2015年12月31日木曜日

2015年劇場公開映画鑑賞映画備忘録(ベスト10&ワースト1)とカエルデ ミー賞の発表


2015年に劇場公開(一部2014年末劇場公開も含む)された新作映画の鑑賞本数は例年よりぐっと減りまして48本でした。後に触れますが、とある映画を鑑賞後、2ヵ月間全く劇場に足が向かず1本たりとも映画を観ていないという状況が続き、年末に向かってムービーウォッチメンの候補作品も観たり観なかったりのうやむやな感じになってしまって、ぼくの2015年映画事情は何とも締まらない形で終わりを迎えました(この記述の後、大晦日に滑り込みで『クリード チャンプを継ぐ男』を鑑賞。ばっちり締まりました!)。

今年はベスト10及びワースト1のみランキングをつけ、あとは鑑賞順に備忘を記しておきます。
それでは、栄えある第1位、マイベストワンの作品はこちらでございます!

『ジョン・ウィック』


John Wick/2015年/アメリカ/103分/チャド・スタエルスキ

これしかないでしょうね。俺たちのキアヌが帰ってきた!の触れ込みでおなじみですが、実は昨年末も『47RONIN』と言う珍作にちゃっかり主演したりしておりまして。とは言えいわゆるニューヒーローとしてのキアヌを拝めるのは久しぶり。これほど公開を心待ちにし、そして公開と同時に劇場に足を運んだ映画はぼくにとっても久しぶりです。キアヌ・リーブスほどスタイリッシュ・アクションと言う帯文句が似合う男もいないんじゃないでしょうか。詳細はブログを読んでいただきたいのですが、御託は必要ありません。キアヌ・リーブスがかっこいい、それで世界は完全となるのです。イッツ ア パーフェクト ワールド。必見です!

あ、ちなみにいつものように変身前の愛くるしいキアヌの画像も貼っておきますね。


以下、ベスト2位からベスト10位までを一言コメントを添えて発表します!

2位 『恋人たち』 監督 橋口亮輔
人を傷つけるのは人、人を癒すのもまた人なんだなあ…と感慨。最後までベストワンと迷いました。とにかく橋口監督の演出と俳優陣の演技が素晴らしい。

3位 『ナイト・クローラー』 監督 ダン・ギルロイ
ジエィク・ギレンホールが徹底したメソッド演技で演じる主人公のクズっぷりがいっそ清々しいほど。ある種の歪んだ爽快感を持って劇場を後にしました。

4位 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 監督 ジョージ・ミラー
ぼくを映画の世界に連れ戻してくれた一作。激しいアクションと目くるめく展開に鑑賞後はぐったりしますが胸に残る爽快感と明日への希望!この作品の前ではどんなエナジードリンクもお手上げです。

5位 『ヴィジット』 監督 M・ナイト・シャマラン
ヤッツィーーーー!

6位 『野火』 監督 塚本晋也
この作品を構想から20年を経て撮りきった塚本晋也監督の仕事ぶりに拍手です。邦画史に残る作品であるとともに長く語り継がれていってほしいものです。リリー・フランキーの怪演も見物。

7位 『ジュラシック・ワールド』 監督 コリン・トレボロウ
閉幕と同時に思わず拍手が出そうになりました。スリル・アクション・サスペンス・ユーモアなどエンターテインメント足り得る各要素の按配加減が絶妙。初見でも常連でも楽しめる一級品です。

8位 『インサイド・ヘッド』 監督 ピート・ドクター 
齢四十と二つ、やもめ暮らしの中間管理職のおっさんが号泣メーンした作品です。脚本が巧みなうえアニメーションならではのアイデアとビジュアルがふんだんに盛り込まれ、そのサービス精神と制作陣の真摯さは見事。

9位 『薄氷の殺人』 監督 ディアオ・イーナン
力強い画面作りと幻想的な色遣いで映画のパワーをすごく感じました。美容室での銃撃シーンは白眉。あと、肉まんとかお粥とかスープがひたすら旨そう。

10位 『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』 監督 ジョン・ファブロー
この映画を観た後、会社に辞表を提出し、包丁一本さらしに巻いて日本一周フードトラックの旅に出ようと思ったのはホントの話です。「人間や物事の良い面を見よう!」と言う、徹底的なポジティブさとオプティミズムにビシット筋が通った佳作です。底抜けに明るく出てくる人は皆良い人。『アイアンマン3』を蹴ってまでこれを撮りたかったジョン・ファブローが微笑ましい。

そして、ごめんなさい。否!あやまるまでもないわ!2015年のワーストワンはこちらの作品じゃい!

『ジュピター』 


Jupiter Ascending/2015年/アメリカ/127分/アンディ・ウォシャウスキー、ラナ・ウォシャウスキー

とにかく、ヒドかったと言う記憶しか今は残っておりません。1億ウン千万ドルものお金を費やして何しとんねん、姉弟よ。世界には飢えた子どもや戦禍を被る不幸な人たちが…などと関係ないことが頭をよぎり、とうとうブログに感想をかけずじまい、ムービーウォッチメンに投稿することすらできず、挙句の果てにショックでこの後2ヵ月間劇場に足を運ぶことすらできなくなったといういわくつきの作品です。ぼくのお財布事情が苦しくなるたびにこの映画のことを思い出し、もはやぼくのトラウマ映画ベストワンとしてその名を刻んでおります。良かったら観てみてね!

その他、ランキング外の鑑賞映画は鑑賞順に下記のようになっております(ちなみに2014年末公開で2015年に劇場で鑑賞した映画はトップテン、ワーストワン、カエルデミー賞の対象から外しております)。

イロイロ ぬくもりの記憶
毛皮のヴィーナス
百円の恋
ベイマックス
96時間/レクイエム
ビッグ・アイズ
ANNIE/アニー
ミュータント・タートルズ
フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ
味園ユニバース
おやじ男優Z
アメリカン・スナイパー
イミテーションゲーム/エニグマと天才数学者の秘密
きみはいい子
海街diary
アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン
ターミネーター:新起動/ジェニシス
バケモノの子
進撃の巨人 ATTACK ON TITAN
フレンチ・アルプスで起きたこと
日本のいちばん長い日
ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション
テッド2
わたしに会うまでの1600キロ
カリフォルニア・ダウン
ヴィンセントが教えてくれたこと
進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド・オブ・ザ・ワールド
心が叫びたがっているんだ。
キングスマン
アントマン
アメリカン・ドリーマー 理想の代償
バクマン。
マイ・インターン
WE ARE Perfume WORLD TOUR 3rd DOCUMENT
ガールズ&パンツァー 劇場版
007 スペクター
クリード チャンプを継ぐ男

続きましてカエルデミー賞の発表です!

☆カエルデミー作品賞
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』


Mad Max : Fury Road/2015年/アメリカ/120分

ランキングでは4位に選出しましたが、今年の映画を語るうえで、やはり外せない作品と言うことで作品賞受賞です。この作品との出会いがなければしばらく映画から遠ざかっていたでしょう。また、同じ作品を2回以上観にいったのも、これが唯一です。巷でもV8!V8!と盛り上がっておりました。ジョージ・ミラー監督に感謝です。否!ヒャッハー!です。

☆カエルデミー主演男優賞
ジェイク・ギレンホール 『ナイトクローラー』


その徹底したメソッドアクティングでスクリーン一杯に新たな悪のヒーローの登場を予感させた『ナイトクローラー』での怪演で受賞です。こう言うのってイメージが付いちゃったり、同じ手は2度使いづらかったりして、次の一手が難しいと思うのですけれど、そういう意味でも今後のジェイク・ギレンホールからは目が離せません。

☆カエルデミー主演女優賞
高橋瞳子 『恋人たち』


映画の軸となる3つの物語のうちの1つで平凡な主婦、成嶋瞳子を演じておりました。とにかく、リアル。オーディションで選出された新人ならではの臭みがなくナチュラルな、されど深い芝居と失礼ながら適度な不細工加減が逆にエロさと、時にはキュートささえ醸し出して大仕事を成し遂げました。本年度、文句なしの主演女優賞です。

☆カエルデミー助演男優賞
リリー・フランキー 『野火』『恋人たち』『バクマン。』


もはや、邦画界には欠かせない存在となってきた名バイプレイヤーっぷりですね。今回は特にリリー・フランキーと言う人物が元来持つ振り幅の大きさを感じさせてくれる『野火』での演技を評価しての受賞です。この人の笑顔のチャーミングさとその奥に光る狂気の凄さってのは震えるものがありますね。

☆カエルデミー助演女優賞
石原さとみ 『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』 『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド・オブ・ザ・ワールド』


映画はクソですが石原さとみは最高です。そうです、石原さとみが好きなんです!カエルデミー助演女優賞初受賞おめでとう!好きです!

