Er ist Wieder da/2015年/ドイツ/116分
監督 デビッド・ベンド
原作 ティムール・ベルメシュ
脚本 デビッド・ベンド
撮影 ハンノ・レンツ
音楽 エニス・ロトホフ
出演 オリバー・マスッチ、ファビアン・ブッシュ、クリストフ・マリア・ヘルブスト、カーチャ・リーマン、フランツィシカ・ウルフ、ラルス・ルドルフ、トマス・ティーマ
奇しくもイギリスで国民投票によりEU離脱の決が出たその日に鑑賞してきました。イギリスのみならず、もちろんドイツでも、そしてヨーロッパ諸国が移民問題で揺れる最中、このタイミングの鑑賞はまさにタイムリーでホットな体験となりました。予告編を見た限りではスラップスティックなコメディ色の強い作品なのかな、とあたりをつけていましたが、意外や意外、社会派ホラーとも言うべき世にも恐ろしい物語でした。
ヒトラーが現代にタイムスリップしたら、と言う奇抜なアイデアから始まる映画冒頭からクリーニング屋さんでのドタバタなど確かに笑えるエピソードが盛り込まれ、館内のお客さんからも笑い声が漏れていましたが、いざ映画が終わってみるとその笑顔は凍りつき、しんと静まり返ると言う通り一遍の風刺劇を超えた恐ろしさがこみ上げてくる仕上がりとなっております。
一見、ヒトラーが魅力的に、愛くるしささえ覚えるほどの人物に描かれているように感じますし、その弁舌に映画の中の聴衆も、そしてスクリーンのこちら側の観客である我々さえも魅了されるほどです。しかし、やはり彼はぼくが知っている歴史の中のあの“アドルフ・ヒトラー”なのです。彼自身は全くぶれていません。ぶれていくのは我々の方なのですね。一番恐ろしかった台詞は、曰く「私が国民を扇動したのではない。国民が私を選んだのだ」ってやつです。
そして、この映画が恐ろしいのはその普遍性です。まったくドイツに限った話ではなく、欧米諸国はもちろんのこと、遠く離れた我々の住むこの日本でも充分に起こり得る(あるいは実際に起こった)戦争の悲劇、生み出し得るであろう歪んだ英雄である独裁者。今作は人々がいかにしてアジテーションされ、いかにしてナショナリズムが形成され、いかにして独裁者が生み出されていくかを、ものすごく巧みな構成で、ブラックユーモアと痛烈な風刺劇を身にまとい、我々に提示してくれたと思います。
ヒトラーを演じたオリバー・マスッチさん、いささか大柄ですが風貌はもちろんのこと、そのたたずまいから身振り手振りを交えた話しぶり、内に秘める狂気まで孕みつつ、渾身の演技でした。ずいぶんと役作りを研究されたと思いますし、この役を引き受け全うしたその勇気に拍手です。原作は大ベストセラーとなった同名の小説と言うことでこちらもぜひ読んでみたいですね。それにしても、ドイツの方々(に限った話ではないですが)、ワンちゃんが大好きなんですね。ヒトラーも大の犬好きだったようですが…。
随分と似ているなと思ったら、役作りの他に特殊メイクも施しているようですね。 |
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