2015年11月20日金曜日

恋人たち


2015年/日本/140分

監督 橋口亮輔
原作 橋口亮輔
脚本 橋口亮輔
撮影 上野彰吾
音楽 明星
主題歌 明星
出演 篠原篤、成嶋瞳子、池田良、光石研、安藤玉恵、木野花、黒田大輔、山中聡、内田慈、山中崇、リリー・フランキー

鑑賞した翌日、今作のことを考えながらぼんやりとTwitterのタイムラインを眺めていたところ、敬愛する小池一夫先生のTweetを拝見し、我が意を得たり!となりましたので下記に引用します。

僕は、勝手に「人薬(ひとぐすり)」と呼ンでいる。人に傷つけられたり、人のせいで病ンだりするンだけど、癒してくれるのも、治してくれるのも結局「人」なンだよね。ひとぐすり、おすすめです。(小池一夫)

まさに、このようなことを考えていたんですよね。「人を傷つけるのは人、人を癒すのもまた人なんだなあ…」みたいな感じですね。このシンクロニシティに驚き、一日たってまたさらに味わい深い、しみじみとした気持ちに浸りました。

とは言え、鑑賞中は何とも苦しいものでして、昔の嫌なことを思い出してイーッ!てなるような感じを始終覚えておりました人間の嫌な部分、負の感情をそれこそ重箱の隅をつつくような演出でスクリーンに抉り出して提示し、それを新人とベテランを織り交ぜた役者陣が地べたを這うようなリアルさで演じており、また脇に至るまでキャスティングがツボをついており大変に素晴らしくフィクション≒ノンフィクションの世界へ誘ってくれます。決して楽しく美しい映画ではありません。はっきり言って真逆です。

区役所のシークエンスは、どちらの気持ちも分かるだけに相対する負の感情が自分の中で共鳴し思わず歯を食いしばってしまったり、はたまた、光石研が演じる詐欺師が覚せい剤を打つためにいろんなもので二の腕をぐるぐると巻いては解けする場面では狂気と可笑しみが混在して圧倒されっぱなしだったり。

主人公三人それぞれに限らず、出てくる登場人物が全て自分の「そうであるかもしれない」分身として描き出されているような感じがして、それが現実感なのか非現実感なのか、何だか分からなくなりグラグラしつつ、早くこの映画が終わってほしい気持ちと、いつまでもこの世界を観ていたい気持ちを呼び起こさせ140分と言う長尺ですが、ダレることは全くなかったです。

巷で話題のクールジャパンのカウンターとして、こういう方向のポテンシャルと底知れないパワーが日本の映画にはあるんだよ、と言うことを世界の皆さんに発信したいですね。もちろん娯楽作品ではないし、すごく暗くて重いし、ダサくてせこいし、けれどももの凄まじい映画ってあるよねと再確認させてくれる一本だと思います。必見です。

なんとなく、富田克也監督『サウダーヂ』を思い出しました。こちらも必見!(ソフト化されていないのでどこかの劇場で上映されるのを待つしかありませんが)

黒田大輔、良かったですね。「殺したら話せなくなっちゃうじゃん」「おれはあんたと話したいよ」は名台詞です。

2015年11月13日金曜日

WE ARE Perfume WORLD TOUR 3rd DOCUMENT


2015年/日本/120分
監督 佐渡岳利
音楽 中田ヤスタカ
主題歌 Perfume
ナレーション 近藤春菜
出演 西脇綾香、樫野有香、大本彩乃

いつものように映画館のサイトからオンラインチケットを購入しようとしたところ、券種が一つしか選択できず、しかも2,000円となっていました。劇場に問い合わせたところ、特別興業とのことで各種割引も適用されず一律料金との回答。ふーん、そうなのか、何か特別な仕掛けがあるのかな、と鑑賞したところ、特にその一律2,000円の意味を見いだせず、何だったんだろうともやもやを抱えたまま今日に至っております。これ、何で一律2,000円なんですかね。良く分からん。

