2014年4月17日木曜日

アクト・オブ・キリング




The Act of Killing/2012年/デンマーク・ノルウェー・イギリス合作/121分
監督 ジョシュア・オッペンハイマー
共同監督 クリスティン・シン
撮影 カルロス・マリアノ・アランゴ・デ・モンティス
音楽 エーリン・オイエン・ビステル
出演 アンワル・コンゴ、ヘルマン・コト、アディ・ズルカドリ、イブラヒム・シニク

鑑賞中、極度のストレスからかところどころ居眠りをしてしまいました。あまりの刺激的な内容に脳がシャットダウンしてしまったのでしょう。
感想を一言で言うなら「WTF!」です。ちょうど前日「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」を鑑賞しており、劇中でオリバーが連発していたこの台詞が何度も脳裏をよぎりました。
まさに、What the Fuck!な映画でした。

圧巻はエンドロール。僕は、だいたいエンドロールの途中で席を立つのですが、ずらずらと流れる「ANONYMOUS」の文字に「まじかよ」と、思わず釘付けになり、しばらく席を立てませんでしたよ。
知人が国営放送での虐殺エピソードのくだりを「悪い冗談のようだ」と評していましたが、本当にこの映画自体、たちの悪い冗談のようなものだ、いやむしろ何かの悪質なパロディであって欲しいとさえ思いました

被害者が口を閉ざす中、加害者がその正当性を美化しようと映画を撮影する様子をドキュメンタリーとして撮影すると言う二重構造の中、自分自身の役を演じるアンワル・コンゴが仮想的に、あるいは追体験的に自分の犯した罪に苛まれていきラストでは止め処もない嘔吐に襲われるさまに、唖然としつつもまったく共感も同情の念も生まれてこないと言う…

冒頭の「殺しは禁じられている。だから殺人者は皆罰せられる。ただし、トランペットの音にのせ、多くを殺せば別である」と言うヴォルテールの言葉が、映画全体に重くのしかかります。
チャップリンの「殺人狂時代」が思い出されますね。

「一人の殺害は犯罪者を生み、百万の殺害は英雄を生む。数が(殺人を)神聖化する」


映画はアンワル・コンゴに主眼を置いて作られていますが、僕が本当に恐ろしいと感じたのは相棒のヘルマン・コト。西田敏行に似たあの人です。派手なドレスを着てかつらをかぶり女装をして精霊のようなものを演じるうちに図らずも直視できないほどの醜さを体現し、素面での彼も全く自分の信念や行動に疑義を感じていないようです

歴史的に見てジェノサイドと言うものはあらゆる時代、あらゆる場所で起こったものだと僕は認識していますし、あるいは今現在も世界のどこかで行われているのかもしれない。しかし、そんなこと日々のほほん暮らしの僕に突きつけられても、いきなりごくんと呑み込めますか?ただただ、「まじかよ」と言って茫然自失するのが関の山です。つまり、この映画はドキュメンタリーフィルムとして超弩級に凄いものだと評価すると共に、この映画を観終わった後、劇場を出ればいつも通りの静かで平和な日常にすっと戻って、こうしてのんびりをブログを書いていられる自分の境遇に感謝するばかりです。けれども、自分が加害者と被害者のやじろべえの真ん中にいて、もしかしたらあっちに傾くかもしれない、こっちに傾くかもしれない、と考えると空恐ろしくなります。

この映画を観て、こう思いましたよ。
映画と言う表現手段は何があっても守らなくてはならない。そして、その映画を上映する劇場なりなんなりの環境は何があっても僕たちは死守しなければならない。
それが、最後の砦なのかもしれないのだから、と。

2014年4月8日火曜日

ローン・サバイバー


Lone Survivor/2013年/アメリカ/121分
監督 ピーター・バーグ
脚本 ピーター・バーグ
撮影 トビアス・シュリッスラー
音楽 エクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイ、スティーブ・ジャブロンスキー
出演 マーク・ウォールバーグ、テイラー・キッチュ、エミール・ハーシュ、ベン・フォスター、エリック・バナ

