2015年8月15日土曜日

インサイド・ヘッド 


Inside Out/2015年/アメリカ/94分
監督 ピート・ドクター
共同監督 ロニー・デル・カルメン
脚本 ピート・ドクター、メグ・レフォーブ、ジョシュ・クーリー
音楽 マイケル・ジアッキノ
日本版主題歌 DREAMS COME TRUE
声の出演(日本語吹き替え版) 竹内結子(ヨロコビ)、大竹しのぶ(カナシミ)、ビンボン(佐藤二朗)、浦山迅(イカリ)、小松由佳(ムカムカ)、落合弘治(ビビリ)、伊集院茉衣(ライリー)、花輪英司(パパ)、田中敦子(ママ)

プルル…ガチャ「もしもし」「なんや、おかん」「あ、たかし。あんたプリプリって知ってるか」「なんやねん、プリプリいうたらプリンセス・プリンセスやがな」「ほーそうか…。ほんならあんた、ドリカムいうたら、ドリンセス・カムンセスかいな」…20年程前のネタです。

事前にタイイン・プロモーションのことは聞いていたので、精神的な被害は最小限に抑えることができましたが、あの元旦に知らない人から「我が子もこんなに大きくなりました!」的な年賀状が大量に送りつけられてくるという悪夢のようなスライドショーは『時計仕掛けのオレンジ』の拷問を彷彿とさせるものがありました。日本版主題歌ってだいたいにおいて悪影響しかないような気がするのですが、それでも今回、どうしても「なし」って選択肢がないのなら冒頭に持ってきたのは英断だったんじゃないかと思います。と、いうのも本編がすんごく良かったのでエンドロールはじっくり余韻に浸ることができましたから。あれをお尻に持ってこられたらぼくのインサイド・ヘッドの「イカリ」がオーバードライブです。

恒例のショートフィルム、今作は擬人化した火山のロマンスをミュージカルに仕立てた『南の島のラブソング』でしたが、そもそも予告編やらが長かったのと冒頭のドリカムショックで頭がぼーっとしていたため、これが本編のイントロダクションだと勘違いし「変わった映画だなあ」などと独りごち、うまいんだかへたなんだかわからない唄を聴きながら「女の火山のビジュアルがトラウマ級に怖い」と慄いていたところに、はたと「あ、これいつものおまけのやつや!」と気づいて、ようやく本編上映開始となったのです。ちなみに、このショートフィルム、出来具合がどうこうより、だんぜん吹き替えなしで観たかった。

なんとなく森重久彌に似ています。
そもそも、本編も字幕版で観たかったのですが上映館がすべて日本語吹替え版であり、選択の余地がなかったのですね。最初は竹内結子演じる「ヨロコビ」の喋りのリズムに日本語の乗っていかない感じが不自然さを覚えてうーんとなっていたのですが、途中からはその違和感も消え去り、大竹しのぶ演じる「カナシミ」や佐藤二朗の「ビンボン」が大変に良かったのとその他の声優陣はさすがの演技で映画の内容に集中できるという点では日本語吹替え版もそれはそれで良し、となっていた次第です。

何より、齢四十と二つ、やもめ暮らしで中間管理職のおっさんであるぼくが今作、二回ほど号泣メーン致しまして、大人向け子供向けと言った話もあるとは思いますが、ぼくにはピンポイントに刺さる映画で非常に心を動かされました。号泣ポイントは二つ。「さらばビンボン」シークエンスと「ライリーかなしみに浸る」シークエンスです。ちなみに、ぼくの隣の席にいたちゃらい兄ちゃん(カップルで来ていて上映開始前はちゃらちゃらといきがってふざけていた)からも啜り泣きが漏れておりました。

頭の中の感情の動き、わかっちゃいるんですけれど、ああいう形で可視化されるととにかく楽しくて、ぼくのインサイド・ヘッドでもあんなしっちゃかめっちゃかが行われているんだという気持ちになり、これはライリーの物語であるとも同時にあなたの物語でもあるのですと言う、監督ピーター・ドクターの言葉に大きく頷くのです。原題は「Inside Out」、裏表ですね。喜びとともに生まれ、悲しみを背負い生きていく、そこにライリーの成長譚と家族愛を絡めて一つの普遍的な物語を紡いでいく脚本、巧いと思います。そこに、アニメーションならではのアイデアとビジュアルを最先端の技術を駆使して披露してくれるサービス精神と制作陣の真摯さは見事。あの焼却炉みたいなところでどんどん二次元になっていく様はなかなかにマッドで大好きなシーンの一つです。きちんとアクションがあり、スリルがあり小ネタもしっかり仕込んでと、エンターテイメントの髄を味わい尽くした(言い過ぎかもしれませんが)98分間でした。ぼくはそれほどディズニー・ピクサーアニメを観ていないので他の作品と比肩してどうこうとは言えませんんが、本作に限って言えば堂々の二重丸です。

疑問だったのが、なぜライリー一家はミネソタから引っ越さなければならなかったのか、サンフランシスコに腰を据えることにどうやって折り合いをつけたのか、この二点。まあ、そんなことはどうでもええ、愛や!家族愛やで!と言うことで納得しました。『アナ雪』では自己犠牲愛、『マレフィセント』では母性愛、そして、今作では裏表になった「ヨロコビ」「カナシミ」と副次的な「イカリ」「ムカムカ」「ビビリ」の五つの感情を大きく包むのは『家族愛』でしたね。愛にもいろいろなカタチがあるものです。そして、ライリーには五つの感情がとりあえずは知らんぷりを決め込んでいた「思春期」が訪れます。ボタンを押すのは誰なんでしょう。それでは、聞いてください。川村カオリで『ZOO』。

愛をください。