2016年9月30日金曜日

スーサイド・スクワッド


Suicide Squad/2016年/アメリカ/123分
監督 デビッド・エアー
脚本 デビッド・エアー
撮影 ロマン・バシャノフ
音楽 スティーブン・プライス
出演 ウィル・スミス、ジャレッド・レト、マーゴット・ロビー、ジョエル・キナマン、ビオラ・デイビス、ジェイ・コートニー、ジェイ・ヘルナンデス、アドウェール・アキノエ=アグバエ、アイク・バリンホルツ、スコット・イーストウッド、カーラ・デルビーニュ、アダム・ビーチ、福原かれん

IMAX3Dにエグゼクティブシートを陣取り、万全の態勢で鑑賞に臨みました。これが功を奏して映像、音響共に迫力満点でバッチリと今作の世界観をエンジョイすることができました。テンポ良く物語は進み、“スーサイド・スクワッド”の活躍を飽きることなく、存分に楽しめたと思います。今作がその3作目となる「DCエクステンデッド・ユニバース」、『マン・オブ・スティール』ぼくの感想はコチラ)から『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』ぼくの感想はコチラ)と欠かさず劇場で鑑賞しているので、冒頭から話にも入っていきやすかったですし、前々から予告編を度々目にしていて期待が高まっていただけに前のめりで鑑賞した次第です。どちらかと言うと、DCコミックスのファンでして贔屓目も多分にありますけれど。

「悪には悪を」と言うことで、所謂ヴィランをメインキャラクターに据えた今作、そのアイデアが非常に面白いですよね。序盤のキャラクター紹介のシークエンスはスピーディかつリズム感があって、ワクワクさせてくれます。そして、なんと言ってもこの映画の肝は、マーゴット・ロビー演じるハーレイ・クインでしょう。彼女の魅力が今作を引っ張っていると言っても過言ではありません。反対に割を喰ったのがジャレッド・レト演じるジョーカー。このジョーカー役、ティム・バートン版の『バットマン』ではジャック・ニコルソン、そして、クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』では故ヒース・レジャーが演じて、それこそ主役のバットマンを喰う程の素晴らしい演技でしたが、今作のジョーカーは出番も控え目、役どころも何だか外していてイマイチ冴えないんです。どうやらその出演シーンが大幅にカットされたようですね。ジャレッド・レトはロシアまで出向いて刑務所で本物のサイコパスにインタビューするなど相当な役作りで挑んだようですが、甚だ残念ですね。

脚本も監督のデビッド・エアーが兼ねているのですが、その脚本の問題と言うより、ジョーカーの出演シーンも含めて、制作サイドの意向とレイティングの関係(全米ではPG-13)により編集段階で大幅なカット及び追加撮影などがあったようで、ちょっと肩すかし的な印象と、お話し的にもしっちゃかめっちゃかに感じる部分があるのは確かです。モチーフとしてはR指定にもぜんぜんできるくらいの内容ですからね。ぼくとしては、もっとダークにハジけたジョーカーやハーレイ・クインとエロ・グロ、ヴァイオレンスを観たかったなあとの思いはありますし、いささかもったいない作品になっちゃったかなと言う気はします。あと、ヴィラン達が立ち向かう、今作での本当の“敵”がイマイチしょぼいんですよね。顔が鉄の塊みたいなザコキャラがボコボコと湧いてきて、要のカーラ・デルビーニュ演じるボスキャラのエンチャントレスは身体をクネクネさせてながら恫喝めいたセリフを吐いたりして何だか気恥ずかしく笑える感じになっちゃってますし。

メインの主人公であるウィル・スミス演じるデッドショットが、相変わらず良いお父さんなウィル・スミスそのまんまでちっともヴィランじゃないってのも頂けませんでした。むしろ、正統派ダークヒーロって感じで、確かに請負殺人業で口を糊しているのですが、仲間想いだし、子煩悩すぎるだろ!みたいな。結局、今作で一番の“ワル”は、この“スーサイド・スクワッド”作戦の言いだしっぺであり、口封じの為なら躊躇なく部下も銃殺するし、保身の為に機密情報も渡しちゃう政府組織A.R.G.U.S.のトップ、アマンダ・ウォーラーその人でしたってオチですね。この人は引き続き「DCデクステンデッド・ユニバース」に登場しそうな感じです。そして、次作は『ワンダーウーマン』ですね。また、ひとつこれまでとは違った形の世界での活躍ぶりを魅せてくれると期待しています。ぼくも乗りかかった船ですから、シリーズの完結まで楽しみに追っていきたいと覚悟を決めております!

マーゴット・ロビーが嬉々として演じる、ハーレイ・クインちゃんのプリケツを拝むだけでも観る価値アリです。

2016年9月23日金曜日

HiGH&LOW THE MOVIE


2016年/日本/130分
監督 久保茂昭
脚本 渡辺啓、平沼紀久、TEAM HI-AX
企画プロデュース EXILE HIRO
撮影 鯵坂輝国
音楽 中野雄太
音楽プロデューサー 佐藤達郎
出演 AKIRA、青柳翔、高谷裕之、岡見勇信、井浦新、TAKAHIRO、登坂広臣、岩田剛典、鈴木伸之、町田啓太、山下健二郎、佐藤寛太、佐藤大樹、岩谷翔吾、窪田正孝、林遣都、早乙女太一、天野浩成、中村達也、西岡徳馬、松澤一之、橘ケンチ、豊原功輔、YOU、小泉今日子、白竜

巷でいかほど話題なのかどうかは定かではありませんが、ぼくのTwitterのタイムライン上では今作を鑑賞して、ずぶりとハマった熱狂的なファンが、公開からしばらく経った今なお異様なまでの盛り上がりを見せており、友人・知人の中にも口を開けばHiGH&LOW話という地獄に陥った猛者が幾人かおりまして、ぼくとしてはさしたる、と言うか全くと言っていいほど興味のないジャンルの映画ではありましたが、ムービーウォッチメンで取り上げられると言うこともあり、重い腰を上げて劇場に足を運びました。

気乗りしないままスクリーンに対峙し、どうなるものやらと思いながら鑑賞したものの、予想通り、途中で退席しようかと何度か考え、時に襲われる睡魔と闘いながらのなかなかに辛みのある鑑賞体験となりました。もちろん、ドラマは未見、EXILEや三代目JSoulBrothersその他所謂LDHの面々もほぼ誰の顔と名前も一致しない、ましてや興味もなしと言ったぼくのステータスではありますが、押さえ所には井浦新や窪田正孝、豊原功輔など芸達者な俳優を配し、一応は豪華キャストとなっていますし、冒頭からその世界観を映像とナレーションで懇切丁寧に説明してくれるので(MUGENとは、雨宮兄弟とは、SWORDとは…etc.)、まったく置いてけぼりと言うわけではなかったです。

まあ、何がダメだったのかと問われると一言では言い難いですが、結局のところ「うん、その話、ぼくはどうでもいい」と言うことでしょうか。眼前をイケメン男子たちが見得を切りながらバイクに乗ったり、喧嘩をしたり、アツく叫んだりするのですけれど、そりゃあノレない人はノレんわなあ、と言う身も蓋もない感想に落ち着いてしまう今作ではあると思います。ただ、逆に言えばその世界観から登場人物、各エピソードの積み重ねがハマる人には十分にハマるだけの要素があることも理解できます。設定はガバガバなところが多いですが、その分ディティールはかなり微細に描きこまれている(ような気がする)ので。

全体としては常にバックグラウンドで音楽が流れていて、ひとつの大きなPVのような作りになっていますね。また、先に述べた見得の切り方もクラシカルで歌舞伎を想起もさせます。伝統芸能ってヤンキー文化まで脈々と続いてるんだなあ、と感心しちゃったりもしました。脚本も大筋は古典的なものですし、そういう意味ではある一定の層に受け入れられるのはすごく分かりますね。それと、動ける演者さんをたくさん使っているだけあってアクションシーンは相当に見応えがあります。SWORD連合総力戦、100人VS500人のシーンは圧巻でした。スクリーンに映らない部分も含めて、丁寧に演出してありますし、相当なリハを重ねたと思います。カメラワークも冴えていて、長回しでクローズショットからロングショットまでメリハリをつけた画作りになっていて、これは昨今の邦画の中でも出色の出来映えと言えるのではないでしょうか。

あと、物語を補填するために回想シーンが多用されるのですが、これと各登場人物の挿入的なエピソードを割に短いカットで重ねていくため、作品全体にブツ切り感があるのと、やっぱり実際の上映時間以上に体感時間が長く感じられるのですよね。ただ、終盤のVS琥珀さんシークエンスでの回想シーン内でさらに回想シーンと言う大技には「すわ、インセプションか!」と驚きと笑いを禁じ得ませんでした。しかも、なかなか決着がつかないうえに、決着がついたかと思うと、これにて一件落着みたいになっちゃって、肩すかしを喰らっちゃうんですよね。何にも解決していないように思うのですけれど。

そうは言ってもですね、やはり今作の放つ熱量というかそのハイカロリー具合は、ノレなかったぼくにもしっかりと伝わってきまして、その点は決して看過できるものではなく、突っ込みどころに浅く突っ込んで笑って終わり、では済まされないエネルギーとポテンシャルを持つ作品だと思いますし、それに応える受け手のエンスージアズムも羨ましさすら感じるほどです。ぼくの友人で今作にハマりすぎて、方々で「ハイロー話」を打つ、もはや「ハイロー漫談家」と化しているA君と言う好事家がいるのですが、彼なんかと話したり、話しを聴いたりしていると、その面白さがより深まってくるあたり、非常に懐の深い作品世界だなと思ったりもするわけです。と言うわけで、雨宮兄弟をフィーチャーする次作、『HiGH&LOW THE RED RAIN』もちょこっとだけ楽しみにしております。斎藤工のお兄ちゃんぶりにも期待したいですね。

お気に入りは、林遣都率いる達磨一家。「SWORDの祭りは達磨通せや」のキラーフレーズは痺れます。

2016年9月16日金曜日

グランド・イリュージョン 見破られたトリック


Now You See Me 2/2016年/アメリカ/130分
監督 ジョン・M・チュウ
脚本 エド・ソロモン
撮影 ピーター・デミング
音楽 ブライアン・タイラー
出演 ジェシー・アイゼンバーグ、マーク・ラファロ、ウッディ・ハレルソン、デイブ・フランコ、ダニエル・ラドクリフ、リジー・キャプラン、ジェイ・チョウ、マイケル・ケイン、モーガン・フリーマン

せっかくの機会だからと、前作の『グランド・イリュージョン』をAmazonビデオでレンタルし、鑑賞した翌日に劇場へ足を運んで今作に臨みました。結果的にこの予習が大正解と言うか、前作を観ていないと面白さ半減どころか、割に置いてけぼりを喰らう感じになるんじゃないかと思いました(序盤とか特に)。もし、ブログを読んでこの続編である『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』を鑑賞しようと言う方がいらっしゃいましたら、まずは前作を観ることを是非ともオススメします。ちなみに、この順番が逆(つまり二作目→一作目)の順で観ても、興醒めすること然りでぜんぜん面白くありませんのでご注意を。

