2016年1月28日木曜日

ブリッジ・オブ・スパイ


Bridge of Spies/2015年/アメリカ/142分
監督 スティーブン・スピルバーグ
脚本 マット・シャルマン、イーサン・コーエン、ジョエル・コーエン
撮影 ヤヌス・カミンスキー
音楽 トーマス・ニューマン
出演 トム・ハンクス、マーク・ライランス、スコット・シェパード、エイミー・ライアン、セバスチャン・コッホ、アラン・アルダ

鑑賞し終えてから知ったのですが、上映時間142分と長尺だったんですね。全然、そんな実感は無く、その辺りはやはりスティーブン・スピルバーグ監督のカットバックの技術と話運びの巧みさ所以でしょうか。こういう作品をきっちりエンターテインメントとして魅せる腕前はさすがです。

名匠、ヤヌス・カミンスキーによる撮影も相変わらず素晴らしかったですね。特に東ドイツを舞台とした一連のシークエンスは荒涼感と緊迫感が際立ち、思わずスクリーンに引き込まれます。お話し的にも、このパートが一番サスペンスフルで好きでした。建設中のベルリンの壁なんて絵面はこれまでお目にかかったことが無かったので興味深かったですし、トム・ハンクス演じる主人公のドノバンやアメリカ人留学生が迷い込んだ、こちらの意思が全く通じないカフカ的な世界がひりひりと描かれていて、力が入りました。

ところで、今作のメインストーリーである人質となったスパイの交換劇、史実に着想を得た物語であるという仕方のない部分はありますが、あんまりスリルっちゅうかサスペンスっちゅうかドキドキハラハラの緊張感がぼくには感じられませんでして、何だか演じるトム・ハンクスならではの人柄の良さでとんとん拍子に話が進んで行ってドノバンの思惑通りに事が運んだなあ、良かった良かったと言う次第で、イマイチ乗りきれませんでした。ドノバンにしてもコートを盗られて風邪引いたぐらいしか実害無いですしね。そんなに大した交渉事じゃないよな、と(もちろん、ぼくには無理ですが。寒いのも、面倒くさいネゴも苦手なので)。

でも、やっぱりこの作品を「傑作」と言ってしまうことについては何の異論もありません。トム・ハンクスを主演に迎え、脚本はコーエン兄弟(オフビートな笑いが遠慮がちに忍び込ませてありました)、撮影はおなじみカミンスキーでスピルバーグが監督とくれば逆に面白くないわけがないでしょう。ぼくとしてはメインストーリーへの乗れなさからスピルバーグの過去のフィルモグラフィと比して手放しで絶賛と言うわけにはいきませんが、素晴らしい作品であることは間違いないと思います。

キャスティングも大変に良いのですが、ソ連のスパイであるルドルフ・アベルを演じたマーク・ライランスが出色です。市井の人に紛れて秘密裡に行動しなければいけないスパイをいかにもらしくない凡庸な風貌でありながら、非常に存在感がある卓越した演技で複雑な人物像を表現していました。ぼくは初見の俳優さんなのですが英国では高名な方のようですね。

ラストのいわゆる“ブリッジ・オブ・スパイ”のシークエンスでアベルが「私をハグして迎えたらどうのこうの、黙って車の後部座席に乗せたらどうのこうの」と言って別れ、彼を見つめるドノバンの表情や目に寂寥と悲哀のようなものが漂っていた(と、ぼくは感じた)為、この後、彼は非業の最期を迎えるのだろうな、と思っていたら画面が暗転してからの字幕で「奥さんや子供と余生をのんびり過ごしました」的なことが記されていたので胸をなでおろすとともに、若干頭の中をクエスチョンマークが通り過ぎました。

あと、ベルリンの壁を超えようとして銃殺される若者たちと無邪気にフェンスを越えて遊ぶ子供たちを対比させたシーンは名場面でした。じんわりと胸が熱くなりましたよ。冷戦であれ何であれ、そんなものはさっさと終わらせて、平和が一番!子供たちがたくさんご飯を食べて無邪気に遊べる世界、それが真に正しい世界のあり方です。

