2016年3月10日木曜日

マネー・ショート 華麗なる大逆転


The Big Short/2015年/アメリカ/130分
監督 アダム・マッケイ
原作 マイケル・ルイス
脚本 チャールズ・ランドルフ、アダム・マッケイ
撮影 バリー・アクロイド
音楽 ニコラス・ブリテル
出演 クリスチャン・ベール、スティーブ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピット、マリサ・トメイ、カレン・ギラン、メリッサ・レオ、ジョン・マガロ、フィン・ウィットロック、ジェレミー・ストロング、レイフ・スポール、ハミッシュ・リンクレイター、マーゴット・ロビー、セレーナ・ゴメス

あんまり前情報を入れず、邦題とキャスティングから察するに主要キャストの4人がチームを組んで、サブプライムローン金融危機で吹き荒れる生き馬の目を抜く金融業界の中、苦境にめげず逆目を張って大儲けするコメディタッチの痛快なストーリーなんだろうな、と想像力を働かせて鑑賞したのですが、ぜんぜんそんなお話ではありませんでした。邦題、ひどくないですか(あと、予告編も)

ぼくは何を隠そう経済学部卒なのですがそれも今は昔、金融リテラシーも低く、そもそもお金も持っていない貧乏サラリーマンなので投機の類など縁遠い話であり、そんな身からすると今作で語られるあれやこれやは全くと言って良いほどちんぷんかんぷん。もちろんサブプライムローンの破綻に端を発するリーマンショックなどの金融危機、すなわちこの話しのオチは見えているものの、そこで繰り広げられる登場人物たちの金融商品の売買の仕組みがぜんぜん頭に入ってこず「ほえー」とスクリーンを眺めるばかりでした。

ゲスト的に出演するマーゴット・ロビーやセレーナ・ゴメスによる“やさしい”解説なども入るのですが、ふんふん、なるほどとうなずきはするものの「え、ごめん、もう一回言って」と首を捻っているうちに物語は進んでいき、たいそうな置いてけぼりを食らうのでした。そもそも、原題となっている「ショート」すなわち「空売り」ってのが、良く分からないんですよね。いや、理屈は分かるんですけれども。字幕を追っていると「売り」と「買い」が逆に訳されている個所があるような気がするんですよ。それって「売り」じゃなくて「買戻し」じゃないの、とか。専門用語に至っては全くついていけません。

それに加えて、全体としてはむしろシリアスな話運びで(オチがバブル崩壊なので当たり前ですが)、結局ある意味では誰もこのマネーゲームの勝者はいないどころか一番の被害者はこの映画では(少ししか)描かれていない貧困層や移民の人達だったりするわけで、“華麗なる大逆転”なんて話では全くないわけです。まあ、逆目を張って大儲けするってことには間違いないのですが。

それで、つまらなかったのかと問われるとこれが結構、面白かったし楽しめました。130分の長尺ながらもアダム・マッケイ監督のテンポ良くリズム感のある演出であっという間に過ぎていきますし、芸達者揃いの俳優陣の演技が見応えがあり、特にスティーブ・カレルが出色でした『フォックス・キャッチャー』に続き、素晴らしい演技でぐぐっと感情移入させてくれます。ブラッド・ピットも自分が制作に名を連ねる映画ではオイシイ役どころを演じるというお約束もありましたし、ライアン・ゴズリングは相変わらず叫び声を出すとき声が裏返ってました。クリスチャン・ベールはその役が変人であればあるほど嬉々として演じると言ういつもの力の入れ具合。脇を固めた俳優さんたちも光っていましたね。

ちなみに日本人が観ると、おっ!となる箇所が三つあって、ひとつは有名な日本料理のレストラン「Nobu」が舞台に、そしてそこで流れるBGMが徳永英明の『最後の言い訳』(歌詞が微妙にマッチしてて笑えます)、もう一つは村上春樹の著作『1Q84』の一節が字幕で引用されます。“Everyone, deep in their hearts, is waiting for the end of the world to come. 1Q84, Haruki Murakami”ってやつですね。個人的に非常にツボでした。

もちろん、経済や金融、この業界に詳しい人にはより楽しめるでしょうし、鑑賞前後にある程度予習復習をしておくと、この映画で語られる諸々がもっと味わい深くなるかもしれません。ぼくのように俳優陣の演技合戦を楽しむ見方もあるでしょうし、原作(マイケル・ルイス著『世紀の空売り 世界経済の破綻にかけた男たち』)を読んでみるのも良いと思います。アカデミー脚色賞も見事受賞しましたしね。色々と語るべき、語られるべき見所の多い力作だと感じました。お金は欲しいけれど、下手に株や金融商品には手を出すまい、あと無理な住宅ローンを組むのはやめようと言う教訓も得ましたよ。

スティーブ・カレル、『フォックス・キャッチャー』でも素晴らしい演技でしたが、今作も◎。コメディからシリアスまで幅広い演技力で着実にキャリアを築いています。

0 件のコメント:

コメントを投稿