☆カエルデミー監督賞
橋口亮輔 『恋人たち』

長い時間をかけてじっくりと丁寧に作り込んだ作品にしか醸し出せない味わいと言うものがあります。寡作で知られる橋口亮輔監督、傑作『ぐるりのこと。』から7年の歳月を経て世に問うた『恋人たち』は、そのキャスティングから演出、撮影、編集や構成に至って全てが凝縮されたエネルギーの昇華とでも言うべく、その卓越した手腕により美しい結晶体の集合のような作品に仕上がっておりました。物凄まじいまでの底知れぬパワーを秘めた映画監督が同時代の日本で我々に作品を提供してくれることに感謝です(ちなみに、ほぼ同様の理由で『野火』の塚本晋也監督と授賞を非常に迷いました)。

やはり、こうして1年を振り返ると映画の思い出とともに、様々とその時々に浮かんだことや起こったことがほんのりとした記憶として呼び起され、何ともほろ苦くもにんまりとした気分に浸るものです。今回、ランキングで取り上げた作品は全て(あ、ワーストワンは書いてないや)、その感想を拙ブログに記しておりますのでよろしければご一読くださいませ。
2015年、鑑賞本数は少ないなれど粒揃いの良品に恵まれ、充実したシネマライフでございました。そして、2016年も期待に胸を躍らせて劇場に足を運べる幸せをたっぷりと噛みしめて、ゆきゆきます!

2015年12月14日月曜日

ガールズ&パンツァー 劇場版


2015年/日本/119分
監督 水島努
脚本 吉田玲子
考証/スーパーバイザー 鈴木貴昭
キャラクター原案 島田フミカネ
キャラクターデザイン/総作画監督 杉本功
ミリタリーワークス 伊藤岳史
音楽 浜口史郎
主題歌 ChouCho
声の出演 渕上舞、茅野愛衣、尾崎真美、中上育美、井口裕香、福圓美里、高橋美佳子、植田佳奈、菊地美香、吉岡麻耶、桐村まり、中村桜、仙台エリ、森谷里美、椎名へきる、喜多村英梨、石原舞、明坂聡美、川澄綾子、伊瀬茉莉也、平野綾、早見沙織、大地葉、金元寿子、上坂すみれ、田中理恵、竹達彩奈

週末のレイトショーで鑑賞したのですが、劇場は文字通り(それっぽい)男性諸君一色。女っ気は一切ありませんでした。しかし、本作は登場人物のほぼ全てが女性で占められており、上映中はスクリーン、館内あわせてちょうど良い按配と言う具合でした。

ムービーウォッチメンでアニメ作品が取り上げられるたびにエクスキューズしているのですが、ぼくは昨今のアニメ事情にはほとほと疎く、ましてや今作品はいわゆる「萌え」系の絵柄にきゃんきゃんとした女性声優さんのアニメ声があてられており、それがたいそう苦手な為にまったく正当な評価が出来ず何とも申し訳ない気持ちです。

本編開始前に復習としてこれまでのあらすじを3分間にまとめたものが紹介され、なるほど分かりやすく「戦車道」を初めとしたこの世界の設定にすんなりと入っていくことはできました。
また、この作品のもう一つの主人公である戦車に関してもさほど興味がないとはいえ、縦横無尽に走り回る戦車のビジュアルと音響には単純に感心しました。あんまり動いている戦車ってのをちゃんと見た記憶がないので、へえ!そんな風に動くんだとか、意外とスピード出すんだな、とかですね。

お話の方はいわゆる学園ドラマの王道なのでしょう。大した理由もなく前言撤回!やっぱり廃校!ってのはどうなんだとも思いましたが、まあ、冒頭のエキジビションからドラマパートを挟んで終盤の対抗戦といった大まかな流れは納得できるものではありました。可愛い女の子が戦車に乗って戦うと言うアイデアとそれを下支えするキャラクターの描き込みと戦車のデティール、それに加えてアニメならではの荒唐無稽さを存分に取り入れてと言うことで非常に人気があるのもうなずける作品だと思います。

でも、正直言ってたくさんの女の子(と戦車)が出てきて顔も声もあんまり見分けがつかなかったです。勉強して出直してきます。パンツァーフォー!(これはお気に入りです)

2015年12月11日金曜日

007 スペクター


Spectre/2015年/アメリカ/148分
監督 サム・メンデス
脚本 ジョン・ローガン、ニール・バービス、ロバート・ウェイド、ジェズ・バターワース
撮影 ホイテ・バン・ホイテマ
音楽 トーマス・ニューマン
主題歌 サム・スミス
出演 ダニエル・クレイグ、クリストフ・ワルツ、レア・セドゥー、レイフ・ファインズ、モニカ・ベルッチ、ベン・ウィショー、ナオミ・ハリス、デビッド・バウティスタ、アンドリュー・スコット

前作『007スカイフォール』から3年ぶり、ダニエル・クレイグ=ジェームズ・ボンドの4作目とあって期待を胸に秘め、IMAXにエグゼクティブシートを陣取って万全の態勢で臨みましたが、これ、普通のシートだったらお尻が二つに割れてますよ。いやあ、長かったです。

148分の長尺、覚悟はしていました。上映時間に比してその長さを感じさせない作品もありますが、今作に至ってはしっかりと長い!と感じ入りました。どこを端折れと言われると返答に窮するのですが、冒頭のメキシコのシークエンスこそさすがのスケール感を思わせるものの、後半に進むにつれ尻すぼみになっていき、せっかくのクリストフ・ワルツも大物感たっぷりの登場から、何だかこじんまりした敵役に成り下がり、何とも冗長な仕上がりになってしまいました。

素晴らしい出来だった前作のタイトル・シークエンス(主題歌はアデル/『スカイフォール』)、今回も前もってラジオから流れるサム・スミスの唄う主題歌『ライティング・オン・ザ・ウォール』を幾度か耳にしており、楽しみにしていたのですが…燃え盛る炎に包まれる裸身のダニエル・クレイグがスクリーン越しにこちらを熱く見つめる視線と目が合った時点で既にくふっと笑ってしまい、タコの足がうねうねと絡みつくに至ってはお腹を抱えてしまいました。サム・スミスがねっとりと情熱的に歌い上げる相乗効果で笑いを噛み殺すのに一苦労しましたよ。

ただ、全体的な感想で言えば007らしくて面白かったし、クレイグ=ボンドは老けはしたものの相変わらず格好良いしと言うことでエンジョイはしました。ボンドガールのレア・セドゥーはあんまりパッとしなかったですね。彼女が大変に魅力的な映画は他にもありますし、ゴージャス感が無かったのかな。そういう意味ではもう一人のボンドガール、モニカ・ベルッチがもうちっと若ければ…。

あと、見所はやっぱりトム・フォードのスーツとベン・ウィショー演じるQとボンドの掛け合いですかね。Qは今回、出番多いです。存分にお楽しみいただけるものと思います。ぼくとしては贔屓のクリストフ・ワルツに大変期待していたので、ああ、サム・メンデスわかってないなあクリストフのこと、と残念無念な印象を拭えません。

かわゆす。
ダニエル・クレイグ=ジェームス・ボンドのシリーズはこれで4作全て目を通したことになります。いつも観終わるに度に髪を短く切って体を鍛え、細身に仕立てたスーツを着よう!と決心するのですが、今のところ髪を短く切っただけです。

2015年11月20日金曜日

恋人たち


2015年/日本/140分

監督 橋口亮輔
原作 橋口亮輔
脚本 橋口亮輔
撮影 上野彰吾
音楽 明星
主題歌 明星
出演 篠原篤、成嶋瞳子、池田良、光石研、安藤玉恵、木野花、黒田大輔、山中聡、内田慈、山中崇、リリー・フランキー

鑑賞した翌日、今作のことを考えながらぼんやりとTwitterのタイムラインを眺めていたところ、敬愛する小池一夫先生のTweetを拝見し、我が意を得たり!となりましたので下記に引用します。

僕は、勝手に「人薬(ひとぐすり)」と呼ンでいる。人に傷つけられたり、人のせいで病ンだりするンだけど、癒してくれるのも、治してくれるのも結局「人」なンだよね。ひとぐすり、おすすめです。(小池一夫)

まさに、このようなことを考えていたんですよね。「人を傷つけるのは人、人を癒すのもまた人なんだなあ…」みたいな感じですね。このシンクロニシティに驚き、一日たってまたさらに味わい深い、しみじみとした気持ちに浸りました。

