2014年6月27日金曜日

グランド・ブダペスト・ホテル


The Grand Budapest Hotel/2014年/イギリス・ドイツ合作/100分
監督 ウェス・アンダーソン
脚本 ウェス・アンダーソン
撮影 ロバート・イェーマン
美術 アダム・ストックハウゼン
衣装 ミレーナ・カノネロ
音楽 アレクサンドル・デプラ
出演 レイフ・ファインズ、F・マーレイ・エイブラハム、マチュー・アマルリック、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、ジェフ・ゴールドブラム、ハーヴェイ・カイテル、ジュード・ロウ、ビル・マーレイ、エドワード・ノートン、シアーシャ・ローナン、レア・セドゥー、ティルダ・スウィントン、トム・ウィルキンソン、オーウェン・ウィルソン、トニー・レヴォロリ

今作、ぼくが参加している月に一度開かれる映画の会の今月の課題作品でもありまして、ちょうど昨日、その映画の会が催され感想などを交換してきたところです。

ウェス・アンダーソン監督作品は前作の「ムーンライズ・キングダム」しか観ていませんでしたが、これがなかなか面白かった記憶で、また、今作に関しては前評判も聞いており、予告編も幾度となく目にしていて、そこそこの期待を込めての鑑賞でした。

結論から言うと、ごめんなさい!ダメでした!

もちろん、ウェス・アンダーソン監督の最高傑作との見方にも納得ですし、映画としての完成度、クオリティの高さ、芸術的にまで高められた意匠の数々にはもろ手を挙げて讃える他に術はないのですが、これは本当にもう、なんかこういう類の映画を面白くないって言うぼくって面白くない人間なんだな、といささか自己嫌悪で抑うつ状態に陥った次第です。

100分という決して長くはない上映時間、その情報量の密度のせいか永遠に感じられ、お話が進むにつれもうどうでもAY級の気分になってきて目を瞑って眠ってしまいたかったのですが、根が貧乏性なのでここまで作りこまれた画面を一瞬たりとも見逃したくない!との思いからそれも叶わず、エンドロールのおまけのコサックダンスに至っては、こざかCY級の苛立ちを覚えながらもしっかりと味わい尽くし、劇場の椅子が固くてお尻が痛いという環境もあいまって、上映後は息も絶え絶え。ぐったりと疲れてしまったのでした。

直後にパブでビールを飲んだのですが、めちゃくちゃ旨かったです。

主演のレイフ・ファインズは舞台出身だけあって、いかにもな芝居が今回の役どころとマッチしてさすがの演技力。これには唸らざるを得ません。そして、脇を固める豪華俳優陣の演技も皆一様に一癖も二癖もあって大変見どころなのですが、映画に入り込めていないため、ついつい画面に新しい顔ぶれが登場するたびに「あれ、この役者さん何て名前だっけ」と言う加齢による健忘との闘いに気を取られてしまい、さらに集中力を削ぐと言う残念な結果になってしまいました。

眼前でパラパラ漫画並みのスピードで非常に素晴らしい出来の画集なり写真集をばーっと見せられている感じでしたので、もちろんぼろぼろ見落としていますし、読み取れてない情報が多々あり、そういう意味ではちゃんと「観られていない」のは間違いないのですが、もう一回観ようという気も起きず、なんだか深掘りしていくと面白そうなんだけれどとふと思ったりもするのですが…やっぱり遠慮しておきます。

ちなみに、冒頭で述べた映画の会、やはり女性からの支持が圧倒的に高く、今年ベスト!二回観た!との声も多数あったのですが、逆にこの映画を超オススメしてくる、どハマリの男性がいたらそれはそれで引く、とのことでした。難しいですね。

※これ、ハーヴェイ・カイテルだって気づかなかった人、結構いましたね。

もらとりあむタマ子



2013年/日本/78分
監督 山下敦弘
脚本 向井康介
撮影 芦澤明子、池内義浩
音楽 池永正二
主題歌 星野源
出演 前田敦子、康すおん、伊藤清矢、鈴木慶一、中村久美、富田靖子

DVD発売記念という事で、当時、ムービーウォッチメンに投稿したメールを転載します。ちなみに、昨年11月末の公開だったと記憶していますが2013年のぼくのランキングでベスト4に飛び込んできました。

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究極のグルメ映画でした。
鑑賞中からおなかが減ってしょうがなかったです。ぐうぐうとおなかが鳴るのを気にしながらの78分間でした。