それで、感想なのですが結論から言うとぼくは一作目の方が面白かったと思うし、好きでした。色々と理由はあるのですが、最も大きなポイントは一作目のヒロインだった、ぼくの大好きなメラニー・ロランが出演していないと言うことです!まあ、物語の都合上、出演していないのは当たり前なのですが、それにしても今作はヒロインと言う点でいささか魅力不足。前作でアイラ・フィッシャーが演じたヘンリーも降板、入れ替わりにメンバーとなったリジー・キャプラン演じるルーラはコメディエンヌぶりは良いものの、ちょっとパッとしないなあと言った感です。本筋とは全く関係ない、すごく個人的な話ですけれど。

ぼくは、マジックの類は案外好きでして、種明かしなども気にせずぽかーんと口を開けてやんややんやと楽しむクチなので、今回もマジックのシークエンスは(実際にキャストが演じているマジックにせよ、それがCGで描かれているにせよ)、素直にすげーとエンジョイできました。見所は物語の軸である「フォー・ホースメン」と呼ばれるマジシャン・チームが厳重なセキュリティの中、チップをトランプに隠して盗み出す一連の場面。パームトリックと呼ばれるマジックの手法を駆使して、そのカードを仲間に投げては受け、投げては受けを繰り返し、執拗なボディチェックをすり抜けて無事盗み出すのですが、俊敏に移動するカメラワークも冴えていて、大変にスリルがありました。もう一つは、ジェシー・アイゼンバーグが雨を自由自在に操るシーンですね。実際のところ、あんな風にはならんだろうと思いながらも、そこは映画と言うもう一つのフィルターを掛けることによって、単純に言っちゃえばカッコイイ!ってなフォトジェニックなシーンになっています。

ただですね、逆に言うと見所はそこぐらいで、総じて前作と比べると大味になっていると言うかスケールやパワーもアップしているようなんだけれど、脚本に締まりがないような気はしました。すごく気になったのが、催眠術万能すぎ!と言う点です。肝心要なところはほぼ催眠術無双なんですよ。何でもアリ感がたっぷりです。ラストも何だか釈然とせず首をかしげましたしが、どうやら、三作目の制作も予定されているようなので今作はブリッジ的な役割を果たすのかもしれません。そう言えば、ヒール役で元魔法使いのダニエル・ラドクリフが出演しているのですが、「ジャジャーン」と言いながらの登場シーンだけ良かったです。その後はトーンダウンで、うーん…イマイチ。とは言え、キャストは前作に引き続き、モーガン・フリーマン、マイケル・ケインと言った大物の芸達者な俳優陣も含めて役者が揃っていますので、その点は十二分に楽しめると思います。とりとめのない感想になりましたが、やはりこう言う映画は語るより、ズバリ観て楽しむべし!ですね。くれぐれも、一作目→二作目とご鑑賞いただきますよう。あと、余計なことは考えず、エンジョイ精神で!

前作『グランド・イリュージョン』からメラニー・ロランのキュートなオフショットです。

2016年9月2日金曜日

後妻業の女


2016年/日本/128分
監督 鶴橋康夫
原作 黒川博行
脚本 鶴橋康夫
撮影 柳島克己
音楽 羽岡佳
出演 大竹しのぶ、豊川悦司、尾野真千子、長谷川京子、水川あさみ、風間俊介、余貴美子、ミムラ、松尾諭、森本レオ、伊武雅刀、泉谷しげる、柄本明、笑福亭釣瓶、津川雅彦、永瀬正敏

「○○の女」と言うと、もちろん伊丹十三監督の『マルサの女』に始まる一連の作品を思い起こしますが、それにオマージュを捧げたであろう今作、予告編を幾度か目にしており、なかなかに面白そうだなと思っていたところへ、今週のムービーウォッチメンで取り上げられることとなり劇場に足を運んだ次第です。結論から申し上げますと、面白かったちゃあ、面白かったですけれど何だか中途半端な仕上がりと言うか…ちょっともったいない感じの出来でして、伊丹十三監督の再来ならず!と言ったところです。

俳優陣は総じて素晴らしかったです。今作は大竹しのぶありき、と言う側面もあり、その怪演ぶりはさすが。ただ、気になったのが大竹しのぶに限らず、ネィティブの関西人でない役者さんが喋る関西弁の違和感ですね。ぼくは学生時代を兵庫県は神戸市で過ごしており、広義の関西弁を生で耳にしていたため、やっぱりそのイントネーションを奇異に感じて、そこで「ちゃうやろ」といちいち冷めちゃうんですよね。もうちょっとその部分を丁寧に演出してほしかったですね。

それでも、大竹しのぶはあの独特のファルセットボイスと台詞回しで多少の違和感もひっくり返して持ってっちゃう力量は見事でした。彼女のチャームで映画がぐいぐいと引っ張られていく感じは充分にありましたね。尾野真千子との場末の焼肉屋でのぬるーいキャットファイトも笑いを誘いましたし、銀行相手に病床の夫の預金を解約させろと芝居を打つ、丁々発止のくだりも迫力がありました。結構な豪華キャストがちょいちょいと脇で出演しているのですが、ぼくは柄本明の動物病院のモグリ医者が好きでしたね。

お話は全体を通してブラックなコメディタッチで描かれ、128分と言うそこそこの長尺ながら、展開も早く、確かに退屈はしないんですけれど、後半に行くにしたがっていささかグズグズになっていく感はあります。特にラストは一応の因果応報的な締めくくりではあるんですけれど、何かスッキリしないと言うか今一つカタルシスを得られないんですよね。永瀬正敏演じる探偵がクズっぷりを発揮してからの間延び感や急に拳銃が出てきたり、トヨエツの暴かれた過去での暴力性のトーンがそれまでのコメディ部分との喰い合わせが悪く、アンバランスな感じも受けました。また、ちょくちょくお色気シーンがあるのですが、これがいかにもサービスショット的でとってつけたような印象を与えるんですよね。

とにもかくにも、伊丹十三監督の「○○の女」に比べると、今一つ骨太感が足りない感じで、うーん、もうちょっと面白くなったはずなのになあ、なんて考えてしましまいます。ところで、舞台は夏の場面が多いのですが鑑賞中、撮影が良いなあと思っていて、エンドロールでクレジットを見たところ、ご贔屓の柳島克己でした。さすが、夏のシーンを撮らせたら現在の邦画界でこの人の右に出る撮影監督はいないのではないでしょうか。これは嬉しいめっけものでした。

しかし、“後妻業”と言うこの題材、ぼくは遺す資産も雀の涙ほどすらない、しがない中間管理職なので関係ないっちゃないのですが、四十路を超えた独身男性として考えさせられるものはあります。水川あさみや樋井明日香ちゃんが演じた北新地のホステスとトヨエツの駆け引きなども含めてですね。今のところ結婚相談所にお世話になるつもりはないですし、キャバクラなんかの夜遊びも避けて通っていますが、思わず「傾城の恋は誠の恋ならで 金持ってこいが本の恋なり」と言う文句を思い出してうすら寒くなってしまいます。

場末の焼肉屋での若干温めなキャットファイト。最後は両者疲れ果てペチペチやってます。

2016年8月26日金曜日

ゴーストバスターズ


Ghostbusters/2016年/アメリカ/116分
監督 ポール・フェイグ
原作 アイバン・ライトマン、ダン・エイクロイド、ハロルド・ライミス
脚本 ケイティ・ディボルド、ポール・フェイグ
撮影 ロバート・イェーマン
音楽 セオドア・シャピロ
出演 クリステン・ウィグ、メリッサ・マッカーシー、ケイト・マッキノン、レスリー・ジョーンズ、クリス・ヘムズワース、アンディ・ガルシア、チャールズ・ダンス、ニール・ケイシー、カラン・ソーニ

2D字幕版で鑑賞してまいりました。オリジナル版の『ゴーストバスターズ』が1984年公開。映画は大ヒット、一大ムーブメントを巻き起こしましたね。例のテーマ曲があちらこちらで鳴り響いていました。今を遡ること32年前、当時小学生だったぼくは、友人たちと連れ立って劇場に足を運び興奮しながら鑑賞したことをおぼろげながら記憶しております。さて、今回はその主役を男性から女性4人組に挿げ替えたリブート作品。日本での公開前から賛否両論、また、主演の一人であるレスリー・ジョーンズに対するTwitterでの誹謗中傷など話題に事欠かない今作でしたが、ぼくは大変に楽しみましたし、愛すべきオバケ映画ならぬオバカ映画として笑いの渦に包まれた興奮の中で一息に鑑賞し、非常に満足度の高い一本となりました。

まず何と言っても主演4人のコメディエンヌ達の掛け合い、これが最高でしたね。劇場にはちらほら外国人の方もいらっしゃたのですが、もうところどころで我慢しきれず大声で笑ってるんですよ。こちらは字幕の為、若干遅れてフフッとなるのですが次第に釣られて意味も分からず同じテンポで爆笑してしまうと言うホットな体験もありました。お気に入りのクリステン・ウィグが相変わらず妙味を出していて、ぼくはこの人の笑いの「間」が好きなんですよね。大きな動きで笑わせるんじゃなくて割にミニマムなアクションやジェスチャーと台詞回しで笑いを誘うところが好きなんです。今作でのマイ・フェィバリットは、「家賃21,000ドルです」「おい!」の場面ですね。間が良いです。英語だと何て言ってるか失念しましたが、字幕も相当キレがあって良い感じでしたね。

そして、今作で一躍注目株となったのはマッド・サイエンティストのホルツマンを演じたケイト・マッキノンではないでしょうか。本国ではコメディ番組『サタデーナイト・ライブ』で人気を博している話題のコメディエンヌと言うことですが、ゴーストバスターズの武器担当としておいしい場面を何度もかっさらっていました。パッと見はクールビューティーなのですがそのキレっぷりは相当なもの。緊迫した場面でいきなりポテトチップスを食べだして「ポテチの誘惑には勝てない」とか二丁拳銃をべろりと舐めてからのゴーストバスターズ無双ぶりなど最高でした。彼女の魅力なしにはこのリブート版『ゴーストバスターズ』は語れないでしょう。本人も水を得た魚のように嬉々として演じているようで、観ているこちらもハイになっていく感じです。

オバカ秘書を演じたクリス・ヘムズワースもハンサムフェィスとマッチョなボディを逆手にとって存分に笑わせてくれましたし、オリジナル版の俳優陣がカメオ出演していたりと見所は存分です。もちろん、最新のCG技術を使ったビジュアルも抜群で音響と共に迫力があり、できればIMAX3Dで鑑賞したかったところ。オリジナル版へのリスペクトを感じさせながらも、今現在だからこそ魅せるリブート版『ゴーストバスターズ』として充分な完成度を保っているのではないでしょうか。ちなみにエンドロールは最後まで席を立たない方が良いヤツですのでご留意を。一点だけ気になったのが、終盤ゴーストたちとの対決もクライマックス、最終的にどうしようもなくなったら、ヨシ!核兵器だ!と言うのがうーん、アメリカンだなあ…と複雑な思いが胸に去来しました。まあ、それはさておき割に頭をからっぽにして娯楽映画をエンジョイしたい!と言う方にはオススメの映画です。ぜひ劇場に足を運んでご覧頂きたいですね。久々にアンディ・ガルシアの御尊顔も拝めますよ。

ホルツマンは最高にクールです!今後のケイト・マッキノンに注目!