とは言え、鑑賞中は何とも苦しいものでして、昔の嫌なことを思い出してイーッ!てなるような感じを始終覚えておりました人間の嫌な部分、負の感情をそれこそ重箱の隅をつつくような演出でスクリーンに抉り出して提示し、それを新人とベテランを織り交ぜた役者陣が地べたを這うようなリアルさで演じており、また脇に至るまでキャスティングがツボをついており大変に素晴らしくフィクション≒ノンフィクションの世界へ誘ってくれます。決して楽しく美しい映画ではありません。はっきり言って真逆です。

区役所のシークエンスは、どちらの気持ちも分かるだけに相対する負の感情が自分の中で共鳴し思わず歯を食いしばってしまったり、はたまた、光石研が演じる詐欺師が覚せい剤を打つためにいろんなもので二の腕をぐるぐると巻いては解けする場面では狂気と可笑しみが混在して圧倒されっぱなしだったり。

主人公三人それぞれに限らず、出てくる登場人物が全て自分の「そうであるかもしれない」分身として描き出されているような感じがして、それが現実感なのか非現実感なのか、何だか分からなくなりグラグラしつつ、早くこの映画が終わってほしい気持ちと、いつまでもこの世界を観ていたい気持ちを呼び起こさせ140分と言う長尺ですが、ダレることは全くなかったです。

巷で話題のクールジャパンのカウンターとして、こういう方向のポテンシャルと底知れないパワーが日本の映画にはあるんだよ、と言うことを世界の皆さんに発信したいですね。もちろん娯楽作品ではないし、すごく暗くて重いし、ダサくてせこいし、けれどももの凄まじい映画ってあるよねと再確認させてくれる一本だと思います。必見です。

なんとなく、富田克也監督『サウダーヂ』を思い出しました。こちらも必見!(ソフト化されていないのでどこかの劇場で上映されるのを待つしかありませんが)

黒田大輔、良かったですね。「殺したら話せなくなっちゃうじゃん」「おれはあんたと話したいよ」は名台詞です。

2015年11月13日金曜日

WE ARE Perfume WORLD TOUR 3rd DOCUMENT


2015年/日本/120分
監督 佐渡岳利
音楽 中田ヤスタカ
主題歌 Perfume
ナレーション 近藤春菜
出演 西脇綾香、樫野有香、大本彩乃

いつものように映画館のサイトからオンラインチケットを購入しようとしたところ、券種が一つしか選択できず、しかも2,000円となっていました。劇場に問い合わせたところ、特別興業とのことで各種割引も適用されず一律料金との回答。ふーん、そうなのか、何か特別な仕掛けがあるのかな、と鑑賞したところ、特にその一律2,000円の意味を見いだせず、何だったんだろうともやもやを抱えたまま今日に至っております。これ、何で一律2,000円なんですかね。良く分からん。

それはさておき、ぼくのPerfumeに関する知識は、あーちゃん、かしゆか、のっち(誰が誰だか区別はつきます)の女性三人からなるテクノポップユニットで、いくつかの有名どころの楽曲は聴いたことがあり、大変に人気があるグループである、と言うことぐらい。いわゆるファンではないけれど、普通に知っていると言う一般的な立ち位置です。なので、この映画を鑑賞して、もともとは地元広島のご当地アイドルでありインディーズを経てメジャーデビューというストーリーを知ってちょっとびっくり。今の形に完成されたPerfumeしか存じあげなかったものでして。

さて、映画の感想なのですがこれは2つのパートに分けて申し上げた方が良いかもしれません。つまり、ファンでないぼくでもPerfumeのパフォーマンスの素晴らしさは体感できたし、彼女たちとそれを支えるスタッフが最高のステージを作り上げていく為、愚直なまでに微細に渡ってこだわりぬく姿勢には感動を覚え、まさに一流と呼ばれる人達のプロフェッショナルな仕事を拝見したと感じました。しかし、一つの映画作品としてどうかと問われると、非常に面白みに欠けており、質の高いものではないと言わざるを得ません。

画質、フレームワークなど撮影も粗いし構成から編集まで含めて、テレビの特番、あるいはDVDの特典映像の域を超えたものではないように思いました。わざわざ映画館に足を運んで大きいスクリーンで観なくても良いじゃん、って感じです。基本的に現地に到着、ファンのお出迎え、リハーサル、本番、本番後のダメ出し、そして、メンバーのインタビューが挿入されるというパターンの繰り返しなのでいささか退屈してしまいます。

ぼくとしては、せっかくなのだから彼女たちがどのようにして現在に至ったのかとか、このユニット、あるいはメンバーそれぞれの内面の掘り下げとか、いわゆる“裏面”が観たかったのですけれど、この映画は「WORLD TOUR 3rd」にギュッとピントを絞って徹底的にPerfume(とスタッフ、観客も含めて)のポジティブな側面をある意味実直に描いています。まあぼくの思惑違いで、これはこれでファンやそうでない人にも向けた一本の作品として成り立っているのかもしれません。この映画を観てPerfumeのライブを実際に観に行きたくなったって人も相当数いそうですしね。

ぼくは残念ながら何であれライブと言うものが苦手なので、この映画を観て実際にそこに足を運ぶことはなさそうですが、この映画を観る前よりずっとPerfumeが、あーちゃん、かしゆか、のっちの三人が、そして彼女たちをサポートするスタッフやライブに訪れるファン、観客の皆さんが好きになったことは確かです。こんなにも、愛し愛されているんだ、素晴らしい!と言うことですね。

でも、今もって料金が一律2,000円であったことにもやもやしています。そう言えばTOHOシネマズがスターウォーズシリーズの最新作『スターウォーズ/フォースの覚醒』の一般料金を2,000円に値上げと言うニュースも飛び込んでまいりましたが、いかがなものでしょうか。それならそれで、上映前の観たくもない予告編やくだらないCM、人を映画泥棒呼ばわりするやつとかすっ飛ばしてほしいものです。

あ、そうだ。ぼくも渡米した際にはIn-N-Out Burgerは絶対に食べたい!もちろんアニマル・スタイルで!

めちゃくちゃ、旨そうでしたね。アメリカに旅行してハンバーガーの食べ歩きをしたい。

2015年11月6日金曜日

ヴィジット


The Visit/2015年/アメリカ/94分
監督 M・ナイト・シャマラン
脚本 M・ナイト・シャマラン
撮影 マリス・アルベルチ
音楽監修 スーザン・ジェイコブス
出演 キャスリン・ハーン、ディアナ・デュナガン、ピーター・マクロビー、エド・オクセンボールド、オリビア・デヨング

ヤッツィーーー!!!!


あ、画像間違えました。こちらです。


おばあちゃんが叫んだ後、かぶせ気味に弟くんが「ベッカ!」と合いの手を入れるが如く助けを求めて叫ぶのがまたオツなんですよね。ホラー映画史に残る屈指の名シーンであることは間違いないでしょう。この刹那、劇場内は爆笑の渦に包まれ大変に一体感がありました。

この「ヤッツィー」と言うゲーム、全然知らなかったのですがググってみたところによるとサイコロでやるポーカーみたいなもののようですね。ホームパーティーで今作をバックグラウンドに流し、クッキーを貪りながらヤッツィーに興じる集いなんかやってみたいものです。

ところで、このブログでも再三申し上げているのですが、ぼくは極度の排泄物恐怖症なのです。特にうんこネタがきつくて、その意味では非常に辛い鑑賞体験でした。しかし、本当に嫌なんですけれどもうんこやゲロが出てくる映画って大概面白いんですよね。そして、この『ヴィジット』も紛うことなき面白さ。大傑作でした!

