2014年5月6日火曜日

そこのみにて光輝く


2014年/日本/120分
監督 呉美保
原作 佐藤泰志
脚本 高田亮
撮影 近藤龍人
音楽 田中拓人
出演 綾野剛、池脇千鶴、菅田将暉、高橋和也、火野正平

ぼくは、北海道に行ったことは一度もなく雪が降ってすごく寒い、くらいのイージーなイメージしか持ち合わせていませんが、今作で描き出される函館の夏、すごく肌感覚に迫る丁寧な撮影と描写で画面に引き込まれました。
太陽の陽が射すわけでもなく、どんより曇っていて海も鈍い銀色で冷たそう。しかし、登場人物は総じて薄い着衣でその肌は一様に汗で湿り気を帯びており、扇風機や団扇、スイカ、祭りに夜店などの風物詩とあいまって、否応なく日本特有のじめっとしたどうしようもない夏の暑さを感じさせます。
物語の息苦しさを、それが増幅しているようで、そして、役者陣の気の入った演技が心を掴み食い入り気味で鑑賞した次第です。

役者陣、おしなべて素晴らしかったですが出色は菅田将暉。やんちゃな弟気質で若く浅はかなキャラクターにそれだけではない心の深い動きを垣間見せつつ、エネルギッシュに演じていて、終盤の綾野剛に抱きしめられながらの号泣シーンには思わずもらい泣きです。
彼の食事シーンも最高で池脇千鶴が作るチャーハンや食堂のカレーを貪り食うシーン。あぶく銭が入って寿司食うぞ、寿司!と言う生活感に説得力がありますよね。

もちろん主演の綾野剛、池脇千鶴は、この作品に賭けた思いが伝わってくる気持ちの込もった演技で胸に迫りましたし、脇を固める高橋和也、火野正平の芸達者ぶりも色を添えています。

函館の夏のどんよりした薄暗さ、特に室内では意図的に照明を落とし暗い画面が多く、物語も傷を背負った人々の閉塞した様子をありありと描いているため、こちらも否応なく塞ぎ込みがちになるのですが、ところどころにこぼれる画面上の光線とふとしたユーモア、そしてラストの二人の表情が「そこのみにて光輝く」と言うタイトルを表しているのでしょうか。

あ、あと映画を観てこんなこと感じたことは無いんですけれど、録音が良かったです。
その代わり、音楽がぼくはダメでした。個人的にはこの映画には音楽いらなかったんじゃないかと思います。抒情的に過ぎる(ぼくは映画音楽がそもそも嫌いなのです)。

それはともかく、非常に完成度の高い作品で、大げさではなく日本映画のあるべき形のひとつを提示した作品だとぼくは思います。こういう映画が興行的にも成功したりすると健全だなあ、と感じます。

ちなみに、不勉強ながら(ほんとに毎度不勉強で恐縮ですが)佐藤泰志という作家を知ったのはこの映画の鑑賞後です。ぜひとも手にとって読まねば、と思っておりますです。

北海道も行きたい!寿司食いたい!