2016年8月19日金曜日

シン・ゴジラ



2016年/日本/119分
総監督 庵野秀明
監督 樋口真嗣
脚本 庵野秀明
特技監督 樋口真嗣
撮影 山田康介
音楽 鷺巣詩郎、伊福部昭
出演 長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ、高良健吾、大杉漣、柄本明、余貴美子、市川実日子、國村隼、平泉成、松尾諭、渡辺哲、中村育二、矢島健一、津田寛治、塚本晋也、野村萬斎

Twitterのタイムラインも喧しく、ネタバレされても敵わんと公開早々にIMAXにエグゼクティブシートを陣取り鑑賞してまいりました。客入りもほぼ満員、熱気すら感じさせる劇場内でしたが、実はぼく、正直言ってそんなにノレなかったんですね。上映終了後、噂に聞いていた拍手があちらこちらで湧き起っていましたが、微妙な心持であったぼくは、うそーん!となってノレない自分にさらに気持ちが沈んでいくのでした。その後、Twitterをチェックしたり色々な方のレビューやブログを読んだりしましたが、皆一様に大絶賛。観客動員数もうなぎのぼりで興行収入もン十億円越え!と大げさに言えば社会現象にすらなっている様子。ぼくは「これがツマラナイと言うお前がツマラナイんじゃ!」「ふふふ…この良さが分からないとは、あんたバカァ」などの幻聴が頭の中を駆け巡り、鬱を患ってしまう程にまで落ち込んでしまいました。いや、面白かったんですよ。でも、なんか台詞は聴き取れないし、あ、あの人名前なんだっけ?とか、演出やカメラワークが何かのアニメの実写版みたいだし、ヤシオリ作戦に至ってはゴジラが歯医者で治療されてるみたいだし…とか様々なノイズが煩わしく頭に響いて、結果「そこまでのものかな」と言う感想に至った訳です。

そうして、鬱になり半ばひきこもり状態であったぼくは「これではいかん!」と、ちょうど北海道へ旅行に行っていたのですが(←ひきこもってない)、その最終日、ユナイテッドシネマ札幌で2回目の鑑賞へと立ち向かったのです。「サッポロでゴジラ」ってなんとなく響が良くないですか。それはともかく、2回目の鑑賞は初見の時のノイズがクリアされて、台詞も割に聴き取れ、演出や小ネタも含めてディテールも掴めましたし、随分と楽しめました。こちらも館内はほぼ満員の入りでしたが今回は上映終了後の拍手はありませんでしたね。初見の時はシリアスな場面にそれが挿入される為、「え?これ笑っていいの」と面喰ってるうちに話しが進んでいってしまってもやもやしたんですけれど、今回はちゃんと笑っちゃうところで笑えたのもポイントが大きかったです。嶋田久作は2回とも笑いましたけれど(あれ、笑って良いんですよね?)。

俳優陣が豪華で総勢328名とのことですが、オールスターキャストではないんですよね。むしろ普段脇で光る俳優さんとか、顔は良く拝見するんだけれど、名前が出てこない!って役者さん(それ以外の人も。原一男監督とか!)がたくさん出演していて、しかもそのキャスティングが激ハマリしてるって言うのが凄いですよね。そういう意味では全然煩くない。そして、長谷川博己と石原さとみですが、逆にこの2人以外にあの配役を演じ切れる人います?ってくらいベストなキャスティングだとぼくは思います。今作では舞台で大きなお芝居を演じるようなメソッドを持っている人が適材だし、過剰なまでに強いキャラクターでないと他に負けちゃいますし、ゴジラにも対せないですもんね。あと、ぼくが感嘆したのは國村隼の台詞回しの凄さ。これは初見の時から感じました。ボソボソ喋ってる感じなのにスッと台詞が頭に入ってくる。この人、どの映画でも基本的にメソッドは変えてないんだけれど、それぞれに馴染むんですよね。もちろん「仕事ですから」と彼は答えるでしょう。

ちなみに、少しエクスキューズしておきますと、ぼくはゴジラに関してはムービーウォッチメンで取り上げられた2014年のギャレス・エドワーズ監督『GODZILLA ゴジラ』(ぼくの感想はコチラ)、通称「ギャレゴジ」しか観ておりませんし、特撮怪獣映画にも特段の関心もありません。庵野秀明監督についても、もちろん存じあげてはいるものの『新世紀エヴァンゲリオン』を始めとしてその作品は観たことがありません。なので、そちら方面の切り口からは何も語ることができないわけです。ただ、今作に関して言えば、そういう人たちにこそ観に行って欲しいというオススメの語り口がありまして、確かに、3.11以降に作られた1本の邦画として、今後映画史に残るであろうエポックメイキングな作品になることは間違いないと思いますし、この映画は大傑作と太鼓判を押す方が多勢であろうことは理解できます。まだまだ、ネット上でも様々な評論や考察などが飛び交っておりますし、二次創作も活発なようです。語るに尽きない作品であることは確かですね。

さて、そんなわけでぼくも何とか2回目を鑑賞して少なからず今作を味わいだしたと言うところですが、やっぱりですね、別にそんな手放しで大傑作じゃん!と言うわけではありませんし、これは単なる好みの問題でしょう。でも、本当に作り手が心血を注いで面白いものを作ろうと思ったらこれだけのものが(予算などの制約がありながらも)作れるんだと言うのは誇らしい気もしますし、単純に娯楽作品として観ても遜色ない作品を仕上げてきた手腕は見事だと思います。あと、声に出して読みたい日本語がたくさん出てくるのも嬉しいですよね。しかも、汎用性が高い。「まずは、君が落ち着け」とか「骨太を頼むよ」、「え、今ここで決めるの?聴いてないよ」とかですね。挙げたらキリがありません。あ、書くの忘れてましたが2回とも唖然とスクリーンに釘付けになったシークエンスはもちろん、ゴジラが放射熱線で東京の街を焼き尽くす一連の場面です。絶望と恐怖が入り混じったシーンが悲愴的な音楽と共に眼前に拡がり、もう手の施しようのない災厄感がばんばんに出てて何とも言えない心持になりました。畏怖の念すら感じましたね。いずれにせよ、もし迷っている方がいらっしゃったらとりあえずは映画館で観ることをオススメしたい、リアルタイムでこの映画を体験してほしい、そんな作品ではあります。

カヨコ・アン・パタースン役を演じた石原さとみ。名言「ZARAはどこ?」を残しました。そして、「特殊なインクを使っているの。カピーは不可よ」は今年の流行語大賞です(ぼくの中の)。

2016年8月6日土曜日

ファインディング・ドリー


Finding Dory/2016年/アメリカ/97分
監督 アンドリュー・スタントン
共同監督 アンガス・マクレーン
製作総指揮 ジョン・ラセター
原案 アンドリュー・スタントン
脚本 アンドリュー・スタントン、ビクトリア・ストラウス
音楽 トーマス・ニューマン
エンドソング シーア
日本版エンドソング 八代亜紀
声の出演(日本語吹き替え版) 室井茂、木梨憲武、上川隆也、中村アン、菊池慶、小山力也、田中雅美、さかなクン、八代亜紀、青山らら

実は前作の『ファインデング・ニモ』は未見なんです。あれだけ話題になったのにもかかわらず機会を逃し続けて、なんと早13年なんですね。DVDで予習する暇もなく劇場へGO、2D日本語吹き替え版で鑑賞してまいりましたが、これが存外楽しめました。面白さと感動が相まって、ここのところ荒みがちだった心がドリーたちの泳ぐ太平洋の海水で綺麗に洗い流されましたよ。

ぼくも元来、物忘れの激しい方でして、そこに加えて近頃は加齢による記憶力の劣化が著しく、もちろん劇中で描写されるドリーの短期記憶障害の症状とは意を異にしますが、決して他人(魚)事とは思えず、ググッと感情移入してしまいました。他にも弱視のジンベエザメや七本足の蛸など所謂ハンディキャップを抱えた海洋生物が登場し、障害を持つ人々をメタフィジカルに描いているわけですが、現実の問題はどうあれ、大人も子供も楽しめる非常に娯楽性の高いアニメーションとして落とし込んであって、物事をポジティブに捉えようと言う前向きさにぼくは好感を持ちました。

映像のクオリティの高さはもちろん、海洋生物たちの泳ぐ横の動きに対する、今回の舞台である水族館・海洋生物研究所を巧く利用したぴょんぴょんと飛び跳ねたりする(あるいは鳥のベッキーに運ばれ宙を舞う)縦の動きがスクリーンに奥行きを与えて、アクションシーンが非常に豊かで楽しいものでした。物語も終盤、蛸のハンクがトラックを運転し果てはトラックごと海に突っ込むと言う突っ込みどころ満載のシーンがあるのですが、このぶっ飛び具合もぼくとしてはオーケーでしたし、あそこでルイ・アームストロングの『What a Wonderful World』が流れるに至っては、うん、まあ細かいことは置いといて最高じゃん!となった次第です。

この蛸のハンクが今作のキーパーソン…パーソンではないですが、とにかく最高なんですよね。保護色を使って何にでも変身できるし、海の中も陸の上もなんのその。ベビーカーの運転から前述のようにトラックの運転までお手の物でチートっぷりがハンパない。でも、そんな彼も辛い過去を背負っていて、根は優しく淋しがりな蛸さんなのです。ちらっと『ズートピア』のニックを彷彿とさせますね。彼の面目躍如の活躍っぷりでストーリーがグングンとテンポ良く動いていく感じですね。ドリーとのパートナーシップも抜群に良く、またまた、ディズニー・ピクサーに名コンビ誕生と言ったところでしょうか。

話は逸れますが、本編に先駆けて流れる同時上映の『ひな鳥の冒険』が素晴らしいんですよ。思わずこちらのエンドロールで拍手しそうになりました。実写とアニメーションのギリギリの線を描く映像のクオリティと幼い命が恐怖心に打ち克って世界の美しさに目覚めるテーマ性を凝縮した至高の6分間でして、こちらも含めて本編も親目線で観れちゃってそれがギュンギュンくるんですよね。ドリーの両親の娘を思う気持ちとハンディキャップを持った者に対する接し方、すごい沁みます。もちろん、ひな鳥やドリーなどの当事者目線でも充分にノレますので、その辺りの懐の深さはさすがと言った感です。

両親が貝殻を並べて家までの道標を作り、いつ帰るともしれぬドリーを待つ。そして、感動の再会なんてベタですけれども、そんなベタベタな場面でやっぱりホロリとしてしまう自分に少し安堵しました。そして、例えばドリーのような記憶障害って自分や自分の両親の認知症、あるいは介護問題みたいな話にもつながってくると思いますし、ハンディキャップを持った人々との対し方、あるいはもし自分がハンディキャップを負ったとして、どう世界と向き合っていくかみたいな話もあると思うんでよね。エンドロールで流れる『Unforgettable』が胸の底にしんと深いものを残します。ちなみに、色々と意見のある八代亜紀さんはぼく的にはオーケーでしたよ。八代亜紀バージョンの『アンフォゲッタブル』もグッドでした。