ロールキャベツに始まり、秋刀魚やカレーにゴーヤチャンプルーなどなどと、どの料理もすごく旨そうで。
年越しそばのつゆもちゃんと昆布と鰹節から出汁を取っていて、料理好きなお父さんでしたね。
特筆すべきはお父さんの食事マナー。くちゃくちゃずるずると口を開けて音を立てながら。ビールやお酒もずずずっと。
お父さんのパーソナリティーを表現する手段としては非常に有効だと思いましたし、なぜか逆にとても「うまそうに食べるなあ」と感心しました。娘のタマ子にもそのDNAは受け継がれているようで(実家でのうのう暮らしている緩みはあれど)大口を開けてたくさんほおばりもぐもぐと食べていてグッドです。
ぼくは映画の中で食事するシーンがすごく大好きなのです。

そして、山下敦弘監督。実は彼の監督作品は初見なのですがこういう食事シーンに限らず「生活感」を描き出すのがとても巧いなあと感じ入りました(本作の鑑賞後、「苦役列車」をDVDで鑑賞しました。これも森下未來が「飯を喰う」シーンが良いですね。おもしろかった)。家の立て付けとかタマ子の部屋(学習机!)、洗濯物とかも暮らしぶりが伺えて良かったなあ。

演技する前田敦子を劇場で観たのは「クロユリ団地」に続き、二回目。
ぼくはアイドル時代の彼女を(ほぼ)知りませんので、純粋に女優さんとして拝見しているのですが、なんていうかすごくスクリーン映えする力を持った女優さんですね
今作では肩の力が抜けた演技で、コメディエンヌとしても新たな才能を開花させたのではないでしょうか。
「もらとりあむ」感がめっちゃ出てましたし、父離れできないファザコン的な微妙な部分をしっかりと演じていました。
あの年齢で、ああいう(失礼ですが)微妙な顔立ちで、なおかつあれだけの演技ができるというのはなかなか比肩する女優さんを思いつきません。
今後も大いに期待!です。

アクセサリーの先生、富田靖子でしたね!
久しぶりに見たので、振り返ったシーンで「あ、富田靖子だ」と声に出してしまいました。
良いキャスティングで満足でした!

2014年6月25日水曜日

真夏の方程式


2013年/日本/129分
監督 西谷弘
原作 東野圭吾
脚本 福田靖
撮影 柳島克己
音楽 菅野祐悟、福山雅治
出演 福山雅治、吉高由里子、北村一輝、杏、前田吟、風吹ジュン、白竜、塩見三省

当時はブログを書いていなかったのですが、最近、テレビで放映があり、昨冬にはDVDもリリースされたようで、ムービーウォッチメンへの投稿メールを転載。

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日曜日の昼間に観てきたのですが超満席でした。

ドラマ、前作「容疑者…」は未見、原作未読、西谷弘監督の映画も一本も観たことないよ、と言うまっさらな状態で鑑賞しました。
「ドラマの映画化」「福山雅治」という二つのキーワードで普通なら即スルーなのですが、これがなんとも素晴らしかった!

まずは、撮影。すごく味のある落ち着いた色合いで夏のじっとりと汗ばんだ、でも爽やかでどことなく郷愁を誘う画作りだし、役者さんの撮り方もうまい。良いなあと思ってエンドロールを見ていると北野組でおなじみ柳島克己。なるほど!と膝を打ちました。安定感のある地に足のついた映像に見惚れました。

そして、役者陣。演技する福山雅治をほぼ初めて見たのですが、最初こそ、あのキャラクター臭の強い台詞回しに戸惑ったものの、抑揚を抑えたミニマムな演技であれだけ内面を表現するのってスゴイ!ましゃ兄スゴイ!と目がハートになってしまいました。

杏も良かったですね。日焼け具合と言い汗ばんだ肌と言いロコ感を醸し出しつつも実は東京の娘なんよ、って言う品の良さっぽいところもあり。湯川×前田吟のやり取りをマジックミラー越しに声を殺して嗚咽する場面なんか、あーやっぱり涙をこらえるとあんなに鼻水出るんだな、と妙なところで感心しました。

前田吟、風吹ジュン、塩見三省など地味ながらも渋い俳優陣が脇を固めたのも映画がぐっとしまった要因でしょう。吉高由里子もギリギリセーフなところで演出したようで浮いた感じにはなってなかったですし。

あと、忘れてはいけないのが白竜!彼が映画に登場するとつい「あ、白竜だ」と声に出してしまいますよね。昔ながらの白竜ファンとしてはたまりません。しかも今回は大変重要な役どころ。ホスピスのシーンは思わずこちらも嗚咽をこらえて鼻水が出てしまいました。