この後、コートをパクられて風邪を引きます。とんだ災難ですね。

2016年1月22日金曜日

ピンクとグレー


2015年/日本/119分
監督 行定勲
原作 加藤シゲアキ
脚本 蓬莱竜太、行定勲
撮影 今井孝博
音楽 半野喜弘
主題歌 ASIAN KUNG-FU GENERATION
出演 中島裕翔、菅田将暉、夏帆、柳楽優弥、岸井ゆきの、千葉哲也、マキタスポーツ、宮崎美子

予告編、ポスター含めて前情報をほとんど入れずに鑑賞しました。鑑賞後にチェックしたところによると原作は男性アイドルグループ、NEWSの加藤シゲアキが物した処女小説であり、事前の販促で「幕開けから62分後の衝撃!」などとネタバレチックにPRされていたこと。そうです、今作は映画中盤である大仕掛けがあるのですが、これを全然知らずに鑑賞できたので素直に「ほえー」と驚きを以てこの“ある仕掛け”を迎え入れることが出来ました。

とは言うものの、ごめんなさい!ぜんぜん楽しめませんでした!なんか演者さんたちも頑張ってて、ぼくは存じあげない方ですが主役の中島裕翔(こちらも後で調べたところアイドルグループ「Hey!Say!JUMP」のメンバー)をはじめ、菅田将暉、夏帆も非常に熱を入れたお芝居をしていましたが、おそらく今作を監督した行定勲の演出がぼくに合わないのでしょう、こう、なんかむず痒いと言うかウザったいと言うかとにかく観ていて、いーっ!となるところが多かったです。

実のところ苦痛のあまり途中で席を立とうかと思ったほどでしたが、なんとかエンディングまで堪えました。しかも鑑賞中、集中力が途切れていたところに朝方クリーニング屋さんで引き取ったワイシャツを会社に置き忘れてきたことを思い出し、いーっ!となっているところに、あーっ!も加わってほとんど映画そっちのけです。申し訳ありません。しかし、ぼくが苦手な作品だっただけで、観る人が観れば大変面白いものかもしれませんし、ジャニーズファンや原作ファンの方の思い入れもあるでしょう。一概につまらん!駄作だ!と判を押してしまうのも心苦しいところです。

映画の後半はタイトルの「ピンクとグレー」に倣ってモノクロームの画面になるのですが、ここからが絵面も見にくいうえにお話の方も混沌と収束していき、結局は何が言いたいのかわからずじまい。一体、この映画のテーマは何だったのかと疑問符を頭に浮かびあがらせながら、昨年鑑賞した、こちらもジャニーズの渋谷すばる主演『味園ユニバース』と全く同じ(と記憶しています)台詞で幕を閉じます。最後にこの台詞を持ってくると、ほんと作品全体がこの台詞に集約されているような気がしてあんまりうまくないんですけれどね。

今作の主題歌はエンドロールに流れるASIAN KUN-FU GENERATIONの「Right Now」でしたが、こういう類の邦画ってなぜいちいち主題歌をつけるんですかね。別になくても良いと思うのですけれど。劇中音楽もぼくにはうるさく煩わしかったです。などと、一通りくさしてしまいましたが、一点、柳楽優弥の演技は素晴らしく良かった。出番はほんの少しなんですけれど、脚本を相当読み込んだのか深みのある存在感溢れたお芝居でした。

夏帆がはっちゃけてました。濡れ場もあります!