まったくもってアメリカンな映画でした。アメリカの国の人たちはやっぱりこの映画を観て「Yeah!」となるのでしょうか。戦争映画が嫌いと言うわけでは全然なくお気に入りの作品も多々あるのですが(「地獄の黙示録」「フルメタル・ジャケット」「ブラックホーク・ダウン」…etc.)、今作に関してはプロパガンダの側面が強く感じられて面白い!とか面白くない!とかで括られる感想は持たず、戦争マジヤダ…って言うのと、とにかく体のあちこちが痛いよう!と言うのが率直なところです。知らない国の人たちが知らない場所で、なんだか僕には良く分からない理由で戦争しているのを観ているとやっぱり頭の中を何度もこの曲がよぎりました。



しかし、この痛い描写は特筆すべきものがありました。僕の両親の田舎が岐阜県の山奥にありまして、ここは山に囲まれて海がないので、遊ぶのはもっぱら山川になるわけですが、幼少の頃ですからやっぱり無茶するわけです。それでもって、ちょっとした崖みたいなところから転げ落ちたり川べりの岩場ですってんころりんなんてことはよくあることで、あれはほんとに痛いんですよね。
そこへきて今回4人が放り込まれる窮地。やむを得ずとは言えども、そんな逃げ方!?って言う。そして滑落するさなか体のあらゆる場所を鈍い音と共に枯れ木や岩にぶつけるその凄まじさに、こちらも体が強張ります。「スタントマン…大変だろうな」と本筋とは関係ないことが思わず頭をよぎりますね。
蒲田行進曲」の階段落ちも今は昔です。「銀ちゃん、かっこいい!」どころの話ではないです。
そして、マーク・ウォールバーグがコインペンダントを噛み締めながらファッキン・ダックと勘違いされた末にようやく手にしたナイフで破片を取り除くシーンでは、めちゃくちゃ奥歯が痛くなりましたよ。

冒頭の悲壮なまでのネイビー・シールズの地獄の特訓をドキュメンタリー・フィルムでもって時間をかけて観客に提示することで、その後の4人のボロボロになりながらも強靭な活躍でのサバイバルに説得力を持たせたのは納得。そして、解放されたアフガンの少年が複雑な岩場をぴょんぴょんを駆け下りていくのも、タリバンが攻め込んでくる際の機動力を予見的に表現していて巧みだと思いました。

おおまかなストーリー自体は予告編で知った通りに進んでいってそれ以上でもそれ以下でもないのですが、ちょっとびっくりしたのは救出に来た輸送機がまさかの「RPG!」。ああ、こういう形で映画は終息に向かうのか、と思っていたところに「RPG!」ですから、これはたまげました。そこからもうひとひねりのお話だったのですね。まあ、ただアフガニスタンにも良い人はいますよって、そりゃそうだろって話ですからひねりもなにもないんですけれども
しかし、映画の冒頭にBased on true storyとあるように、この「レッド・ウィング作戦」は実際にあったネイビー・シールズ史上最悪の事件だそうですから、脚色の程はあれ、それを考えるとただただ胸が痛むばかりです。

あのマーク・ウォールバーグを救ってくれたアフガニスタンの勇気ある村人、大変にタリバンがお嫌いだったようですね。「FuckTheTaliban!」と罵っていました。
英語は息子同様にからっきしだったようですが、「ファックザタリバンぐらい分かるよバカ野郎」と言ったところでしょうか。

こちらをご覧ください。


2014年4月2日水曜日

LEGO(R)ムービー


The LEGO Movie/2014年/アメリカ/100分
監督 フィル・ロード、クリストファー・ミラー
脚本 フィル・ロード、クリストファー・ミラー
撮影 バリー・ピーターソン
音楽 マーク・マザースボウ
出演 クリス・プラット、ウィル・フェレル、エリザベス・バンクス、ウィル・アーネット、リーアム・ニーソン、モーガン・フリーマン

意外と上映回数が限られており、朝イチに2D字幕吹替え版での鑑賞でした。午前中からものすごい量の視覚情報が頭に流れ込んできて鑑賞後はクラクラしてぐったりでした。
一言で感想を言えばすごく「詰まっている」。もう、ぎっしりです。おもちゃの缶詰ですね。金なら1枚、銀なら5枚です。

まずは、とにかくビジュアルがすごい。それこそ幼少の頃、LEGOに限らずブロック遊びや積み木遊びに慣れ親しんだ僕らの世代にとっては、頭の中で思い描いていた世界がスクリーンを通して眼前に繰り広げられているわけですから、それはもう単純にわあ!すごい!なわけです。

