2014年4月24日木曜日

サンブンノイチ


2013年/日本/119分
監督 品川ヒロシ
脚本 品川ヒロシ
原作 木下半太
撮影 相馬大輔
音楽 樫原伸彦
出演 藤原達也、田中聖、小杉竜一、中島美嘉、窪塚洋介、池畑慎之介☆

品川ヒロシ監督の前二作は未見。今作も食指は全く動きませんでしたが、週刊映画時評ムービーウォッチメンで取り上げられるということで鑑賞してきました。

例えばなにか冗談を言った後、「この冗談の面白いところはね…」と説明されるほどつまらないことはありません。そんな映画でした。笑えない、と言うだけではなく二転三転と説明的に解き明かされていく、主人公の藤原達也の描いた筋書も「お、おう」と言った感じで途中からもうどうでも良くなってきて、思わずリモコンを探しましたが生憎ここは映画館でした。

とは言え、上映中に席を立たなかったのはひとえに窪塚洋介の魅力のおかげです。昔からこの俳優さんが大好きでして、どんだけカリカチュアライズされたキャラクターを演じてもスクリーンに耐えうる稀有な存在だと僕は思っています。これはもう演技力はもちろんですが天性のものですよね。
彼の存在感がこの作品を映画たらしめていると言っても過言ではないでしょう(※あくまで個人の感想であり効果効能を謳うものではありません)。そう言う意味では池畑慎之助☆の果たした役割も大きいですね。ザ・グロテスク!な感じが良く出ていて達者な演技でした。

タランティーノに敬意を表すと言った呈で凝った時間軸の演出、会話劇、映画へのオマージュに溢れ面白い映画を作ろう!エンターテインメントを観客に魅せよう!と言う意気込みは充分に感じ取られますし、おそらく比されるであろう松本人志監督(ぼくは昨年のワーストのひとつに選出した「R100」しか観ていないのですが)と並べれば良く出来ているとは思いますが、こちらとしてはどの映画も一律に同じ料金を支払ってそれなりの時間を費やして劇場に足を運んでいるので、別段優しい気持ちをこの品川ヒロシという監督に差し伸べる必要もないと思われ、結果的にはもうこの先特に映画を撮る必要も無いのではないかな、と思いました。

窪塚洋介に映画論だか映画批評論だかを声高に叫ばせるシークエンスがあって、「ああ…やっぱりこう言う事言わせちゃうんだ」といささか鼻白んだのですが、やっぱりお笑い芸人(すみません、職業差別的で)が映画を撮ると、こちらもそれを知った上で観てしまうのでなかなか妙なバイアスがかかっちゃって難しいですよね。くそつまらなければ、くそつまらん!って言えるのですけれど今作のように「うん、頑張ってるけど…やっぱりつまらん」と言う場合、どうすれば良いのでしょう。知らんがなって話ですね。

ところで、藤原達也って顔の面積の割りに各パーツがこじんまりしすぎていると思いませんか。ちょっと不安になります。

2014年4月17日木曜日

アクト・オブ・キリング




The Act of Killing/2012年/デンマーク・ノルウェー・イギリス合作/121分
監督 ジョシュア・オッペンハイマー
共同監督 クリスティン・シン
撮影 カルロス・マリアノ・アランゴ・デ・モンティス
音楽 エーリン・オイエン・ビステル
出演 アンワル・コンゴ、ヘルマン・コト、アディ・ズルカドリ、イブラヒム・シニク

鑑賞中、極度のストレスからかところどころ居眠りをしてしまいました。あまりの刺激的な内容に脳がシャットダウンしてしまったのでしょう。
感想を一言で言うなら「WTF!」です。ちょうど前日「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」を鑑賞しており、劇中でオリバーが連発していたこの台詞が何度も脳裏をよぎりました。
まさに、What the Fuck!な映画でした。

圧巻はエンドロール。僕は、だいたいエンドロールの途中で席を立つのですが、ずらずらと流れる「ANONYMOUS」の文字に「まじかよ」と、思わず釘付けになり、しばらく席を立てませんでしたよ。
知人が国営放送での虐殺エピソードのくだりを「悪い冗談のようだ」と評していましたが、本当にこの映画自体、たちの悪い冗談のようなものだ、いやむしろ何かの悪質なパロディであって欲しいとさえ思いました

被害者が口を閉ざす中、加害者がその正当性を美化しようと映画を撮影する様子をドキュメンタリーとして撮影すると言う二重構造の中、自分自身の役を演じるアンワル・コンゴが仮想的に、あるいは追体験的に自分の犯した罪に苛まれていきラストでは止め処もない嘔吐に襲われるさまに、唖然としつつもまったく共感も同情の念も生まれてこないと言う…

