2014年11月29日土曜日

6才のボクが、大人になるまで。


Boyhood/2014年/アメリカ/165分
監督 リチャード・リンクレイター
脚本 リチャード・リンクレイター
撮影 リー・ダニエル、シェーン・F・ケリー
音楽監修 ランドール・ポスター、メーガン・カリアー
出演 エラー・コルトレーン、ローレライ・リンクレイター、パトリシア・アークエット、イーサン・ホーク

前回、ブログに書いた「紙の月」の吉田大八監督に続き、今作の監督であるリチャード・リンクレイターもまた、改めてぼくにとっての映画の凄さ、素晴らしさを教えてくれました。
そして、今では往々にして底に沈んでいる意識や感情を良いも悪いもひっくるめて丁寧に引っ張り出して眼前に提示してくれる、傑作でした。

「ビフォア」シリーズでは男女の関係の普遍性を見事に描き出し、今作ではそれにとどまらず父子、母子、兄弟姉妹、つまり家族と言う枠組みの多面的な関係性の物語を主人公のメイソン・ジュニアが6才から18才になるまでの12年間を縦軸に紡ぎだしています。
驚嘆すべきはその方法論でしょう。撮影が実際に12年間に渡って断続的に行われたことにより、メイソン・ジュニア演じるエラー・コルトレーンを含め主要な登場人物の出で立ちや振る舞いが、もちろんそれは緻密に計算された演技と綿密に練られた脚本の土台があってこそだと思いますが、ドキュメンタリーさながらに生々しく感じられ、やはり「ビフォア」シリーズ三部作を通して鑑賞した時に感じた何とも言えない映画への親密さ、登場人物たちへの愛情を深く感じるのです。
また、今作ではその普遍性はもとより、アメリカ(舞台であるテキサスの風土の特異性も含めて)と言う国とそこに住む人々の慣習、考え方、歴史などを色濃く感じました。

あんなに愛らしかった6才のメイソン・ジュニアは歳を重ねるにつれ、姿形がナヨキモっぽくなっていき、けれども隠し切れない芯のようなものが一本通っていく。久しぶりに拝見したパトリシア・アークエットは12年の歳月を見事に表す中年女性への変貌っぷりを見せつつ、結婚と離婚を繰り返し、娘と息子巣立たせ自分の人生に茫然自失する。そして、なんと言ってもイーサン・ホークの魅力。こんな風に歳を取りたいと感じる若かりし日の格好良さからやがて円熟味を増していく、昔はヤンチャしてたけど今では良きパパに落ち着きつつあるぜ感が醸し出す雰囲気が素晴らしい。ただ、いささかこのメイソンと言う人物像の良い面を描きすぎている嫌いも感じたりはしました。まあ、二番目、三番目の夫が(特に二番目ですけれど)いかがなものかと言う二人だったので対照的なキャラクターとして、そうせざるを得なかったのかもしれません。
こう言った類の映画を鑑賞するとどうしても自分と照らし合わせて自分語りの感想を書きたくなりますが、ここでは諸事情により割愛します!

リンクレイターの実の娘であるローレライ・リンクレイターも非常に素晴らしかった。まったくもって「あるある」な感じで成長していく姿を存分に見せてくれました。イーサン・ホークに性教育、コンドームについてのレクチャーを受けるシークエンスの照れっぷりは演技を超えたものがあって大変にキュートでした。

ラストの潔さも、リンクレイターならでは。
皆、一瞬一瞬を大切にって言うけれどそうなのかな。瞬間が私たちを捉えるのよ(SEIZE、シーズと言う言葉を使っていました)」「そう、時間は常に流れているんだ」
おおよそ、このような会話だったと思うのですが(違ったかな)、まさに“時間”と言う概念を「ビフォア」シリーズ同様にたっぷりと映画に落とし込んだこの作品、ぜひともまた12年後にお会いしたいものです。リアルタイムにこの映画を劇場で鑑賞できたことに喜びを感じました。

今年の三大続きが見たい映画は「ビフォア・ミッドナイト」「アデル、ブルーは熱い色」、そしてこの「6才のボクが、大人になるまで。」で決まりです!

2014年11月15日土曜日

紙の月



2014年/日本/126分
監督 吉田大八
原作 角田光代
脚本 早船歌江子
撮影 シグママコト
音楽 little more、小野雄紀、山口龍夫
主題歌 ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ
出演 宮沢りえ、池松壮亮、大島優子、田辺誠一、近藤芳正、石橋蓮司、小林聡美

人前では泣かない、と決めているので涙こそ流しませんでしたが、鑑賞中、幾度となくこみあげてくる熱いものを抑えるのに必死でした。それは、お話に感動して、あるいはキャラクターに感情移入してと言った類のものではなく、ただ、その映画の圧倒的な美しさに文字通り心を動かされてとの理由によるものです。