原作ありきの映画なので脚本としてもそれほど破綻しようもないのでしょうが、それでもミステリー映画の常として、うん?と思う突っ込みどころもなくはなかったですが、この西谷弘監督、この映画に関してはと言う括弧つきにしても、すごく丁寧な映画を作る人だな、と感じた次第です。

それにしてもこの映画、北野武監督「アウトレイジ ビヨンド」との共通項が白竜、田中哲司、塩見三省、撮影柳島克己と多いのですが何かの布石なのでしょうか。

※下の画像は「真夏の方程式」とは関係ありません。念のため。北野武監督「アウトレイジ ビヨンド」で暴れ狂う塩見三省さんです。

2014年6月13日金曜日

X-MEN:フューチャー&パスト


X-Men: Days of Future Past/2014年/アメリカ/132分
監督 ブライアン・シンガー
脚本 サイモン・キンバーグ
撮影 ニュートン・トーマス・サイジェル
音楽 ジョン・オットマン
出演 ヒュー・ジャックマン、ジェームス・マカボイ、マイケル・ファスベンダー、ジェニファー・ローレンス、ハル・ベリー、ニコラス・ホルト、アンナ・パキン、エレン・ペイジ、イアン・マッケラン、パトリッック・スチュアート

このシリーズは、今作と同じくブライアン・シンガーが監督した1作目の「X-MEN」を当時DVDで鑑賞した記憶がおぼろげに…といった程度で、果たして楽しめるのかな、とスクリーンに対峙したのですが、これがななかなかどうして長尺の132分を前のめり気味に味わい、分からないなりにある種の満足感を覚えました。

これには、ストーリー云々とは完全に逸脱した極私的な要素がありまして、まずはヒュー・ジャックマンの眉間のしわですよね。ぼくは眉間のしわには一家言ありまして、分けても彼のしわの寄り具合と深さ、そして、いついかなる時もと言う塩梅には、これはやはりたまらないものがあります。
そして、どうやらお約束っぽいのですが、がっつりとワンショットで捉えたバックヌード。ヒュー・ジャックマンの尻、サービスショットの域を超えてアートです。

かてて加えて、若き日のマグニートーを演じる、ご贔屓のマイケル・ファスベンダー。「シェイム」以降、どんな役を演じても「あ、この人性欲強いんだろうな」と想像してしまい、あの渋面の面構が最早、ぼくの中で「顔面性器」と渾名されるほどになっていると言う…。しかも、あのださい(失礼)ヘルメットを被っても、なんかそれはそれで素敵!と感じさせてしまうチャームは凄まじいものがあります(※個人の感想であり、効果効能を謳うものではありません)。

今回、鑑賞後にいろいろと調べるうちに知ったのですが、なるほど「漢(オトコ)の魅力」を描き出す巧みさは秀逸ですね。堪能しました。

どうしても、シリーズ全体、あるいはせめて前作だけでも観ておいたほうが楽しめた作品であると言う印象は持ちました。ああ、知っている人ならより面白いんだろうなあと言う「にんまり」シーンや「ほうほう」とうなずくシークエンスが多々あったような気がしますし、そういう意味では味わい尽くせなかった感がありますが、それでも、クイックシルバーの「Time in a bottle」をBGMに立ち回るシーンや、今となっては贅沢なハル・ベリーの使い方(それも白目)、それほとんど裸だよね、と言うジェニファー・ローレンスの熱演もあって色々と魅せる仕掛けが盛り込まれていてX-MENバージンのぼくでも十二分に娯楽できる作品に仕上がっていたと思います。

オープニングが「ファイト・クラブ」を想起させてかっこよかったですね。

でも、ヘルメットをかぶったり、へんてこりんな髪形にしたり、マントを着たりしても、やってるあちらも大真面目、観てるこちらも(若干吹き出しそうな時もありますが)カッコイイ!と思っちゃうあたりがなんだかすごいなあ、と思ったのでした。

たまに、朝起きると寝癖でウルヴァリンのような髪形になっていること、ありますよね。

2014年6月9日月曜日

青天の霹靂


2014年/日本/96分
監督 劇団ひとり
原作 劇団ひとり
脚本 劇団ひとり、橋部敦子
撮影 山田康介
音楽 佐藤直紀
主題歌 Mr.Children
出演 大泉洋、柴崎コウ、劇団ひとり、笹野高史、風間杜夫、柄本佑


処女小説「陰日向に咲く」や同名の映画化作品、また、俳優として、もちろんテレビなどで今作が監督デビューとなる劇団ひとりについては、そのマルチな才能ぶりに折に触れ接する機会があったのですが、ぼく…苦手なんですよね、残念ながら。
気が進まない内に鑑賞したのですが、やっぱり…ごめんなさい!ダメでした!

