2014年12月28日日曜日

ゴーン・ガール


Gone Girl/アメリカ/2014年/148分
監督 デビッド・フィンチャー
原作 ギリアン・フリン
脚本 ギリアン・フリン
撮影 ジェフ・クローネンウェス
音楽 トレント・レズナー、アティカス・ロス
出演 ベン・アフレック、ロザムンド・パイク、ニール・パトリック・ハリス、タイラー・ペリー、キム・ディケンズ、キャリー・クーン

鑑賞後、開口一番「やっぱり女は怖いね!」などとぬるい感想を宣ったら、その底の浅さとは裏腹にニール・パトリック・ハリス演じるエイミーの元彼よろしくスッパリと深く喉元をかっ切られそうですね。

エイミーは至極真っ当なサイコパス、加えて「結婚」と言う関係性にフィーチャーして物語は(表面上)描かれており、世の男性(特に既婚の、あるいは交際相手のいる)からは上記の第一印象を漏れ聞くのも止むを得ず。

ぼくとしては、寧ろ「母娘」の関係性の業の深さに恐怖を見出しました。もちろん「アメイジング・エイミー」の話です。そして、何より厄介なのがこの映画全体を、そしてぼくたちを取り巻く人間の「善意」とでも呼ぶべきもの。

敬愛する漫画家、ジョージ秋山の今なお連載が続く不朽の名作「浮浪雲」に「人さまざま」って言うエピソードがあるんですね。曰く、「善人ばっかりだともめるんですよ 悪人ばっかりだともめねえんです」。登場人物はエイミーに限らず皆一様に、マスコミやそれを通して情報を得る人々を含め、その人なりの「正しさ」を装いあらゆる関係性のパワーゲームを押し進めて行きます。しかしその実、勝者も敗者もいない苦いゲーム。そこでは、すべてが偽りであり、また真実でもあります。

デビッド・フィンチャー監督、前作の「ドラゴン・タトゥーの女」はオープニングこそ腰が浮いておおっ!となったものの映画自体は肩透かし感がありまして、今作こそは!との期待に違わず傑作でした。ぼくがクロニクルに作品を追っている数少ない監督のひとり。マイ・フェイバリットの「セブン」「ファイト・クラブ」には及ばないものの存分に楽しませてくれました。

ベストセラーとなった原作のギリアン・フリンが脚本を取ったことで、展開の妙はもちろん台詞回しが大変に効いていますし、何よりロザムンド・パイクの演技は突き抜けてたまに笑っちゃうぐらいの渾身。ベン・アフレックのダサ格好良い具合もナイスです。ケツアゴ最高です。二本指でケツアゴを隠すアレは思わず真似しちゃう。

ともあれ、この映画で唯一同情しこの人マジで可哀想と思ったのはスクート・マクネイリー演じるエイミーの元クラスメイト、トミーでした。哀れ。

2014年12月11日木曜日

インターステラー


Interstellar/2014年/アメリカ/169分
監督 クリストファー・ノーラン
脚本 ジョナサン・ノーラン、クリストファー・ノーラン
撮影 ホイテ・バン・ホイテマ
音楽 ハンス・ジマー
出演 マシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイ、ジェシカ・チャスティン、マイケル・ケイン、ジョン・リスゴー、マッケンジー・フォイ、ティモシー・シャラメット、ケイシー・アフレック、マット・デイモン

前半、宇宙へと旅立つまでの大胆な省略話法と終盤にかけての超展開に169分と言う長尺をさほど感じることなく、サイエンスフィクションの世界に疎いぼくでも細かい部分は頭に疑問符が浮かびながらではありましたが楽しんで鑑賞できました。

親子愛からひいては男女の愛、そして人類愛と言う普遍的な愛についての物語に落とし込んであって、クリストファー・ノーラン監督らしくいささか大仰な演出でグイグイと進んでいく感じでしたが、個人的にこの「父と娘」と言うパターンには滅法弱いのでたいそう涙腺が刺激された次第です。

「ウラシマ効果」って設定も大好物でして、何かセツナオモシロイ…って感じで心揺さぶられるのです。

グラビティ、重力がキーワードになる今作、どうしても昨年末に鑑賞した「ゼロ・グラビティ」が思い出され、視覚効果や音楽はこちらの方がフレッシュな驚きがあって好きだったりするのですが、お馴染みハンス・ジマーの音楽もいささか煩かったものの、これまた良かったです。宇宙空間で無音になるシーンとのギャップが盛り上げてくれますよね。

脚本も素晴らしいと思います。鑑賞中、どんな着地点にこの壮大な物語を運んでいくのかハラハラとしていましたが、淡いながらも確かに光る希望を見出せるラストで腑に落ちました。

そして、この壮大な物語を下支えするのが俳優陣の渾身の演技ですよね。マシュー・マコノヒー、贔屓目もありますが素晴らしかった。特に宇宙空間に放り出されて五次元空間へと落ちて行くあの息遣いと足下から股間にかけてすーっとする感じ、凄かったです。もちろん、独特の喋り方と熱量で良き父っ振り、また冒険者としての男振りも最高でした。娘、マーフィーの少女時代を演じたマッケンジー・フォイも良かったですね。強い眼差しで、後の成長に繋がる説得力のある演技でした。

こう言う映画には必須のサブキャラ、TARSとCASEも可愛いかったし、泣ける役回りで最高でした!

2014年12月6日土曜日

西遊記~はじまりのはじまり~


西遊 降魔篇/2013年/中国/110分
監督 チャウ・シンチー
共同監督 デレク・クォック
脚本 チャウ・シンチー、デレク・クォック 他
撮影 チョイ・サンフェイ
音楽 レイモンド・ウォン
出演 スー・チー、ウェン・ジャン、ホアン・ボー、ショウ・ルオ

チャウ・シンチー監督作品は以前にDVDで「少林サッカー」を鑑賞したのみ。今作を観て改めて感じたのですが、この人のウェットな演出や、いささかグロテスクなユーモアがどうも肌に合わず、非常に娯楽性に富んだ作品だと評価する一方、苦手意識が消えませんでした。

ご存知、西遊記のエピソードゼロと言うことでアイデア溢れ、妖怪ハンター達のキャラクターも面白いのですが(空虚王子がお気に入りでした)、玄奘三蔵が旅立つまで市井の人から身近な人まで随分と人が死んじゃってなんだか重い話だな…と。あと、あんなにホモセクシャルをバカにするのはポリティカルコレクト的にどうなんだと思ったりして、鑑賞中、雑音が多かったですね。

頼みの綱の孫悟空も人間の姿をしていた時はその人物像を含めて笑える感じで良かったのですが、猿になってからは造形的にぜんぜん格好良くなくて、堺正章にシビれてその辺の棒っきれを振り回し、「如意棒!」とかやってた世代としてはちょっとがっかりでした。
沙悟浄や猪八戒のルックスもイマイチ(西田敏行と岸部シローに思い入れが強すぎるのかも知れません)。

チャウ・シンチー監督のサービス精神旺盛な持ち味で様々なファクターをたっぷりと詰め込んだ今作、詰め込みすぎか間延び感。もうちょっとテンポ良く運んでくれると楽しめたかもしれませんが、ぼくには上映時間の110分がいささか長く感じられました。

ヒロインを演じたスー・チーは石原さとみと綾瀬はるかを足して二で割ったところにスパイスを振りかけたようで大変に可愛く魅力たっぷりでしたよ。「トランス・ポーター」のあの人か!と後で知り、今後もスクリーンで観たい女優さんの一人です。