M・ナイト・シャマラン監督作品は『シックス・センス』『アンブレイカブルをテレビだかDVDで鑑賞した程度で、なんとなく“どんでん返しの人”と言うイメージ。何だか低迷していたような噂も耳にしていたので今作は期待半分、ホラー映画っぽいということ以外は前情報を入れずに臨みました。

まずは導入、今やいささか使い古された感のあるPOV方式でいかがなものかなと訝しんでいたところに、なかなかの演技を見せるベッカとタイラーの姉弟。特に弟くんの潔癖症でラッパー、罵り言葉に女性歌手の名を発するというキャラ立ちっぷりがチャーミングで物語に引き込まれていきます。

そして中盤、唐突に訪れるおじいちゃん、おばあちゃんの奇行。床下のかくれんぼでのおばあちゃんの姿態は『貞子』オマージュでしょうか。そして、姉弟の部屋の隅からドアを捉えるショットは『パラノーマル・アクティビティ』を彷彿とさせます。この辺りで、ぼくの苦手とするゲロ、うんこネタも投入。さらには、おばあちゃんの素敵なケツをバックショットで拝めます。基本的にはお化け屋敷イズム溢れる「わっ!」とやって脅かす類のホラーなのですが、そこがまたどうかなと思われたPOV方式と相まってベタながらも心地よく恐がらせてくれます。

物語は終盤を迎え、お待ちかねの「どんでん返し」があるのですが、ぼくは全然そんなこと考えていなかったので普通にびっくりましたよ。冒頭の「ヤッツィー!」シーンも登場し、恐怖と笑いの同居によりアクティビティなスリルを味わえます。これはもうアトラクションですよ。やっぱり相反する二つの感情を波を打つように湧き起こさせてくれるって凄いと思います。シャマラン監督の手腕、本領発揮ですね。

たぶん、馴染みの方はここからもう一転、二転の展開を期待するところだと思いますが、今作は「どんでん返し」は一発のみ。姉弟それぞれのトラウマ克服からおじいちゃん、おばあちゃんとの闘いを経て大団円を迎えます。弟くんの面目躍如のエンドロールは非常に楽しみました。鑑賞後も全然、首を捻ることもなく「いやあ、楽しかった」と爽快感さえ覚えましたよ。でも、うんこは本当に嫌です。弟くんは克服したかもしれませんが、ぼくは新たなトラウマを植え付けられました。

ずいぶんと低予算で製作されたようですが、それでもこれだけの映画を作れる、しかもホラー映画として押さえるところは押さえながらも、めちゃめちゃオリジナリティ溢れる一作に仕上げたM・ナイト・シャマラン、非常に信用できる監督だなと感じた次第です。ちなみに、今年のカエルデミー主演(助演かな)女優賞はおばあちゃん役のディアナ・デュナガン、そして、カエルデミー流行語大賞は「ヤッツィー!」が獲得濃厚です。

ぼくのおばあちゃんも、なにかっちゃあ「飯をたんと喰え」って言ってましたね。祖母心です。奇行には及んでいません。

2015年10月28日水曜日

ジョン・ウィック


John Wick/2014年/アメリカ/103分
監督 チャド・スタエルスキ
脚本 デレク・コルスタッド
撮影 ジョナサン・セラ
音楽 タイラー・ベイツ、ジョエル・J・リチャード
アクション監督/スタントコーディネーター ダリン・ブレスコット
出演 キアヌ・リーブス、ミカエル・ニクビスト、アルフィー・アレン、ウィレム・デフォー、ディーン・ウィンタース、エイドリアン・パリッキ、ジョン・レグイザモ、イアン・マクシェーン

公開翌日の土曜日にIMAXでエグゼクティブシートを陣取り、万全の態勢で鑑賞しました。もう食べる前からこれ絶対美味しいってわかる料理とかってあるじゃないですか。ぼくにとって今作はまさにそれでした。キアヌ・リーブス主演のスタイリッシュアクションってニュースを耳にした時点で、ワクワクテカテカが止まりませんでしたし、予告編を目にして、うん、これは間違いないと(この時点ですでにサムズアップ)。そして、鑑賞後はミシュランの五つ星レストランをはごしたかのような恍惚とした満足感で溢れていました。はあ、美味しかった。

この俺たちのキアヌが、


こうですよ。


もう、それで良いじゃないですか。

御託は必要ありません。キアヌ・リーブスがカッコイイ。それで世界は完全となるのです。
イッツ ア パーフェクトワールド。

しかも、マイフェイバリットのジョン・レグイザモがにやけた表情を一転「いったい、誰の車を盗んだと思ってるんだ、あわわ」とマジもんの顔で凄むパートは、それだけでいかにジョン・ウィックが恐ろしく凄腕であることを如実に示唆して最高のシークエンスです。こういうチョイ役でここまで光る演技はさすがですね。

殺し屋御用達の「コンチネンタル・ホテル」や裏社会で流通する金貨、電話ひとつで駆けつける闇の掃除人など、仕掛けもユニークで面白いし、ウィレム・デフォーやエイドリアンヌ・パリッキ、イアン・マクシェーンなど脇を固める俳優陣も素晴らしい。敵役のロシア人親子もワルながらもチャーミングなところもあって(特にミカエル・ニクビスト演じるボスのヴィゴは何となく可愛らしさも感じました)、皆一様にキャラが立っていました。

ホテルのフロントマンとのやり取りなど、ところどころにオフ・ビートなユーモアの要素も含んでいて、これもまたニンマリするところです。「それは、クリーニングではちょっと落ちないのでは」とか笑いましたね。

「ガンフー」と名付けられたアクションも斬新でキレてました。一人につき、2発。そして、とどめはヘッドショットと言うプロフェッショナルなガンアクションと柔道チックな体術を駆使して、いささか泥臭くもありながらばたばたと敵を倒していくキアヌ。また、今までとは違ったアクションの魅力をたっりと堪能できます。

撮影も良かったと思います。特に前半、ブルーを基調としたいわゆる「静」のシーン。じっくりと佇むキアヌを捉えたショットの数々はポエティックですらありました。後半に進むにつれキアヌが身を包むスーツの色のようにダークな色彩にネオンが煌めくようなレトロな風味のライトをバックに「動」のシーンを描いていきます。そして、ラストシーンの朝焼けをバックにしたシークエンス。美しい。

早くも続編の制作が決定しているようですが、例えその作品がいかなるクオリティであろうと、キアヌ・リーブス=ジョン・ウィックであれば全てポジティブに受け入れる、そんな覚悟を決めた次第です。でも、次作はもうかわいそうだからワンちゃんを殺すのだけはやめてね。ワンちゃんとのバディムービーでもぜんぜん構いませんので。

キアヌってなんとなく猫より犬の方が似合いますよね。

2015年10月21日水曜日

バクマン。


2015年/日本/120分
監督 大根仁
原作 大場つぐみ、小畑健
脚本 大根仁
撮影 宮本亘
音楽 サカナクション
主題歌 サカナクション
出演 佐藤健、神木隆之介、小松菜奈、桐谷健太、新井浩文、皆川猿時、宮藤官九郎、山田孝之、リリー・フランキー、染谷将太

ぼくも小学生の頃でしょうか、週刊少年ジャンプを熱心に読んでいた時期がありました。早売りの店を探し自転車を走らせて買い求め、一冊の雑誌を貪るように繰り返し読んだものです。当時は『ドラゴンボール』『コブラ』『キン肉マン』『シティハンター』、そしてもちろん『こち亀』などが連載し、誌面を賑わせていたような記憶です。ああ、夢中になって読んだなあと思いだし、そして拙いながらも落書き程度に絵を描いていた記憶を呼び覚まされなんだか懐かしい気持ちになりました。

今作、ぼくは原作未読なのですがなんとなく現代版『まんが道』っぽい話なのかなとあたりをつけていました。さておき、全編を流れる疾走感が大変に心地良く、ラストの小気味よい助走からジャンプ!と言った具合に絶好のタイミングでサカナクションの主題歌『新宝島』が流れ、このアイデアは抜群に秀逸と言わざるを得ないエンドロールでにやにやが止まらず、鑑賞後感は爽快でした。このエンドロールだけでもこの映画をお金を払って鑑賞する価値アリですね。

大根監督の真骨頂と言うべきか演出が非常に行き届いており、俳優陣の演技力、芸達者ぶりも相まってカリカチュアライズされた劇中登場人物にもうまく馴染めました。空々しくないと言うか熱量が伝わってきましたね。唯一、力量不足を感じたのがヒロイン役の小松菜奈ですが可愛かったのでオーケーです。

『渇き。』とは打って変わってぼくの評価はうなぎのぼりです。
プロジェクションマッピングやCGを用いた漫画製作のシークエンスもいささか間延びした感はありましたが意欲的だしおもしろかったと思います。ジャンプ編集部もロケーションかと思ったらセットなんですね。実際の現場は存じあげないですが再現度高いっ!と思わせるリアリティがあります。主役の二人を含めて漫画家さんの仕事場の舞台美術の密度とかも凄いですし、大根監督っぽい仕上がりの作品になっていて丁寧な仕事ぶりを感じます。

ただ、若干気になったのが脚本の部分ですかね。原作は単行本20巻とのことですが、それを120分の尺に詰め込むためにはもちろん様々な取捨選択とシェイプアップが必要だと思います。ぼくが引っ掛かったのはヒロインである亜豆美保と真城最高との恋模様。そして、真城最高が病に倒れながらも原稿掲載に向けて獅子奮迅するシークエンス。

恋模様については、あそこで亜豆が「先に行くから」って言っちゃったら最高のモチベーションはどうなるの?って思っちゃいましたし、徹底的に純粋なプラトニッククラブの成就ってのがその向こうに見えないと話しが違ってくるんじゃないかな、と。もう一つは山田孝之演じる編集者の服部が「漫画家の側に立つ」って言ってましたけれど、あの行動が果たして漫画家の側に立つことなのか、と言う疑問。って言うか高校生なのに親御さん病院にいないし、そもそもアシスタントなしで週刊連載は無理だろう、ましてや週刊連載を抱えながら他の漫画家のヘルプに回るの可能なの?とかですね。