冒頭で「ああ…大泉洋、すごい手品の練習したんだろうな…」と思ってしまい、既にスクリーンとぼくの間に距離ができてしまいました。

とは言え、週末金曜日のレイトショーは混み合っておりまして、上映中もあちらこちらで笑いが起き、温まっていました。映画が終わって劇場の灯りがついてからまわりを見渡すとハンカチで涙を拭う人もちらほら。概ね満足そうな観客の様子を捉えた次第です。

タイムスリップという仕掛けとBTTFさながらのストーリーやプロットも非常に既視感が強く、いささか力任せに誘引する笑いや涙の演出に、ある種の安心感に身を任せて90分強の時間を娯楽できるという点では変な手癖もなく初監督作品としては巧みな仕上がりだとは思います。演技も卒なくこなしますし、大変に器用な人ですよね。

回転寿しと職人さんが握るお寿司屋さんのお寿司の違いって、素材の良し悪しを除けばネタとシャリとの一体感だと思います。口に入れた時にほろりと広がる渾然さ。ぼくは、今作、素材はそこそこなのですがいまひとつばらばらとした印象を持ちました。特に昭和パートに顕著でしたが、いかにも作り込んだ絵面や脇を固める役者さんの浮いた演技、クライマックスに至っては、テレビの最終オーディションのはずがなんだか大泉洋オンステージみたいになっちゃってて、作品全体を通した色合いがちぐはぐに感じました。あと、柴咲コウはミスキャストだ思います。演技の問題以前に顔立ちが良すぎて、ああいう役は似合わないんじゃないかな。

まあ、そもそも主役の大泉洋の演技が毎度毎度、鼻持ちならないなどの極私的な理由があいまってぼくとしては残念な一本となりました。

ところで、ユリ・ゲラー来日からもう数十年経つわけですが、いまだにスプーン曲げのタネがわかりませんね。だれかこっそり教えてください。

2014年6月1日日曜日

野のなななのか


2014年/日本/171分
監督 大林宣彦
原作 長谷川孝治
脚本 大林宣彦、内藤忠司
撮影 三本木九城
音楽 山下康介
主題曲 パスカルズ
出演 品川徹、常盤貴子、村田雄浩、松重豊、柴山智加、山崎紘菜、窪塚俊介、寺島咲

映画がはじまって早々、森の中で楽隊が主題曲を奏でる場面を見るにつけ、あ、これは寝ちゃうやつかもしれないな、と思いましたが、案の定、中盤居眠りしてしまいました。上映時間が3時間近くの長尺で、しかも、特に筋立てを見失うこともなかったので、どれくらい眠ってしまったかわかりませんが。

大林宣彦監督の前作「この空の花 長岡花火物語」同様、姉妹編と謳われる今作においても、監督のフィルモグラフィの中でもとりわけ文体が特異な為、苦手な人はまったく受け付けないかもしれません。絶え間無く流れる音楽と頻繁な切り返しのカット、ぐーっと、あるいはぐるぐると動き回るカメラに、不自然な台詞回しと舞台調の大仰な演技。もちろん、これらは破綻することなく計算され緻密に練り上げられた大林監督の意図が丁寧に積み上げられて作り込まれているものと思います。なので、これは完全に受け手であるぼくの問題なのですが、苦手なんですよね。

また、繰り返される2時46分を指す時計などもはや暗喩にすらなっていないあまたのモチーフ、はっきりと声高に説明される戦争と原発の悲劇。戦争反対、原発反対と言うプロパガンダを超越した芸術性を保っていると言う見方もあるかもしれませんが、反対の向こう側っちゅうか、その先にある地に足のついたリアルな代替案、あるいは建設的なアイデアが提示されない(と、ぼくは感じました)為、登場人物の、ひいては大林監督の声がぜんぜん心に、ぼくの胸に響いてこなかったのが正直な感想。
ちなみに、ぼくは戦争なんか絶対嫌ですし、原発についてもなきゃないほうが良いに決まってると言う立場です

前作「この空の花 長岡花火物語」もぼくはやっぱりだめだったんですけれども、ある種の突き抜けた衝撃と、「すげえな」と言う超越的なパワーは感じてそれなりに感銘は受けたのですが、今作はちょっと、うーん、腹にずしんと響くものがなく、逆になんかすみません、良くわからなくて申し訳ないという気持ちです。

大林監督はこの映画に込めた想いやメッセージを一体誰に向けているのか、と言う疑問も残ります。未来を担う子供達に広く届けたいのであれば、これで(この方法論で)伝わるのかな、と僕は思いますけれど。一部の映画ファンやマニアが満足したところで致し方ないですよね。

安達祐美、老けないですよね。