2014年7月25日金曜日

渇き。



2014年/日本/118分
監督 中島哲也
脚本 中島哲也、門間宣裕、唯野未歩子
撮影 阿藤正一
音楽 GRAND FUNK INC.
出演 役所広司、小松菜奈、妻夫木聡、清水尋也、二階堂ふみ、橋本愛、國村準、黒沢あすか、青木崇高、オダギリジョー、中谷美紀


深町秋生による原作小説『果てしなき渇き』は未読。
同監督の手による『告白』はその原作である湊かなえの『告白』より映画のほうが断然良かったのに加え、何度か目にした予告編のドライブ感に期待が高まり、ある程度ハードルを上げての鑑賞でした。
ただ、若干引っかかっていたのがタイトルの『渇き。』。なんで「果てしなき」を省いた上に「。」をつけっちゃたんですかね。一抹のダサさを覚えました。
それと、「学生1,000円」みたいな学割キャンペーン。なんとなく違和感を覚えていたのですが、鑑賞後、その思いを強くしました。ああ、媚びているな、と。
あ、これはあくまで制作サイドとは切り離した問題であって映画の出来とはまた違った次元のお話だと思いますが。けれども、15歳以上の学生が劇場に足を運んで例え1,800円払ったって観るべき映画は他に山ほどありますし、100円レンタルで借りることのできるマストな映画も山積です。

ところで、肝心の映画なのですが、これはやっぱり「つまらん!」と断罪しては申し訳ないほど役者さんも渾身の演技ですし、中島哲也監督もどうだと言わんばかりにあの手この手で演出されていて、エロだグロだ刺激的だとエンタメ作品として仕上げているところだと思いますが、ごめんなさい!ぼくは、さして興味のない、けれども多少は好奇心を惹かれる程度の出来の良い昆虫標本の図鑑をぱらぱらと見せられているようで、まったく心にずしんと響いてくるものがありませんでした。

ダイワハウスのCMイメージをぶっ壊してまでセルフパロディたっぷりに、口汚く罵りながら鬼気迫る役所広司の演技も一本調子で(もちろん彼の演じる藤島昭和はそう言う人間なのですが食傷気味ですし、オダギリジョー演じるキャラクターの肉付けも「んんっ?」となってしまいました。
妻夫木の始終ぶれない浅薄さと黒沢あすか(このキャスティングは正解!)の放送禁止用語連発のおなじみの荒れっぷりは良かったですけれど
終盤の中谷美紀がのっかてきてからのシークエンスはさすがにもうお腹いっぱいでした。新人の小松奈菜さんの存在感は圧倒的で、なるほどこの女優さんありきだなと感じはしたものの、やっぱり二階堂ふみのあのくずっぷりやられてしまったり…。
実は同日、この映画の前に同じ「父娘」をテーマにした浅野忠信、二階堂ふみが主演する熊切和喜監督『私の男』を鑑賞し、これが最高に素晴らしかっただけに、余計になんとも浅漬けですね!と言う、しょうもない鑑賞後感に浸ってしまいました。

こういった類の映画を今現在観るとどうしても「タランティーノ」と言うキーワードが浮かんでしまって、それは品川ヒロシ監督の『サンブンノイチ』の感想でも言及したのですけれど、もうそう言う方法論は近似値でしかない訳であって、もちろん品川ヒロシ監督のそれとは比肩するのも申し訳ないほど完成度は高いのですが、ぼくの個人的な思いとしてはやっぱり「あなたの理性をぶっ飛ばす劇薬エンタテインメント!!」って最早こう言うこっちゃないと思うのです。
15歳以上の学生には1,000円やるからジョニー・トー監督の『ドラッグ・ウォー 毒戦』とか観にいって欲しいんですけれどもね。

それにしても、浅野忠信は最高っすよ(『私の男』の話です)!

2014年7月19日土曜日

her/世界でひとつの彼女


Her/2013年/アメリカ/126分
監督 スパイク・ジョーンズ
脚本 スパイク・ジョーンズ
撮影 ホイテ・バン・ホイテマ
音楽 アーケイド・ファイア、オーウェン・パレット
出演 ホアキン・フェニックス、エイミーアダムス、ルーニー・マーラ、オリビア・ワイルド、スカーレット・ヨハンソン

スパイク・ジョーンズ、天才か。美しくも素晴らしい映画でした。

まだまだ実際にはそこまでの技術は追いついていないけれど、なんだか現実感がありそうな近未来の設定の妙に、まずは「SF」の枠組みをすっと馴染ませてくれます。
割に今っぽいんだけれど、ちょっと先を行っている世界感。

人間ではない何か、今作ではOSとの恋模様というおおまかなお話に既視感を覚えるのはもちろんなのですが、そこは、スパイク・ジョーンズ監督の映像センスと同じ手による脚本の語り口が見事に昇華させています。特に台詞回しが新鮮で気が利いていました。