LEGOの光沢や質感、動きはもちろん、すべての造形物がきっちりLEGOのあのぽちぽちで組み合わさっている説得力。もう画面の隅から隅まであのちっこいブロックのパーツパーツの重なりで、しかもそれが生命を持って動き回ったりしているので、ちょっぴり、というか相当狂っています。そこへ来て、監督はフィル・ロード、クリストファー・ミラーですから今回もなんだかキラキラ・ビカビカした演出もあったりしてドラッグ・ムービー感たっぷりでしたね。

脚本もこのコンビ、大変良く出来ていて、マニュアルに従って生きることを是としマニュアライズされた世界の中でもこの上なく没個性な主人公エメットが、救世主と間違われたり、いや預言はでたらめだったと言われたりのすったもんだの末、型破りなヒーローたちをそのマニュアルを逆手にとってまとめ上げていき悪を倒す…いや、悪を倒すって言うのでもない救いをもたらす。そこに、実写パートの親子のやりとりが絶妙に絡んでいてウマい。これも、LEGOと言うおもちゃの特性をちゃんと活かしてますよね。ひとつの小さなパーツを組み上げていく大人の趣味的な遊びと本来の子供ならではの自由闊達な発想による遊び。それが、エメットの生きる世界と二重構造になっていてぴったりとブロックが重なるようにはまっていく。見事です。その上で、主人公の成長、敵役の改心、奔放に活躍してきたヒーローたちの気づき、ワイルドガールとのロマンス、とこちらもぎっりし「詰まっている」のです。

この作品を作り上げるのは大変に気の遠くなる作業だったに違いない、と考えると本当に気が遠くなるのですが、まずは拍手喝采。早起きして観にいってその圧倒的なパワーにやられて家に帰ってから午睡を嗜みましたが、アニメーションってすごいなあ、面白い人たちが面白いことを楽しそうに、しかも、めちゃめちゃマジに作るとものすごいシロモノができるなあと、その日は夢見心地のうちに過ごしました。

2014年3月27日木曜日

アナと雪の女王


Frozen/2013年/アメリカ/102分
監督 クリス・バック、ジェニファー・リー
原案 ハンス・クリスチャン・アンデルセン
脚本 ジェニファー・リー
音楽 クリストフ・ベック
歌曲 ロバート・ロペス、クリステン・アンダーソン=ロペス
出演 クリステン・ベル、イディナ・メンゼル、ジョナサン・グロフ、サンティノ・フォンタナ、ジョシュ・ギャッド

近隣の上映環境は、2D字幕、2D吹替え、3D字幕の3択。吹替え版で松たか子の唄う主題歌が大変素晴らしいとの話も聞いており、うんうんと迷いましたが、同時上映の短編「ミッキーのミニー救出大作戦」は3Dで観るべし!との情報を得て、結局3D字幕版での鑑賞となりました。
この「ミッキーのミニー救出大作戦」は確かに3DならではのちょっとしたTDLのアトラクションのような出来栄えになっておりなかなかしゃれた作りで評判通り楽しめました。

ところが、この3D環境、専用のグラスをかけるとものすごく視界が暗くなるんですね。画面がそれこそサングラスを通して見ているようになってしまうのです。
実はこのせいもあってか、ちょっと上映中眠くなってしまって。ところどころウトウトしてはハッとなり…が中盤以降続きました。もう一つ思い当たる節としては、ぼく、ミュージカルが苦手なんですよね。喋ってるかと思ったら突然唄いだすから、ちょっと気が遠くなると言う…。いや、もちろん主題歌の「Let It Go」は素晴らしい歌曲でしたし、イディナ・メンゼルの歌唱力は身を震わせるものがありました。

ストーリーもディズニーのクラシカルなアニメの伝統を引き継ぎつつ、やはり当世風にひねりを効かせたり、シニカルなユーモアも盛り込んであって、大人の鑑賞にも十分に堪え得る、むしろ大人ならではの楽しみがある脚本に仕上がっていたと思います。
でも、なんだか(上映中、居眠りしてたこともあって)、なにかこう例えば同じくジェニファー・リーが脚本を手がけた「シュガー・ラッシュ」を観たときのような「わあ!面白かった!」と言うような昂揚感はなかったのです。

それでもCGアニメのクオリティ、特に氷や雪の表現ってすごく難しいと思うのですけれど、まさに無生物に命を吹き込むアニメーションならではのその手腕と言うか技術は見事としか言いようがなく、ほえーと感心して見惚れていたのですが。
ですので、ぜんぜん素晴らしい良い作品で見応えもあり面白いのですが、感想を聞かれると「うん、良かったよ」くらいのテンションです。