2014年11月29日土曜日

6才のボクが、大人になるまで。


Boyhood/2014年/アメリカ/165分
監督 リチャード・リンクレイター
脚本 リチャード・リンクレイター
撮影 リー・ダニエル、シェーン・F・ケリー
音楽監修 ランドール・ポスター、メーガン・カリアー
出演 エラー・コルトレーン、ローレライ・リンクレイター、パトリシア・アークエット、イーサン・ホーク

前回、ブログに書いた「紙の月」の吉田大八監督に続き、今作の監督であるリチャード・リンクレイターもまた、改めてぼくにとっての映画の凄さ、素晴らしさを教えてくれました。
そして、今では往々にして底に沈んでいる意識や感情を良いも悪いもひっくるめて丁寧に引っ張り出して眼前に提示してくれる、傑作でした。

「ビフォア」シリーズでは男女の関係の普遍性を見事に描き出し、今作ではそれにとどまらず父子、母子、兄弟姉妹、つまり家族と言う枠組みの多面的な関係性の物語を主人公のメイソン・ジュニアが6才から18才になるまでの12年間を縦軸に紡ぎだしています。
驚嘆すべきはその方法論でしょう。撮影が実際に12年間に渡って断続的に行われたことにより、メイソン・ジュニア演じるエラー・コルトレーンを含め主要な登場人物の出で立ちや振る舞いが、もちろんそれは緻密に計算された演技と綿密に練られた脚本の土台があってこそだと思いますが、ドキュメンタリーさながらに生々しく感じられ、やはり「ビフォア」シリーズ三部作を通して鑑賞した時に感じた何とも言えない映画への親密さ、登場人物たちへの愛情を深く感じるのです。
また、今作ではその普遍性はもとより、アメリカ(舞台であるテキサスの風土の特異性も含めて)と言う国とそこに住む人々の慣習、考え方、歴史などを色濃く感じました。

あんなに愛らしかった6才のメイソン・ジュニアは歳を重ねるにつれ、姿形がナヨキモっぽくなっていき、けれども隠し切れない芯のようなものが一本通っていく。久しぶりに拝見したパトリシア・アークエットは12年の歳月を見事に表す中年女性への変貌っぷりを見せつつ、結婚と離婚を繰り返し、娘と息子巣立たせ自分の人生に茫然自失する。そして、なんと言ってもイーサン・ホークの魅力。こんな風に歳を取りたいと感じる若かりし日の格好良さからやがて円熟味を増していく、昔はヤンチャしてたけど今では良きパパに落ち着きつつあるぜ感が醸し出す雰囲気が素晴らしい。ただ、いささかこのメイソンと言う人物像の良い面を描きすぎている嫌いも感じたりはしました。まあ、二番目、三番目の夫が(特に二番目ですけれど)いかがなものかと言う二人だったので対照的なキャラクターとして、そうせざるを得なかったのかもしれません。
こう言った類の映画を鑑賞するとどうしても自分と照らし合わせて自分語りの感想を書きたくなりますが、ここでは諸事情により割愛します!

リンクレイターの実の娘であるローレライ・リンクレイターも非常に素晴らしかった。まったくもって「あるある」な感じで成長していく姿を存分に見せてくれました。イーサン・ホークに性教育、コンドームについてのレクチャーを受けるシークエンスの照れっぷりは演技を超えたものがあって大変にキュートでした。

ラストの潔さも、リンクレイターならでは。
皆、一瞬一瞬を大切にって言うけれどそうなのかな。瞬間が私たちを捉えるのよ(SEIZE、シーズと言う言葉を使っていました)」「そう、時間は常に流れているんだ」
おおよそ、このような会話だったと思うのですが(違ったかな)、まさに“時間”と言う概念を「ビフォア」シリーズ同様にたっぷりと映画に落とし込んだこの作品、ぜひともまた12年後にお会いしたいものです。リアルタイムにこの映画を劇場で鑑賞できたことに喜びを感じました。

今年の三大続きが見たい映画は「ビフォア・ミッドナイト」「アデル、ブルーは熱い色」、そしてこの「6才のボクが、大人になるまで。」で決まりです!

2014年11月15日土曜日

紙の月



2014年/日本/126分
監督 吉田大八
原作 角田光代
脚本 早船歌江子
撮影 シグママコト
音楽 little more、小野雄紀、山口龍夫
主題歌 ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ
出演 宮沢りえ、池松壮亮、大島優子、田辺誠一、近藤芳正、石橋蓮司、小林聡美

人前では泣かない、と決めているので涙こそ流しませんでしたが、鑑賞中、幾度となくこみあげてくる熱いものを抑えるのに必死でした。それは、お話に感動して、あるいはキャラクターに感情移入してと言った類のものではなく、ただ、その映画の圧倒的な美しさに文字通り心を動かされてとの理由によるものです。

人の趣味嗜好と言うのはなかなか他人には理解し難いもの。ましてや、自分自身のことすら良く解っていないぼくにとって、まさかこのような興行収入を狙ったビッグネームの作品でこうまでエキサイティングな体験をするとは思いもよりませんでした。それは、ある一枚の絵画と出会うことによって、またある一本の文学を読み通すことによって、誰しも個人的に得る可能性があるであろう「あの」体験です。

むしろ、原作は未読ですし、原田知世主演のドラマも未見、実際の事件はおぼろげな記憶と言った程度ですからストーリー自体やそれの意味するところは呑み込めていない状況なのかもしれないのですが、とにかく、「桐島、部活やめるってよ」でも堪能した吉田大八監督のその力量と言うか(ぼくにとっての)芸術性にただただ見惚れた次第です。
もし、ぼくが映画を撮ることがあったなら、この映画を教科書にしよう!ってくらい「イイ!イイ!」と(心の中で)咽び泣きながらスクリーンに食い入り対峙しました。

これは、非常に特殊で個人的な体験なのでなんとも説明し難いですし、もしそんな機会があるのなら劇場で人を隣に座らせて「ここが!ここが!」と逐一解説したいところなのですが、こう言ったブログを書いておきながらそれをうまく文章にすることができず歯痒い思いです。

もちろん、演出の妙はあるものの俳優陣も筆舌に尽くしがたいほど素晴らしく、主演の宮沢りえは、ぼくの世代にとっては長いお付き合いなのですが、これはもう天才的と言わざるを得ません。大変に憚られるのですがどうしても書きたいので書きますが「ぶっとびー!」です。「美しさ」と言う形容のバリエーションをたっぷりと魅せてくれます。
小林聡美もステレオタイプなキャスティングだな、と登場こそいささか眉をひそめましたが、終盤の宮沢りえと対峙するシーンに至るや凄まじい演技でこれが才気ある役者の神髄か、と息を呑みます。
池松壮亮も彼の俳優としての現在性を十二分に発揮、脇を固める近藤芳正、石橋蓮司も流石です。拾い物は(失礼かつ不見識で申し訳ないのですが演技する彼女は初見)大島優子。めちゃくちゃ上手かったですよ。

とにもかくにも自分が何であれ美しいと感じて、それにこみあげるものがあり、場合によっては涙すらできると言う、そしてこのカットが、構図が、演出が、演技が、スローモーションが、光が、影が、なんだかわからないけれど言われもないくらいぼくを刺激してやまない、大変に好ましい、そんな感動を得ることができたことに、そして、吉田大八監督に感謝です。

と言うようなことをつらつらと書いた揚句、締めに恐縮なのですが、今作品鑑賞当日は公開初日で満員御礼、嬉しい限りなのですがどうも観客母数が多いことに加え普段あまり映画を観つけないお客様の割合が多いせいなのかどうか、(この類の作品は得てして)割に鑑賞マナーが好ましくない方が散見されました。どうか、劇場での映画鑑賞中は携帯電話の電源はオフに!私語は慎んで頂けると幸いです。あんまり、やんちゃが過ぎるとジェイソン・ステイサムに痛い目にあわされますよ!

