2018年8月18日土曜日

野火


2015年/日本/87分
監督、製作、脚本、撮影、編修 塚本晋也
原作 大岡昇平
撮影、助監督 林啓史
音楽 石川忠
出演 塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也、森優作、中村優子、山本浩史

この映画が初めて上映された時期の鑑賞当時はまだブログを書いていなかったのですが、この度(2018年)の劇場でのリバイバル上映に伴ない2度目の鑑賞をして参りまして、当時「週刊映画時評ムービーウォッチメン」に投稿したメールを加筆、修正して転載しております。改めて読み直すと、もう少しうまくかけたら良かったと思うのですが(今回はまた以前とは異なる感想を覚えています)、初見の観賞直後に受けたライブの感想を記すため、ほとんど投稿当時の内容のママです。今回はメイキングも同時上映され、これまた自分の勉強不足とスタッフ、キャスト、関係者の皆様のご苦労に思いを馳せたところであり、そして、戦争の愚かさ、残酷さに幾度も身震いすると共に、戦争で犠牲になった多くの皆様に追悼の念を表すものです。

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凄まじくも恐ろしい、そして大変に不愉快な映画でした。もちろんこの不愉快さは今作の評価を貶めているわけではなく、インディペンデントながら制作・監督・脚本・撮影・主演とこなした塚本晋也渾身の傑作であるのは言を俟たないところでしょう。人間が巨人にぽりぽりと喰われる映画にお金をかけている余裕があったら(それが面白ければよいのですけれど)いくばくかでもこのまさに「人が人を喰う」映画に出資してほしかったところです。
観終わった後、不謹慎にも戦争を題材にした良質なホラー映画(あるいはゾンビ映画)だなとの感も持ちましたが、ここで描かれているのは紛うことなき先の大戦末期、フィリピンはレイテ島での現実。人間の極限状態をみっちりと濃密に描き出した残酷な87分の上映時間が永遠にも感じられ、劇場を後にしておもむろにつけた一服はリリー・フランキー演ずる安田に芋を渡して手にした煙草の味か、なんとも言えない旨さがありました。

このブログタイトルにその名を冠している原一男の傑作ドキュメンタリー『ゆきゆきて、神軍』でも、人肉食が衝撃的な証言により明らかにされており、また戦争に限らず1993年の映画『生きてこそ』では航空機事故による遭難を舞台にして飢えを凌ぐための人肉食が描かれている。想像を絶する飢餓を前にしての人間の選択や行動は一つの大きなテーマとなり得ると言うことでしょう。

自主制作ゆえの画面のチープさ、そしてぼくの苦手なブレブレに揺れるカメラワーク、グロテスクな映像の数々と過剰な演出など、正直言ってひとつの映画作品としては好みではないのです。塚本正也演じる主人公の田村一等兵が現地のフィリピン人カップルと対峙する場面、けたたましく叫ぶフィリピン人女性とカットバックで必死に現地語で語りかける田村一等兵、そしてついには…と言う重要なシークエンスや米軍の機銃掃射で一網打尽にされる日本兵が肉片を飛び散らしながら体を重なり合わせてバタバタと倒れそれこそゾンビの大群のような体をなすシーンなど目を背けたくなるほど嫌だし、ぜんぜん好みの演出ではないんだけれど頭にこびりついて離れない圧倒的なパワーがあります。

音も印象に残りました。軍服が擦れる音、銃器のかちゃかちゃとした音、犬の喚き声、人間の叫び声や唸り声(あーあー、うーうーって唸り声が特に印象的)、銃声、そしてラスト、新鋭の森達也が好演した永松が安田に血肉を滴らせながら喰いつくその音。この音に関してはことさらしっかり作りこまれ、観客の耳元に直接入り込んでくるような「嫌な」感触を非常に効果的に残していたと思います。好演と言えばリリー・フランキーが凄かったですね。この人が本来持つキャラクターの振り幅が安田と言う人間に思う存分投影されていて、深い人物造形になっていました。

もちろんこれは「反戦映画」なんでしょうけれど、これを観て「戦争はこんなに悲惨だからやめましょうね」とはならない感じもするんですよね(これは誤解を招く思慮の浅い言で、ただ鑑賞当時の印象として書かざるを得なかったのです)。戦争よりも「日本軍」に問題が多々あるような気がして(もちろん戦争ありきの軍隊ってのも承知してますが)。ぼくは戦争なんか絶対嫌だってスタンスですが、割に日本の戦争映画を観る度に思うんですよね、これ。とは言え戦後70年の節目にこれだけの熱量を持った映画が、しかもインディペンデントで劇場公開され多くの人の耳目に触れると言うのは非常に意義深いことですし、これを契機にぼくを含めて議論や考えを深めていくことが後の平和に繋がるとしたら幸い、なんと言ってもこの作品を構想から二十年を経て撮りきった塚本晋也監督、素晴らしい仕事だと感じ入りました。邦画史に残る一本になることは間違いありません。