「愛」が大きなテーマだったですね。真実の愛とは何か。今作ではラストでアナが取った行動によって、エルサはその答えを知るわけです。自己犠牲こそ真実の愛だということですね。うーむ、なるほど、と唸りました。しかし、まあ、あんまり愛がどうのこうのと言う話になってくると、現実社会でしがなくサラリーマンなんかやってやもめ暮らしをしていると随分と捻くれてしまい、思わず昔流行ったサントリーのザ・カクテルバーのCMで長瀬正敏が呟く「愛だろ、愛っ。」を思い出してしまっていささか鼻白む自分が嫌になりますね。

こちらをご覧ください。



あと、雪だるまのオラフの造形が可愛くなくってぜんぜん愛着が湧きませんでした。

2014年3月21日金曜日

ロボコップ



RoboCop/2014年/アメリカ/117分
監督 ジョゼ・パジーリャ
脚本 ジョッシュ・ゼッツマー、ニック・シェンク
撮影 ルラ・カルバーリョ
音楽 ペドロ・ブロンフマン
出演 ジョエル・キナマン、ゲイリー・オールドマン、マイケル・キートン、アビー・コーニッシュ、ジャッキー・アール・ヘイリー、サミュエル・L・ジャクソン

やくざ映画を観た後、こう肩をいからせて大股歩きになってみたり、幼き頃、ジャッキー・チェンの映画を観てなんだか強くなったような気がしてカンフーの真似事をしたりってあるじゃないですか。
やっぱり「ロボコップ」を観た後は、動きがぎこちなくロボット的になりますよね。角を曲がる時に首が先に動いて体が後からついてくる、みたいな。

ポール・バーホーベン監督のオリジナル版は当時劇場で鑑賞し、その暴力的でグロテスクな描写に衝撃を受け、しかしながらその造形の格好良さにシビれたのとパントマイム的な動きの面白さに刺激を覚えて、随分と興奮した記憶があります。ロボコップごっこが流行ったような…学校とかで。吹越満のロボコップ演芸なんてのもありましたね。

こちらをご覧ください。


さて、今回のリメイク(リブート)版ですが、ヒューマンドラマに仕上がってましたね。レイティングの関係もあるのでしょうか、どぎつい描写もなかったです。ブラックユーモアな感じもなし。まあ、オリジナルがカルト的人気を誇る名作だけに、こちらもそんなに期待値を上げて観にいったわけでもないので、これはこれで楽しめました。

中でも白眉だったのが、ロボコップとなったアレックス・マーフィーが初めて妻と息子に対面するために我が家を訪れるシーン最先端の医療とテクノロジーを集結させて完成されたそのサイボーグがウィーン、ガシャ、ウィーン、ガシャと歩み寄りおもむろに手を伸ばして「ピンポーン」とチャイムを押す。その一連の流れでもう堪え切れなくなり思わず静まる劇場で吹き出してしまいましたよ。
あれ、ぼくが息子の立場だったらあの姿形でおとうさんが帰ってきたらもう抱腹絶倒ですね。感動の対面シーンだけに不謹慎さが相まって笑いが止まりませんでした。

そして、今作でのロボコップの黒を基調としたスタイリッシュな造形、これは賛否が分かれるところでしょうがぼくは割に好きでした。流線型のフォルムで、こちらも黒く洗練されたデザインのバイクに跨って疾走するところなんかは新しいヒーローの登場を予感させて、格好良いじゃん!と思いましたね。もちろん、あのメタリックシルバーの無骨な感じも、これぞ、ロボコップ!って感じがするので捨てがたいですけれど。

姿形と言えば、アレックス・マーフィーのボディのパーツをすべて取り外して、わずかに残った生身の部分だけのあのビジュアルは大変にショッキングでした。
「ほとんど残ってないじゃないか!」と言うアレックスの叫びは悲痛でしたね。これと言い、最後の戦いで片腕を失いぼろぼろの状態で立ち向かう姿と言い、形容しがたいカタワ感(大変申し訳ありません、不適切ですがどうしてもこの表現になってしまうのです)というのがロボコップの真骨頂ではないでしょうか。