サボタージュ


Sabotage/2014年/アメリカ/109分
監督 デビッド・エアー
脚本 スキップ・ウッズ、デビッド・エアー
撮影 ブルース・マクリーリー
音楽 デビッド・サーディ
出演 アーノルド・シュワルツェネッガー、サム・ワーシントン、オリビア・ウィリアムズ、テレンス・ハワード、ジョー・マンガニエロ

冒頭のトイレのシーン、排泄物恐怖症のぼくにとってはのっけからうへぇとなる展開できつかったです。その後も結構なレベルのグロ、ゴア描写が続き耐性のない人にはいささか厳しい鑑賞になるかもしれません

ブラッド・ピットとの新作「フューリー」の日本公開も控え、「エンド・オブ・ウォッチ」で名を馳せた「マジもんの人」デビッド・エアー監督作品だけあってドラッグ周りの描き方や銃撃戦の演出はリアリスティックで迫力たっぷり。とびきり下品な言葉遣いと野卑な態度で振る舞いながらも熱いチームワークで結ばれた凄腕の荒くれ特殊捜査官の面々にも圧倒されます。

しかし、映画自体の出来不出来、評価をなかなか下しにくい、と言うのが正直な感想で、それは脚本の部分が大きいと思うのです。時系列もいじってあってちょっと分かりにくいし、肝心のミステリー部分が(後で知ったのですが、アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなったが原作なのですね)、辻褄が合ってるんだか合ってないんだかでどうも腑に落ちない…。
結局、この殺人は誰で、この殺人は誰なの?全部あの人?鑑賞後、頭の中をクエスチョンマークが駆け巡りました。

一番、びっくりしたのが惨殺死体を天井に釘で打ち付けて晒し者にするくだりなのですが、あれ結構な大仕事ですよ。どうやってやったのか非常に気になります。ぼくは、床に寝かせて釘を打ち込んでおいて、それを逆さまにして天井にビターンッ!と張り付けるって方法を思いついたのですが、そんなわけはありませんね。それと、実際には起こっていない出来事を映像で見せちゃってるって言うミステリーでは御法度っぽい演出をやっていて(ただ、これもぼくの勘違いかもしれません。良く理解できていなくて申し訳ないです)、これは、いかがなものかと。

映画の大部分を渋面で葉巻を燻らすシュワちゃんのアップが醸し出すなんとなくな雰囲気に寄っている、と言う印象も持ちました。このキャスティング、あるいはなぜシュワちゃんがこの作品を選んだのかと言う声も聞こえてきそうですが、ぼくはこの類の映画にも果敢にチャレンジするシュワちゃんの姿勢って真摯で素晴らしいと思いますし、デビッド・エアーとのタッグも見応えありで、あの七三分けの刈り上げたヘアースタイルも格好良く好ましかったですね。

終盤、メキシコでの無双っぷりも遥か昔に鑑賞して大変にお気に入りだった記憶があるシュワちゃん主演の「ゴリラ」を彷彿とさせて痺れました。ラスト、久方ぶりに激渋いシュワちゃんを拝見できてそれなりに満足。

それにしても近頃、イコライザーはロシアに、シュワちゃんはメキシコにと出張成敗が流行ってますね。仇討もワールドワイドになったものです。

女刑事役のオリビア・ウィリアムズさん、素晴らしい女優さんですね。見事な演技でした。シュワちゃんとのお楽しみの後の照れっぷりがなんとも。

2014年11月12日水曜日

エクスペンダブルズ3 ワールドミッション


The Expendables 3/2014年/アメリカ/126分
監督 パトリック・ヒューズ
脚本 シルベスター・スタローン、クレイトン・ローゼンバーガー、ケイトリン・ベネディクト
撮影 ピーター・メンジース
音楽 ブライアン・タイラー
出演 シルベスター・スタローン、ジェイソン・ステイサム、アントニオ・バンデラス、ジェット・リー、ウェズリー・スナイプス、ドルフ・ラングレン、ケルシー・グラマー、テリー・クルーズ、メル・ギブソン、ハリソン・フォード、アーノルド・シュワルツェネッガー

ここのところ、立て続けに粋で良質なアクションシーンがふんだんに盛り込まれた映画を観た為(「猿の惑星 創世記」「イコライザー」など)、アクション映画の粋を集めた豪華絢爛な俳優陣によるこのシリーズの最新作に大変な期待を寄せていたのですが、これがなんとも肩透かし。
全編これアクションなのはもちろん良いのですが、その演出と言うか描き方がなんとも平板で、そもそもストーリーもあってないようなものなので(ぼくの理解では)、いささか退屈気味の二時間強でした。
鑑賞後はその出来栄えに首を捻りながらなんともすっきりしない気分のまま劇場を後にしました。

例えば、目玉の悪役、メル・ギブソン。ワゴン車から降り立つ登場シーンひとつとっても、もうちょっとスローモーションを使うとか外連味を醸して欲しかったし、彼の過去作へのオマージュでのにんまり感もなし、最後のスタローンとの肉弾戦も拍子抜けであっさり。もうひとりの目玉であるハリソン・フォードもなんとも軽い感じで、ちょっと出過ぎ感があってありがたみがないんですね。
そして、シュワちゃんの十八番、重機関銃でのシーンも「もっとこうさあ、違うだろ!「大脱出」とか「ラスト・スタンド」みたいに溜飲を下げたいんだよ、こっちは!」と、ストレスが溜まる一方。

若いエクスペンダブルズとの世代交代みたいな目新しさはあったものの若者連中もイマイチ個性的な魅力に欠け(存じ上げない役者さんばかりでした、すみません)、のめり込めずでしたね。

唯一、終盤にちらりと語られたシュワちゃんとジェット・リーのホモセクシャルエピソードは微笑ましかったのが救い。ここは笑いどころでした!

そうそう、アントニオ・バンデラスは美味しい役どころで今作一番のホットなキャラクターでしたが、コミカルな部分が強調され過ぎて、ホントはめちゃくちゃ強いんだぜ!って言う描写がしっかり演出されてないので勿体無いなあとの印象です。これなら同じスタローンとの共演、ぼくの大好きな「暗殺者」のバンデラスのほうが余程クールですよ。あっちのバンデラスも笑える要素っていうかチャーミングな演出もありますしね。

全体的に抑揚にかけ、編集の荒さが目立ち、とっちらかったアクションシーンの連続で、なんだか文字通り俳優陣がエクスペンダブルズになってしまった皮肉な一作、と言うのがぼくの感想です。前作が非常に良かっただけに残念な一本になりました。

次回はぜひ、このところアクション映画で脂がたっぷりのっているリーアム兄さんを!

