2016年9月2日金曜日

後妻業の女


2016年/日本/128分
監督 鶴橋康夫
原作 黒川博行
脚本 鶴橋康夫
撮影 柳島克己
音楽 羽岡佳
出演 大竹しのぶ、豊川悦司、尾野真千子、長谷川京子、水川あさみ、風間俊介、余貴美子、ミムラ、松尾諭、森本レオ、伊武雅刀、泉谷しげる、柄本明、笑福亭釣瓶、津川雅彦、永瀬正敏

「○○の女」と言うと、もちろん伊丹十三監督の『マルサの女』に始まる一連の作品を思い起こしますが、それにオマージュを捧げたであろう今作、予告編を幾度か目にしており、なかなかに面白そうだなと思っていたところへ、今週のムービーウォッチメンで取り上げられることとなり劇場に足を運んだ次第です。結論から申し上げますと、面白かったちゃあ、面白かったですけれど何だか中途半端な仕上がりと言うか…ちょっともったいない感じの出来でして、伊丹十三監督の再来ならず!と言ったところです。

俳優陣は総じて素晴らしかったです。今作は大竹しのぶありき、と言う側面もあり、その怪演ぶりはさすが。ただ、気になったのが大竹しのぶに限らず、ネィティブの関西人でない役者さんが喋る関西弁の違和感ですね。ぼくは学生時代を兵庫県は神戸市で過ごしており、広義の関西弁を生で耳にしていたため、やっぱりそのイントネーションを奇異に感じて、そこで「ちゃうやろ」といちいち冷めちゃうんですよね。もうちょっとその部分を丁寧に演出してほしかったですね。

それでも、大竹しのぶはあの独特のファルセットボイスと台詞回しで多少の違和感もひっくり返して持ってっちゃう力量は見事でした。彼女のチャームで映画がぐいぐいと引っ張られていく感じは充分にありましたね。尾野真千子との場末の焼肉屋でのぬるーいキャットファイトも笑いを誘いましたし、銀行相手に病床の夫の預金を解約させろと芝居を打つ、丁々発止のくだりも迫力がありました。結構な豪華キャストがちょいちょいと脇で出演しているのですが、ぼくは柄本明の動物病院のモグリ医者が好きでしたね。

お話は全体を通してブラックなコメディタッチで描かれ、128分と言うそこそこの長尺ながら、展開も早く、確かに退屈はしないんですけれど、後半に行くにしたがっていささかグズグズになっていく感はあります。特にラストは一応の因果応報的な締めくくりではあるんですけれど、何かスッキリしないと言うか今一つカタルシスを得られないんですよね。永瀬正敏演じる探偵がクズっぷりを発揮してからの間延び感や急に拳銃が出てきたり、トヨエツの暴かれた過去での暴力性のトーンがそれまでのコメディ部分との喰い合わせが悪く、アンバランスな感じも受けました。また、ちょくちょくお色気シーンがあるのですが、これがいかにもサービスショット的でとってつけたような印象を与えるんですよね。

とにもかくにも、伊丹十三監督の「○○の女」に比べると、今一つ骨太感が足りない感じで、うーん、もうちょっと面白くなったはずなのになあ、なんて考えてしましまいます。ところで、舞台は夏の場面が多いのですが鑑賞中、撮影が良いなあと思っていて、エンドロールでクレジットを見たところ、ご贔屓の柳島克己でした。さすが、夏のシーンを撮らせたら現在の邦画界でこの人の右に出る撮影監督はいないのではないでしょうか。これは嬉しいめっけものでした。

しかし、“後妻業”と言うこの題材、ぼくは遺す資産も雀の涙ほどすらない、しがない中間管理職なので関係ないっちゃないのですが、四十路を超えた独身男性として考えさせられるものはあります。水川あさみや樋井明日香ちゃんが演じた北新地のホステスとトヨエツの駆け引きなども含めてですね。今のところ結婚相談所にお世話になるつもりはないですし、キャバクラなんかの夜遊びも避けて通っていますが、思わず「傾城の恋は誠の恋ならで 金持ってこいが本の恋なり」と言う文句を思い出してうすら寒くなってしまいます。

場末の焼肉屋での若干温めなキャットファイト。最後は両者疲れ果てペチペチやってます。

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