2014年11月15日土曜日

紙の月



2014年/日本/126分
監督 吉田大八
原作 角田光代
脚本 早船歌江子
撮影 シグママコト
音楽 little more、小野雄紀、山口龍夫
主題歌 ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ
出演 宮沢りえ、池松壮亮、大島優子、田辺誠一、近藤芳正、石橋蓮司、小林聡美

人前では泣かない、と決めているので涙こそ流しませんでしたが、鑑賞中、幾度となくこみあげてくる熱いものを抑えるのに必死でした。それは、お話に感動して、あるいはキャラクターに感情移入してと言った類のものではなく、ただ、その映画の圧倒的な美しさに文字通り心を動かされてとの理由によるものです。

人の趣味嗜好と言うのはなかなか他人には理解し難いもの。ましてや、自分自身のことすら良く解っていないぼくにとって、まさかこのような興行収入を狙ったビッグネームの作品でこうまでエキサイティングな体験をするとは思いもよりませんでした。それは、ある一枚の絵画と出会うことによって、またある一本の文学を読み通すことによって、誰しも個人的に得る可能性があるであろう「あの」体験です。

むしろ、原作は未読ですし、原田知世主演のドラマも未見、実際の事件はおぼろげな記憶と言った程度ですからストーリー自体やそれの意味するところは呑み込めていない状況なのかもしれないのですが、とにかく、「桐島、部活やめるってよ」でも堪能した吉田大八監督のその力量と言うか(ぼくにとっての)芸術性にただただ見惚れた次第です。
もし、ぼくが映画を撮ることがあったなら、この映画を教科書にしよう!ってくらい「イイ!イイ!」と(心の中で)咽び泣きながらスクリーンに食い入り対峙しました。

これは、非常に特殊で個人的な体験なのでなんとも説明し難いですし、もしそんな機会があるのなら劇場で人を隣に座らせて「ここが!ここが!」と逐一解説したいところなのですが、こう言ったブログを書いておきながらそれをうまく文章にすることができず歯痒い思いです。

もちろん、演出の妙はあるものの俳優陣も筆舌に尽くしがたいほど素晴らしく、主演の宮沢りえは、ぼくの世代にとっては長いお付き合いなのですが、これはもう天才的と言わざるを得ません。大変に憚られるのですがどうしても書きたいので書きますが「ぶっとびー!」です。「美しさ」と言う形容のバリエーションをたっぷりと魅せてくれます。
小林聡美もステレオタイプなキャスティングだな、と登場こそいささか眉をひそめましたが、終盤の宮沢りえと対峙するシーンに至るや凄まじい演技でこれが才気ある役者の神髄か、と息を呑みます。
池松壮亮も彼の俳優としての現在性を十二分に発揮、脇を固める近藤芳正、石橋蓮司も流石です。拾い物は(失礼かつ不見識で申し訳ないのですが演技する彼女は初見)大島優子。めちゃくちゃ上手かったですよ。

とにもかくにも自分が何であれ美しいと感じて、それにこみあげるものがあり、場合によっては涙すらできると言う、そしてこのカットが、構図が、演出が、演技が、スローモーションが、光が、影が、なんだかわからないけれど言われもないくらいぼくを刺激してやまない、大変に好ましい、そんな感動を得ることができたことに、そして、吉田大八監督に感謝です。

と言うようなことをつらつらと書いた揚句、締めに恐縮なのですが、今作品鑑賞当日は公開初日で満員御礼、嬉しい限りなのですがどうも観客母数が多いことに加え普段あまり映画を観つけないお客様の割合が多いせいなのかどうか、(この類の作品は得てして)割に鑑賞マナーが好ましくない方が散見されました。どうか、劇場での映画鑑賞中は携帯電話の電源はオフに!私語は慎んで頂けると幸いです。あんまり、やんちゃが過ぎるとジェイソン・ステイサムに痛い目にあわされますよ!