2014年10月31日金曜日

イコライザー


The Equalizer/2014年/アメリカ/132分
監督 アントワン・フークワ
脚本 リチャード・ウェンク
撮影 マウロ・フィオーレ
音楽 ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
出演 デンゼル・ワシントン、マートン・ソーカス、クロエ・グレース・モレッツ、デビッド・ハーバー、ビル・プルマン、メリッサ・レオ

このブログは19秒では書けませんでした。
今作を観た後は、ついつい行動するたびに秒数を計ってみたりしてしまいます。

プーシキン、屋敷の警備手薄すぎだろ!とか突っ込みどころ満載な映画ではありましたが、132分の長尺の中に万遍なく突っ込みどころが散りばめられている為、なんだか「ん、まあいいか」と言う気分になってくるのと、デンゼル・ワシントンの神々しいまでの説得力のある顔力と演技、そして、彼にアカデミー主演男優賞の栄誉をもたらした傑作「トレーニング・デイ」でタッグを組んだアントワン・フークワ監督の十八番である、けれん味たっぷりの演出力で重厚感のある渋い佳作に仕上がっていました。

鑑賞中、ところどころ「奇妙な」癖の味付け、けれども見覚えのある(良い意味で)変てこな演出の映画だなあ、と思っていたらエンドロールでアントワン・フークワ監督と知り、なるほど!と膝を打ったのでした。長編初監督作の「リプレイスメント・キラー」からそうとは知らずに彼の作品を何本か観ていて、肌が合うっちゅうか好みの監督なんですよね。彼の出自とかハリウッドでの立ち位置って良く知らないのですけれど、毎作、大御所俳優と組みますね。一作目からしてチョウ・ユンファですから。

ともあれ、今作もビッグネームのデンゼル・ワシントンとの二度目のタッグ。デンゼル・ワシントンの魅力たっぷり、特にぼくはお気に入りの俳優さんなので、もうそれだけでごちそうさまなのですが、ともすれば「トンデモB級映画」に陥りがちなアイデアとストーリーを、ぐいぐいと力強く締めて引っ張っていってくれる演技力には凄まじいものを感じます。
白人俳優だったらトム・クルーズあたりが演じるところでしょうが、いささか軽くなっちゃいそうですし、スティーブン・セガールが演じたら「沈黙の…」になっちゃいます。それはそれで観てみたい気もしますが。

予告編で「昼間はホームセンターの従業員、夜は必殺仕掛人」みたいな情報がちらっと頭に入っていたので、もっと小刻みな感じで殺しを請け負って悪を倒すみたいな映画なのかなと勝手に想像していたのですが、ぐっと抑えた導入部から始まり、クロエちゃんを助けてからは最後までずーっと一点に向かってとことん追い詰めるヤツでしたね。モスクワまで行っちゃいました!みたいな。

クライマックスのホームセンターでのシークエンスはアツかったです。バックに流れる音楽も良かったですし、否応なく緊迫感が高まる中、ホームセンターの商品をふんだんに使った殺しのアイデアも抜群、スプリンクラーに濡れるデンゼル・ワシントンをスローモーションで捉えたシーンはクールでした。歌舞伎なら大向こうから声が掛かるところでしょう。
あのハゲのロシア人との肉弾戦はあまり必然性を感じないうえ、デンゼルもハゲなので場面の暗さも手伝ってどっちがどっちだかワケわからなくて面白かったです。現場はさぞかし楽しかったことでしょう。

あ、クロエちゃん、むちむちとしていて可愛かったです。ビッチなクロエもイイネ!

2014年10月18日土曜日

猿の惑星:新世紀(ライジング)


Dawn of the Planet of the Apes/2014年/アメリカ/131分
監督 マット・リーブス
脚本 マーク・ボンバック、リック・ジャッファ、アマンダ・シルバー
撮影 マイケル・セレシン
音楽 マイケル・ジアッキノ
出演 アンディ・サーキス(シーザー)、ジェイソン・クラーク、ゲイリー・オールドマン、ケリー・ラッセル、トビー・ケベル(コバ)、コディ・スミット=マクフィー、ニック・サーストン(ブルーアイズ)

前作、リブート版「猿の惑星:創世記(ジェネシス)」から、もう三年も経っているんですねぇ。公開当時鑑賞した劇場は今はもう無くなってしまいました…。もっとも、オリジナルの「猿の惑星」は1968年公開と言うことですから、四十数年に渡りこのシリーズは我々を魅了し続けているわけです。人間の代わりに猿が支配する惑星って言うそのワンアイデアが強烈ですもんね。そして、あのパッケージにまでなっている衝撃のネタバレラスト。スゴイですよね。

さて、前作の記憶もうっすらとなっており、とは言えクライマックスの「ノー!」の件だけは否応なく頭に刻まれていて大変にカタルシスを覚えた、そしてラストのエッセンスもにんまり感がありとても面白かった印象を覚えていたのですが、今作の「猿の惑星:新世紀(ライジング)」は予告編などを観るにつけ、「うーん、類人猿と人間の戦いみたいなのか…ノらねぇな…」とスルー気分だったのですが、ムービーウォッチメンに選ばれたこともあり割に普通なテンションで2D字幕版での鑑賞となりました。

結論から言うと、ぼくは全然知らなかったのですが三部作構想だそうで、その二部作目と言うポジショニングからか、いまひとつ猿の惑星的カタルシスに欠いた感はあったものの非常に良く出来た脚本でそつなく面白かったよ、と言うところです。人間関係、類人猿関係(?)が重層的に描かれており、マルコムとアレキサンダー、シーザーとブルーアイズ、また、マルコムとドレイファス、シーザーとコバ、と普遍的な関係性のテーマが盛り込んであり良く練られているなあと感心しました。そして、今日の技術力と俳優陣の演技力の下地があってこそのAPESの存在感。もう、ぜんぜん普通ですもん。もちろん、映画館の隣の席で一緒に見てた友人がいきなりコーネリアになってたらびっくりしますけれど、スクリーン越しに観るその世界は圧倒的に「あり」な感じで受容できる為、コバが馬にのって二丁マシンガンでヒャッハー!してても「おおっ!」てなるのです。コバ、抜群なキャラクターでした。終盤、シーザーとの一騎打ちの場面、手に持ったマシンガンを投げ捨て肉弾戦を挑むも苦戦するとその辺の鉄骨みたいなものを拾って凶器攻撃とか、その戦闘描写にもコバのヒールっぷりと小物感が滲み出ていてグッドでした。

なんか個々では分かりあえたような感じだけれど結局、全体としては相容れないよね…オレ達。よし、ならば戦争だ!みたいなのも示唆に富んでいますし、猿の惑星=人類への皮肉って線は死守してて、いよいよオリジナル版第一作目へと果たしてどんな展開で繋げていってくれるのか、予定では2016年公開とされている三部作完結編が楽しみになる一本でした!