同時上映の短編『ひな鳥の冒険』(原題:Piper)。出色のクオリティ。ひな鳥ちゃんがきゃわわなんです。

2016年7月22日金曜日

シング・ストリート 未来へのうた


Sing Street/2015年/アイルランド・イギリス・アメリカ合作/106分
監督 ジョン・カーニー
原案 ジョン・カーニー、サイモン・カーモディ
脚本 ジョン・カーニー
撮影 ヤーロン・オーバック
歌曲 ゲイリー・クラーク、ジョン・カーニー
音楽監修 ベッキー・ベンサム
主題歌 アダム・レビーン
出演 フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、ルーシー・ボーイントン、マリア・ドイル・ケネディ、エイダン・ギレン、ジャック・レイナー、ケリー・ソーントン

映画に限らずいわゆる“ワナビーもの”が好きなんですよね。その業界や分野でのし上がっていくサクセス・ストーリーを描いたものとは違って、何者かになりたい!ここではないどこかへ!と、もがく言わば現状からの脱出の物語ですね。そういう意味で今作、大変に美味しくいただきました。素材の新鮮さを活かしたシンプルながらも勢いのある味付けで、至極まっとうな「ザ・青春映画」であったと思います。古今東西、バンドを始める動機は「女にモテたい」であって、主人公もそれに倣って仲間を募り音楽活動に勤しみながらヒロインを口説くわけですが、そこを縦軸に普遍的なティーンエイジャーの姿態が分かりやすくポジティブに描かれており、鑑賞後は良質な余韻に浸ることができました。

舞台は1985年のアイルランド、ダブリン。ぼくは音楽にはとんと疎いのですが、それでもMTV世代ではあり、80年代の洋楽には慣れ親しんでいると言っても良いでしょう。ただ、もうちょい後半の方ですね、MTVをリアルタイムで観て、当時はレコードかカセットテープだったレンタルソフトを借りて聴いていたのは。加えてブリティッシュ・ロックの類は多少趣味から外れていたため、今作で流れる曲はピンとくるものもあり、そうでないのもあり、と言った感じでした。どれもその時代に青春を過ごした者として何となく聞き覚え、あるいは懐かしみ、みたいなものはありましたけれど。それはともかく劇中で作詞作曲されるバンドの楽曲を含め、さすがに音楽は非常に質が高く、聴いていて心地良いものでした。音楽なしにはあり得ない映画ではありますが、その重要なキーである音楽のレベルが大変に高くそこは満足感を得られましたね。

演者さんたちの多くはオーディションで選ばれたようですが皆一様にナチュラルで好演でした。物語の性質上、脇を演じる人物のエピソードによる深掘りは出来ない為(そこは主人公とヒロインがクローズアップされている)、そのルックスとキャラ付けがはっきり一目でわかるようなキャスティングと演出がほどこされており、それが功を奏していたと思います。ぼくは主人公のお兄ちゃんを演じたジャック・レイナーがイチオシですね。若干24歳の注目の新星、今後の活躍が期待できる俳優さんですが、演技も素晴らしかったし、そもそもこのお兄ちゃん最高!って感じです。今作のキーワードである「ハッピー・サッド」をまさに体現しているのがこのお兄ちゃんですよね。ぼくもこんなお兄ちゃんが欲しかった、いや、実際はぼくは4歳離れた弟がいる長男ですから、こんなお兄ちゃんになりたかったと言うところでしょうか。ぼくの“ワナビー”ですね。今更、どうしようもないんですけれど。

前に述べたように往々にしてポジティブな側面を切り取って物語は進んでいくため、いささか話がトントン拍子過ぎるきらいもあり、ラストシーンもぼくは「イェーイ!」と言うよりは、その先にある様々な艱難辛苦を現実世界で舐めまくっているため意地悪に観てしまったり(と言うかあの船でイギリスまで辿り着けるのでしょうか)するのですが、それでもやっぱり今なお自分自身の胸の内にくすぶる“ワナビー”を刺激され、何となくここではないどこかへ連れて行ってくれるような気がして、切なくも甘い気持ちになるのでした。そしてまた、お兄ちゃんのことを思い出してはうるうるとしてしまうのです。ホント、割に主人公とヒロインのその後はどうでも良いんですけれど、お兄ちゃんには絶対幸せになって欲しい!

お兄ちゃん役のジャック・レイナー(左)。何となくクリス・プラットに似てます。今後に期待の注目株!

2016年7月15日金曜日

ペレ 伝説の誕生


Pele: Birth of a Legend/2016年/アメリカ/106分
監督 ジェフ・ジンバリスト、マイケル・ジンバリスト
脚本 ジェフ・ジンバリスト、マイケル・ジンバリスト
撮影 マシュー・リバティーク
音楽 A・R・ラフマーン
出演 ケビン・デ・パウラ、レオナルド・リマ・カルバーリョ、セウ・ジョルジ、マリアナ・ヌネシュ、ディエゴ・ボニータ、コルム・ミーニー、ビンセント・ドノフリオ

久方ぶりに観終わった後、爽快感の残る気持ちの良い感動をもたらしてくれた作品でした。ブラジルのスラム街で育つ貧しい少年ペレが、プロ入りをして活躍しながら、わずか17歳と言う年齢で1958年のワールドカップにおいてブラジルに優勝をもたらすまでを切り取ってドラマチックに描いた今作、まさにタイトル通り「伝説の誕生」に至るまでをクローズアップして構成されており、その按配加減が具合良く、非常にエモーショナルかつタイトな作品に仕上がっております。鑑賞後は、ジンガのリズムで道行く人をフェイントを交えた足さばきでかわしながら軽快な足取りで帰路につきました。

サッカーにはとんと疎いぼくでも、さすがに“サッカーの王様”ペレのことは見知ってはいました。とは言えその生い立ちはもちろん、物心ついた時にはすでに彼は引退しており、実際のプレーや活躍ぶり、その伝説に数々についてはほとんど存じあげませんでした。なので、そう言った意味で「へーそうだったんだ」と感心する部分は多々ありましたね。「ペレ」と言うのが愛称(もともとは蔑称)だったと言うことも初めて知った次第です。他にもサッカーにおいてなぜエースナンバーが背番号10番なのかとかですね。あと、ブラジル人にとってのサッカーの起源みたいな話も興味深かったです。カポエイラ→ジンガ→サッカーの流れだったんですね。

さながらミュージックビデオのように音楽に乗せてテンポ良く物語は進んでいき、106分の尺はあっという間です。原色の映えるブラジルの風景に光線の入れ具合が非常に良い画づくりも素敵でした。序盤のスラム街での洗濯物を丸めたボールを落とさないように蹴りあって遊ぶ場面は秀逸でしたし、マンゴーをサッカーボールに見立ててお父さんと練習するシークエンスも印象的でしたね。このお父さん役の俳優さんはすごく良かったです。お父さんも秀でたサッカー選手だったのですが、不幸な怪我により夢半ばで挫折し、スラム街でのトイレ掃除の仕事に身をやつしながらも、やはりサッカーが忘れられず、その才能を十二分に受け継いだ息子に夢を託す。まさに、このお父さんなしではペレの伝説は誕生しなかったわけですね。

この映画を観た後、ネットでペレについて調べてみたり、Youtubeで彼の往年のプレーを観たりしているうちに関連したサッカーのスーパープレー集なんかの動画を見入ってしまい結構な時間が過ぎていました。シンプルなスポーツだけに奥深いと言うか、今作でもヨーロッパスタイルに対するジンガサッカーみたいな描かれ方をされていましたけれども、こうしてその歴史を紐解いていくと面白いものですね。そして、やはりチームプレーとは言え圧倒した個の力と言うのは存在するようで、その象徴がペレと言うことなのでしょう。

ところで、個人的に今作でおいしかったところがひとつありまして、それはブラジル代表チームを率いるフェオラ監督を演じたビンセント・ドノフリオなのですね。ご存知、『フルメタル・ジャケット』の“微笑みデブ”なのですが、大好きなんですよね、この俳優さん。ちょくちょく良い感じの脇役で出てくるのでその度に、おおっ!となってしまいます。今作でもそのチャームをいかんなく発揮しておりまして、ファッションもすごく可愛いんですよ。しかも、今回は役柄も良い!途中で殺されたりしません。ヨーロッパスタイルのサッカー推しなのですが、やがてジンガサッカーを認め、美しいブラジルサッカーを魅せるんや!とロッカールームで熱く語る、情熱を内に秘めた燃える男を演じておりますのでファンの方は必見です!

ご本人さんもカメオ出演しております。その登場シーンで館内は笑いに包まれました。ぼくも思わず笑ってしまった。

2016年7月10日日曜日

日本で一番悪い奴ら


2016年/日本/135分
監督 白石和彌
原作 稲葉圭昭
脚本 池上純哉
撮影 今井孝博
音楽 安川午朗
出演 綾野剛、YOUNG DAIS、植野行雄、矢吹春奈、瀧内公美、ピエール瀧、中村獅童、白石糸

2013年のマイベストムービーに選出した『凶悪』の白石和彌監督、待望の最新作と言うことで大変楽しみにしておりました。今回は一体どんな作品を「ぶっこんで」くれるのか、浮足立って劇場に足を運んだところ、期待に違わず素晴らしい1本をぶっこんでいただき非常に満足しているところです。今作、『凶悪』と同様、いわゆるクライムムービーなのですが、より一層エンタメ色が強くなっており、笑いどころや泣きどころもふんだん。レイティングはR15+ながら、ぜひご覧いただきたいおススメの傑作となっております。それにしても、今年の邦画はハズレがないですね。

ストーリーのベースとなる「稲葉事件」は、梶本レイコ先生の大傑作BLコミック『コオリオニ』(コチラもBLの枠を超えた、しかしBLでなくては成しえないファンならずとも必読の1冊ですよ)で見知っており、今ちょうど原作となった稲葉圭昭その人による告白本『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』も読んでいるところ。いわゆる汚職警官ものなのですが、朴訥とした北海道の柔道青年が刑事となり、数々の手柄を立て功績を残すさなか、やがて悪事に手を染め果ては覚せい剤に溺れていくまでを時系列に昭和の映画さながら物語っていく運びとなっております。

まず、語られるべきは主演の綾野剛でしょう。第15回ニューヨーク・アジア映画祭でライジング・スター賞を受賞されたとの報が先日入ってきましたが、恐らくは今後、日本においても数々の賞を受賞すると思います。それに相応しい渾身の演技でした。押忍!で世渡りする世間知らずの朴訥とした柔道青年から、ピエール瀧演じる先輩刑事に手解きを受けてヤクザの世界に入り込んでいき、それこそヤクザさながらのルックスと態度でのし上がっていく悪徳ぶり、そして僻地へ飛ばされ覚せい剤に手を染めたその中毒患者っぷりまで演技のグラデーションが素晴らしかったです。初めて、覚せい剤を打った時のリアクションなんか鬼気迫る感じで思わず見入りましたね。あと、個人的には序盤のセックスシーンで後背位でガンガン腰を振りながらの決意表明、ってのが好きでした。