2016年1月16日土曜日

クリムゾン・ピーク


Crimson Peak/2015年/アメリカ/119分
監督 ギレルモ・デル・トロ
脚本 ギレルモ・デル・トロ、マシュー・ロビンス
撮影 ダン・ローストセン
音楽 フェルナンド・ベラスケス
出演 ミア・ワシコウスカ、ジェシカ・チャスティン、トム・ヒドルストン、チャーリー・ハナム、ジム・ビーバー

ギレルモ・デル・トロ監督のフィルモグラフィから、ぼくが目を通した作品を調べてみると、ぱっと思い当たるのは『パンズ・ラビリンス』と『パシフィック・リム』ですかね。どちらも大好きな作品ですが、熱心な監督のファンというわけではありません。さて、監督最新作はミア・ワスコウスカを主演に迎えたゴシックホラー映画ということで、またユニークな世界観を提示してくれるのかな、と楽しみに劇場に足を運びました。

感想を一言で申し上げますと、ものすごく丁寧に微細に作りこまれたソープオペラと言ったところでしょうか。確かに、衣装に舞台に小道具にと、これでもかというくらいの作りこみがなされていますし、撮影も素晴らしく、特にその色遣いは目を見張るものがります。どの1ショットを切り取っても非常に絵画的で見惚れることは間違いないでしょう。しかし、肝要のストーリーがいささか昼メロ的と言いますか少女漫画的でもあり、ゴシックホラーと言うよりはサスペンス要素が強く、また展開が見えやすいためいささか退屈してしまいました。中盤、若干ウトウトしてしまったところもあります。

ただ、見どころは他にもありまして、トーマスを演じるトム・ヒドルストンなんですね。彼の没落貴族っぷりとその美しさを愛でる映画と言っても過言ではないのではないでしょうか。ぼくは、このトム・ヒドルストンという俳優さんを『マイティ・ソー』シリーズのヴィランでおなじみのロキとしてしか知らず、どうしてもダブってしまうのですが、逆にそこも相まって非常にチャーミングでした。大変にソフィスティケイトされたすべっすべのお尻も拝めます。

もう一つの見どころとして、恐らくはこれがR15指定の要因なのでしょうが、非常にグロテスクな「痛い」シーンがいくつかありまして、個人的にグッとキタのは洗面器にがっつんがっつん顔面をぶつけて死に至らしめるシークエンスと、これは鑑賞なさった誰もが共感を覚えるところでしょうけれどナイフをですね「えっ!そんなとこに刺すの!」から始まる非常に見ているこちらもギュッとなるシークエンスがあるんですね。これもトム・ヒドルストンがその犠牲となっているんですが、今これを書いているうちによくよく考えてみれば、多少のことに目を瞑っても、トム・ヒドルストン目当てでこの映画を観に行けばめちゃめちゃ楽しめるんじゃないかと、ギレルモ・デル・トロ監督の最新作って触れ込みで足を運んだ皆さんには申し訳ないですが、その思いを強くしているところです。

総じて、演者さんは良かったです。ミア・ワシコウスカはもちろんトーマスの姉を演じたジェシカ・チャスティンもキレてましたし(いろんな意味で)、監督が作り出したこの“クリムゾン・ピーク”の世界にどっぷりと馴染み込んでいました。ビジュアルに関しては申し分ない仕上がりになっていたんじゃないかと思います。

ギレルモ・デル・トロ監督には『パシフィック・リム』の続編を、そして、今作でぼくのご贔屓になったトム・ヒドルストンには新たな魅力を備えたキャラクターのクリエイトを期待して筆を置きます。

今作撮影中のオフ・ショットですね。サングラス姿が、またシビレるぅ!

2016年1月1日金曜日

クリード チャンプを継ぐ男


Creed/2015年/アメリカ/133分
監督 ライアン・クーグラー
キャラクター創造 シルベスター・スタローン
原案 ライアン・クーグラー
脚本 ライアン・クーグラー、アーロン・コビントン
撮影 マリス・アルベルチ
音楽 ルドウィル・ゴランソン
出演 マイケル・B・ジョーダン、シルベスター・スタローン、テッサ・トンプソン、フィリシア・ラシャド、アンソニー・ベリュー、グレアム・マクタビッシュ