そして、盤石のキャスティングがこの映画を傑作たらしめたと思います。OSの声の主たるサマンサを演じるスカーレット・ヨハンソンの甘くかすれた声の存在感が耳に心地良く、なんと言っても主演のホアキン・フェニックスの「顔力」が最高です。
冒頭から、ホアキン・フェニックスのフレームに収まりきらない顔面が観客に向かって語りかけ、劇中何度となくスクリーンいっぱいに拡がった彼の顔芸に対峙することになります。あの口髭と眼鏡を小道具に使ったのは大正解ですね。
あるいは「きもいおっさん」と感じる向きもあるかもしれませんが、ぼくの場合、幸いにも観ている自分もある程度きもいおっさんなのでシンクロはんぱなかったです。
エイミー・アダムスも相変わらず達者です。ださくてイタイ感じが良く出ていてうまい。

登場人物のファッションも出色でした。ホアキン・フェニックスのハイウエストのズボンと襟なしシャツ、ジャケットとそれらの色使いの絶妙さ。エイミーアダムスの七分丈のパンツとか。

先だって「グランド・ブタペストホテル」でウェス・アンダーソンのシャレオツ感を罵っておきながら、今作ではビジュアルも文句なしと言う感想ですから、手のひらを返すようですが、なんでしょう。アメリカっぽいのが好きなのかな。

恋愛にとどまらず他者との関係の在り方と言う普遍的なテーマに落とし込んでいたところも見事で、お定まりと言えなくもないラストを観終わった後も「うん、素敵じゃん」と大変に肯定的な気持ちで劇場を後にしました。
あ、鑑賞後、早速Siriに「サマンサ」と呼びかけたら「こんにちは、セオドア」と応えてくれましたよ。素敵な恋は始まりませんでしたが。

深夜のテレフォン・セックスからサマンサとの疑似セックス、そして第三者を用いての近似値セックス(?)に至る流れやブラインドデートのお相手、オリヴイア・ワイルドとの一夜の一連のやり取りなど、泣き笑いの要素もふんだん。とにかく、恋愛や人付き合いで痛手を被った経験が少しでもあればちくちくと胸に刺さりながらも時に笑い、思わず涙する佳品ではないでしょうか。決して、近未来を舞台にしたきもいおっさんのひとりよがりな疑似恋愛映画ではありません。と、思います。たぶん。

オマケはマイ・フェイバリットなスパイク・ジョーンズのPV。Fatboy Slim「Weapon Of Choice」です。クリストファー・ウォーケンがたまりません。

2014年7月10日木曜日

オール・ユー・ニード・イズ・キル



Edge of Tomorrow/2014年/アメリカ/113分
監督 ダグ・リーマン
原作 桜坂洋
脚本 クリストファー・マッカリー、ジェズ・バターワース、ジョン=ヘンリー・バターワース
撮影 ディオン・ビーブ
音楽 クリストフ・ベック
出演 トム・クルーズ、エミリー・ブラント、ビル・パクストン

今作のキャッチコピーよろしく「目覚める 働く 死ぬ」のループを繰り返す毎日を過ごしているぼくですが、それはともかくIMAX3Dで鑑賞してきました。IMAXはさすがの迫力でしたが3Dの効果はいまひとつよく分からず。

鑑賞後、興味をそそられて復習がてらにKindleで桜坂洋の原作小説と小畑健画によるコミックを読んでみました。三者を比較すると結論としては漫画版が一番面白かったわけですが、なるほど、今回のダグ・リーマン/トム・クルーズによる映画化はいわゆる「ハリウッドSF超大作」という括弧つきの娯楽作としてうまく原作の設定を借りる形で肩ひじ張らずに楽しめる作品として仕上がっていたのではないかと思います。

途中、大安売り的に繰り返されるループに若干の間延び感は覚えたものの、ストーリーはテンポ良く運び、あのスーツには一抹のダサさを覚えながらも、躍動感に溢れていてアクションも爽快。
なによりラストは断然、今回の映画版のほうが好きでした。そして、このラストを下支えするのが、なんといってもトム・クルーズの存在です。どんな作品であれトム・クルーズ的に苦悩し、トム・クルーズ的にアクションし、トム・クルーズ的な笑顔で締める。ごちそうさまでした!と言う他ないですね。
もし世界が100人のトム・クルーズだったら退屈しなくてすみそうです。どんな鬱映画でも、今作のラストのワンシーンを持ってきたらコペルニクス的転回で良質なポップコーンムービーになりそうです。

最強の女戦士、戦場の雌犬ことリタ・ヴラタスキを演じるエミリー・ブラント(奇しくもなのか狙ってのキャスティングなのか「LOOPER/ルーパー」でもヒロインを演じていました)も抑揚のある演技で良かったです。予告編でも流れる「Come find me when you wake up !」と言うシーン、好きです。二人ともSFが良く似合いますね。

