2015年10月28日水曜日

ジョン・ウィック


John Wick/2014年/アメリカ/103分
監督 チャド・スタエルスキ
脚本 デレク・コルスタッド
撮影 ジョナサン・セラ
音楽 タイラー・ベイツ、ジョエル・J・リチャード
アクション監督/スタントコーディネーター ダリン・ブレスコット
出演 キアヌ・リーブス、ミカエル・ニクビスト、アルフィー・アレン、ウィレム・デフォー、ディーン・ウィンタース、エイドリアン・パリッキ、ジョン・レグイザモ、イアン・マクシェーン

公開翌日の土曜日にIMAXでエグゼクティブシートを陣取り、万全の態勢で鑑賞しました。もう食べる前からこれ絶対美味しいってわかる料理とかってあるじゃないですか。ぼくにとって今作はまさにそれでした。キアヌ・リーブス主演のスタイリッシュアクションってニュースを耳にした時点で、ワクワクテカテカが止まりませんでしたし、予告編を目にして、うん、これは間違いないと(この時点ですでにサムズアップ)。そして、鑑賞後はミシュランの五つ星レストランをはごしたかのような恍惚とした満足感で溢れていました。はあ、美味しかった。

この俺たちのキアヌが、


こうですよ。


もう、それで良いじゃないですか。

御託は必要ありません。キアヌ・リーブスがカッコイイ。それで世界は完全となるのです。
イッツ ア パーフェクトワールド。

しかも、マイフェイバリットのジョン・レグイザモがにやけた表情を一転「いったい、誰の車を盗んだと思ってるんだ、あわわ」とマジもんの顔で凄むパートは、それだけでいかにジョン・ウィックが恐ろしく凄腕であることを如実に示唆して最高のシークエンスです。こういうチョイ役でここまで光る演技はさすがですね。

殺し屋御用達の「コンチネンタル・ホテル」や裏社会で流通する金貨、電話ひとつで駆けつける闇の掃除人など、仕掛けもユニークで面白いし、ウィレム・デフォーやエイドリアンヌ・パリッキ、イアン・マクシェーンなど脇を固める俳優陣も素晴らしい。敵役のロシア人親子もワルながらもチャーミングなところもあって(特にミカエル・ニクビスト演じるボスのヴィゴは何となく可愛らしさも感じました)、皆一様にキャラが立っていました。

ホテルのフロントマンとのやり取りなど、ところどころにオフ・ビートなユーモアの要素も含んでいて、これもまたニンマリするところです。「それは、クリーニングではちょっと落ちないのでは」とか笑いましたね。

「ガンフー」と名付けられたアクションも斬新でキレてました。一人につき、2発。そして、とどめはヘッドショットと言うプロフェッショナルなガンアクションと柔道チックな体術を駆使して、いささか泥臭くもありながらばたばたと敵を倒していくキアヌ。また、今までとは違ったアクションの魅力をたっりと堪能できます。

撮影も良かったと思います。特に前半、ブルーを基調としたいわゆる「静」のシーン。じっくりと佇むキアヌを捉えたショットの数々はポエティックですらありました。後半に進むにつれキアヌが身を包むスーツの色のようにダークな色彩にネオンが煌めくようなレトロな風味のライトをバックに「動」のシーンを描いていきます。そして、ラストシーンの朝焼けをバックにしたシークエンス。美しい。

早くも続編の制作が決定しているようですが、例えその作品がいかなるクオリティであろうと、キアヌ・リーブス=ジョン・ウィックであれば全てポジティブに受け入れる、そんな覚悟を決めた次第です。でも、次作はもうかわいそうだからワンちゃんを殺すのだけはやめてね。ワンちゃんとのバディムービーでもぜんぜん構いませんので。

キアヌってなんとなく猫より犬の方が似合いますよね。

2015年10月21日水曜日

バクマン。


2015年/日本/120分
監督 大根仁
原作 大場つぐみ、小畑健
脚本 大根仁
撮影 宮本亘
音楽 サカナクション
主題歌 サカナクション
出演 佐藤健、神木隆之介、小松菜奈、桐谷健太、新井浩文、皆川猿時、宮藤官九郎、山田孝之、リリー・フランキー、染谷将太

ぼくも小学生の頃でしょうか、週刊少年ジャンプを熱心に読んでいた時期がありました。早売りの店を探し自転車を走らせて買い求め、一冊の雑誌を貪るように繰り返し読んだものです。当時は『ドラゴンボール』『コブラ』『キン肉マン』『シティハンター』、そしてもちろん『こち亀』などが連載し、誌面を賑わせていたような記憶です。ああ、夢中になって読んだなあと思いだし、そして拙いながらも落書き程度に絵を描いていた記憶を呼び覚まされなんだか懐かしい気持ちになりました。