そんなこんなでお話のリアリティの部分と時間軸がぽんぽん飛んでいく(手塚賞準入選あっという間でした)荒っぽさは感じた次第ですが、全体としては、うん、おもしろかったし、青春映画としてはもちろんお仕事映画としても良くできた、なによりエンターテインメントとして楽しめる気持ちの良い作品に仕上がっていることは間違いなと思います。これが入り口で未読の方は原作を読んでみようと感じるのではないでしょうか。原作ファンの方の反応はいかがなものでしょう。ぼくは、とりあえず単行本全20巻をTSUTAYAでレンタルしてきます(すみません、買わなくて)。

2015年10月16日金曜日

アントマン


Ant-Man/2015年/アメリカ/117分
監督 ペイトン・リード
脚本 エドガー・ライト、ジョー・コーニッシュ、アダム・マッケイ、ポール・ラッド
撮影 ラッセル・カーペンター
音楽 クリストフ・ベック
出演 ポール・ラッド、エバンジェリン・リリー、コリー・ストール、ボビー・カナベイル、マイケル・ペーニャ、ティップ・“TI”・ハリス、ウッド・ハリス、ジュディ・グリア、マイケル・ダグラス

2D字幕版での鑑賞です。これはイチオシ!って感じではないですが、そつなくまとまっていて面白かったですね。何かと言えばダーク、シリアスになりがちな昨今のヒーローものですが、今作はユーモアをふんだんに散りばめ、芯は残しながらもライトな仕上がりになっていて、こういうのも全然「アリ」です。蟻だけに。親子での鑑賞にも十分耐えうるというかむしろオススメしたい一本ですね。わらわらと蟻さんたちが大活躍するので虫嫌いの方は要注意ですが。

どうしてもモチーフが蟻さんなだけに、スパイダーマンを初め他のヒーローに比べるとクールな感じにはなりませんし、そのルックも含めてギリギリのラインだとは思いますが、小さくなったり元のサイズに戻ったりしながらアクションしたり、様々な蟻さんを操りながら共に戦っていくアイデアは秀逸でオリジナリティに溢れていますし、この映画のテーマとして二つの親子愛(ポール・ラッド父娘とマイケル・ダグラス父娘)がしっかりと描かれているので満足のいく仕上がりになっていました。だいたい、ぼくはこの「父と娘」って言うのに弱いんですよね。涙腺決壊案件です。

お気に入りのシークエンスは亜原子空間に落ちていくところ。万華鏡を模したような複雑な幾何学模様の美しくも深く恐ろしげなビジュアルが良かったですし、このどこまでも縮小しながら永遠に彷徨うみたいな設定、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』のカーズの最期を想起させて好きでしたね。

そのうちカーズは、考えるのをやめた。
あと、マイケル・ペーニャ演ずるルイスの回想シーン、彼のナレーションと回想に登場する人物とが完全にリップシンクしているシークエンスは笑いました。これをエンディングにも天丼してきた演出もウマい。ただ、エンディングの方の回想シーンの字幕翻訳がかなり意訳されていたような気がしていささか首を捻りましたけれど。字幕監修はテリー伊藤さんでしたね。あ、ご丁寧に上映前にもアナウンスがありますが、ご覧になる方はエンドロールが流れ終わるまで席を立たないようにしてください。本当のエンディングと、マーベルおなじみのおまけエンディングがありますので。

さて、いよいよ来年公開の『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』に向けて熱が高まってきました。ぼくは、この一連のMCU作品、見逃しているものもいくつかあるので予習・復習を進めていきたいと思います。この世界観のクロスオーバー作品群をリアルタイムで、しかも劇場で追っていけるのって良いですよね。

ところで、あのでっかくなっちゃった蟻さん(と、きかんしゃトー○ス)は今後どのような道を歩むのでしょう。いささか心配です。

小さくなったり、ものを大きくできたりしたら世界の食糧問題は解決すると思うのです。あんかけスパの海で泳ぎたい。

2015年10月10日土曜日

心が叫びたがってるんだ。


2015年/日本/119分
監督 長井龍雪
脚本 岡田磨里
キャラクターデザイン/総作画監督 田中将賀
演出 吉岡忍
美術監督 中村隆
撮影監督/CG監督 森山博幸
音楽 ミト、横山克
主題歌 乃木坂46
声の出演 水瀬いのり、内山昂輝、雨宮天、細谷佳正、藤原啓治、吉田羊、村田太志、高橋李依、石上静香、犬山鎬則、古川慎、津田英三、宮沢きよこ、野島裕史、河西健吾

何度かこのブログに書いているのですが、ぼくが、アニメーションに期するところは宮崎駿監督『もののけ姫』のでいだらぼっちのシークエンスだったり、幼少の頃のフェイバリットだった『トムとジェーリー』のトムの足にアイロンが落っこちてありえないくらい目玉と舌が飛び出て顎が床に着かんばかりに外れるシーンだったりするので、今作のようにいわゆる等身大の人間模様を描いた作品はそもそも範疇外なのですが、今週のムービーウォッチメンで取り扱われるのでやむなく、と言ったテンションで鑑賞してまいりました。

“『あの花』スタッフが贈る”と言う帯文句ながらも、そもそも観ていないのでそれが何を意味するのかもわかりませんし、青春群像劇なんだなぐらいの前情報でしたが、なるほど青春群像劇でした。
しかし、アニメに限らず青春を描いたものを観たときに生まれる良質な感情、羨望を含めた、なんちゅうかこう胸が熱くなるようなものは一切感じず、ただただこそばゆいだけで、かてて加えてぼくはミュージカルが大変苦手なため、はよ終われ!と割に苦痛な119分の上映時間でした。

そもそも、主人公の成瀬順のメンヘラっぷりに辟易する事この上なし。父親はもちろん最低ですが、母親もそこそこクズなだけに、変なトラウマを背負い込んじゃって可愛そうではあるのですが、喋ろうとするたび「ああっ!」とか「くうっ!」とか大げさに体をよじらせトイレに駆け込み、あれ、その度にうんこしてるんですかね、お腹もさておき、お尻が痛くて大変だな、とか思ったり、終盤のミュージカル本番ぶっちぎりから坂上くんへのぶち切れ暴言吐きまくりで、おまけに言うに事欠いて「腋がクサイ」とか、お前、坂上くんがトラウマ抱えちゃうだろ!とか本当にですね、巻き込みすぎですよ周りの人を。挙句の果てに田崎くん、なんで告白してんの?って目が点になっちゃいました。

恋愛話を取って付けたように絡めたのがまずかったんですかね。それぞれの想いがすっごい浅くて、皆が皆、ダメ男、ダメ女として描かれる結果になっちゃているような気がします。まあ、高校生の惚れた腫れたってその程度のものって言われればそれまでですけれど。主人公のトラウマ回復、成長の物語としてしっかりと描き切り、恋愛を絡めたいならずばり王道のヒロイン、ヒーローの恋の成就って話にしたほうが良かったと思うのです、個人的には。

玉子と王子って発想は面白かったし、「言葉にできない胸の内、でもやっぱり言葉にしないと分からないんだ」みたいなテーマって確かにあって興味深くはあるんだけれど、脚本の煮詰め方とキャラクターの掘り下げが、ぼくには物足りなかった、と言うのが正直な感想ですが、単にぼくが最早取り返しのつかないほどおっさんになってしまっているため、お前には分からないんだよ、と言うことかもしれません。突如挟み込まれる、モブのキスシーンが一番エキサイトしましたしね。

作画のことは良く解りませんが風景や背景は丁寧に描きこまれていて綺麗でした。あと、ぼくには珍しくクラムボンのミトによる音楽が大変に美しく、良かったです。もしかすると、大変に良作であり評価もそれなりの作品なのかもしれませんが、そこは申し訳ない、おじさんは気持ちを切り替えて、口直しにTSUTAYAで『カンフー・パンダ』をレンタルして、ビールを飲みながら鑑賞することにします。

キングスマン

 

Kingsman: The Secret Service/2014年/アメリカ/129分
監督 マシュー・ボーン
原作 マーク・ミラー、デイブ・ギボンズ
脚本 ジェーン・ゴールドマン、マシュー・ボーン
撮影 ジョージ・リッチモンド
音楽 ヘンリー・ジャックマン、マシュー・マージソン
出演 コリン・ファース、マイケル・ケイン、タロン・エガートン、マーク・ストロング、ソフィア・ブテラ、サミュエル・L・ジャクソン、マーク・ハミル、ソフィー・クックソン