ぼくは、こう言ったいわゆるループものや時間・記憶などが設定に絡んでくるお話が好物でして、しかも性格上、細かいことは気にしない性質なので、あれこれとあらを探したり頭を悩ませたりせず「へえ。そういうものなんだ」と前のめりにうなずきながら屈託なく楽しませていただいた次第です。

冒頭に書いたようなループを抜け出して、一年に一本くらいはコーラを片手にポップコーンを貪りながら出来の良い(あるいは出来の悪くない)トム・クルーズ主演の娯楽映画を観て楽しい時間を過ごしたいものです。

2014年7月5日土曜日

オールド・ボーイ


Oldboy/2013年/アメリカ/103分
監督 スパイク・リー
脚本 マーク・プロトセビッチ
撮影 ショーン・ボビット
音楽 ロケ・バニョス
原作 土屋ガロン
出演 ジョシュ・ブローリン、エリザベス・オルセン、シャールト・コプリー、サミュエル・L・ジャクソン

ぼくは、予てから土屋ガロン原作、嶺岸信明画による漫画「オールドボーイ ルーズ戦記」のファンでして土屋ガロンこと狩撫麻礼のハードボイルドかつロマンティシズム溢れる描写と、もちろん斬新な設定の妙、そしてあまりにポエティックな主人公に対する復讐の動機に大変心くすぐられるものがあり、嶺岸信明のいささか古臭い絵柄も相まって何度も読み返していたほどです。
そこへ、当時この漫画を原作とした今リメイク版のオリジナル作品であるパク・チャヌク監督の「オールド・ボーイ」が公開され劇場へ走ったわけですが、映像の斬新さとチェ・ミンシクの怪演に加え、独特のユーモア、その暴力性、グロテスクな描写と演出、儒教の国である韓国ならではの復讐に至った動機が明かされ、怒涛の鬱展開へと雪崩れ込んでいく終盤からラストに衝撃を覚え、何とも言えない後味の悪さに唸らされて、非常に強い印象を残すものだったことを記憶しています。

そこで今回、今更ながらのスパイク・リーによるリメイク版と言うことで、期待半分、不安半分と言った面持ちで鑑賞して来ましたが…不安の方が的中してしまいました。

序盤、やさぐれたアル中のジョシュ・ブローリンがだらしない身体で醜態を晒す場面から寝ゲロを吐いて監禁されるまでは微笑ましく、お、良い感じじゃん!と観ていたのでしたが、そこからはネズミと戯れるジョシュ・ブローリンが何とも愛らしいのと、先だって鑑賞したリメイク(リブート)版「ロボコップ」ではついぞ耳にすることのできなかったサミュエル・L・ジャクソンの「マザー・ファッカー」が堪能できたというのが見どころのピークでした。

やはり、大ネタを知っているのとオリジナル版の印象が強すぎるせいで、どうも集中力に欠き、なんだろう、面白くないな、と首を捻っているうちに映画が終わってしまいました。鈍器や刃物を使ったアクションや大ネタの復讐の動機と言うのも韓国が舞台だから生きたんじゃないかと言う側面もあって、なんとなく説得力が感じられなかったのと、もうひとつはスパイク・リーの(今作においては)力量不足と言うか…もしかしたらこういう映画に向いてないのかもしれません。もちろん、パク・チャヌク監督の力技がすごすぎたと言う面もあると思いますが。

役者陣、要のシャールト・コプリーの魅力もイマイチ。それにあの家族も単なる変人一家のように描かれていて、しかも、ジョシュ・ブローリンは学生時代から酒浸りの性格悪いヤツだったし、どっちもどっちすぎて深みがないですよね。
あのオルセン姉妹の妹、エリザベス・オルセンは好演でした。特におっぱいが良い演技をしていましたね。これは良い点。しかし、あのぼかしはひどい。セックスシーンもさることながらショットガンで頭部を打ち抜くシーンのあれはいかがなものでしょうか。興が醒めることこの上ないです。

音楽もまずく、全体としては凡庸なB級サイコスリラーに仕上がっていたというところで、やはり、リメイクとしては失敗作、と言うのがぼくの感想です。

どうせなら、原作漫画を翻案しつつ、パク・チャヌク版の余韻を残しながら大胆に全く新たな作品世界に挑んだほうが良かったのではないでしょうか。
この映画で初めて「オールド・ボーイ」に触れた、と言う方の感想も聞いてみたいものです。

あ、ちなみにぼく、餃子が嫌いなんです。

※オリジナルのパク・チャヌク監督版のポスターです。2003年公開。第57回カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ授賞。ちなみに、この時の審査員長はタランティーノですから、さもありなん。
ポスターからしてやっぱりこっちのほうが凄まじい。