キャスティングもおしなべて良いですよね。ピエール瀧なんか『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のマシュー・マコノヒーを彷彿とさせる贅沢な使い方でしたし、YOUNG DAISとパキスタン人を演じたデニスの槙野行雄のコンビも笑いはもちろん悲哀を感じさせて良かった。中村獅童も真骨頂って感じの役どころです。ただひとつ、TKOの木下はいささかやりすぎかな。「あ、TKOの木下だ」と雑念が入っちゃって、ちょっとテンション下がりました。でも、俳優さんの名前は存じ上げませんが北海道警や税関などの脇を固める面々も非常にそれっぽさがありつつ味のあるお芝居をしていて、うまいなあと感じ入った次第です。

135分と言う長尺ですが、綾野剛の気合の入った演技と、俄かには信じがたい実話を基にしたストーリーがジェットコースターさながらに展開される語り口、そして、タイトル通り日本で一番悪い奴らは誰なのか(悪い「奴」ではありません。悪い「奴ら」なのです)、など飽きさせない作りで一気に観終わり、そして終わった後は何とも苦い味が口に残る、さすが白石和彌監督のぶっこみ具合が最高な出来となっておりますので、ぜひ劇場に足を運んでご覧ください!併せて『コオリオニ』も読んでね。覚せい剤はやめよう!もちろん、銃の不法所持も。

刑事の何たるかを教授中です。曰く、「ぐっちょんぐっちょんになりゃ良いんだよ」。

2016年7月1日金曜日

帰ってきたヒトラー


Er ist Wieder da/2015年/ドイツ/116分
監督 デビッド・ベンド
原作 ティムール・ベルメシュ
脚本 デビッド・ベンド
撮影 ハンノ・レンツ
音楽 エニス・ロトホフ
出演 オリバー・マスッチ、ファビアン・ブッシュ、クリストフ・マリア・ヘルブスト、カーチャ・リーマン、フランツィシカ・ウルフ、ラルス・ルドルフ、トマス・ティーマ

奇しくもイギリスで国民投票によりEU離脱の決が出たその日に鑑賞してきました。イギリスのみならず、もちろんドイツでも、そしてヨーロッパ諸国が移民問題で揺れる最中、このタイミングの鑑賞はまさにタイムリーでホットな体験となりました。予告編を見た限りではスラップスティックなコメディ色の強い作品なのかな、とあたりをつけていましたが、意外や意外、社会派ホラーとも言うべき世にも恐ろしい物語でした。

ヒトラーが現代にタイムスリップしたら、と言う奇抜なアイデアから始まる映画冒頭からクリーニング屋さんでのドタバタなど確かに笑えるエピソードが盛り込まれ、館内のお客さんからも笑い声が漏れていましたが、いざ映画が終わってみるとその笑顔は凍りつき、しんと静まり返ると言う通り一遍の風刺劇を超えた恐ろしさがこみ上げてくる仕上がりとなっております。

一見、ヒトラーが魅力的に、愛くるしささえ覚えるほどの人物に描かれているように感じますし、その弁舌に映画の中の聴衆も、そしてスクリーンのこちら側の観客である我々さえも魅了されるほどです。しかし、やはり彼はぼくが知っている歴史の中のあの“アドルフ・ヒトラー”なのです。彼自身は全くぶれていません。ぶれていくのは我々の方なのですね。一番恐ろしかった台詞は、曰く「私が国民を扇動したのではない。国民が私を選んだのだ」ってやつです。

そして、この映画が恐ろしいのはその普遍性です。まったくドイツに限った話ではなく、欧米諸国はもちろんのこと、遠く離れた我々の住むこの日本でも充分に起こり得る(あるいは実際に起こった)戦争の悲劇、生み出し得るであろう歪んだ英雄である独裁者。今作は人々がいかにしてアジテーションされ、いかにしてナショナリズムが形成され、いかにして独裁者が生み出されていくかを、ものすごく巧みな構成で、ブラックユーモアと痛烈な風刺劇を身にまとい、我々に提示してくれたと思います。

ヒトラーを演じたオリバー・マスッチさん、いささか大柄ですが風貌はもちろんのこと、そのたたずまいから身振り手振りを交えた話しぶり、内に秘める狂気まで孕みつつ、渾身の演技でした。ずいぶんと役作りを研究されたと思いますし、この役を引き受け全うしたその勇気に拍手です。原作は大ベストセラーとなった同名の小説と言うことでこちらもぜひ読んでみたいですね。それにしても、ドイツの方々(に限った話ではないですが)、ワンちゃんが大好きなんですね。ヒトラーも大の犬好きだったようですが…。

随分と似ているなと思ったら、役作りの他に特殊メイクも施しているようですね。

2016年6月24日金曜日

クリーピー 偽りの隣人


2016年/日本/130分
監督 黒沢清
原作 前川裕
脚本 黒沢清、池田千尋
撮影 芦澤明子
音楽 羽深由理
出演 西島秀俊、竹内結子、川口春奈、東出昌大、香川照之、藤野涼子、戸田昌宏、馬場徹、最所美咲、笹野高史

ぼくが黒沢清監督のフィルモグラフィの内、観たことあるのは『リアル~完全なる首長竜の日~』、そして、前田敦子主演の『Seventh Code』の2本だけです。いずれもそこそこ楽しんだのですが、それ以上に黒沢清と言う監督の作家性に触れた記憶が鮮明に残っています。もちろん、なんとなく感触を掴んだ程度のものではありますが。

さて、今作ですが実は鑑賞直後はうーんと頭を抱えてしまいまして。前半から中盤にかけてはその独特なカメラワーク、照明と緻密に計算された演出に「おお、すげえ…不穏だ」とワクワクとゾクゾクの寄せては返す波に揺られて前のめりにスクリーンに入り込んでいたのですが、後半からエンディングに向けてあまりの脚本の破綻ぶりに、また、過積載で捕まること間違いなしの満載の突っ込みどころに頭がくらくらしてしまいまして、かてて加えて何とも後味の悪い結末なだけに、エンドロールが流れ出した瞬間、席を立ってしまったほどでした。

そんな、いらいらともやもやを抱えたまま家路につき、ウィスキーを飲みながらこれはどう感想をしたためたものかと頭を悩ませていたところ、はたと「いやいや、これはスゴイ映画かもしれない」との思いにぶち当たったのですね。一応はミステリーっちゅうかサスペンスホラーみたいなくくりの映画なんですけれど、散りばめられた伏線は回収されないし、謎は謎のまま残ります。人物や人間関係の背景も深くは描かれません。エンディングも「は?」ってなります(ぼくの場合は)。しかし、黒沢清監督はそんなことを説明するつもりはないんだ、そもそも、ストーリーを語ることによって作品を成立させようとはしてないんだ、という所からこの映画は始まると思います。

タイトルの“クリーピー(creepy)”を辞書で引くと「(恐怖・嫌悪などで)ぞくぞくする、ぞっとする、身の毛がよだつ」などとあります。a creepy storyだと「気味の悪い話」ですね。その形容そのもの、形を持たないそのぞっとするさま、それ自体を映像として、映画としてものしようとしたのではないかと考えました。あるいは、ストーリーテラーとしてではなく映像作家としてより際立つ黒沢清監督の資質がいかんなく発揮されたマスターピースとも言えるのではないでしょうか。褒め過ぎかもしれませんし、一つだけはっきりお伝えしておきますが、商業映画として、あるいは娯楽映画として普通の人が普通に観れば酷評されてもやむを得ん仕上がりではあります。あくまで黒沢清監督作品と言う鍵括弧付きの素晴らしさですね。

あと、これはこの映画を観た誰しもが認めるところでしょうが香川照之の怪演が出色でしたね。ぶっちゃけこの不気味な隣人、西野を演じる香川照之ありきの映画であると言っても過言ではありません。主人公の元刑事で現在は大学で犯罪心理学の教鞭をとる高倉を演じる西島秀俊、ぼくは演技するこの俳優さんを今作で初めてまともに拝見したのですが、いささか棒っぽいですよね。その妻を演じる竹内結子も何やら仰々しい芝居でした。しかし、この演技のある種の不自然さも何となく作品が醸し出す不穏な空気とマッチしてそれはそれで良かったです。

ご想像通り、香川照之がサイコパス役なんですが、それはもとより西島秀俊も相当なサイコでしたよ。犯罪心理学者らしからぬ情緒不安定っぷりだし、連続殺人犯のスケールの大きさを例に、さすがアメリカですね!とか嬉々として教壇で語ってるし。竹内結子も「昨日のシチュー余っちゃったんで」とか言って変な透明のどでかいボウルになみなみとシチューをよそって持ってきたりとか。東出昌大が演じる野上刑事の距離の詰め方も怖いものがあります。とにかく出てくる登場人物が程度の差こそあれおしなべて変なんですよ。遠景のショットで背景にモブが映りこむシーンが多々あるんですけれど、それもものすごく不自然かつ変な感じで文字通り気味が悪い。この映画のもう一つの主人公である“家”。無機物であるそれらでさえ奇妙な感じがスクリーンから漂ってきて恐怖を覚えます。

第15回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した前川裕による原作小説の『クリーピー』、こちらもぜひ読んでみたいところです。映画とはストーリーも含めて違うテイストになっているようで、併せて楽しみたいですね。謎はきちんと解明されているのでしょうか。いずれにせよ、今作については賛否両論あるのは間違いないでしょうし、とは言え失敗作、駄作の烙印を押して済ませてしまうのはもったいなさすぎる。手放しで褒めて制作サイドをスポイルしてしまうのではないかとの懸念も覚えますが、黒沢清は一見さんお断りだよ!と突き放してしまうのもいかがなものかと思います。商業映画と作家性のライン際をひた走る黒沢清と言う稀有な映画監督の提示する今現在の邦画がそれこそ世界に通用せんとして放つオーラっちゅうかパワーみたいなものと、そのクオリティを感じるためにもぜひとも観ておいて損はない作品かと思います。

今作が映画出演2本目となる藤野涼子ちゃんの好演が光りました。堂々としたもんです。「あの人、お父さんじゃありません。皆さんおなじみの香川照之です」

2016年6月17日金曜日

デッドプール


Deadpool/2016年/アメリカ/108分
監督 ティム・ミラー
脚本 レット・リース、ポール・ワーニック
撮影 ケン・セング
音楽 トム・ホルケンボルフ
出演 ライアン・レイノルズ、モリーナ・バッカリン、エド・スクレイン、T・J・ミラー、ジーナ・カラーノ、ブリアナ・ヒルデブランド、ステファン・カビチッチ(コロッサス/声)