ちょうど5月の連休あたりにJALの機上で鑑賞した時は、まあ退屈しのぎにはなったけれどあまりピンとこないな、くらいの印象だったのですが、いざ日本での公開が始まると少なくともぼくのTwitterのタイムラインでは絶賛で大変に盛り上がっており、あれれと思って改めて劇場で鑑賞してまいりました。

なるほどスクリーンの大画面と音響で観直すとすこぶる面白さでした。退屈しのぎどころか、娯楽作品として十二分に楽しめましたし、満足して劇場を後にし、その足でブリティッシュパブに赴きビールを1パイント飲み干した次第です(ぼくはギネスが飲めないのでハイネケンでしたが)。

「威風堂々」をBGMに打ち上げられる大オチの花火大会も盛大で、この夏、ついぞ花火大会に行きそびれたぼくにとっては名残を惜しむシークエンスで、ありがとう!マシュー!と言ったところです。これに限らず、教会での大殺戮など不謹慎極まりないと不愉快に感じる向きもおありでしょうけれど、まあマシュー・ボーン監督だし、あははと笑っておけば良いのではないでしょうか。少なくともぼくはすでに1回観ていることもありますし、この映画自体が英国、それにジェントルマンとスパイ映画に対する大きなブラックジョークだと感じているので良しとしました。

そして、それに興ずるコリン・ファースの魅力をたっぷり味わうのもこの映画の一つの見方でしょう。ダニエル・クレイグではああは行かない、着こなしと身のこなし、ユーモアとチャームで立ち回ってくれます。それだけに最後まで出張ってほしかった!道半ばで彼が斃れてしまったのは残念。加えて残念なのは彼を引き継ぐエグジーを演じるタロン・エガートン。初見の俳優さんなのですが、あんましパッとしないんですよねえ。バシッとスーツで登場しても、うーん決まらない…アクションは良いのですがぼく好みではありませんでした。

それに引き替え脇を固めたサミュエル・L・ジャクソンとカンガルー足のソフィア・ブテラはキャラ立ちしてて最高でした。サミュエル・L・ジャクソンはいつにも増しておかしな滑舌で喋ってましたし、アディダスのファッションショーよろしく衣装が決まってました。ソフィア・ブテラもユニークで山本英夫の傑作『殺し屋1』を彷彿とさせましたね。

ラストもスウェーデンの王女様の際どいご所望でこれでもかと下品に攻めてましたね。クロージングを務めるマーク・ストロングも始終良い味をだして映画を引き締めていました。と、言うわけで機上での第一印象とは異なり、退屈せず肩の力を抜いて楽しめる娯楽作品にばっちりと仕上がっていて、改めて劇場に足を運んで正解でした。では、晩餐にビッグマックを頂いてきます。

“氏より育ち”“行儀作法が人を作る”
スティングの『イングリッシュマン・イン・ニューヨーク』の歌詞にも引用されていましたね。

2015年9月26日土曜日

進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド


2015年/日本/88分
監督 樋口正嗣
原作 諌山剣
脚本 渡辺雄介、町山智浩
撮影 江原祥二
音楽 鷺巣詩郎
主題歌 SEKAI NO OWARI
出演 三浦春馬、長谷川博己、水原希子、本郷奏多、三浦貴大、桜庭ななみ、松尾諭、渡部秀、水崎綾女、武田梨奈、石原さとみ、ピエール瀧、國村隼

乗りかかった船と言うか、まんまと後編を鑑賞せざるを得ない形になってしまい、無駄にIMAXエグゼクティブシートで、前編がアレでしたゆえ思いっきしハードルを下げて臨みました。ちなみに前編のアレな感想はこちらです。

今作、サブタイトルは“エンド オブ ザ ワールド”であり、それに対してキャッチコピーが「世界はまだ、終わらない。」でしたね。どっちやねん、とポスターに突っ込みを入れるところからすでに戦いは始まっていました。前編同様にこの後編に関しても酷評を耳目にしており、とにかく皆さん劇場マナーだけは守ってくれ!そして、88分の上映時間を居眠りすることなく過ごせますように!と言う切なる願いで胸が一杯の中、やっとの思いでエンドロールが流れるとともに席を立ってしまった為、後で調べたところによると本来のエンディングを見逃してしまったようです。まあ、見逃してもさしたる影響はなかったようですけれども。

まず、前作と違い楽しめた点をいくつか。一つはIMAX様々で音響が素晴らしかったこと。迫力がありましたね。そこに進撃する巨人VS鎧の巨人や超大型巨人のビジュアルが相まってある種のカタルシスを得ることはできました。

二つ目は長谷川博己演じるキリシマと我が石原さとみ演じるハンジの出番が多くこの達者な演技(と、石原さとみ)を存分に体感できたこと。両名ともいわゆる「痛い」調子の演出と台詞回し、過剰な演技でここは好みの分かれるところでしょうが、ぼくの中で最近頓に株が上がりつつある長谷川博己のオーバーアクティングとやはり石原さとみをこよなく愛する42歳独身のおっさんの血が騒いだか拍手喝采と言ったところでした。

三浦春馬君を筆頭に演者さん達は非常に一生懸命頑張っていたと思います。もし彼らに分が悪いところがあるとすればそれは明らかに演出の所為であり、その演技力を貶めるものではないと言うのがぼくの感想です。もちろんテクニカルな演技力に差がある(例えば國村準の達者ぶり)のは否めませんが、俳優陣の真摯さは十二分に伝わってきました。話は変わりますが、エレン君は前編でもそうでしたがテンパると叫ぶ癖があるみたいですね。適切な病院に連れて行ったら何らかの診断名が付きそうです。

とにかく、やはり脚本と演出がひどい代物だと言わざるを得ません。そもそも前後編を分けたためにオープニングでのダイジェストや回想シーンを多用する今作は純粋な本編の上映時間も短く一本の映画として成り立ちうるのかと言う疑問も残りますし、人物像の描き方、とくにキリシマのそれはこちらがついていけないほどのブレ具合。あの変な部屋でのシャンパンや白いシャツにいつ着替えたの!などの一連の出来事や、ラストへ向かって無理やり収束させていこうとするにキャラクターの変節も厭わない芯の通っていなさ、それぞれの登場人物の元来のモチベーションはどこいっちゃったんだろう、あとミカサもうちょっと喋れやとか。

前編に関してはまだ突っ込む余裕もあったのですが、後編に至っては頭に疑問符が渦巻き物語の整合性を捉えきれぬまま皆が皆一様に叫んでは「と、とにかくこの映画を終わらせなければ!」と言う訳の分からない使命感で動いているため、観ているこちらはぽかーんとしてしまう状態です。

やはり、原作ありきの物語、それも大ヒットして尚且つ連載中のコミックの映画化と言う案件は誰が見てもそれ相当の覚悟とリスペクト、もっと言えば愛がないと火傷することは間違いなしです。前編の感想でも述べましたがこれはもうバジェット云々の問題ではありません。そう言った意味では、一体誰がこの『進撃の巨人』実写化で得をしたでしょう。答えは一つです。そう、こよなく愛する石原さとみの吹っ切れた演技をIMAXで堪能できた、ぼくです。

フォーッ!

2015年9月19日土曜日

カルフォルニア・ダウン


San Andreas/2015年/アメリカ/114分
監督 ブラッド・ペイトン
脚本 カールトン・キューズ
撮影 スティーブ・イェドリン
音楽 アンドリュー・ロッキングトン
出演 ドウェイン・ジョンソン、カーラ・グギーノ、アレクサンドラ・ダダリオ、ポール・ジアマッティ

「見てみたい 一度でいいから 見てみたい ロデオボーイで 揺れるおっぱい」
以前にぼくが歌人の枡野浩一著『ショートソング』の読書感想として詠んだ短歌です。地震→揺れる→おっぱい、と言う実にくだらない連想ゲームをまさにこの映画で体現した娘役のブレイクを演じたアレクサンドラ・ダダリオについてまずは言及しないわけにはいかないでしょう。ぼくは初見の女優さんだったのですが、その美しい顔立ちと胸元を強調するようなタンクトップ(序盤にビキニ姿もあり)のもとで揺れるおっぱいは計測不能な規模のマグニチュードを叩き出しています。ちなみにこの揺れは予知可能です。あ、くるな…と思ったらきますので。そんなわけで週頭の月曜日に今作を鑑賞し、週末の土曜日にこのブログを記しているのですが、鑑賞後にGoogleですぐさま検索した「アレクサンドラ・ダダリオ 画像」のタブは開きっぱなし、そして映画の記憶は彼女(のおっぱい)のことで塗れており、作品そのものに大した感想は残っていないというのが正直なところです。