ところで、当世のハリウッド映画ではアフリカン・アメリカンや東洋人を一定割合で出演させなければいけないという話をちらりと耳にしたことがあるのですが、今作ではアフリカン・アメリカンの出演者はもちろんいましたが東洋人は見受けられなかったような…。APESが東洋人(日本人)のメタファーってことで承っておいて良いのでしょうか。

※普通にTSUTAYAとかに置いてあるので貼りますよ。オリジナル劇場版第一作目。

2014年10月3日金曜日

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー


Guardians of the Galaxy/2014年/アメリカ/121分
監督 ジェームズ・ガン
脚本 ジェームズ・ガン、ニコール・パールマン
撮影 ベン・デイビス
音楽 タイラー・ベイツ
出演 クリス・プラット、ゾーイ・サルダナ、デヴィッド・バウティスタ、ビン・ディーゼル(グルート)、ブラッドリー・クーパー(ロケット)、リー・ペイス、マイケル・ルーカー、カレン・ギラン、ジョン・C・ライリー、グレン・クロース、ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン

IMAX3D字幕版で鑑賞しました。エグゼクティブシートを陣取って勝ち組気分に浸ったのも束の間、まさかのポップコーンとコーラを買い忘れるという失態を犯してしまいました。この手の映画は万全の態勢で臨みたかったのに…。

予てより方々から随分とその評判を耳にしており、ぐぐっと期待値を上げての鑑賞となりましたが、その期待に違わず滅法面白くて、久方ぶりにパンフレットを購入してしまいました。
家に帰ってからつやつやと綺麗な出来の良いパンフレットを眺めつつ、ご贔屓のブラッドリー・クーパーは声だけでもイケる!などとニヤニヤしながら満足してその晩は眠りに就いた次第です。

鑑賞中、なんとなく日本が誇るスペースオペラの傑作「コブラ」を思い出していました。
クリス・プラット演じる“スター・ロードことピーター・クイルのセクシーでマッチョな姿形と女癖の悪さや卓越したユーモア、間が抜けているけれどいざとなった時の機転と行動力、それに異星人たちと協力して事を為していくストーリーやSFならではの小道具のアイデア、メカニックなど諸々の造形が通じるところがあってそれを想起させたのかもしれません。

※アレクサンドル・アジャ監督による実写化の話は立ち消えになってしまったのでしょうか…。
画像はプロモーション用のビジュアルポスター。クリス・プラットが演じてもイイネ!
正直言って、何番煎じかって言うくらいの王道のジャンル映画として仕上がっていますし、スクリーンにもその「なんだか懐かしい」感が漂っており、たぶんぼくが覚えている限りで生まれて初めて映画館で映画を観たのは父に連れられて行った「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」なのですが、その時の記憶がふつふつと甦ってきたりして、なんともふんわりした気持ちになりまして、それはさておき、やっぱりこれだよ!これ!こう言うストレートに娯楽できるSF映画が観たかったんですよ!と、上映中、膝を打ち過ぎて真っ赤になったのです。

劇中で重要なキーとなる懐メロミュージックに関しても上述のように世代的にストライクな部分もありますしCherry Bomb」で出撃!とかこぶしを振り上げたくなる感じでサイコーですよね。
70~80年代の音楽を非常に巧みな形で取り入れてあり、そこも狙いなのか、子どもを連れて観にいったお父さん、お母さんも「おっ」となるんじゃないでしょうか。
ぼくのように、昔々お父さんに連れられて初めて劇場で鑑賞したのがこの「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」だった、と言う思い出話が何十年か後にどこかで語られると思うと素敵ですね。
それに相応しい映画だと思いますよ。

ぼくが今作で一番感心したのが、登場する各キャラクターの描き方とその魅せ方です。
ガーディアンズ達はもちろん脇を固める異星人の見せ場もふんだんに盛り込んであって、くすぐられます。一番のお気に入りはマイケル・ルーカー(大好きな俳優さんです)演じるヨンドゥ。侠気たっぷりでワルいんだけれど憎めない、いざ戦いとなったら口笛ひとつで自在に操れる矢のような武器で敵を一網打尽。カッコイイ!
予告編はロケットのひとり舞台だった感はありますが、この映画を鑑賞した人には一様にグルートの株が上がったことでしょう。「可愛いは素敵!」なんて雑誌のコピーでありそうですが、グルートは「無敵で可愛い」って言う最強の属性を持ってますからね。ビン・ディーゼルも良い仕事をしました。

劇中音楽含め過去作へのオマージュ、ロケットの気のきいた台詞の小ネタなど様々な要素を含んでいる今作ですが、とにもかくにも難しいことは言わず、老若男女に肩ひじ張らず楽しんでくださいとオススメできるSFエンターテインメントであることは間違いなしです

※ラヴェジャーズのリーダー、ヨンドゥ・ウドンタ(マイケル・ルーカー)

2014年9月26日金曜日

舞妓はレディ



2014年/日本/135分
監督 周防正行
脚本 周防正行
撮影 寺田緑郎
音楽 周防美和
振付 パパイヤ鈴木
主題歌 上白石萌音
出演 上白石萌音、長谷川博己、富司純子、田畑智子、草刈民代、渡辺えり、竹中直人、濱田岳、岸辺一徳、小日向文世、妻夫木聡


何度か予告編を目にしており、鑑賞前から「舞妓はレディ~♪」というフレーズが頭の中をぐるぐると回っていました。「どこまでもどこまでも走れ走れいすゞのトラック~♪」なみの粘着力でちょっと気が狂いそうでしたけれど。

800名を超えるオーディションから主役の座を射止めた上白石萌音ちゃん、可愛かったですね。
田舎から出てきたばかりの朴訥とした娘っ子が舞妓へと、さながら蝶が羽化するように神秘性すら感じさせて成長していく様を演じたその演技力に脱帽しました。
白塗りに紅をさした舞妓の姿になって「わあ、綺麗!」とならないといけないわけで、その完成形から引き算しての役作りと演技は大変にご苦労があったと思いますし、彼女をキャスティングしたのは大正解でした。そして、びっくりしたのがその歌唱力。歌がうまいのはもちろん、ちょっとかすれがかった、でも、高音になると透き通ったように伸びていく歌声が素晴らしい!

周防正行と草刈民代は往年の伊丹十三、宮本信子のコンビを思い起こさせますね。映画自体も伊丹十三作品に通じるところがあって、ワンアイデアでエンターテインメント映画を仕上げていく手法と手腕が重ね合わさります。

芸事を描いているだけあって脇を固める俳優陣も芸達者揃い。周防監督作品おなじみのメンバーに加え、今回、出色だったのは髙嶋政宏。テレビ、映画のみならず舞台も多数踏んでいる役者さんですから、今作のようなカリカチュアライズされた役柄とミュージカル仕立てには相性抜群。存在感たっぷりで笑わせてもらいました。
そして、相変わらずの演技の幅広さで巧者ぶりを発揮するのが田畑智子。これ、存外難しい役だと思うのですがさらっとこなしていてさすがだなあと感心しました。
他にも、富司純子を筆頭に岸辺一徳、濱田岳など総じてその達者ぶりで映画を引き締めていました。妻夫木聡が登場した時はきゃーっ!となりましたよ。

ただですね、“ゴキブリはん”こと言語学者役の長谷川博己、初見の俳優さんだったのですが(後で聞いたら、ずいぶんと人気のある方でした)、この人がぼくは全く好みではなく、インチキ京都弁も聞き苦しくて、ミュージカルパートも「ううっ」となり、そのキャラクターからしても、いったいなんで春子がこの男に好意を寄せるのかまったく理解できず、ラストシーンは思わず「は?」とスクリーンに向かって聞き返したほどでした。すみません、完全にぼくの男性の趣味の話です。

映画はストーリーこそ、先日鑑賞した「TOKYO TRIBE」なみに「ごめんなさい、聞いてませんでした」くらいの類型的かつ既視感のあるもので、終盤明かされる春子のお母さんのくだりも「お、おう」と言ったライトな感じでぼくは受け止めましたが、日本版「マイ・フェア・レディ」として先に述べた出演陣とともに周防正行監督の芸達者な画面作りと演出で、一級の娯楽作品として楽しんで鑑賞できる一本だと思います。

