監督 レニー・アブラハムソン
原作 エマ・ドナヒュー
脚本 エマ・ドナヒュー
撮影 ダニー・コーエン
音楽 スティーブン・レニックス
出演 ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョアン・アレン、ショーン・ブリジャース、ウィリアム・H・メイシー、トム・マッカムス
久しぶりに胸を打たれる映画でしたね。ぼくは割にエンドロールが流れ出すと、すっと席を立っちゃう方なんですけれど、今作はしばらくじっと座り、余韻に浸っていました。至極個人的な経験、体験やある特殊な状況下での人間のあり方を描いて、しかもそれが普遍性を持つってお話が映画に限らずぼくの好みなんですけれど、まさにそれを地で行く素晴らしい佳作であったと思います。
そして、それを下支えし、映画に説得力を持たせるのが主演の二人。見事にアカデミー主演女優賞を受賞したブリー・ラーソンはもちろん迫真の演技でしたが、何より息子のジャックを演じたジェイコブ・トレンブレイくんが素晴らしい。両性具有的ないわゆる天使像(あるいはイエス・キリストその人でしょうか。彼と同じく納屋で生まれ髪も長い、ある意味での処女懐胎...etc)を重ねたと思われるその美しい顔立ちと姿態、透き通るような甲高い声で時にたどたどしく、しかし、ここぞという時には芯から発せられる絶妙な台詞回し、まさしく天才的です。天才子役は行く末が…などと言う例が散見され、今後がいささか心配ですが、良いキャリアを積み重ねっていって欲しいものです。
脇を固めるキャストも地味ではありますが確かな演技。ぼくのお気に入りの俳優、ウィリアム・H・メイシーが短い出演ながらも、(ここではあえて説明しませんが)ものすっごい複雑な心境を持たざるを得ない父親であり祖父となる苦悩の人物を好演しております。こう言う渋いキャスティングで映画に一本びしっと筋が通りますよね。
映画はおおざっぱに言えば前半から真ん中までサスペンス、そこから後半、ラストに至ってヒューマンドラマとして描かれており、ものすごく大きく言っちゃえば人間賛歌の物語ですよね。もちろん、母子愛(を含めた普遍的な愛)の物語であり、少年の成長譚、それに留まらずそれぞれの人々の成長のお話でもあります。ラストのシークエンスはオープニングと対になる形で希望的に締められていますが、その後のことに思いを馳せると、とりあえずこのお話はここで終わりますが、と観客に大きな問いを発し、想像力に委ねられるところとなっております。
涙腺決壊シーンがいくつかあるのですが、ぼくはジャックが初めて本物の犬と対峙し触れ合うシーンがなぜだかぶわってなりましたね。涙で目玉がもげそうでした。彼は想像の中で「ラッキー」と言う犬を飼っていたのです。あと、今はもうもぬけの殻になった“部屋”に再び訪れ「この部屋縮んだの(shrinkと言う単語を使っていました)?」と問いかける台詞が印象的でした。
上に書いたように、この映画は決してハッピーな映画ではありませんし、何らかの回答を示してくれるものでもありません。ぼくは一つの寓話としてこの映画を観ました。この映画から何かの教訓を得るのも良いでしょうし、改めて自分や世界に何かを問い直してみるのも良いでしょう。映画の元となった題材(実際の事件に着想を得て原作の小説は書かれています。参照:フリッツル事件)は本当に悲惨な事件ですが、そこから生まれたこの物語は非常に多層的で、様々な視点を持っており、我々にとって大変に重要なことなんだと感じている次第です。
ジャック役のジェイコブ・トレンブレイくんが大変に可愛いのです。頼むからアルコールとドラッグには手を出さないでくれ。 |
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