お時間があればぜひ「アレクサンドラ・ダダリオ 画像」で検索してみてください
ぼくは二十年前の阪神淡路大震災を被災しており、フラッシュバック的なことがあったりするのかな、といささかドキドキしながら臨みましたが、ぜんぜんそんなことはなくあくまで映画館と言うセーフティーな場所からスクリーン越しにディザスターエンターテインメントを迫力の映像と共に楽しむと言った体でしたし、(津波のことは分かりませんが)地震による建物の倒壊などの被害ががいくらなんでも現実味がなさすぎるボロボロ具合だったので、ああこれはそう言う映画なんだと自分の中でフィクションのレベルをぐっと上げて「おお、すげえ!」とドウェイン一家のサバイバルを興奮しながら見守りました。

ディザスタームービーの傑作と言うと、ぼくの中では昨年公開の『イントゥー・ザ・ストーム』が思い起こされますが、それに比べるとお話の方はすかすかで突っ込みどころ満載。ザ・ロック様の気持ち良いまでの職務放棄っぷりと、とにかく俺の嫁!俺の娘!が助かればそれで良いんじゃい!と言う奮闘の陰で数限りなく犠牲になっていく一般市民たち。何となく星条旗を映しこんで父権の復活!強いアメリカ!ファミリア!みたいなところに落とし込んでいくベタなエンディング。しかしですね、そんなことはどうでも良いんじゃん、と言うところがこの映画の肝ではないでしょうか。

ドウェイン・ジョンソンの鋼の肉体と無双の獅子奮迅、カーラ・グギーノのここ一番でのホバークラフトによるぶち込み、アレクサンドラ・ダダリオ(のおっぱい)の健気な奮闘ぶり、そしてこの一家を避けて落ちる割れたガラスや瓦礫の山、そんなこんなとやっぱりハリウッドすげえなあと感嘆する臨場感あふれる視覚効果で描かれる地震災害のあれこれ。ジェットコースターがその歴史の中でもっとスリルを!もっと興奮を!とゲストの要望に応えるがごとく進化していった様相と同様です。絶対的な安全圏の中で、現実に起こりうるかもしれないスペクタクルを味わいたいという人間の欲求を存分に満たしてくれる作品であることは間違いないでしょう。映像に関して言えば前述の『イントゥ・ザ・ストーム』と肩を並べる、あるいは超えてくる勢いの出来映えだと思います。

書いているうちに徐々に今作の記憶が甦ってきましたが、やはり不謹慎ながら“地震で揺れるおっぱい”と言うフレーズの持つ破壊力を抑えきれず、それでもご贔屓のポール・ジアマッティがいつも通り大変に可愛らしくて抱きしめたくなった旨を記して筆を置きたいと思います。

なんで~こんなにかわいいのか~よ~。

2015年9月11日金曜日

ナイトクローラー


Nightcrawler/2014年/アメリカ/118分
監督 ダン・ギルロイ
脚本 ダン・ギルロイ
撮影 ロバート・エルスウィット
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演 ジェイク・ギレンホール、レネ・ルッソ、リズ・アーメッド、ビル・パクストン

ムービーウォッチメンで取り上げられるに先駆けて、友人(そこそこクズ)から「すごいクズが主人公の面白い映画がある」とレコメンドされ自称‘クズの元締め’であり、またクズ人間大好きのぼくとしてはこれは観ねばならん!と劇場公開間もなく足を運んでの鑑賞でした。

いや、確かにこれは面白かった。そして、この映画の主人公であるルイス・ブルームこそ紛れもなく人間のクズ。そこに描かれるクズっぷりにより嫌な気分になるどころか、いっそ清々しい程であり、ある種の爽快感をもって劇場を後にした次第です。

まず触れなければならないのは主演のジェイク・ギレンホールの徹底したメソッド演技でしょう。役作りのために体重を9kg落としたとかで、痩せこけた顔つきにぎょろぎょろと目を剥いて、ネット上で拾い漁った自己啓発のプラクティカルなフレーズを交え能弁に語り、とにかく自己主張が強い強い。そして、目的の達成の為なら手段を選ばず、モラルなどお構いなしに突き進んでいくルイス・ブルームと言う人間をまさに「役にのめり込んで」演じ切っています。

メキシコ料理のレストランでレネ・ルッソと対峙するシーンが良かったです。めちゃんこストライク・ゾーン広いですね!と言った感想はもとより、まったく深みのない上滑りなボキャブラリーを駆使して一点集中突破の揚げ足取りで相手の弱みを突きまくり、ペラペラとまくし立てるその様はまさに「ああ言えば上祐」(懐かしい)状態です。

名人芸、上祐史浩氏のフリップ投げをご覧ください。

これが長編監督デビューとなる脚本も兼ねたダン・ギルロイも冴えています。盗品を売りさばいて口を糊していたこのクズ男に訪れる転機と成り上がり、それに巻き込まれていく人々の顛末を、ここからここまでって感じで巧く切り取って描いており、なんだか納得させられちゃうパワーがあります。撮影もスタイリッシュで良いですね。撮影監督のロバート・エルスウィット、さすが良い仕事をしています。夜のロサンゼルスをカメラ片手に徘徊する“ナイトクローラー”感がばっちりと醸し出されていて映像に説得力があります。

ラストの落とし方も見事。なんだかんだ言って勤労意欲だけは人一倍の主人公。そこにポエティックな自己啓発のキラーフレーズを乗っければあら不思議、ブラック企業の出来上がりです。こんな上司の下では絶対に働きたくありませんが、お前の仕事ぶりはおもしろいから傍から覗かせてくれと言うところでしょうか。

ところで、ショッキングな映像ってモザイク掛かっていた方がより生々しく見えませんか。ぼくが別の機会にモザイクを見すぎているせいかもしれませんが。

“良い仕事”の為なら労を惜しみません。見習いたいものです。

2015年9月4日金曜日

ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション


Mission:Impossible-Rogue Nation/2015年/アメリカ/132分
監督 クリストファー・マッカリー
脚本 クリストファー・マッカリー
撮影 ロバート・エルスウィット
音楽 ジョー・クレイマー
出演 トム・クルーズ、ジェレミー・レナー、サイモン・ペッグ、レベッカ・ファーガソン、ビング・レイムス、ショーン・ハリス、アレック・ボールドウィン、サイモン・マクバーニー

上映からものの数分もしないうちに突如尿意に襲われ、しかも両隣をカップルに挟まれたど真ん中の席に陣取っていたため身動きもとれず、「こ…このままあと二時間強、この尿意を我慢しなければいけないのか!」と言うまさに遂行不可能な任務が課せられた中、劇中同様ハラハラドキドキのスリルあふれる鑑賞体験でした。ちなみにぼくのイーサン・ハント(膀胱)は期待に違わずこのインポッシブルなミッションをエンドロールが流れると同時にトイレにダッシュという力技でクリアしました

それはさておき感想です。鑑賞前からぼくのTwitterのTL上ではすこぶる評判が高くシリーズ最高傑作との評もありました。このシリーズに関してはリアルタイムで全作を鑑賞していますし、ハードル高めで臨みましたが、…うん、普通に面白かったです。しかし、ぼくの中では敬愛するジョン・ウー監督の『M:I2 ミッション:インポッシブル2』こそが至高。それを超えてくる程の出来ではありませんでしたね。

なんか、『スパイ大作戦』って言うより『007』って感じだな、と言うのが率直なところ。前作までのシリーズと比較して『ミッション:インポッシブル』らしさが薄まっていたような。でも、冒頭からラストまで見せ場はきっちり押さえてあって、尿意はさておきハラハラドキドキシチュエーションは健在。見所の水中でディスクを差し替えるシークエンスは観ているこちらも息苦しくなりました。

今作、一番痺れたのはカーチェイスからバイクチェイスへと流れる一連のアクション。ぼくは割にカーチェイスって退屈で眠くなっちゃう方なんですが、このライド感は凄かったです。助手席のサイモン・ペッグがギャーギャー騒ぐから余計に臨場感がある。「シートベルトしてるか!」「今さら聞くのかよ!」のやりとりは最高ですよね。このサイモン・ペッグが相変わらずチャーミングで彼が今作のエッセンスとして非常に重要な役割を果たしたのは言を俟たないところでしょう。ベンジーで一本スピンオフを作ってもぜんぜんイケると思いますよ。

役者陣のポジショニングが良かったと思います。ジェレミー・レナーしかりアレック・ボールドウィンしかり、皆収まるところに収まってアクションし台詞をキメていました。登場人物の出入りが良いっちゅうか、バランスのとれた脚本で巧い着地点に落とし込んだ仕上がりになっています。悪役のボス、ソロモン・レーンを演じたショーン・ハリス、変な声でしたけど彼も魅力的でしたね。レコードショップでイーサン・ハントが捕獲されるくだりと最後に防弾ガラスのケースにソロモン・レーンが捉えられるシーンの対比も憎い演出です。