監督のライアン・クーグラーと主演のマイケル・B・ジョーダン、『フルートベール駅で』のコンビだったんですね。大変に佳作でしたし、マイケル・B・ジョーダンの好演が光っていました。今作でも主演であるアドニス・ジョンソン(=クリード)役で、なかなか繊細かつ力強くのし上がっていく様を嫌味なく演じていてぼくとしては評価が上がりましたね。好きな俳優さんの一人になりました。

友人・知人の映画ファンから「イイ!」「泣ける!」との評判を聞き、大晦日の劇場に滑り込みで足を運んでの鑑賞でしたが、確かに涙腺を刺激してやまない一本でした。館内、大晦日とは言えそこそこの客入りでして、結構な割合でぼくと同年代と思しき男性が涙に咽んで嗚咽を漏らしていましたね。もちろん、ぼくもハンカチ片手に目玉が取れそうなくらい涙しておりました。

ウィリーしながら並走するモトクロスバイクやトライクを引き連れ、ロッキーのアパートメントまで猛ダッシュしてそこで思い切り雄叫びを上げるシーン、試合前に届いた品物を開けると養母から「あなたは、あなたの伝説を作って」と綴られた手紙とともに“CREED”“JOHNSON”と裏表に刺繍された星条旗柄のトランクスが入っているシークエンスなど、号泣ポイントは枚挙にいとまがありません。漫画の擬音文字で、泣く描写の時に「ぶわっ」ってのがあると思うんですけれど、まさにそんな感じで涙腺をやられます。この映画を観た皆さんでそれぞれの号泣ポイントを教えあって「ああ、そこそこ!」とか言いながら一杯やりたいですね。

そして何より、老ロッキーを演じるシルベスター・スタローンが大変に良い味を醸し出しております。アカデミー賞獲れるんじゃないかなってくらいの枯れた渋い演技で、もちろん実際のシルベスター・スタローンももう老齢にさしかかっているのですが、『エクスペンダブルズ』シリーズとは違い、スクリーンの中で一時代を築いたロッキーとしての彼と、ハリウッドで一時代を築いた俳優スタローンとしての彼が絶妙にマッチングして、恐らくは今作でなかったなら為し得なかったであろういぶし銀の演技でもって魅せてくれます。背中で語る男ってヤツですね。

ぼくは、『ロッキー』シリーズは恐らく『ロッキー4/炎の友情』をリアルタイムで劇場で鑑賞しその前作まではテレビかレンタルビデオで観たんだと思います。5作目以降は観ていないですね。ただ、もちろん4作目まで観ていればオマージュがふんだんに盛り込まれているのが分かりますし、監督のライアン・クーグラーのロッキーファンっぷりが伺えます。お話のほうもいわゆるロッキー的な王道パターンで初見の方でもこれはこれですっと入っていけるんじゃないでしょうか。シリーズ化するかどうかは微妙なところですが。

ちょっと残念だったのがラスボスである“プリティ”・リッキー・コンランが小粒だったというかPFP1位にしては体も締まってないし、あまりにも素行が悪く(それもしょぼい感じで)、あんまり難攻不落の
チャンピオンって感じに描写されていなかったように感じたことですね。彼との試合、ゴングが鳴ってからその結末までのシークエンスもぼくとしてはイマイチ…。ロッキーVSアポロ戦の再現とはならなかったようです。試合シーンはむしろ長回しのカットで撮影した初戦のほうが熱かったです。

昔から、ボクシングと言うスポーツが大好きなのですが現実のファイトもそれをモチーフにした映画などの作品にしても理屈を超えた部分で胸を揺さぶられるものがあります。そう言う意味ではずいぶんと贔屓目に今作を鑑賞した感想となっていると思いますが、ともあれ日々凡庸に暮らしながらも、どこか深く心のうちに熱いものを秘めた中年男性の諸君、今年の泣き初めに今作を鑑賞してはいかがでしょうか。

在りし日のロッキー・バルボアとお父さんアポロ・クリード