今作、ぼくは原作未読なのですがなんとなく現代版『まんが道』っぽい話なのかなとあたりをつけていました。さておき、全編を流れる疾走感が大変に心地良く、ラストの小気味よい助走からジャンプ!と言った具合に絶好のタイミングでサカナクションの主題歌『新宝島』が流れ、このアイデアは抜群に秀逸と言わざるを得ないエンドロールでにやにやが止まらず、鑑賞後感は爽快でした。このエンドロールだけでもこの映画をお金を払って鑑賞する価値アリですね。

大根監督の真骨頂と言うべきか演出が非常に行き届いており、俳優陣の演技力、芸達者ぶりも相まってカリカチュアライズされた劇中登場人物にもうまく馴染めました。空々しくないと言うか熱量が伝わってきましたね。唯一、力量不足を感じたのがヒロイン役の小松菜奈ですが可愛かったのでオーケーです。

『渇き。』とは打って変わってぼくの評価はうなぎのぼりです。
プロジェクションマッピングやCGを用いた漫画製作のシークエンスもいささか間延びした感はありましたが意欲的だしおもしろかったと思います。ジャンプ編集部もロケーションかと思ったらセットなんですね。実際の現場は存じあげないですが再現度高いっ!と思わせるリアリティがあります。主役の二人を含めて漫画家さんの仕事場の舞台美術の密度とかも凄いですし、大根監督っぽい仕上がりの作品になっていて丁寧な仕事ぶりを感じます。

ただ、若干気になったのが脚本の部分ですかね。原作は単行本20巻とのことですが、それを120分の尺に詰め込むためにはもちろん様々な取捨選択とシェイプアップが必要だと思います。ぼくが引っ掛かったのはヒロインである亜豆美保と真城最高との恋模様。そして、真城最高が病に倒れながらも原稿掲載に向けて獅子奮迅するシークエンス。

恋模様については、あそこで亜豆が「先に行くから」って言っちゃったら最高のモチベーションはどうなるの?って思っちゃいましたし、徹底的に純粋なプラトニッククラブの成就ってのがその向こうに見えないと話しが違ってくるんじゃないかな、と。もう一つは山田孝之演じる編集者の服部が「漫画家の側に立つ」って言ってましたけれど、あの行動が果たして漫画家の側に立つことなのか、と言う疑問。って言うか高校生なのに親御さん病院にいないし、そもそもアシスタントなしで週刊連載は無理だろう、ましてや週刊連載を抱えながら他の漫画家のヘルプに回るの可能なの?とかですね。

そんなこんなでお話のリアリティの部分と時間軸がぽんぽん飛んでいく(手塚賞準入選あっという間でした)荒っぽさは感じた次第ですが、全体としては、うん、おもしろかったし、青春映画としてはもちろんお仕事映画としても良くできた、なによりエンターテインメントとして楽しめる気持ちの良い作品に仕上がっていることは間違いなと思います。これが入り口で未読の方は原作を読んでみようと感じるのではないでしょうか。原作ファンの方の反応はいかがなものでしょう。ぼくは、とりあえず単行本全20巻をTSUTAYAでレンタルしてきます(すみません、買わなくて)。

2015年10月16日金曜日

アントマン


Ant-Man/2015年/アメリカ/117分
監督 ペイトン・リード
脚本 エドガー・ライト、ジョー・コーニッシュ、アダム・マッケイ、ポール・ラッド
撮影 ラッセル・カーペンター
音楽 クリストフ・ベック
出演 ポール・ラッド、エバンジェリン・リリー、コリー・ストール、ボビー・カナベイル、マイケル・ペーニャ、ティップ・“TI”・ハリス、ウッド・ハリス、ジュディ・グリア、マイケル・ダグラス

2D字幕版での鑑賞です。これはイチオシ!って感じではないですが、そつなくまとまっていて面白かったですね。何かと言えばダーク、シリアスになりがちな昨今のヒーローものですが、今作はユーモアをふんだんに散りばめ、芯は残しながらもライトな仕上がりになっていて、こういうのも全然「アリ」です。蟻だけに。親子での鑑賞にも十分耐えうるというかむしろオススメしたい一本ですね。わらわらと蟻さんたちが大活躍するので虫嫌いの方は要注意ですが。

どうしてもモチーフが蟻さんなだけに、スパイダーマンを初め他のヒーローに比べるとクールな感じにはなりませんし、そのルックも含めてギリギリのラインだとは思いますが、小さくなったり元のサイズに戻ったりしながらアクションしたり、様々な蟻さんを操りながら共に戦っていくアイデアは秀逸でオリジナリティに溢れていますし、この映画のテーマとして二つの親子愛(ポール・ラッド父娘とマイケル・ダグラス父娘)がしっかりと描かれているので満足のいく仕上がりになっていました。だいたい、ぼくはこの「父と娘」って言うのに弱いんですよね。涙腺決壊案件です。