竹中直人と渡辺えりは、いささか食傷気味ですけれど。いなかったらいなかったで寂しいのかな。

※竹中直人さん、今作では男衆(おとこし)と言う芸妓さんや舞妓さんの着付け師役で出演。

TOKYO TRIBE



2014年/日本/116分
監督 園子温
原作 井上 三太
脚本 園子温
撮影 相馬大輔
音楽 BCDMG
主題歌 AI
出演 鈴木亮平、YOUNG DAIS、清野菜名、市川由衣、叶美香、中川翔子、佐藤隆太、染谷将太、でんでん、窪塚洋介、竹内力、佐々木心音、中野英雄、高山善廣


ぼくが初めて日本語ラップを耳にしたのは今から二十数年前、中高生の頃だったと記憶していますが、その時まず感じたのは「ダサイ!」「気恥ずかしい!」というものでした。
今では今作の原作者である井上三太のG-Pen aka Sanchama名義、「ONIDEKA SIZE」をYoutubeでヘビロテして独り、部屋でクールに踊っているくらいなのですが、この全編ラップミュージカル仕立ての「TOKYO TRIBE」を鑑賞しての第一印象で久方ぶりに、当時感じたダサさと気恥ずかしさをまずは覚えた次第です。

G-Pen aka Sanchama 「ONIDEKA SIZE」



例えばいわゆる普通のミュージカルで演者さんが音痴だったりしたらそれはやっぱり「え?」ってなるわけで、そういう意味で今作のようにラップに関して、その技巧の程度に差があるとちょっと「ううっ」となったりするわけです。ただ、染谷君の死んだ目でラップとか敬愛する窪塚洋介のフリースタイルなラップとか大好きだったりするのですが。

ところで、肝心の映画自体の総評については、大変に楽しませていただきました、ありがとうございます、と園子温監督にお礼を述べたい心境です。
悪ふざけや悪戯、下品で低劣低俗なものって(作品のクオリティによりますが)度を越せば超すほど面白いものですし、ぐるぐると画面酔いしそうなカメラワークと監督の信頼できるおっぱい及びパンチラ描写で頭がくらくらして、ある種、アトラクションのようなライド感があり大変に満足しました。

ストーリーに関してはほとんど「あ、ごめんなさい、聞いてませんでした」と言う感じでまったく頭に入ってこなかったのですが、鍛え抜かれたボディで迫力の変態オーラを放つ鈴木亮平と吹き替えなしのヌードで挑んだ清野菜名の処女性をまとった清々しい美しさを中心に、この類の映画と役どころでは安定・安心の窪塚洋介、まったく抑揚をつけず始終徹底した狂いぶりの演技でラップでもないのにほとんど台詞が聞き取れない竹内力、そして彼が演じるブッパに思う存分おっぱいを揉みしだかれる叶美香などキャスティングも抜群で、出演陣の皆さんも監督同様、この映画の製作が楽しくてしょうがなかったんだろうなという雰囲気が伝わってきて微笑ましかったですね。

賛否両論ある映画と言われるのはもっともなところなので諸手を挙げて人にお勧めできるものではないですが、そもそも園子温監督の作品で好みの分かれない映画ってないですからね。こちらもハナからそのつもりだったのが功を奏したのかもしれません。(良い意味で)くだらないんだろうなあ、と思って観にいったらホントにくだらなくて最高!って言う。

冒頭、新米警官役の佐々木心音ちゃんのおっぱいとその肉体を使って説明されるTOKYO TRIBEの勢力図のシーンが一番好きでしたね。

2014年9月12日金曜日

フライト・ゲーム


Non-Stop/2014年/アメリカ/107分
監督 ジャウム・コレット=セラ
脚本 ジョン・W・リチャードソン、クリス・ローチ、ライアン・イングル
撮影 フラビオ・ラビアーノ
音楽 ジョン・オットマン
出演 リーアム・ニーソン、ジュリアン・ムーア、スクート・マクネイリー、ミシェル・ドッカリー、ネイト・パーカー、ルピタ・ニョンゴ

以前、フジテレビ系列で「脳内エステ IQサプリ」と言うクイズバラエティ番組がありまして、問題に対して正解・不正解にかかわらず解答に納得がいかないなどの場合「モヤっとボール」をセット中央に放り込む趣向だったのですが、今作を鑑賞後、まさにモヤモヤしてこの「モヤっとボール」をスクリーンに投げ込みたい気持ちで劇場を後にしたのでした。

※モヤっとボール

原題は「ノンストップ」。そのタイトル通り、息もつかせない展開でそれなりに引き込まれて鑑賞しましたが、いわゆるミステリーの仕掛けの部分に疑問符がたくさん浮かび集中力を欠いたところへ、コトが進むにつれなぜだか画面からはさほどの緊迫感が伝わってこず、いざ真犯人からペラペラと語られる犯行の動機に至っては「…ん?」とよく聞き取れないまま首を捻り、そうこうしているうちにジュリアン・ムーアが最後「Depends on」で締めて…って結局、お前のホントの行先はどこだったんだよ!そして、職業とかさ、ディテール話せよ!との僕の叫びもむなしくエンドロールが流れていったのでした。

でも、ジュリアン・ムーアは相変わらずこの手の役は巧いですね。彼女のおかげで映画が引き締まった気がします。そして、リーアム・ニーソンの無双っぷり。ぼくはこの役者さんは好みではなく特に思い入れがないのですが、アクションも達者にこなし、もちろんドラマパートの重厚で渋みのある演技は抜群の安定感で、かつてはハリソン・フォードとかが担ってた役割を継承しつつありますね。
エクスペンダブルズ4あたりで出演しそう

荒っぽいミステリー仕立ても、リーアム・ニーソンありきの演出とジャウム・コレット=セラ監督の力量、さすがハリウッドの底力で撮影と編集のスキルの高さと、ジョン・オットマンのスリルフルな音楽が相まって非常に娯楽性の高い作品に仕上がっていたとは思います。

でも、なんと言っても見所はCA役で出演しているアカデミー女優、ルピタ・ニョンゴの髪型でしたね。最高にクールでした。

2014年9月6日土曜日

イントゥ・ザ・ストーム


Into the Storm/2014年/アメリカ/89分
監督 スティーブン・クォーレ
脚本 ジョン・スウェットナム
撮影 ブライアン・ピアソン
音楽 ブライアン・タイラー
出演 リチャード・アーミテージ、サラ・ウェイン・キャリーズ、マット・ウォルシュ、アリシア・デブナム・ケアリー、アーレン・エスカーペタ、マックス・ディーコン

鑑賞中、結構な頻度で座席がぶるぶると揺れまして、すわ!ギミックか!と驚いていたのですが、どうやら劇場がターミナル駅の近くにあるため電車が通るたびに振動が伝わっていたようです。あるいは、スクリーンから迫りくる竜巻の脅威に慄き、ぼく自身が小刻みに震えていたのかもしれません。89分と短い尺の中でたっぷりと緊張感を味わった次第です。

いわゆる日本人にとっての地震が、米国人にとっての竜巻に相当するのでしょうか、馴染みのない災害だけに、その破天荒なディザスターっぷりに「すごい」「こわい」「まじか」と圧倒されっぱなし。その描写のアイデアとクオリティに、文字通り劇場内で嵐の中に飲み込まれました。

割に無名の俳優さん達を使っていたのもリアリティが増して良かったです。お父さんはなんちゃってヒュー・ジャックマン、お天気お姉さんはなんちゃってサンドラ・ブロックみたいでした。あの、ジャッカスみたいなでぶのばかコンビもパンチが効いててグッドでしたね。ポイントを押さえた丁度良いタイミングでうまく場をさらっていきました。