Twitterのタイムラインをはじめネット上での前評判も賑わしく、いざ公開となるとネタバレめいたものも散見されるようになったため、これはいかん!と早々に劇場に足を運んでIMAX字幕版で鑑賞し、今週のムービーウォッチメンで取り上げられると言うことで、さらに通常字幕版で2回目の鑑賞をしてまいりました。残念ながら都合のつく時間と場所で吹替え版の上映がなかったのでコチラはDVDの発売までお預けとなりますね。吹替え版の出来も上々のようで楽しみにしております。

今作、至極シンプルなストーリーながら時系列をシャッフルして構成されており、観客を飽きさせない作りになっていてまずそこに感心します。そして、低予算をものともせず自虐ネタで嘲笑い、なんと言っても第四の壁(あるシーンでは第十六の壁!)を悠々と超えて小ネタを散りばめしゃべくりまくる型破りなヒーロー、デッドプールの活躍ぶりをたっぷりと楽しみました。ライアン・レイノルズも苦労の末にようやく当たり役と巡り合えて良かったですね。近頃、マーベルやDCとヒーローものを観る機会が多かったのですが、やはり成熟期を迎えてどうしてもシリアスになりがち。そこへ来て、肩ひじ張らずにけらけらと笑いながら安心して観ていられるヒーローの登場はフレッシュでしたね。

1回目の鑑賞の折、劇場に何人かグループの外国の観客の方がいらっしゃいまして、恐らくは映画全般に限らずマーベルに造詣の深い感じだったのですね。それで、やっぱりデッドプールのしゃべくりやら登場する小道具的な小ネタにどっかんどっかんリアクションして爆笑しているわけです。それで、ぼくも良く意味が分からないけれどつられてちょっと遅れたタイミングで爆笑すると言うホットな体験がありまして。あー英語がもっと理解できたらなあ、と思う瞬間でした。ぼくは、デッドプールがコロッサスをボコろうとして逆に手足がバッキバッキに折れちゃうシーンが大爆笑だったのですが、あそこの「Oh...Canada!」(字幕では「カナダかよ!」)ってネタが笑ったけれど意味が分からなかったのですよ。それで、早速ネットで調べてみたら「あーそういうことか」ってなって、Yahoo!知恵袋さまさまでした。

そんな風にして、2回目の鑑賞はあらかじめ1回目で理解できなかったネタや気づけなかったネタなどを予習して臨んだので、また違った意味で面白く鑑賞することができました。これは1回目から分かりましたけれど、リーアム・ニーソン『96時間』ネタは鉄板ですね。この作品以外でもちょいちょいいじられていると思うのですけれど、映画人のリーアム・ニーソン愛を彷彿とさせます。次回作とかカメオで出てくれないかな。そう、今回のヒットでどうやら次回作の制作も決まったようです。今作はいわゆるデッド・プール誕生編と言うことで、108分の尺ながらそこに時間を割くシークエンスが割に長く、また低予算の為、映像的に粗が目立つ部分も確かにあったのですが、次作ではその辺りはクリアするでしょうから、さらに突き抜けたデッドプールを観せてくれるものと思います。

音楽も良かったですね。ぼくは鑑賞後ずっと通勤の時間にDMXの「X Gon' Give It toYa」を聴いています。なんかこう、テンションが上がってきますよね。Wham!の「Careless Whisper」の使い所も最高です。ぼくは音楽には疎いのですが、そっち方面のネタも散りばめられているようですね。でも、音楽に限らず、いろいろな元ネタが理解できなくても十分に楽しめますし、レイティングがR15+とは言え、そこまでどぎついグロ描写もないような気がします。エロネタも大人として充分にニンマリできる範囲なので、たまにはリラックスしてヒーローもの(もちろん、デッドプール曰くラブストーリーとしても)を楽しみたい方は、ぜひアツいうちに劇場でご覧いただくことをオススメします!

エックスゴンギビトゥヤ!ヒゴンギビトゥヤ!このシーン、テンション上がった後の大爆笑があります。

2016年6月9日木曜日

ヒメアノ~ル


2016年/日本/99分
監督 吉田恵輔
原作 古谷実
脚本 吉田恵輔
撮影 志田貴之
音楽 野村卓史
出演 森田剛、濱田岳、佐津川愛美、ムロツヨシ、駒木根隆介、山田真歩、大竹まこと

事前に各方面から主演の森田剛の演技が凄いとの評判を耳目にしており、また原作の古谷実のファンでもあり、漫画版『ヒメアノ~ル』は折に触れ幾度か読み返している大好きな作品と言うことで、公開間もなく劇場に足を運びました。そこで、今週のムービーウォッチメンで取り上げられることになり、こちらに感想をしたためている次第でございます。

なるほど、評判通り森田剛の演技は凄まじいものがありました。直近に観た『ディストラクション・ベイビーズ』(ぼくの感想はコチラ)で柳楽優弥が演じた泰良とはまた違ったベクトルの暴力性を、圧倒的な絶望すら感じさせる負の演技でスクリーンに表出させます。壮絶ないじめを受けた末、その相手を殺害することによって得た、まさに今作のポスターに書かれたキャッチコピー「めんどくさいから殺していい?」の言葉通りの倫理観でもって次々と自分の前に立ち塞がる障害物を排除していく。いわばモンスターとも言える殺人鬼を、ステレオタイプに描かれがちなサイコパスやシリアルキラー像とは異なるアプローチで演じています。

また、この森田剛の演技をより際立たせるのが脇を固める濱田岳、ムロツヨシ、佐津川愛美の明暗を行ったり来たりする芝居。映画の途中、「え?ここで!?」と言う絶妙なタイミングで『ヒメアノ~ル』のタイトルが出てくるんですが、お話しはざっくり言ってコメディタッチなほのぼの恋愛パートと、森田剛が本領を発揮するシリアス殺人パートを行き来しつつ後半からエンディングに向かって「ど」が付くほどのシリアスな展開に収束していくんですね。それで、濱田岳と佐津川愛美のご都合主義的お付き合いのいちゃいちゃやムロツヨシ演じる安藤さんの原作通りにぶっとんだこじらせっぷりやらの陽の部分が照らす影として徐々に闇に巻き込まれていく三人の演技が非常に効果的で、より今作で語られる普通の中の異常っちゅうか普遍的な闇みたいな、それって全部地続きなんだよねと言う恐怖を感じることができる仕掛けになっていると思います。

もちろん原作と異なる部分、設定はありますが99分と言う頃合いの尺の中で、そのクオリティを損ねることなく、普遍性を持たせたテーマで収めきった監督の吉田恵輔の手腕は見事だと思いますし、脚本も手がけられているようでそこも含めて大変に完成度が高い作品だと思います。ぼくはこの監督の『ばしゃ馬さんとビッグマウス』が大の苦手で、当時ムービーウォッチメンに投稿したメールでも酷評した覚えがあるのですが、この時に感じた吉田恵輔監督の演出における生理的嫌悪感みたいなものが今作ではすごく刺さったと言うかマッチしていたようで、割にぼやかさずにズバッと描き切る底意地の悪さがうまくハマりました。なので、もちろん鑑賞していて居心地の悪さ満載なんですけれど、中途半端な感じにはならず、しっかりと嫌な気分にさせてくれます。

ラストのエピソード、これも原作とは全く違った解釈の中で描かれるのですが、森田剛が放つたった1行の台詞で衝撃が体を走り、思いもよらず号泣すると言うシロモノ。もちろん、そこに救いも希望もないのですが、なんとも切ない感情が心をよぎります。せ、切ない…。吉田恵輔監督の意地悪さと優しさが共存して発揮される瞬間ですね。かように鑑賞中、様々なエモーションを引き出してくれる今作ですがそれもこれも全て地続き、「普通さ」と言うのはこんなにも危ういものなんだよ、と改めて示唆してくれる傑作でございました。

これまた、『ズートピア』みたいな感じで人にお勧めするのは憚られますが、森田剛の演技を含め今の邦画が為し得るものづくりのひとつの到達点みたいなものをしっかりとその目で捉えていただく為にもぜひ観て頂きたい作品ではあります。レイティングがR15+なだけあってそれなりのシーンは多々ございますので、くれぐれもそこはご留意ください。あ、『アイアムアヒーロー』に続き藤原カクセイさんの仕事も拝見できますよ!

佐津川愛美ちゃん、古谷実的ヒロイン像をしっかりと可愛く演じています(R15+ならではのシーンもあり)。

2016年6月3日金曜日

シビル・ウォー キャプテン・アメリカ


Captain America Civil War/2016年/アメリカ/148分
監督 アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ
脚本 クリストファー・マルクス、スティーブン・マクフィーリー
撮影 トレント・オパロック
音楽 ヘンリー・ジャックマン
出演 クリス・エバンス、ロバート・ダウニー・Jr、スカーレット・ヨハンソン、セバスチャン・スタン、アンソニー・マッキー、ドン・チードル、ジェレミー・レナー、ポール・ベタニー、エリザベス・オルセン、ポール・ラッド、トム・ホランド、ウィリアム・ハート、マーティン・フリーマン、マリサ・トメイ

「MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)」の新作か!これは観ておかなくては、と公開間もなく勇んで劇場に足を運んだのですが、映画自体は楽しめたものの、よくよく考えたらこれ「キャプテン・アメリカ」の三作目なんですよね。なんとなく「アベンジャーズ」の最新作のつもりで観に行ってしまったので、「キャプテン・アメリカ」シリーズを観たことがないぼくにとっては、今一つお話が良く分からん!と言う結果になってしまいました。そこで、今週のムービーウォッチメンで取り上げられると言うこともあり、Amazonビデオで『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』の過去2作を鑑賞の上、改めて劇場で2度目の鑑賞と相成りました。

結果的には、初見の時には得られなかった「お、それな」感をよりたくさん感じることができ、物語を深く楽しむことができて予習の甲斐があったというものでした。だいたい、冒頭から登場するバッキー(ウィンター・ソルジャー)すら「え、だれお前?」と言う体たらくでしたしね。とは言え、『アントマン』『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』など直近のマーベル作品は結構な割合で観ているため、1回目の鑑賞も「お、それな」感は多少なりともあったのですけれど。つまりですね、今作については予習は必須!と言うことだと思います。映画それ自体の持つパワーでいきなりこれから観始めても人によっては充分にエンジョイできる作品ではありましょうが、やはり予備知識を入れておいた方が更に楽しめることは間違いないでしょう。

お話は、直近に鑑賞した『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』ぼくの感想はコチラ)と通じるところがあって、巨悪に立ち向かう正義の戦いのさなか、人がめっちゃ死んでんねんで!と言う。やはり昨今のヒーローものはそこは避けて通れないテーマになっていますね。何が正義で、何が悪なのか。正義を為すとは、みたいな感じですかね。今作も終わってみればすごくパーソナルな復讐譚であり、世界の秩序を保つことの困難さ、強大な力をもった者の身の置き所の難しさなどが描かれています。

