2016年4月15日金曜日

ボーダーライン


Sicario/2015年/アメリカ/121分
監督 ドゥニ・ビルヌーブ
脚本 テイラー・シェリダン
撮影 ロジャー・ディーキンス
音楽 ヨハン・ヨハンソン
出演 エミリー・ブラント、ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン、ビクター・ガーバー、ジョン・バーンサル、ダニエル・カルーヤ、ジェフリー・ドノバン

その劇場は小ぶりでスクリーンも左程大きくない為、いつも一番前の席を陣取って鑑賞しています。今回も同様に座りその列はぼく独り、大きく足を前に投げ出し何も視界を遮るもののないまま、スクリーンにかぶりつきで臨みました。その環境も相まって、臨場感あふれる演出に心臓はドキドキしっぱなし、息もつかせぬ緊張感たっぷりの121分と相成りました。

空撮やロングショットを多用し、サーモグラフィやナイトビジョン越しの映像などのアイデアも満載、さすがロジャー・ディーキンスの撮影は見応えありました。ガンエフェクトを含め音響も迫力がありましたし、ヨハン・ヨハンソンによる音楽も映画にマッチして、否応なく緊張感を高めます。注目の監督であるドゥニ・ビルヌーブをはじめとして、一流のスタッフ勢の仕事ぶりを堪能できる贅沢な一本ですね。

お話の方はちと難解と言うかミステリ仕立てになっていて、前情報や映画冒頭に示されたようないわゆるメキシコ麻薬戦争実録ものではなかったです。邦題は『ボーダーライン』となっていてこれは“国境”と“善悪の境界線”のダブルミーニングになっていると思われますが、確かに国境は舞台になるものの善悪の境界線に関してはハナからそんなものを振り切っていて、リドリー・スコット監督『悪の法則』に通ずる徹底して救いようのない、避けられることのない大文字の“悪”が描かれております。そして、原題の『Sicario』(メキシコで暗殺者の意)通りベニチオ・デル・トロ扮するアレハンドロのSicarioっぷりの一部始終を主演のエミリー・ブラント演じるケイトが目撃する様が展開される仕立てになっており、終わってみればアレハンドロのパーソナルな復讐譚でした。

エミリー・ブラントとベニチオ・デル・トロの激しさを秘めながらも抑えた演技が良かったですね。特にぼくはベニチオ・デル・トロの圧倒的な存在感にやられました。拷問めいたことをするシークエンスがいくつかあるのですが、とにかく近いんですよ、顔が。異常なまでに身体をググッと寄せてくるんです。ぼくなら2秒でやってないことまで洗いざらい吐いちゃいますね。人差し指をちゅぽっって舐めてそれを相手の耳の穴に入れてぐりぐりーってするシーンがあるのですが、観ているだけでスクリーンに向かって思わず「わかった!全部しゃべるから!」と完落ちするところでしたよ。

メキシコと言うとソンブレロを被った陽気な髭のおじさんや、タコスをはじめとしたメキシコ料理、テキーラ!などを思い浮かべて明るい気持ちになったりもするのですが、この麻薬カルテルによる闇の部分は本当に根深く恐ろしいものですね。今作はメキシコ=悪、アメリカ=(法を犯しながらも)ジャスティス!といささか一方的に描かれていましたが、いろいろな側面に光を当てたり影を落としたりと今後も様々な作品でテーマとして扱われる題材となりそうです。

今作では、エミリー・ブラントの“強さ”よりも“弱さと葛藤”にスポットライトが当てられます。

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