それはさておき、ぼくのPerfumeに関する知識は、あーちゃん、かしゆか、のっち(誰が誰だか区別はつきます)の女性三人からなるテクノポップユニットで、いくつかの有名どころの楽曲は聴いたことがあり、大変に人気があるグループである、と言うことぐらい。いわゆるファンではないけれど、普通に知っていると言う一般的な立ち位置です。なので、この映画を鑑賞して、もともとは地元広島のご当地アイドルでありインディーズを経てメジャーデビューというストーリーを知ってちょっとびっくり。今の形に完成されたPerfumeしか存じあげなかったものでして。

さて、映画の感想なのですがこれは2つのパートに分けて申し上げた方が良いかもしれません。つまり、ファンでないぼくでもPerfumeのパフォーマンスの素晴らしさは体感できたし、彼女たちとそれを支えるスタッフが最高のステージを作り上げていく為、愚直なまでに微細に渡ってこだわりぬく姿勢には感動を覚え、まさに一流と呼ばれる人達のプロフェッショナルな仕事を拝見したと感じました。しかし、一つの映画作品としてどうかと問われると、非常に面白みに欠けており、質の高いものではないと言わざるを得ません。

画質、フレームワークなど撮影も粗いし構成から編集まで含めて、テレビの特番、あるいはDVDの特典映像の域を超えたものではないように思いました。わざわざ映画館に足を運んで大きいスクリーンで観なくても良いじゃん、って感じです。基本的に現地に到着、ファンのお出迎え、リハーサル、本番、本番後のダメ出し、そして、メンバーのインタビューが挿入されるというパターンの繰り返しなのでいささか退屈してしまいます。

ぼくとしては、せっかくなのだから彼女たちがどのようにして現在に至ったのかとか、このユニット、あるいはメンバーそれぞれの内面の掘り下げとか、いわゆる“裏面”が観たかったのですけれど、この映画は「WORLD TOUR 3rd」にギュッとピントを絞って徹底的にPerfume(とスタッフ、観客も含めて)のポジティブな側面をある意味実直に描いています。まあぼくの思惑違いで、これはこれでファンやそうでない人にも向けた一本の作品として成り立っているのかもしれません。この映画を観てPerfumeのライブを実際に観に行きたくなったって人も相当数いそうですしね。

ぼくは残念ながら何であれライブと言うものが苦手なので、この映画を観て実際にそこに足を運ぶことはなさそうですが、この映画を観る前よりずっとPerfumeが、あーちゃん、かしゆか、のっちの三人が、そして彼女たちをサポートするスタッフやライブに訪れるファン、観客の皆さんが好きになったことは確かです。こんなにも、愛し愛されているんだ、素晴らしい!と言うことですね。

でも、今もって料金が一律2,000円であったことにもやもやしています。そう言えばTOHOシネマズがスターウォーズシリーズの最新作『スターウォーズ/フォースの覚醒』の一般料金を2,000円に値上げと言うニュースも飛び込んでまいりましたが、いかがなものでしょうか。それならそれで、上映前の観たくもない予告編やくだらないCM、人を映画泥棒呼ばわりするやつとかすっ飛ばしてほしいものです。

あ、そうだ。ぼくも渡米した際にはIn-N-Out Burgerは絶対に食べたい!もちろんアニマル・スタイルで!

めちゃくちゃ、旨そうでしたね。アメリカに旅行してハンバーガーの食べ歩きをしたい。

2015年11月6日金曜日

ヴィジット


The Visit/2015年/アメリカ/94分
監督 M・ナイト・シャマラン
脚本 M・ナイト・シャマラン
撮影 マリス・アルベルチ
音楽監修 スーザン・ジェイコブス
出演 キャスリン・ハーン、ディアナ・デュナガン、ピーター・マクロビー、エド・オクセンボールド、オリビア・デヨング

ヤッツィーーー!!!!