今作のいわゆる“サビ”の部分は、空港でのキャプテン・アメリカとアイアンマンを筆頭としたアベンジャーズのまさに“シビル・ウォー”の部分だと思いますが、ユーモアがここにギュッと凝縮されていて観ていて楽しいんですよね。ここでは書きませんが某ヒーローの「大ネタ」も仕込まれていて、館内も笑いに包まれていました。それで、巧いと思ったのがここに至るまでのAメロ、Bメロのパートなんです。シリアス→ほんのちょこっとユーモア→サビでどかーん!みたいな、それでまた締めに向かってぐぐっとシリアス、そしてオチで魅せる、と構成が非常に良くできていて、これは脚本の素晴らしさでしょう。

もう一つ、監督であるアンソニーとジョーのルッソ兄弟、アクションの撮り方が見事です。アクションのアイデアからカット割り、カメラワークと巧みでテンポも良い。これぞ、アクション映画って感じでスカッと感がありますね。お話が分からなくてもある程度面白いと感じるならばまさにこのアクションシーンの数々がその最たる所以だと思います。ぼくは、キャプテン・アメリカ、ブラック・パンサー、ウィンター・ソルジャーの三つ巴の追走劇が緊張感と迫力があり好きでしたね。もちろん、空港でのアベンジャーズ、ヒーローそれぞれの特色を活かした闘争シークエンスは言うまでもないですが。

次は、新星トム・ホランドくんがタイトル・ロールを演じる『スパイダーマン:ホームカミング』ですかね。なかなかにカワイイ俳優さんでまた違ったスパイダーマン像をスクリーンで披露してくれるであろうと楽しみにしております。今作でもちょこっと登場しますが、マリサ・トメイ(プライベートでは、ロバート・ダウニー・Jrの元カノ)のメイおばさんが今までにない美熟女ぶりを醸し出しておりこちらも期待できるところです。

衝撃の“新”メイおばさん。えろいです。

2016年5月28日土曜日

ディストラクション・ベイビーズ


2016年/日本/108分
監督 真利子哲也
脚本 真利子哲也、喜安浩平
撮影 佐々木靖之
音楽 向井秀徳
出演 柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎、池松壮亮、北村匠海、三浦誠己、でんでん

昔から旬のものを食べると寿命が75日延びるとか言いますよね。今の時期なら初鰹をきりりと冷えた日本酒をキュッとやりながら頂きたいところです。今作、まさに今しか観ることができないであろう、現在の邦画界を背負って立つ若手俳優の旬の演技をたっぷりと美味しく頂戴できる傑作となっております

わけても主演の柳楽優弥。わずか14歳でカンヌ国際映画祭男優賞を受賞した是枝裕和監督『誰も知らない』での主演から早12年余り、紆余曲折を経つつもその存在感と卓越した演技力で最近は多数の作品に出演しておりますが、今作においても言わば神懸かり的な演技で観客の目を捉えて離しません。作品を通して台詞はほんの数行でしょう。しかし、ほとばしるエネルギーとカリスマティックな存在感、まとわりつくようでありながらもキレのあるアクションで大変に説得力があり、彼なしではこの作品たり得なかったと言っても過言ではないと思います。

そして、菅田将暉くんの相変わらずの役者ぶり。うまいんですよねえ。最低のクズ男を演じているのですが、これが本当に観ているこちらが心底胸が悪くなるほどのクズっぷりで、こいつ殺してやりたい!死ねばよいのに!と思うほどそちら方面に感情移入させてくれます。序盤、キュートな感じで出てくるのでなおさらですね。もちろん、彼も柳楽優弥演じる芦原の狂気に取り込まれて(あるいは内なる狂気を引き出されて)セルフコントロールを失ってしまう、いわゆる自我が形成されていない不幸な若者の一人ではあるのですが。

もう一人、紅一点の小松奈菜なんですが、ぼくが彼女をスクリーンで拝見する折にはだいたいが人工的な美少女と言うそのルックスに依って立つ役どころだったのです。すんごい綺麗だし魅力的なのですがイマイチ面白味に欠けるな、と言うのが今までの印象でした。ところが今作の那奈役、明らかに一皮剥けたというかワンランクステージが上がったお芝居を見せてくれました。すごく人間臭い、人間味のある演技で、内に秘めた邪悪さと爆発する激しい野生の両面を文字通り身体を擲つように演じています。この女優さんに対する評価がものすごく高まった一本でもありました。

映画はありていに言って暴力を描いています。と言うか、ほぼそれ以外何も描いていません(そのタイトルを彷彿とさせる村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』でモチーフとなる兄弟愛はほんのりベースにありますが)。オチもありませんし、さしたるドライブもしません。全編を路上でのファイトシーンが占めますが、カタルシスを得られるかどうかは人によるでしょう。ぼくは、向井秀徳が唄う主題歌が流れるエンドロールを眺めながらふと深い悲しみに襲われました。そう、音楽は向井秀徳が担当しているのですが、冒頭のノイジーなギターリフから始まり、なかなか格好良くてしびれましたよ。

ファイトシーンについてですが、いわゆる昨今のスポーツアクション的なものではなく、路上で素人の殴り合い見かけたらあんなのなんだろうなあと言うリアルさがあります。人を殴打したり蹴ったりする際の効果音もペチッとかビシッみたいに割にマジで痛そうな感じ(本当に当ててるのかなと思っちゃいます)で、カメラも遠景で俯瞰的に撮っているのですごい目撃者感がありそういう意味でも新しい暴力描写の発見みたいな手応えはありました。個人的には初めて北野武の映画に触れた時のような衝撃かもしれません。

『ズートピア』みたいな感じで人に勧めるのは憚られますが、まあ俳優陣の旬の演技が観たい、あるいは現在語られ得る青春群像劇の一つの形を捉えておきたい、または単なる向井秀徳ファン、みたいな人はぜひ劇場へ足を運んでご覧になったほうが良いと思います。賛否両論あるでしょうが、ぼくは非常に好みの作品でしたね。あ、ちなみにぼくは街でストリートファイトを見かけたら(あるいは仕掛けられたら)、100メートル10秒台で走って逃げるタイプです、悪しからず。

池松っつあんもチョイ役で出演しています。

2016年5月18日水曜日

アイアムアヒーロー


2016年/日本/127分
監督 佐藤信介
原作 花沢健吾
脚本 野木亜紀子
撮影監督 河津太郎
特撮 神谷誠
特殊メイク、特殊造形統括 藤原カクセイ
音楽プロデューサー 志田博英
音楽 Nima Fakhrara
音楽コーディネーター 杉田寿宏
出演 大泉洋、有村架純、長澤まさみ、吉沢悠、岡田義徳、片瀬那奈、片桐仁、マキタスポーツ、塚地武雄、徳井優、風間トオル

原作は随分前に途中まで読んで、そのままですね。ちょうど、今作の後半のメイン舞台となるショッピングモールのパートの導入部の辺りだったと思います。ですので、そこそこの先入観を持ちつつ映画に臨みましたが、違和感なく物語に入っていきつつそれなりに楽しんで鑑賞を終えることが出来ました。

ただ、手放しで面白かったと言うわけでもなく、前半こそ引き込まれたものの後半はいささか首を捻り、終わってみればうーんもうちょっと面白くなったんじゃないかな、惜しい!と言うのが正直な感想でございます。ぼくは、さほどゾンビ映画に造詣も深くなくこの手のジャンルが得意と言うわけでもなし、また、いわゆるグロ描写もどちらかと言うと苦手なたちなので、ゾンビ映画としてこの作品のどうこうっちゅうのを語ることはできません。また、邦画としては出色な出来であろうその人体破壊描写の数々も「うへえ、すげえ」とは思ったものの、ああいうのもあれですね見慣れちゃうものですね。

淡々とした日常が徐々に壊れていく冒頭から、高速道路上で大クラッシュが巻き起こるまでの前半部分は、これは面白くなりそうだ!と思ったんですよね(漫画もここらへんまでが面白い記憶です)。ZQNと化した片瀬那奈のありえない関節可動域の奇々怪々とした動きとかもすごい良かったですし、塚地武雄のキレっぷりも相変わらず良し、久方ぶりに拝顔した風間トオルもこのオファーを受けるとはさすが!と笑えました。さて、と腰を据え直して向かった後半戦がグッとこなかったのです。

ショッピングモールでのゾンビさんたちは前半の元気いっぱいに走り回ったりするZQN群とは異なり、一様にいわゆるゾンビ然とした動きで間の抜けた感じ。もうひとつ緊迫感がないのですよね。有村架純や長澤まさみの演じるキャラクターの肉付けもイマイチで、魅力的には思えませんでした。ラスボス戦で有村架純が発動か!と思いきや…と言ういささか肩すかしな展開で、あんまり話に収まりきってない感じをぼくは覚えました。エンディングはゾンビ映画あるあるであの引きの感じでオーケーでしょうけれど、もしかして続編があるのかな。だとすると、そこで色々と腑に落ちるところもあるかもしれません。

きちんと作り込まれた良質なゾンビ映画であることは間違いないでしょうし、ショットガンの所作とかを含めてビジュアルの映画的リアリティは素晴らしいものがあると思います。ぼくとしては原作付きと言う嫌いはあるにせよ、もうちょっと一本の映画としてカタルシスを味わえる脚本っちゅうかお話の作り込みが欲しかったかなと言うところです。でも、これ邦画のゾンビ映画史のなかでエポックメイキングな作品として残るのかな。そこのところはぜひお好きな方の感想を聞いてみたいものです。

大泉洋はハマり役です。ちゃんと“英雄”してました。

ちはやふる 下の句


2016年/日本/103分
監督 小泉徳宏
原作 末次由紀
脚本 小泉徳宏
撮影 柳田裕男
音楽 横山克
主題歌 Perfume
出演 広瀬すず、野村周平、真剣佑、上白石萌音、矢本悠馬、森永悠希、松岡茉優、松田美由紀、國村隼

『ちはやふる 上の句』ぼくの感想はコチラを思いもよらず、と言った感で楽しんだ為、今作も「また、あいつらに会える!」と心待ちにしており、公開間もなく劇場に駆けつけ鑑賞しました。そして、今週のムービーウォッチメンで取り上げられると言うことで、念押しとばかりに二度目の鑑賞と相成りました。初見は再び“あいつら”に会えた喜びやら、懐かしみやらで冒頭からうるうるとし、真剣佑演じる新の“気づき”のシークエンスで涙腺決壊、上映後、館内の明かりが灯るとハンカチで目頭を押さえたおっさんが一人、と言った構図でしたが、二度目の鑑賞はあらかじめハンカチも手元に用意し、余裕を持ってスクリーンに対峙することが出来ましたよ。泣きましたけど。

なるほど“上の句”はそれ一本でひとつの作品足り得るカタルシスがあり、単品としての完成度も十二分であったのに対し、今作はあくまで二部作の後編、“上の句”あっての“下の句”とはなっております。テーマとしても競技かるたにおいての勝敗に重きを置くよりは、「自分にとってのかるたとは何か」と言うところに焦点を当てていますので、勝った負けたのスポ根ものとしての落しは弱いでしょう。しかし、これ“上の句”からうまいこと引き継いで、よりひとつの大きなふくらみを持たせた青春ものの金字塔として実に見事に結実しているとぼくは思います。