人の趣味嗜好と言うのはなかなか他人には理解し難いもの。ましてや、自分自身のことすら良く解っていないぼくにとって、まさかこのような興行収入を狙ったビッグネームの作品でこうまでエキサイティングな体験をするとは思いもよりませんでした。それは、ある一枚の絵画と出会うことによって、またある一本の文学を読み通すことによって、誰しも個人的に得る可能性があるであろう「あの」体験です。

むしろ、原作は未読ですし、原田知世主演のドラマも未見、実際の事件はおぼろげな記憶と言った程度ですからストーリー自体やそれの意味するところは呑み込めていない状況なのかもしれないのですが、とにかく、「桐島、部活やめるってよ」でも堪能した吉田大八監督のその力量と言うか(ぼくにとっての)芸術性にただただ見惚れた次第です。
もし、ぼくが映画を撮ることがあったなら、この映画を教科書にしよう!ってくらい「イイ!イイ!」と(心の中で)咽び泣きながらスクリーンに食い入り対峙しました。

これは、非常に特殊で個人的な体験なのでなんとも説明し難いですし、もしそんな機会があるのなら劇場で人を隣に座らせて「ここが!ここが!」と逐一解説したいところなのですが、こう言ったブログを書いておきながらそれをうまく文章にすることができず歯痒い思いです。

もちろん、演出の妙はあるものの俳優陣も筆舌に尽くしがたいほど素晴らしく、主演の宮沢りえは、ぼくの世代にとっては長いお付き合いなのですが、これはもう天才的と言わざるを得ません。大変に憚られるのですがどうしても書きたいので書きますが「ぶっとびー!」です。「美しさ」と言う形容のバリエーションをたっぷりと魅せてくれます。
小林聡美もステレオタイプなキャスティングだな、と登場こそいささか眉をひそめましたが、終盤の宮沢りえと対峙するシーンに至るや凄まじい演技でこれが才気ある役者の神髄か、と息を呑みます。
池松壮亮も彼の俳優としての現在性を十二分に発揮、脇を固める近藤芳正、石橋蓮司も流石です。拾い物は(失礼かつ不見識で申し訳ないのですが演技する彼女は初見)大島優子。めちゃくちゃ上手かったですよ。

とにもかくにも自分が何であれ美しいと感じて、それにこみあげるものがあり、場合によっては涙すらできると言う、そしてこのカットが、構図が、演出が、演技が、スローモーションが、光が、影が、なんだかわからないけれど言われもないくらいぼくを刺激してやまない、大変に好ましい、そんな感動を得ることができたことに、そして、吉田大八監督に感謝です。

と言うようなことをつらつらと書いた揚句、締めに恐縮なのですが、今作品鑑賞当日は公開初日で満員御礼、嬉しい限りなのですがどうも観客母数が多いことに加え普段あまり映画を観つけないお客様の割合が多いせいなのかどうか、(この類の作品は得てして)割に鑑賞マナーが好ましくない方が散見されました。どうか、劇場での映画鑑賞中は携帯電話の電源はオフに!私語は慎んで頂けると幸いです。あんまり、やんちゃが過ぎるとジェイソン・ステイサムに痛い目にあわされますよ!

サボタージュ


Sabotage/2014年/アメリカ/109分
監督 デビッド・エアー
脚本 スキップ・ウッズ、デビッド・エアー
撮影 ブルース・マクリーリー
音楽 デビッド・サーディ
出演 アーノルド・シュワルツェネッガー、サム・ワーシントン、オリビア・ウィリアムズ、テレンス・ハワード、ジョー・マンガニエロ

冒頭のトイレのシーン、排泄物恐怖症のぼくにとってはのっけからうへぇとなる展開できつかったです。その後も結構なレベルのグロ、ゴア描写が続き耐性のない人にはいささか厳しい鑑賞になるかもしれません

ブラッド・ピットとの新作「フューリー」の日本公開も控え、「エンド・オブ・ウォッチ」で名を馳せた「マジもんの人」デビッド・エアー監督作品だけあってドラッグ周りの描き方や銃撃戦の演出はリアリスティックで迫力たっぷり。とびきり下品な言葉遣いと野卑な態度で振る舞いながらも熱いチームワークで結ばれた凄腕の荒くれ特殊捜査官の面々にも圧倒されます。

しかし、映画自体の出来不出来、評価をなかなか下しにくい、と言うのが正直な感想で、それは脚本の部分が大きいと思うのです。時系列もいじってあってちょっと分かりにくいし、肝心のミステリー部分が(後で知ったのですが、アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなったが原作なのですね)、辻褄が合ってるんだか合ってないんだかでどうも腑に落ちない…。
結局、この殺人は誰で、この殺人は誰なの?全部あの人?鑑賞後、頭の中をクエスチョンマークが駆け巡りました。