その意味では、肝心の脚本や演出、脇を固める登場人物が今一つ魅力不足だったなあ、と言う感は否めません。監督は名作の誉れが高い「エリート・スクワッド」シリーズのジョゼ・パジーリャだけあって銃撃戦はさすがの迫力、敵役のボス、ヴァロンのアジトに乗り込んでのまさにFPSまんまのガンファイトのシークエンスはナイトスコープやサーモスコープなどの映像の切り替えも騒がしく見応えがありました。しかし、ドラマをあんまりエモーショナルに味付けしないのがこだわりなのか、淡々とした進行の印象を受けました。もうちょっとけれんみたっぷりな演出やお芝居が随所にあっても良かったんじゃないでしょうか。

演じる役者陣、お久しぶりのマイケル・キートンはとにかく自社の製品を米国で売りたい一心なのはわかりますけれど、その割には言動がぶれる印象でしたし、ゲイリー・オールドマンは相変わらずの好演で大変に良かったのですがこの人の軸足もちょっと良く分からない。マッドサイエンティストなのは間違いないんですけれど、なんか良い人って言う。これ、ゲイリー・オールドマンじゃなかったら(彼の演技力がなかったら)微妙な人物像に見えたと思います。
ロボットに戦闘を教え込む教官役、見覚えあるなあと思ったら、ジャッキー・アール・ヘイリーですね。ロールシャッハ!彼なんか憎々しくて非常にチャーミングな役柄だったんですけれど充分に活かし切れていないと言うか、最期も背後からアレックスの相棒にパンと撃たれて終わりだし、もうちょっと見せ場が欲しかった。

サミュエル・L・ジャクソンはオープニングとエンディングに華を添え、狂言回し的なおいしい役どころで、この人の台詞回しは本当にうまいし、ついつい魅入っちゃうんですけれど、ハリウッドで最も美しく「Mother Fucker」を発音し巧みに操ると評判の彼のそれが今回はピー音でかき消されてしまったのがなんとも残念でした。

あ、あと音楽良かったです。

2014年3月15日土曜日

それでも夜は明ける



12 Years a Slave/2013年/アメリカ・イギリス合作/134分
監督 スティーブ・マックイーン
脚本 ジョン・リドリー
撮影 ショーン・ボビット
音楽 ハンス・ジマー
出演 キウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチ、ポール・ダノ、ルピタ・ニョンゴ、ブラッド・ピット

黒人監督初のアカデミー賞作品賞、ルピタ・ニョンゴの助演女優賞など数々の授賞の栄冠をモノにした話題の作品ということで、予告編でも何度か目にしており、作品柄、覚悟を決めてというか折り目をただして鑑賞しました。

キツかったーというのが正直な感想です。
人種差別、奴隷制というものが存在していた、あるいは存在していると、もちろん知ってはいますし、過去にも映画に限らず様々なメディアでその実態を目にはしていました。でも、やっぱりぜんぜんそれは遠い国のお話しであって自分のリアルとは隔絶された世界の悲劇のひとつとしての認識しかないわけです。
ですので、今作品を鑑賞して自分がいかに世界で何が行われていたか、また、何が起こっているのか、なんにも知らない日々のほほん暮らしの大馬鹿三太郎だということに改めて気づかされ、ただただ、できるだけ目を背けずしっかりと見続けこの物語を飲み込もうと努めました。

奴隷としてのプラッツが木に首を括られ爪先立ちで何時間も放っておかれるシークエンス。延々と時にアングルを変えてカメラがそれを捉えるシーンの残酷さにまだか!まだか!と身悶えしました。カンバーバッチがロープを切ってドサっと地面に転げ落ちた時にはこちらもグッタリです。すごい描写でした。

描写と言えば撮影が良かったですね。寄り過ぎるぐらいのアップショット、かと思いきや突き放したようなロングショット。この引きの画が印象的でした。あまりカメラが動き回らずフレーミングされた画面の中で登場人物が感情を押し殺し、爆発させわめき散らし泣き叫ぶ。アメリカ南部のカラッとした暑さを思わせる陽射しの陰影も相まってどうにもこうにも息が詰まるような緊張感を生み出していました

助演女優賞授賞のルピタ・ニョンゴはもちろん主演のキウェテル・イジョフォー、そして、マックイーン作品の常連であり、ぼくの大好きなマイケル・ファスベンダー、皆それぞれ素晴らしい演技でした。渾身、という言葉がぴったりでしょう。ぼくの浅はかな想像力でも今作でどの役柄を演じた俳優さんもホントに辛かっただろうな、と感じました。
もちろん、大変に意義と誇りをもって仕事をされたことと思います。