何よりこの映画のワンアイデアであるPOV方式が非常に効果的に機能していたと思います。ぜんぜん邪魔な感じでもなく、不自然さもない。いわゆる神の視点のシーンの場合、それを忘れるくらい決定的にド迫力な見せ場になっているので混乱もないですし。

実在する職業なのかどうかわかりませんが、竜巻ハンターっていう設定も面白いですよね。リーダー格のピートが念願かなって「目」の中に入り静寂に包まれるシーンは神々しさすら感じさせその前後の荒々しさと相まって素晴らしいカットでした。

ぼくは、ジャンルとしてのパニックものやディザスターものはあまり好みではないのですが、今作に関してはその臨場感あふれる映像はもとより、脚本が良く練られいて伏線の張り方や回収も巧みですし、俳優陣も真摯で抑制を効かせた演技で非常に好感を持ちました。

最後は、家族の絆、そして強いアメリカみたいなところに落とし込んでいるのが、やっぱり感はありましたが、あのでぶコンビの愛嬌もあって許容範囲です。

なんとなく昨年鑑賞した「アフターショック」を思い出し、これがイーライ・ロス製作あるいは監督だったらいくらでもグログロになるよなあ…なんて思ったりしましたが、今作はそこら辺の描写(この映画に登場する人物は皆さん良い人ばかり)よりは竜巻の持つ脅威の力そのものがもたらす自然災害の様子をこれでもかと言うくらい描いているので、これはこれで大変に恐怖しきりで、このジャンルの映画とPOV方式での撮影アイデアにおいてエポックメイキングな一本になったのではないでしょうか。

奇しくも、防災週間。災害時のスマホ撮影にはくれぐれも注意しようと思ったのでした。あと、調子こいて可愛い女の子に「良かったら、手伝うよ!」とか言わない。

2014年8月29日金曜日

STAND BY ME ドラえもん



2014年/日本/95分
監督 八木竜一、山崎貴
原作 藤子・F・不二雄
脚本 山崎貴
音楽 佐藤直紀
主題歌 秦基博
声の出演 水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、萩野志保子、妻夫木聡

フルCGのしずかちゃんは、原作漫画やアニメ版のそれより内斜視気味に、頬には赤みが差し、口元にかけてふっくらと描かれており、かかずゆみ演じるその声と挙動も相まって大変に可愛かったです。

ぼくは、それがおもしろく書ける時は良いのですが、そうでない場合、あまり映画の悪口を書くのが好きではないので、これ以上、特に今作について言及するところはないです。

ただ、何度もこのブログで書いているのですけれど、お願いですから「感動的な」シーンで「感動的」な音楽を流さないでください。それはこっちで勝手にやりますから。音楽での演出に限りませんが、心は作り手の意図では動きません。ただ真摯にものを作って頂ければ結構です。

一番残念だったのは「成し遂げプログラム」と言うトンデモ設定によってドラえもんが単なる家畜に成り下がってしまったように見えたこと。のび太との友情がしっかりと描かれていないため、二人が共依存者さながらで、エンドロールの「お遊び」でその脚本のダメっぷりを露呈する馬鹿さ加減に心底辟易して映画館を後にしたのでした。

結局、文句を書いてしまいました。ごめんなさい!秦基博さんの主題歌は最高です。好きです!

繰り返しになりますが、しずかちゃんは可愛かったです!でも、可愛くて性格の良い女の子と結婚することに小学生が至上の幸福を見出すって価値観、このご時世いかがなものでしょうか…。


2014年8月23日土曜日

GODZILLA ゴジラ


Godzilla/2014年/アメリカ/124分
監督 ギャレス・エドワーズ
原案 デビッド・キャラハム
脚本 マックス・ボレンスタイン
撮影 シーマス・マッガーベイ
音楽 アレクサンドル・デプラ
出演 アーロン=テイラー・ジョンソン、渡辺謙、エリザベス・オルセン、ジュリエット・ビノシュ、サリー・ホーキンス、デビッド・ストラザーン、ブライアン・クランストン、宝田明

IMAX3Dでのド迫力鑑賞でした。ゴジラを含む特撮怪獣映画の類にそんなに熱量のない僕もゴジラの出演シーン(に限って)は見応えがありました。
予告編でじらされ、本編でもじらされ、ついにゴジラがその全貌を現した時には思わず「おおっ!」と前のめりになりましたね。そのじらっしっぷりの見せ方、演出が大変に巧みで、効果抜群。その分、二時間強の尺の中でゴジラが活躍する場面がものたりず、もっとがっつり見たかったなあ、との不満もあり。そもそも、前情報ではまったく頭になかった雌雄のムートーさんが大暴れ、VSゴジラと言う図式になる展開に、それならそれでこっちもそのつもりで観にきたのに…と若干の期待外れ感を持ったのは確か。ただ、ムートーさん(雌)が意外と良いケツをしていたとか、まさかの接吻シーンとか、せっかくコトに及んで産み付けた卵燃やされてめちゃくちゃ悲痛な咆哮を放ったムートーさん(雌)、いくらなんでもかわいそうとか見所はありました。

それで、ゴジラなんですけれどずいぶんとサイズアップしたようですが、メタボリックななで肩体型でずんぐりとした可愛さがあってすごく造形は好みでしたし、これもまだかまだかとじらされましたが、ちゃんと青白い熱線も思う存分吐いてくれて(体が青白くびかびかしてすうっと胸にため込んでからの、ばはーって言うシーンは秀逸でした)、しっかりとあらゆるものを破壊し尽くした後、悠々と海に帰っていく姿になんとなくめでたしめでたしな感じで、ゴジラおまえ良い奴じゃん!と背中を叩きたくなりました。
まあ、ゴジラは本能に従ってただけで別に人間にこれっぽちも感じるところはないと思いますし、(おそらくは)人もたくさん死んだり、怪我したりして、街は破壊し尽くされてるし、川だか海だかで核爆発しちゃってるし今後の事を考えると、とてもそれどころじゃありませんけど。

渡辺謙は頑なにGODZILLAを「ゴ↓ジ↓ラ↓」と発音していて好感、その割には英語の発音がうまくてびっくりしましたけれど、始終、眉間にしわを寄せた渋面であっちへ行ったりこっちへ行ったりしてた印象で特に役には立っていませんでしたね。と言うか人類のあれやこれやは全くと言っていいほど何の役にも立っていなかったです。

過去の原水爆実験はゴジラを倒すためだった!みたいなエクスキューズにいつものハリウッド的デリカシーのなさを感じたりしましたが英国人監督という事もあってかヒロシマにも若干踏み込んだりして、その部分は面倒くさくなるのであまり深く考えないようにしましたドラマパートを含め脚本は良くできているとは思うものの突っ込みどころは散見。そして、「ゴジラがどーん!」を際立たせるために冗長になるのは致し方なし…と我慢して鑑賞していましたがお父さんのくだりとかもうちょっとテンポ良く語ってくれるとモアベターだったかもしれません。

次回作がもう決定しているようですが、今作でもう充分我慢したのでぜひ次作はもっとゴジラゴジラしてほしいですね。特にゴジラに思い入れのない僕もこのクオリティならぜひ観たい。あと、エリザベス・オルセンの続投にも期待。「キック・アス」と言い本作と言い、アーロン=テイラー・ジョンソンくんは相手役に恵まれますね(ぼくの好みの話ですが)。個人的にはカットバックでエリザベス・オルセン、ゴジラのループでぜんぜんオーケーです。

2014年8月17日日曜日

トランスフォーマー ロストエイジ


Transformers: Age of Extinction/2014年/アメリカ/165分
監督 マイケル・ベイ
脚本 アーレン・クルーガー
撮影 アミール・モクリ
音楽 スティーブ・ジャブロンスキー
主題歌 イマジン・ドラゴンズ
出演 マーク・ウォルバーグ、ニコラ・ベルツ、スタンリー・トゥッチ、ジャック・レイナー、ピーター・カレン(オプティマス・プライム)、フランク・ウェルカー(ガルバトロン)、渡辺謙(ドリフト)、ション・グッドマン(ハウンド)

オプティマス飛べるんかーい!