ところで、レコードショップであっけなく殺されてしまう女優さん、誰なんでしょう。すごく可愛くてメイン・キャラを張っても良いくらいの魅力がありましたけれど。今後、要チェックかもしれません。

レコード店の店員、調べてみたらこの女性でした。Hermione Corfieldさん。べっぴんさんですね。

2015年8月28日金曜日

ジュラシック・ワールド


Jurassic Woald/2015年/アメリカ/125分
監督 コリン・トレボロウ
製作総指揮 スティーブン・スピルバーグ、トーマス・タル
キャラクター創造 マイケル・クライトン
脚本 リック・ジャッファ、アマンダ・シルバー、デレク・コノリー、コリン・トレボロウ
撮影 ジョン・シュワルツマン
音楽 マイケル・ジアッキノ
テーマ曲 ジョン・ウィリアムズ
出演 クリス・プラット、ブライス・ダラス・ハワード、ビンセント・ドノフリオ、タイ・シンプキンス、ニック・ロビンソン、ジェイク・ジョンソン、オマール・シー、B・D・ウォン、ジュディ・グリア、イルファン・カーン

シリーズ一作目である『ジュラシック・パーク』を劇場公開当時に観たのが二十数年前という事実に足ががくがくと震え、なおかつ女の子とのデート中にもかかわらず上映途中で眠ってしまった(理由は覚えていないのです。退屈だったのかな)のと館内で子供がわいわいうるさかったと言う苦い思い出がありその後の『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』『ジュラシック・パークⅢ』も追っておらず、特段恐竜に思い入れがあるわけでもないので、何となく気が進まない中での鑑賞でしたが、これが意に反して滅法面白かったのです!大収穫でして、エンドロールが流れ終わった後、思わず拍手をしようとしてしまったくらいの勢いでした。

まず、脚本が素晴らしい。その素晴らしさの源泉はバランスだと思うんです。スリル・サスペンス・アクション・ユーモア・エモーションなどエンターテインメント足り得る各要素の按配加減が絶妙なんです。だから観客はそれこそテーマパークのアトラクションを体験しているようなライド感がある。ダイアローグも洒落ているし、伏線の張り方と回収もそつなく、シリーズのファンはもちろん初見でも十二分に楽しめる、いわゆる「分かってる」スクリプトだと思います。

もちろん、リアルなことこの上ないテーマパークとしての“ジュラシック・ワールド”の舞台と恐竜たちのビジュアルの完成度があってこそ。そこに加えて長編映画ではキャリアの浅いコリン・トレボロウ監督の緩急をつけた演出がほどこされ(製作総指揮、スピルバーグの手腕も大きいでしょうけれど)、非常に質の高い(むしろ大傑作と言っても過言ではない)エンターテインメント作品に仕上がっています。

満を持してのT-REXの登場(このシーンは親指が立ちました)から今作のラスボスであるインドミナス・レックス打倒に向けての落とし前の付け方、そこに絡むラプトル四姉妹のシークエンス、そしてラストシーン、人類に再び警鐘を鳴らすようなT-REXの咆哮。オープニングこそスローテンポで入りますが中だるみもなくアップダウンを繰り返しながら終盤に向けてグーッと盛り上げていくリズム感の良い展開に大満足です。ちゃんと無残に人々が恐竜に喰われたり踏みつぶされたりであっけなくばたばたと死んでいく描写もグッド。今となっては思い出せませんが『ジュラシック・パーク』はなぜ途中で寝てしまったんだろう、もう一回観てみようかな、何ならシリーズを改めて観直してみるか、と言う気分になりましたね。

人間サイドの主役、オーウェンを演じるクリス・プラットもはまり役でしたが、大変に魅力的だったのがブライス・ダラス・ハワード演ずるクレア。あくまでパークの運営管理者としての非情さをのぞかせる冷徹なキャラクターから、二人の甥への愛着と無残に殺されていく罪のない恐竜たちへの憐憫の情を覚え改心し、自らその身を投じて甥たちの救出に向かいインドミナス・レックスへと対峙していく、その成長というべき変心をブラウスをびりっと破いてはだき腕まくりをして汗を滴らせ疾走し表現する様は、オーウェンに負けず劣らずのヒロインっぷり。最近のハリウッドではやはりこういう女性像が求められるでしょうね。

敵役に微笑みデブ(ビンセント・ドノフリオ)が出演していたのも個人的にヒットでした。にかっと悪魔的笑みを見せると歯並びがすごい良くて、ぴかぴかに白かったのが印象的でした。ホワイトニングしてるのかな。

『フルメタル・ジャケット』の“微笑みデブ”ことビンセント・ドノフリオさんです。ひどい扱いを受けております。

2015年8月22日土曜日

野火


2014年/日本/87分
監督 塚本晋也
製作 塚本晋也
原作 大岡昇平
脚本 塚本晋也
撮影 塚本晋也、林啓史
音楽 石川忠
編集 塚本晋也
出演 塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也、森優作

凄まじくも恐ろしい、そして大変に不愉快な映画でした。もちろんこの不愉快さは今作の評価を貶めているわけではなく、インディペンデントながら制作・監督・脚本・撮影・主演とこなした塚本晋也渾身の傑作であるのは言を俟たないところでしょう。人間が巨人にぽりぽりと喰われる映画にお金をかけている余裕があったら(それが面白ければよいのですけれど)いくばくかでもこのまさに「人が人を喰う」映画に出資してほしかったところです。

観終わった後、不謹慎にも戦争を題材にした良質なホラー映画(あるいはゾンビ映画)だなとの感も持ちましたが、ここで描かれているのは紛うことなき先の大戦末期、フィリピンはレイテ島での現実。人間の極限状態をみっちりと濃密に描き出した残酷な87分の上映時間が永遠にも感じられ、劇場を後にしておもむろにつけた一服はリリー・フランキー演ずる安田に芋を渡して手にした煙草の味か、なんとも言えない旨さがありました。

このブログタイトルにその名を冠している原一男の傑作ドキュメンタリー『ゆきゆきて、神軍』でも、人肉食が衝撃的な証言により明らかにされており、また戦争に限らず1993年の映画『生きてこそ』では航空機事故による遭難を舞台にして飢えを凌ぐための人肉食が描かれている。想像を絶する飢餓を前にしての人間の選択や行動は一つの大きなテーマとなり得ると言うことでしょう。

自主制作ゆえの画面のチープさ、そしてぼくの苦手なブレブレに揺れるカメラワーク、グロテスクな映像の数々と過剰な演出など、正直言ってひとつの映画作品としては好みではないのです。塚本正也演じる主人公の田村一等兵が現地のフィリピン人カップルと対峙する場面、けたたましく叫ぶフィリピン人女性とカットバックで必死に現地語で語りかける田村一等兵、そしてついには…と言う重要なシークエンスや米軍の機銃掃射で一網打尽にされる日本兵が肉片を飛び散らしながら体を重なり合わせてバタバタと倒れ、それこそゾンビの大群のような体をなすシーンなど目を背けたくなるほど嫌だし、ぜんぜん好みの演出ではないんだけれど頭にこびりついて離れない圧倒的なパワーがあります。

音も印象に残りました。軍服が擦れる音、銃器のかちゃかちゃとした音、犬の喚き声、人間の叫び声や唸り声(あーあー、うーうーって唸り声が特に印象的)、銃声、そしてラスト、新鋭の森優作が好演した永松が安田に血肉を滴らせながら喰いつくその音。この音に関してはことさらしっかり作りこまれ、観客の耳元に直接入り込んでくるような「嫌な」感触を非常に効果的に残していたと思います。好演と言えばリリー・フランキーが凄かったですね。この人が本来持つキャラクターの振り幅が安田と言う人間に思う存分投影されていて、深い人物造形になっていました。

もちろんこれは「反戦映画」なんでしょうけれど、これを観て「戦争はこんなに悲惨だからやめましょうね」とはならない感じもするんですよね。戦争よりも「日本軍」に問題が多々あるような気がして(もちろん戦争ありきの軍隊ってのも承知してますが)。ぼくは戦争なんか絶対嫌だってスタンスですが、割に日本の戦争映画を観る度に思うんですよね、これ。とは言え戦後70年の節目にこれだけの熱量を持った映画が、しかもインディペンデントで劇場公開され多くの人の耳目に触れると言うのは非常に意義深いことですし、これを契機にぼくを含めて議論や考えを深めていくことが後の平和に繋がるとしたら幸い、なんと言ってもこの作品を構想から二十年を経て撮りきった塚本晋也監督、素晴らしい仕事だと感じ入りました。邦画史に残る一本になることは間違いありません。