お気に入りのシークエンスは亜原子空間に落ちていくところ。万華鏡を模したような複雑な幾何学模様の美しくも深く恐ろしげなビジュアルが良かったですし、このどこまでも縮小しながら永遠に彷徨うみたいな設定、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』のカーズの最期を想起させて好きでしたね。

そのうちカーズは、考えるのをやめた。
あと、マイケル・ペーニャ演ずるルイスの回想シーン、彼のナレーションと回想に登場する人物とが完全にリップシンクしているシークエンスは笑いました。これをエンディングにも天丼してきた演出もウマい。ただ、エンディングの方の回想シーンの字幕翻訳がかなり意訳されていたような気がしていささか首を捻りましたけれど。字幕監修はテリー伊藤さんでしたね。あ、ご丁寧に上映前にもアナウンスがありますが、ご覧になる方はエンドロールが流れ終わるまで席を立たないようにしてください。本当のエンディングと、マーベルおなじみのおまけエンディングがありますので。

さて、いよいよ来年公開の『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』に向けて熱が高まってきました。ぼくは、この一連のMCU作品、見逃しているものもいくつかあるので予習・復習を進めていきたいと思います。この世界観のクロスオーバー作品群をリアルタイムで、しかも劇場で追っていけるのって良いですよね。

ところで、あのでっかくなっちゃった蟻さん(と、きかんしゃトー○ス)は今後どのような道を歩むのでしょう。いささか心配です。

小さくなったり、ものを大きくできたりしたら世界の食糧問題は解決すると思うのです。あんかけスパの海で泳ぎたい。

2015年10月10日土曜日

心が叫びたがってるんだ。


2015年/日本/119分
監督 長井龍雪
脚本 岡田磨里
キャラクターデザイン/総作画監督 田中将賀
演出 吉岡忍
美術監督 中村隆
撮影監督/CG監督 森山博幸
音楽 ミト、横山克
主題歌 乃木坂46
声の出演 水瀬いのり、内山昂輝、雨宮天、細谷佳正、藤原啓治、吉田羊、村田太志、高橋李依、石上静香、犬山鎬則、古川慎、津田英三、宮沢きよこ、野島裕史、河西健吾

何度かこのブログに書いているのですが、ぼくが、アニメーションに期するところは宮崎駿監督『もののけ姫』のでいだらぼっちのシークエンスだったり、幼少の頃のフェイバリットだった『トムとジェーリー』のトムの足にアイロンが落っこちてありえないくらい目玉と舌が飛び出て顎が床に着かんばかりに外れるシーンだったりするので、今作のようにいわゆる等身大の人間模様を描いた作品はそもそも範疇外なのですが、今週のムービーウォッチメンで取り扱われるのでやむなく、と言ったテンションで鑑賞してまいりました。

“『あの花』スタッフが贈る”と言う帯文句ながらも、そもそも観ていないのでそれが何を意味するのかもわかりませんし、青春群像劇なんだなぐらいの前情報でしたが、なるほど青春群像劇でした。
しかし、アニメに限らず青春を描いたものを観たときに生まれる良質な感情、羨望を含めた、なんちゅうかこう胸が熱くなるようなものは一切感じず、ただただこそばゆいだけで、かてて加えてぼくはミュージカルが大変苦手なため、はよ終われ!と割に苦痛な119分の上映時間でした。

そもそも、主人公の成瀬順のメンヘラっぷりに辟易する事この上なし。父親はもちろん最低ですが、母親もそこそこクズなだけに、変なトラウマを背負い込んじゃって可愛そうではあるのですが、喋ろうとするたび「ああっ!」とか「くうっ!」とか大げさに体をよじらせトイレに駆け込み、あれ、その度にうんこしてるんですかね、お腹もさておき、お尻が痛くて大変だな、とか思ったり、終盤のミュージカル本番ぶっちぎりから坂上くんへのぶち切れ暴言吐きまくりで、おまけに言うに事欠いて「腋がクサイ」とか、お前、坂上くんがトラウマ抱えちゃうだろ!とか本当にですね、巻き込みすぎですよ周りの人を。挙句の果てに田崎くん、なんで告白してんの?って目が点になっちゃいました。

恋愛話を取って付けたように絡めたのがまずかったんですかね。それぞれの想いがすっごい浅くて、皆が皆、ダメ男、ダメ女として描かれる結果になっちゃているような気がします。まあ、高校生の惚れた腫れたってその程度のものって言われればそれまでですけれど。主人公のトラウマ回復、成長の物語としてしっかりと描き切り、恋愛を絡めたいならずばり王道のヒロイン、ヒーローの恋の成就って話にしたほうが良かったと思うのです、個人的には。