冒頭の「殺しは禁じられている。だから殺人者は皆罰せられる。ただし、トランペットの音にのせ、多くを殺せば別である」と言うヴォルテールの言葉が、映画全体に重くのしかかります。
チャップリンの「殺人狂時代」が思い出されますね。

「一人の殺害は犯罪者を生み、百万の殺害は英雄を生む。数が(殺人を)神聖化する」


映画はアンワル・コンゴに主眼を置いて作られていますが、僕が本当に恐ろしいと感じたのは相棒のヘルマン・コト。西田敏行に似たあの人です。派手なドレスを着てかつらをかぶり女装をして精霊のようなものを演じるうちに図らずも直視できないほどの醜さを体現し、素面での彼も全く自分の信念や行動に疑義を感じていないようです

歴史的に見てジェノサイドと言うものはあらゆる時代、あらゆる場所で起こったものだと僕は認識していますし、あるいは今現在も世界のどこかで行われているのかもしれない。しかし、そんなこと日々のほほん暮らしの僕に突きつけられても、いきなりごくんと呑み込めますか?ただただ、「まじかよ」と言って茫然自失するのが関の山です。つまり、この映画はドキュメンタリーフィルムとして超弩級に凄いものだと評価すると共に、この映画を観終わった後、劇場を出ればいつも通りの静かで平和な日常にすっと戻って、こうしてのんびりをブログを書いていられる自分の境遇に感謝するばかりです。けれども、自分が加害者と被害者のやじろべえの真ん中にいて、もしかしたらあっちに傾くかもしれない、こっちに傾くかもしれない、と考えると空恐ろしくなります。

この映画を観て、こう思いましたよ。
映画と言う表現手段は何があっても守らなくてはならない。そして、その映画を上映する劇場なりなんなりの環境は何があっても僕たちは死守しなければならない。
それが、最後の砦なのかもしれないのだから、と。

2014年4月8日火曜日

ローン・サバイバー


Lone Survivor/2013年/アメリカ/121分
監督 ピーター・バーグ
脚本 ピーター・バーグ
撮影 トビアス・シュリッスラー
音楽 エクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイ、スティーブ・ジャブロンスキー
出演 マーク・ウォールバーグ、テイラー・キッチュ、エミール・ハーシュ、ベン・フォスター、エリック・バナ

まったくもってアメリカンな映画でした。アメリカの国の人たちはやっぱりこの映画を観て「Yeah!」となるのでしょうか。戦争映画が嫌いと言うわけでは全然なくお気に入りの作品も多々あるのですが(「地獄の黙示録」「フルメタル・ジャケット」「ブラックホーク・ダウン」…etc.)、今作に関してはプロパガンダの側面が強く感じられて面白い!とか面白くない!とかで括られる感想は持たず、戦争マジヤダ…って言うのと、とにかく体のあちこちが痛いよう!と言うのが率直なところです。知らない国の人たちが知らない場所で、なんだか僕には良く分からない理由で戦争しているのを観ているとやっぱり頭の中を何度もこの曲がよぎりました。



しかし、この痛い描写は特筆すべきものがありました。僕の両親の田舎が岐阜県の山奥にありまして、ここは山に囲まれて海がないので、遊ぶのはもっぱら山川になるわけですが、幼少の頃ですからやっぱり無茶するわけです。それでもって、ちょっとした崖みたいなところから転げ落ちたり川べりの岩場ですってんころりんなんてことはよくあることで、あれはほんとに痛いんですよね。
そこへきて今回4人が放り込まれる窮地。やむを得ずとは言えども、そんな逃げ方!?って言う。そして滑落するさなか体のあらゆる場所を鈍い音と共に枯れ木や岩にぶつけるその凄まじさに、こちらも体が強張ります。「スタントマン…大変だろうな」と本筋とは関係ないことが思わず頭をよぎりますね。
蒲田行進曲」の階段落ちも今は昔です。「銀ちゃん、かっこいい!」どころの話ではないです。
そして、マーク・ウォールバーグがコインペンダントを噛み締めながらファッキン・ダックと勘違いされた末にようやく手にしたナイフで破片を取り除くシーンでは、めちゃくちゃ奥歯が痛くなりましたよ。

