みでした。ともすればエモーショナルになりがちなところをぐっと抑えた演出と、淡い色合いの鎌倉の風景と共に水彩画のような印象を与える爽やかな撮影、脇を固める役者陣のキャスティングなどどれも絶妙です。
それはさておき、四姉妹が良いですよね。是枝監督の演者さんに対する愛情がひしひしと感じられます。特に綾瀬はるかに対するそれはハンパなくて、是枝監督は完全に綾瀬はるかのことが好きですね。長澤まさみも良い塩梅のスレ具合、夏帆がこれまたあらゆる表情筋を駆使して味のある顔で好演。同名役の広瀬すずは、ぼくは初めて拝見したんですけれど、飽きの来ない端正な顔立ちで大変に綺麗です。凛として、かつ抑制の効いた演技でスクリーン映えしますね。こんな、美人四姉妹いねーよ!って話もありますが、ぼくも実は腹違いの末の弟って役柄で参加したいところです。花火したい。
この映画、冒頭の引越しそばに始まって、梅酒や浅漬けのついた和風の朝食、海街食堂のアジフライ定食など食事シーンがふんだんに盛り込まれているのも良いです。美味しそうな食事の出てくる映画に悪い映画はありません!家族の食卓の風景って素敵ですよね。あの雰囲気憧れます。
昨年公開のマイフェイバリット『私の男』から浅野忠信演じる腐野淳吾のこの台詞がふと口をついて出ます、「俺も家族が欲しいんですよ」。
生しらすどんぶり、食べたいですね。旨そう。 |