玉子と王子って発想は面白かったし、「言葉にできない胸の内、でもやっぱり言葉にしないと分からないんだ」みたいなテーマって確かにあって興味深くはあるんだけれど、脚本の煮詰め方とキャラクターの掘り下げが、ぼくには物足りなかった、と言うのが正直な感想ですが、単にぼくが最早取り返しのつかないほどおっさんになってしまっているため、お前には分からないんだよ、と言うことかもしれません。突如挟み込まれる、モブのキスシーンが一番エキサイトしましたしね。

作画のことは良く解りませんが風景や背景は丁寧に描きこまれていて綺麗でした。あと、ぼくには珍しくクラムボンのミトによる音楽が大変に美しく、良かったです。もしかすると、大変に良作であり評価もそれなりの作品なのかもしれませんが、そこは申し訳ない、おじさんは気持ちを切り替えて、口直しにTSUTAYAで『カンフー・パンダ』をレンタルして、ビールを飲みながら鑑賞することにします。

キングスマン

 

Kingsman: The Secret Service/2014年/アメリカ/129分
監督 マシュー・ボーン
原作 マーク・ミラー、デイブ・ギボンズ
脚本 ジェーン・ゴールドマン、マシュー・ボーン
撮影 ジョージ・リッチモンド
音楽 ヘンリー・ジャックマン、マシュー・マージソン
出演 コリン・ファース、マイケル・ケイン、タロン・エガートン、マーク・ストロング、ソフィア・ブテラ、サミュエル・L・ジャクソン、マーク・ハミル、ソフィー・クックソン

ちょうど5月の連休あたりにJALの機上で鑑賞した時は、まあ退屈しのぎにはなったけれどあまりピンとこないな、くらいの印象だったのですが、いざ日本での公開が始まると少なくともぼくのTwitterのタイムラインでは絶賛で大変に盛り上がっており、あれれと思って改めて劇場で鑑賞してまいりました。

なるほどスクリーンの大画面と音響で観直すとすこぶる面白さでした。退屈しのぎどころか、娯楽作品として十二分に楽しめましたし、満足して劇場を後にし、その足でブリティッシュパブに赴きビールを1パイント飲み干した次第です(ぼくはギネスが飲めないのでハイネケンでしたが)。

「威風堂々」をBGMに打ち上げられる大オチの花火大会も盛大で、この夏、ついぞ花火大会に行きそびれたぼくにとっては名残を惜しむシークエンスで、ありがとう!マシュー!と言ったところです。これに限らず、教会での大殺戮など不謹慎極まりないと不愉快に感じる向きもおありでしょうけれど、まあマシュー・ボーン監督だし、あははと笑っておけば良いのではないでしょうか。少なくともぼくはすでに1回観ていることもありますし、この映画自体が英国、それにジェントルマンとスパイ映画に対する大きなブラックジョークだと感じているので良しとしました。

そして、それに興ずるコリン・ファースの魅力をたっぷり味わうのもこの映画の一つの見方でしょう。ダニエル・クレイグではああは行かない、着こなしと身のこなし、ユーモアとチャームで立ち回ってくれます。それだけに最後まで出張ってほしかった!道半ばで彼が斃れてしまったのは残念。加えて残念なのは彼を引き継ぐエグジーを演じるタロン・エガートン。初見の俳優さんなのですが、あんましパッとしないんですよねえ。バシッとスーツで登場しても、うーん決まらない…アクションは良いのですがぼく好みではありませんでした。

それに引き替え脇を固めたサミュエル・L・ジャクソンとカンガルー足のソフィア・ブテラはキャラ立ちしてて最高でした。サミュエル・L・ジャクソンはいつにも増しておかしな滑舌で喋ってましたし、アディダスのファッションショーよろしく衣装が決まってました。ソフィア・ブテラもユニークで山本英夫の傑作『殺し屋1』を彷彿とさせましたね。

ラストもスウェーデンの王女様の際どいご所望でこれでもかと下品に攻めてましたね。クロージングを務めるマーク・ストロングも始終良い味をだして映画を引き締めていました。と、言うわけで機上での第一印象とは異なり、退屈せず肩の力を抜いて楽しめる娯楽作品にばっちりと仕上がっていて、改めて劇場に足を運んで正解でした。では、晩餐にビッグマックを頂いてきます。

“氏より育ち”“行儀作法が人を作る”
スティングの『イングリッシュマン・イン・ニューヨーク』の歌詞にも引用されていましたね。