上述のようにテーマとして自分にとってのかるたとは何か、すなわち自分とは何かと言う若者にとって普遍的なアイデンティティの問題に着眼し、独りじゃないんだ、仲間がいるんだ、といわゆる絆、つながりと言うものを殊更強調しています。つまり、青春まっしぐらなんですね。衒いがない、うすら寒くもない、どこに出しても恥ずかしくない立派な王道青春ストーリーです。そこにおじさんは好感を持ち、涙したんでしょうね。ああ、ぼくにもこんな時があったなあ…と、間違いなくぼくの人生でそんなことは一瞬たりともなかったのですが、そんな錯覚すら起させると言う。

そして、この“下の句”の出来を下支えしたのは間違いなく、かるたクイーンである若宮詩暢を演じた松岡茉優ですね。傑出した演技で、どこからどう見ても「かるたクイーン」然としていました。ゆるキャラに目を奪われたり、ださいジャージ姿のギャップも効いてその異彩ぶりを際立たせていました。ぼく、実は初めてこの女優さんを拝見したのですが関西の方なのですかね。京都弁も巧みでしたし、ほんとミリ単位で顔や声の表情をコントロールしていましたよ。千早との最後の会話「また、かるたしようね!」「…つ…」「え?」「…いつや?」のくだりは良かったですねえ。凄い女優さんです。

もう一人、この“下の句”で物語を引っ張るのが新ですね。真剣佑くん。綺麗な顔立ちで、内に秘めるパッションを抑制しつつミニマムな所作と台詞で演じており、大変好感を持ちました。終盤、千早vs詩暢の個人戦を観戦しながらやり取りされる國村隼演じる原田先生との一連のシークエンス、真剣佑くんも号泣ですが、ぼくも号泣ですよ。目玉がもげるかと思いました。そしてラスト、太一と対峙するシーン、最高でしたね!あれをちょっと物真似したいので誰か見て頂けるとありがたいのですが。

今回は広瀬すずさんについて言及していませんが、もちろん彼女の演じる千早あってこその“ちはやふる”ですよ。もう一点、思ったのですがこの監督、アクションシーンを撮るのがすごく上手いんじゃないかな、と。ちょっと競技かるたのと言う括弧付きなので断言はできませんが、カット割りやら編集の繋ぎ方、スローモーションの使い所などが良い按配で、ひとつこの監督でアクション映画を一本観てみたいなとも思ったりしております。とにもかくにも、続編の制作も決定!と言うことで、喜ばしい限りですね。また、あいつらに会える!と今から楽しみにしております。

「安西先生…!かるたがしたいです…」(※そんなシーンはありません)

2016年5月4日水曜日

ズートピア


Zootpia/2016年/アメリカ/109分
監督 バイロン・ハワード、リッチ・ムーア
脚本 ジャレッド・ブッシュ、フィル・ジョンストン
製作 クラーク・スペンサー
製作総指揮 ジョン・ラセター
音楽 マイケル・ジアッキノ
主題歌 シャキーラ
日本語版主題歌 Dream Ami
声の出演(日本語吹き替え版) 上戸彩、森川智之、三宅健太、高橋茂雄、玄田哲章、竹内順子、Dream Ami、芋洗坂係長

しゅごい、ディズニーしゅごい。最高に面白かったので、皆さん今すぐこの画面をそっと閉じて映画館へ向かうことをお勧めします。現場からは以上です。

レオナルド・ダ・ヴィンチは言いました、「芸術に決して完成という事はない。途中で見切りをつけたものがあるだけだ」と。ぼくはこれをポジティブに捉えていますが、その意味で、まさにこの作品にこそ相応しい言葉と言えるでしょう。アニメーションとしての技術的な完成度の高さはもちろん、脚本の素晴らしさ、そのテーマ性の深遠さ、なおかつこの物語は決してここで終わりではなく、提示される様々なエレメントは我々のみならず、ネクストジェネレーションに受け継がれ、語り継がれていくべきものであるはずです。

映画は肉食動物と草食動物という極めて限定された生物が共存する(共存しようとする:ズートピア)世界をメタフィジカルに描くことで、アメリカの歩んできた歴史から現代のアメリカが抱える非常にシリアスでセンシティブな問題を取り扱っています。人間を動物に置き換えて、と言うと日本人にはお馴染みの漫画の原点とも言われる「鳥獣戯画」が思い浮かぶと思います。つまりは風刺なのですが、ともすれば浅薄になりがちなこの手法を驚くべきテクノロジーと熟慮されたプロット及びシナリオで、そして、ここが一番しゅごいところなのですが「めちゃんこ、面白く」娯楽性たっぷりに仕上げているのです。

とかく、こういう類の映画を観ると感想が「しゅごい」「面白い」「きゃわいい」とボキャブラリーが貧困になりがちですが、それで全然良いと思います。少なくともある程度の言葉が理解できる年頃(小学生ぐらいでしょうか)からお年寄りまで、人種問わず幅広い年齢の層の方々にご覧いただいて、それぞれの思いを胸にしてほしいものと思います。それくらい、各キャラクターに魅力が溢れていますし、アニメーションとしての説得力に優れています。

世界と言うのは「みんなちがって、みんないい」by金子みすゞ、で成り立っているべきですが、当たり前のことだけれど、そうではないという社会の現実の壁に誰でも突き当たりますよね。そう言う社会の成り立ちを教示しつつも、諦めないでやっていくのよ、Try Everythingと映画は語っています。この映画を観て「魔法も出てこないし、奇跡も起こらない。夢も希望もないじゃないか、子供にはリアルすぎるよ」という向きもあるかもしれません。でも、あなたが思っているよりも子供はもっと賢いものかもしれません。残念ながらぼくには子供はいませんが、もし子供がいたなら、『ベイマックス』然り、『インサイド・ヘッド』然り、こここのところのディズニー映画含めて、今作は是非一緒に観ておきたい、そんな作品です。

ジュディとニックのバディムービーとして続編にも大きく期待したいところですし、副市長(後に市長)のヒツジの彼女、ドーン・ベルウェザーこそ今作の肝要なキャラクターとしてもっと語りたいところではありますが、いかんせん激しくネタバレしてしまうものでして、どうぞ皆さん、映画館へ足をお運びください。ぼくの住んでいる地方では吹き替え版しか選択肢がないのが残念なところではありますが(上戸彩さんを始め、声優陣は良かったですよ)、コチラはDVDの発売を待つところとなりそうです。あーっ!ナマケモノのフラッシュ、サイコーです!これだけでも観に行く価値ありかも!

『ゴッドファーザー』ネタは大好きなだけに、たまらなくツボでした。でも、結局裏社会に頼らざるを得ないと言う矛盾も孕み…そこも見所ではあります。

2016年4月30日土曜日

太陽


監督 入江悠
原作 前川知大
脚本 入江悠、前川知大
撮影 近藤龍人
音楽 林祐介
出演 神木隆之介、門脇麦、古川雄輝、綾田俊樹、水田航生、高橋和也、森口瑤子、村上淳、中村優子、鶴見辰吾、古舘寛治

公開から一週間、レイトショーとは言えゴールデンウィーク初日の祝日で客入りはぼくを除いて数人、一抹の寂しさと不安を胸に鑑賞に臨みましたが…ごめんなさい!ぜんぜんダメでした!大変に意欲的な作品であり、今をときめく撮影の近藤龍人さんの技量も存分に発揮され、演者さん達の熱の入れようもひしひしと伝わっては来たのですが、いかんせんぼくの苦手とするタイプの一本であり相性が悪かったようです。

そもそも、ぼくは舞台演劇が苦手なのですね。それに限らずライブパフォーマンス(コンサートもダメ)というものをほとんど受け付けないのです。それで、この作品は「イキウメ」を主宰する劇作家であり演出家の前川知大の同名の戯曲の映画化なのですが、映画それ自体、かなり意図的に舞台演劇に寄せて作られています。舞台と言うのは固定された空間で行われる為、記号的なセットが組まれて、ビジュアル的には観客の想像に委ねるところが大きくなり、演技についても大仰に、よりビビットに伝わるお芝居でなければならんでしょう。片や、映画の場合は(バジェットやテクノロジーの問題はあるにせよ)それとは逆の視点で映像的にも演技の面でも自由度が高くなると思います。ぼくはより映画的な映画の方が好みなんだと言うことでしょう。うまく説明できませんが。

近未来の日本が舞台となっており、「ノクス」と「キュリオ」と言う異なる階層社会とそこに暮らす人々を描いているのですが、それ分断する関所みたいなところに門扉があるんです。その門扉が開いたり閉まったりするときにゴゴゴガガガ…と結構重々しい音がするのですが、門そのものの見立ては金網のフェンスくらいのちゃちさで、すーっと開閉するのでぜんぜんマッチしてないのです。その脇には電話ボックスみたいな番所があるのですがそれもちゃちい。中にあるパネルみたいなのをタッチするとピポピポと音がするんですが、それもダサい。ワーゲンビートルみたいな車が走るとシュィーンと音がしてそれもまたダサい。病院の手術室とか、あの手術そのものの描写とかもダサい。“モルダウ”の使い方もダサい。要は今作で描写される近未来感みたいなのが全てダサく感じられてしまって全然お話に没入できないのです。

村上淳が演じる克哉が何をしたかったのかも良く分からんです。冒頭、えらい事件を起こして四国に逃げ、十年後に舞い戻ったかと思いきや突然、モトクロスバイクで門扉のある場所に現れてひと暴れ、走り去って次のシークエンスではまた突然現れたものの村人に寄ってたかって嬲り殺しにされると言う体たらく。ちなみに、このシーンは入江悠監督らしく長回しで撮影され、その画面に溢れる情報量から今作の白眉とも言える名場面なのですが、ぼくは滑稽にすら感じてしまい、「お前たち、一体何をやっているんだ」と小一時間お説教したくなりました。

ぼくが小学生の頃、部活動でサッカーを始めたのですが、コーチである教師が何度も「ボールに集まるんじゃない!」と注意していました。もっとコートをワイドに使えと。この映画を観ながらそんな事を思い出しました。世界規模、人類全体のお話なのに、とあるコミューンとコミューンの小競り合いくらいにしか見えないんですよ。説明すべきでないところを台詞で説明し、逆に説明すべきエピソードをぽんっと放り投げちゃってる、そんな印象で、ぼくは率直にこれは舞台で観劇するか、あるいは小説で読んだ方がグッとくるだろうな、と感じちゃいました。

とは言え、おそらくは今作でぼくが違和感を覚えた、あるいは突っ込みどころと感じた部分は入江監督が意図的にやっていることだろうと思います。観る人が観れば、あるいは僕以外の鑑賞者の大半が素晴らしい作品だとの感想を持ったかもしれない。そうなってくると、単純にぼくにある種の感受性が欠落しているのだと言う結論になって「つまんないって思う、お前がつまんないんだ!」と無限鬱ループにハマり、ダークサイドへと落ち込んでいくのです。ただ、ラストのシークエンス、雪が舞い散る橋のシーンの後に画面変わって、小春日和のススキ野原とかおかしいと思うけどなあ。一年経ったのかな。ぶつぶつ…。

神木きゅんありきの映画とも言えます。門脇麦ちゃんも頑張ってました。