一番、びっくりしたのが惨殺死体を天井に釘で打ち付けて晒し者にするくだりなのですが、あれ結構な大仕事ですよ。どうやってやったのか非常に気になります。ぼくは、床に寝かせて釘を打ち込んでおいて、それを逆さまにして天井にビターンッ!と張り付けるって方法を思いついたのですが、そんなわけはありませんね。それと、実際には起こっていない出来事を映像で見せちゃってるって言うミステリーでは御法度っぽい演出をやっていて(ただ、これもぼくの勘違いかもしれません。良く理解できていなくて申し訳ないです)、これは、いかがなものかと。

映画の大部分を渋面で葉巻を燻らすシュワちゃんのアップが醸し出すなんとなくな雰囲気に寄っている、と言う印象も持ちました。このキャスティング、あるいはなぜシュワちゃんがこの作品を選んだのかと言う声も聞こえてきそうですが、ぼくはこの類の映画にも果敢にチャレンジするシュワちゃんの姿勢って真摯で素晴らしいと思いますし、デビッド・エアーとのタッグも見応えありで、あの七三分けの刈り上げたヘアースタイルも格好良く好ましかったですね。

終盤、メキシコでの無双っぷりも遥か昔に鑑賞して大変にお気に入りだった記憶があるシュワちゃん主演の「ゴリラ」を彷彿とさせて痺れました。ラスト、久方ぶりに激渋いシュワちゃんを拝見できてそれなりに満足。

それにしても近頃、イコライザーはロシアに、シュワちゃんはメキシコにと出張成敗が流行ってますね。仇討もワールドワイドになったものです。

女刑事役のオリビア・ウィリアムズさん、素晴らしい女優さんですね。見事な演技でした。シュワちゃんとのお楽しみの後の照れっぷりがなんとも。

2014年11月12日水曜日

エクスペンダブルズ3 ワールドミッション


The Expendables 3/2014年/アメリカ/126分
監督 パトリック・ヒューズ
脚本 シルベスター・スタローン、クレイトン・ローゼンバーガー、ケイトリン・ベネディクト
撮影 ピーター・メンジース
音楽 ブライアン・タイラー
出演 シルベスター・スタローン、ジェイソン・ステイサム、アントニオ・バンデラス、ジェット・リー、ウェズリー・スナイプス、ドルフ・ラングレン、ケルシー・グラマー、テリー・クルーズ、メル・ギブソン、ハリソン・フォード、アーノルド・シュワルツェネッガー

ここのところ、立て続けに粋で良質なアクションシーンがふんだんに盛り込まれた映画を観た為(「猿の惑星 創世記」「イコライザー」など)、アクション映画の粋を集めた豪華絢爛な俳優陣によるこのシリーズの最新作に大変な期待を寄せていたのですが、これがなんとも肩透かし。
全編これアクションなのはもちろん良いのですが、その演出と言うか描き方がなんとも平板で、そもそもストーリーもあってないようなものなので(ぼくの理解では)、いささか退屈気味の二時間強でした。
鑑賞後はその出来栄えに首を捻りながらなんともすっきりしない気分のまま劇場を後にしました。

例えば、目玉の悪役、メル・ギブソン。ワゴン車から降り立つ登場シーンひとつとっても、もうちょっとスローモーションを使うとか外連味を醸して欲しかったし、彼の過去作へのオマージュでのにんまり感もなし、最後のスタローンとの肉弾戦も拍子抜けであっさり。もうひとりの目玉であるハリソン・フォードもなんとも軽い感じで、ちょっと出過ぎ感があってありがたみがないんですね。
そして、シュワちゃんの十八番、重機関銃でのシーンも「もっとこうさあ、違うだろ!「大脱出」とか「ラスト・スタンド」みたいに溜飲を下げたいんだよ、こっちは!」と、ストレスが溜まる一方。

若いエクスペンダブルズとの世代交代みたいな目新しさはあったものの若者連中もイマイチ個性的な魅力に欠け(存じ上げない役者さんばかりでした、すみません)、のめり込めずでしたね。

唯一、終盤にちらりと語られたシュワちゃんとジェット・リーのホモセクシャルエピソードは微笑ましかったのが救い。ここは笑いどころでした!

そうそう、アントニオ・バンデラスは美味しい役どころで今作一番のホットなキャラクターでしたが、コミカルな部分が強調され過ぎて、ホントはめちゃくちゃ強いんだぜ!って言う描写がしっかり演出されてないので勿体無いなあとの印象です。これなら同じスタローンとの共演、ぼくの大好きな「暗殺者」のバンデラスのほうが余程クールですよ。あっちのバンデラスも笑える要素っていうかチャーミングな演出もありますしね。

全体的に抑揚にかけ、編集の荒さが目立ち、とっちらかったアクションシーンの連続で、なんだか文字通り俳優陣がエクスペンダブルズになってしまった皮肉な一作、と言うのがぼくの感想です。前作が非常に良かっただけに残念な一本になりました。

次回はぜひ、このところアクション映画で脂がたっぷりのっているリーアム兄さんを!