ぼくは原則的に娯楽と現実逃避を目的として、つまりレジャーとして映画を観たり小説を読んだりしているのでやはりこういう作品は辛い映画体験になります。しかし、今作に関してはテーマはもとよりその映画としての芸術性や完成度が優れている点で後世に語り継がれるモノでしょうし、まあ、ぼくがこの映画を鑑賞したことをきっかけに何か人種問題などにぐっとのめり込んで勉強したり運動したりすることはなく、また日々のんべんだらりと過ごしていくわけですが、それはさておき、映画の持つパワーの凄さをがっしりと感じた作品ではありました。

昨年度のベストにリドリー・スコット監督『悪の法則』を挙げたのですが、あれも後味の悪い映画(そういうのは大好きなんですけれど)でしたが、あそこで描かれている人間の悪意より、もっと根源的な善悪を超えた「性」みたいなものを考えさせられて、ああ、でもぼくも当然ひとりの人間なんだしこの物語もあの物語もやっぱり地続きなんだなあ、と独りごちた次第です。


鞭を打つ人間、鞭で打たれる人間、どちらも嫌ですよね。

2014年3月5日水曜日

ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅


Nebraska/2013年/アメリカ/115分
監督 アレクサンダー・ペイン
脚本 ボブ・ネルソン
撮影 フェドソン・パパマイケル
音楽 マーク・オートン
出演 ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ、ジューン・スキップ、ステイシー・キーチ、ボブ・オデンカーク

ここぞとばかりに意地汚くたかる親類縁者に母親が怒り心頭で罵るシーンでfuck yourselvsと言っていたので、なるほど罵る相手が複数の時は複数形になるんだなあと妙なところで感心し、son of a bitchの複数形がsons of bitchesと知った時以来の衝撃でした。高齢の出演者が多いせいか英語が聞き取りやすくスラングとかもなかったようで、ああこういう言い回しをするんだ!などと英語の勉強になりました。

モノクロにしたのはもちろんあえてなんでしょうけれど、その意図がぐっと汲み取れるほどではなかったです。時代背景やストーリー、登場人物のリアルさと言うかグロテスクさをぼかしたかったのでしょうか。カラー版も見てみたいですけれどあんまり印象変わらないような気もします。

ブルース・ダーンは良かったですね。ちょっと今年は分が悪くアカデミー賞はノミネートにとどまりましたが素晴らしい演技でした。アルツハイマーまではいってないけどいささかボケ気味、頑固でほとんどアル中、しかし頼まれると断れないお人好しと言う複雑な人物を抑制の効いた演技でしかし能弁に魅せてくれました。
入れ歯を失くして線路で探して見つけ出し「父さんのじゃない!…冗談だよ」「俺のじゃない…俺のに決まってんだろ!」のやり取りとか手紙を強奪されて「諦めなよ…やっぱり探しに行く?」ばっと振り返って「無言(目がキラキラ)」のシーンとかチャーミングで好きでした。

まあ、ほとんどの登場人物が主人公を含めて人間の嫌な部分を見せつけ、だめな言動をかますと言うていたらくですからこちらも良い気分にはならないのは確かです。しかし、老人、外国、モノクロという自分的なリアリティの薄さからどこか遠くのすごくフィクショナルな話に見えつつも、いやこれはぜんぜん自分と地続きだよ、めっちゃ普遍性あるよ、と鑑賞中に心によぎってからは、これぞアレクサンダー・ペインの力量というかこういう作品ならではの本領発揮に気圧されて参ったな、と言う感じでした。そこで、ラストのトラックのシーンが効いてくるわけです。なので、どちらかって言うと見た目とか口に入れたとたんって言うより後味ほのかにってタイプの映画ですね。

これ、邦画の副題が「ふたつの心をつなぐ旅」ってなってるんですけれど、もともとあの家族って主人公がお父さんっ子、兄貴がお母さんっ子ぽいですよね。だから主人公とお父さんが旅に出てドラスティックに心が繋がるって感じはあんまりしなかったです。もともと、お父さんはともかく主人公はお父さんよりですもんね。あの兄貴とお父さんの絆がここへ来て深まる!みたいなのだったら納得の副題なんですけれど。

それはそうと歳を取るとなんでメニューに載ってないもの頼もうとするんですかね。