このシリーズ、これで4作目とのことですが、初鑑賞でした。予習復習(予告編はイヤになる程、観ましたが)一切ナシで、IMAX3Dにエグゼクティブシート、コーラにポップコーンと言う万全の環境を整えて臨みました。
冒頭の一文を除けば、これは誰しもの感想でしょうが、上映時間165分、すなわち2時間45分の尺は長い!と。そりゃ疲れますよ。そんな長い間どっかんどっかんしてたら。
シリーズ初見の為、話やキャラクターの設定が今一つ掴めないと言うことに加え、そもそもこの作品のお話や登場人物の皆さんの人となりも雑すぎてなんだか良く分からないと言うか(良い宇宙人、悪い宇宙人、人間の三つ巴でどっかんどっかん、と言う意味では非常に分かりやすいですけれど)、次第にどうでも良くなっていく為、いろんなものが破壊され、(おそらくは)人もたくさん死んだり怪我したりして、とにかくなんか「うん、大惨事だね!」と率直な感想を持った次第です。

序盤で走った姿のまんま、真っ黒焦げになる主人公の相棒はおもしろかわいそうで秀逸なビジュアルと演出でしたが、終盤、誰も彼のことなんか覚えちゃいませんでしたね。

車がロボットにいわゆるトランスフォームするかちゃかちゃとした動きは、その昔ぼくが遊んでいたおもちゃやアニメ版とは趣が違って、昔日の感がありました。あれって玩具化されてるのかな。

映画の感想からは逸れますが、ラスト30分程はぽりぽり貪っていたポップコーンがお腹の中でごろごろしてきて、加えてコーラがぶ飲みによる尿意も襲い、トイレに行きたいのでもう充分ですから早く終わってください、と集中力が著しく途切れ、それでもエンドロールに何かあるかもしれない、としっかりと最後まで鑑賞したのであわや!と言う状況で非常に辛い思いをしました。ぎりぎりセーフでした。

5作目への引きがあるような展開でしたが、次回作はせめて100分程度に収めて欲しいものです。(ムービーウォッチメンで取り上げられでもしない限り)観ないですけれど。

※なんとなくオーティス・レディングの「The Dock of the Bay」を貼っておきます。


ちなみに、ぼくはマイケル・ベイには何の思い入れもありません。何本かは観ていて「ザ・ロック」は面白かったような…。ただ、基本的にはどの作品も鑑賞後、口あんぐりだった記憶があります。今作は割にまともだったのかな…。そうでもないか。ご興味のある方はまとめて鑑賞すると良いかもしれませんが、責任は一切負えません。

2014年8月8日金曜日

思い出のマーニー



2014年/日本/103分
監督 米林宏昌
原作 ジョーン・G・ロビンソン
脚本 丹羽圭子、安藤雅司、米林宏昌
作画監督 安藤雅司
美術監督 種田陽平
音楽 松村崇雄
主題歌 プリシラ・アーン
出演 高月彩良、有村架純、松嶋奈々子、寺島進、根岸季衣、森山良子、吉行和子、黒木瞳 


前回の「マレフィセント」の感想の冒頭と同じ文章になりますが、男の出る幕はない!って感じでしたね。同じベクトルの愛を主題(というか大オチ)に取り扱っていて、それに加えていわゆる百合要素を盛り込んできたと。この百合描写、奔放なスキンシップと、がっつりマーニーが主導権を握っていた関係から次第にその役割が変化してゆく様を微妙な表情や仕草、言動で描きつつ杏奈の成長物語へと繋げていくと言う意味合いで非常に活きていたと思います。そちら方面が大好物なぼくも序盤のマーニー攻め、杏奈受けのシークエンスはおいしくいただきました。

ところで、作品全体としての感想なんですけれど、ごめんなさい!いまいちでした!

まず、最初に思ったのが作画っていうのか動画っていうのかアニメーションとしてのクオリティが低くない?という事です。
ぼくは普段、全くアニメを観ないので、どうのこうの言える立場でもないのですが、それでもジブリ作品に限って言えばほとんど観てますし、大好きな作品もたくさんあります。それはやはり本来の意義でのアニメーションの感動っていうのを含んだ面白さなんですよね。
今作はもちろんファンタジーではあるんですが等身大の人間を描いているのでリアリズムを軸に描かざるを得ない。けれども、なんだか妙にその点が引っ掛かって集中力を欠きました。
マーニー自身の造形と背景画の美しさには心惹かれましたけれど、変な話、崖の上のポニョってめちゃくちゃな話だったけれどやっぱりアニメーションとしてはすごかったよな、みたいなことを鑑賞中ずっと思い出していました。

それと、原作小説は未読なのですが、脚本がですね、腑に落ちない部分が多々あって。
ダブル主役のマーニーと杏奈に注力し過ぎた為なのか、脇を固める人々のキャラクターの肉付けやダイアローグの端々、そして話運びがすごく疎かに感じて、説明的だったり取ってつけた感があったりと、まとまりのない印象を受けました。
マーニーの悲劇の一生が淡々と久子のひとり語りと再現シーンであれよあれよと言う間に展開され、ぼくとしてはぜんぜん胸に響いてこないばかりか、久子が話し終えたら杏奈はともかく彩香も号泣って、まじで?となんだか醒めてしまいましたよ。あ、この彩香ってキャラは好きでした。「となりのトトロ」のメイちゃんが大きくなった感じでしたね。
あなたマーニーでしょ?」ってのは「あなたトトロって言うのね!」にオマージュを捧げた駿リスペクトでしょうか。この声優さん(女優さんなのかな)はすごくマッチしてました。

今作の最大の見せ場のワンシーンに関しては、伏線が随所に張られていたため、そりゃそうだろうね、と驚きこそなかったものの、さすがに鳥肌が立ち、じんじんと感動しましたが、まあこれは幽霊を見たらびっくりすると言った類の反射反応でしょう

一番好きだったのは、サイロの場面でマーニーが「カズヒコ!カズヒコ!」と杏奈に呼びかけ、「何言ってるの、杏奈よ!」と応えると「ああ!杏奈!杏奈!」と素で返すと言う、とち狂ったシーンで、もちろん非現実なので随所にこう言うちょっとシュールなやりとりなどがあったりするわけなのですが、いっそのことホラーテイストをふんだんに盛り込み、思い切って路線変更してジブリプレゼンツの百合サイコホラー(R18指定)にしたら最高にクールだったかもしれません。「思い出のマーニー」ってタイトルもそれっぽいし。

けれども、「太っちょブタ」のくだりとかネタ的に語りたいシーンはたくさんあるので誰かと観にいってああだこうだとわいわい語るには良い映画ではないでしょうか。ぜんぜん、そうではなくてしんみり心に染み入る涙溢れる感動の映画だよ!と言う声が聴こえてこなくもないですが。

それはそうと大岩のおじさん、あのフクロウ一本で喰ってるんですかね。