冒頭の悲壮なまでのネイビー・シールズの地獄の特訓をドキュメンタリー・フィルムでもって時間をかけて観客に提示することで、その後の4人のボロボロになりながらも強靭な活躍でのサバイバルに説得力を持たせたのは納得。そして、解放されたアフガンの少年が複雑な岩場をぴょんぴょんを駆け下りていくのも、タリバンが攻め込んでくる際の機動力を予見的に表現していて巧みだと思いました。

おおまかなストーリー自体は予告編で知った通りに進んでいってそれ以上でもそれ以下でもないのですが、ちょっとびっくりしたのは救出に来た輸送機がまさかの「RPG!」。ああ、こういう形で映画は終息に向かうのか、と思っていたところに「RPG!」ですから、これはたまげました。そこからもうひとひねりのお話だったのですね。まあ、ただアフガニスタンにも良い人はいますよって、そりゃそうだろって話ですからひねりもなにもないんですけれども
しかし、映画の冒頭にBased on true storyとあるように、この「レッド・ウィング作戦」は実際にあったネイビー・シールズ史上最悪の事件だそうですから、脚色の程はあれ、それを考えるとただただ胸が痛むばかりです。

あのマーク・ウォールバーグを救ってくれたアフガニスタンの勇気ある村人、大変にタリバンがお嫌いだったようですね。「FuckTheTaliban!」と罵っていました。
英語は息子同様にからっきしだったようですが、「ファックザタリバンぐらい分かるよバカ野郎」と言ったところでしょうか。

こちらをご覧ください。


2014年4月2日水曜日

LEGO(R)ムービー


The LEGO Movie/2014年/アメリカ/100分
監督 フィル・ロード、クリストファー・ミラー
脚本 フィル・ロード、クリストファー・ミラー
撮影 バリー・ピーターソン
音楽 マーク・マザースボウ
出演 クリス・プラット、ウィル・フェレル、エリザベス・バンクス、ウィル・アーネット、リーアム・ニーソン、モーガン・フリーマン

意外と上映回数が限られており、朝イチに2D字幕吹替え版での鑑賞でした。午前中からものすごい量の視覚情報が頭に流れ込んできて鑑賞後はクラクラしてぐったりでした。
一言で感想を言えばすごく「詰まっている」。もう、ぎっしりです。おもちゃの缶詰ですね。金なら1枚、銀なら5枚です。

まずは、とにかくビジュアルがすごい。それこそ幼少の頃、LEGOに限らずブロック遊びや積み木遊びに慣れ親しんだ僕らの世代にとっては、頭の中で思い描いていた世界がスクリーンを通して眼前に繰り広げられているわけですから、それはもう単純にわあ!すごい!なわけです。

LEGOの光沢や質感、動きはもちろん、すべての造形物がきっちりLEGOのあのぽちぽちで組み合わさっている説得力。もう画面の隅から隅まであのちっこいブロックのパーツパーツの重なりで、しかもそれが生命を持って動き回ったりしているので、ちょっぴり、というか相当狂っています。そこへ来て、監督はフィル・ロード、クリストファー・ミラーですから今回もなんだかキラキラ・ビカビカした演出もあったりしてドラッグ・ムービー感たっぷりでしたね。

脚本もこのコンビ、大変良く出来ていて、マニュアルに従って生きることを是としマニュアライズされた世界の中でもこの上なく没個性な主人公エメットが、救世主と間違われたり、いや預言はでたらめだったと言われたりのすったもんだの末、型破りなヒーローたちをそのマニュアルを逆手にとってまとめ上げていき悪を倒す…いや、悪を倒すって言うのでもない救いをもたらす。そこに、実写パートの親子のやりとりが絶妙に絡んでいてウマい。これも、LEGOと言うおもちゃの特性をちゃんと活かしてますよね。ひとつの小さなパーツを組み上げていく大人の趣味的な遊びと本来の子供ならではの自由闊達な発想による遊び。それが、エメットの生きる世界と二重構造になっていてぴったりとブロックが重なるようにはまっていく。見事です。その上で、主人公の成長、敵役の改心、奔放に活躍してきたヒーローたちの気づき、ワイルドガールとのロマンス、とこちらもぎっりし「詰まっている」のです。

この作品を作り上げるのは大変に気の遠くなる作業だったに違いない、と考えると本当に気が遠くなるのですが、まずは拍手喝采。早起きして観にいってその圧倒的なパワーにやられて家に帰ってから午睡を嗜みましたが、アニメーションってすごいなあ、面白い人たちが面白いことを楽しそうに、しかも、めちゃめちゃマジに作るとものすごいシロモノができるなあと、その日は夢見心地のうちに過ごしました。