あ、画像間違えました。こちらです。


おばあちゃんが叫んだ後、かぶせ気味に弟くんが「ベッカ!」と合いの手を入れるが如く助けを求めて叫ぶのがまたオツなんですよね。ホラー映画史に残る屈指の名シーンであることは間違いないでしょう。この刹那、劇場内は爆笑の渦に包まれ大変に一体感がありました。

この「ヤッツィー」と言うゲーム、全然知らなかったのですがググってみたところによるとサイコロでやるポーカーみたいなもののようですね。ホームパーティーで今作をバックグラウンドに流し、クッキーを貪りながらヤッツィーに興じる集いなんかやってみたいものです。

ところで、このブログでも再三申し上げているのですが、ぼくは極度の排泄物恐怖症なのです。特にうんこネタがきつくて、その意味では非常に辛い鑑賞体験でした。しかし、本当に嫌なんですけれどもうんこやゲロが出てくる映画って大概面白いんですよね。そして、この『ヴィジット』も紛うことなき面白さ。大傑作でした!

M・ナイト・シャマラン監督作品は『シックス・センス』『アンブレイカブルをテレビだかDVDで鑑賞した程度で、なんとなく“どんでん返しの人”と言うイメージ。何だか低迷していたような噂も耳にしていたので今作は期待半分、ホラー映画っぽいということ以外は前情報を入れずに臨みました。

まずは導入、今やいささか使い古された感のあるPOV方式でいかがなものかなと訝しんでいたところに、なかなかの演技を見せるベッカとタイラーの姉弟。特に弟くんの潔癖症でラッパー、罵り言葉に女性歌手の名を発するというキャラ立ちっぷりがチャーミングで物語に引き込まれていきます。

そして中盤、唐突に訪れるおじいちゃん、おばあちゃんの奇行。床下のかくれんぼでのおばあちゃんの姿態は『貞子』オマージュでしょうか。そして、姉弟の部屋の隅からドアを捉えるショットは『パラノーマル・アクティビティ』を彷彿とさせます。この辺りで、ぼくの苦手とするゲロ、うんこネタも投入。さらには、おばあちゃんの素敵なケツをバックショットで拝めます。基本的にはお化け屋敷イズム溢れる「わっ!」とやって脅かす類のホラーなのですが、そこがまたどうかなと思われたPOV方式と相まってベタながらも心地よく恐がらせてくれます。

物語は終盤を迎え、お待ちかねの「どんでん返し」があるのですが、ぼくは全然そんなこと考えていなかったので普通にびっくりましたよ。冒頭の「ヤッツィー!」シーンも登場し、恐怖と笑いの同居によりアクティビティなスリルを味わえます。これはもうアトラクションですよ。やっぱり相反する二つの感情を波を打つように湧き起こさせてくれるって凄いと思います。シャマラン監督の手腕、本領発揮ですね。

たぶん、馴染みの方はここからもう一転、二転の展開を期待するところだと思いますが、今作は「どんでん返し」は一発のみ。姉弟それぞれのトラウマ克服からおじいちゃん、おばあちゃんとの闘いを経て大団円を迎えます。弟くんの面目躍如のエンドロールは非常に楽しみました。鑑賞後も全然、首を捻ることもなく「いやあ、楽しかった」と爽快感さえ覚えましたよ。でも、うんこは本当に嫌です。弟くんは克服したかもしれませんが、ぼくは新たなトラウマを植え付けられました。

ずいぶんと低予算で製作されたようですが、それでもこれだけの映画を作れる、しかもホラー映画として押さえるところは押さえながらも、めちゃめちゃオリジナリティ溢れる一作に仕上げたM・ナイト・シャマラン、非常に信用できる監督だなと感じた次第です。ちなみに、今年のカエルデミー主演(助演かな)女優賞はおばあちゃん役のディアナ・デュナガン、そして、カエルデミー流行語大賞は「ヤッツィー!」が獲得濃厚です。

ぼくのおばあちゃんも、なにかっちゃあ「飯をたんと喰え」って言ってましたね。祖母心です。奇行には及んでいません。