2016年9月30日金曜日

スーサイド・スクワッド


Suicide Squad/2016年/アメリカ/123分
監督 デビッド・エアー
脚本 デビッド・エアー
撮影 ロマン・バシャノフ
音楽 スティーブン・プライス
出演 ウィル・スミス、ジャレッド・レト、マーゴット・ロビー、ジョエル・キナマン、ビオラ・デイビス、ジェイ・コートニー、ジェイ・ヘルナンデス、アドウェール・アキノエ=アグバエ、アイク・バリンホルツ、スコット・イーストウッド、カーラ・デルビーニュ、アダム・ビーチ、福原かれん

IMAX3Dにエグゼクティブシートを陣取り、万全の態勢で鑑賞に臨みました。これが功を奏して映像、音響共に迫力満点でバッチリと今作の世界観をエンジョイすることができました。テンポ良く物語は進み、“スーサイド・スクワッド”の活躍を飽きることなく、存分に楽しめたと思います。今作がその3作目となる「DCエクステンデッド・ユニバース」、『マン・オブ・スティール』ぼくの感想はコチラ)から『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』ぼくの感想はコチラ)と欠かさず劇場で鑑賞しているので、冒頭から話にも入っていきやすかったですし、前々から予告編を度々目にしていて期待が高まっていただけに前のめりで鑑賞した次第です。どちらかと言うと、DCコミックスのファンでして贔屓目も多分にありますけれど。

「悪には悪を」と言うことで、所謂ヴィランをメインキャラクターに据えた今作、そのアイデアが非常に面白いですよね。序盤のキャラクター紹介のシークエンスはスピーディかつリズム感があって、ワクワクさせてくれます。そして、なんと言ってもこの映画の肝は、マーゴット・ロビー演じるハーレイ・クインでしょう。彼女の魅力が今作を引っ張っていると言っても過言ではありません。反対に割を喰ったのがジャレッド・レト演じるジョーカー。このジョーカー役、ティム・バートン版の『バットマン』ではジャック・ニコルソン、そして、クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』では故ヒース・レジャーが演じて、それこそ主役のバットマンを喰う程の素晴らしい演技でしたが、今作のジョーカーは出番も控え目、役どころも何だか外していてイマイチ冴えないんです。どうやらその出演シーンが大幅にカットされたようですね。ジャレッド・レトはロシアまで出向いて刑務所で本物のサイコパスにインタビューするなど相当な役作りで挑んだようですが、甚だ残念ですね。

脚本も監督のデビッド・エアーが兼ねているのですが、その脚本の問題と言うより、ジョーカーの出演シーンも含めて、制作サイドの意向とレイティングの関係(全米ではPG-13)により編集段階で大幅なカット及び追加撮影などがあったようで、ちょっと肩すかし的な印象と、お話し的にもしっちゃかめっちゃかに感じる部分があるのは確かです。モチーフとしてはR指定にもぜんぜんできるくらいの内容ですからね。ぼくとしては、もっとダークにハジけたジョーカーやハーレイ・クインとエロ・グロ、ヴァイオレンスを観たかったなあとの思いはありますし、いささかもったいない作品になっちゃったかなと言う気はします。あと、ヴィラン達が立ち向かう、今作での本当の“敵”がイマイチしょぼいんですよね。顔が鉄の塊みたいなザコキャラがボコボコと湧いてきて、要のカーラ・デルビーニュ演じるボスキャラのエンチャントレスは身体をクネクネさせてながら恫喝めいたセリフを吐いたりして何だか気恥ずかしく笑える感じになっちゃってますし。

メインの主人公であるウィル・スミス演じるデッドショットが、相変わらず良いお父さんなウィル・スミスそのまんまでちっともヴィランじゃないってのも頂けませんでした。むしろ、正統派ダークヒーロって感じで、確かに請負殺人業で口を糊しているのですが、仲間想いだし、子煩悩すぎるだろ!みたいな。結局、今作で一番の“ワル”は、この“スーサイド・スクワッド”作戦の言いだしっぺであり、口封じの為なら躊躇なく部下も銃殺するし、保身の為に機密情報も渡しちゃう政府組織A.R.G.U.S.のトップ、アマンダ・ウォーラーその人でしたってオチですね。この人は引き続き「DCデクステンデッド・ユニバース」に登場しそうな感じです。そして、次作は『ワンダーウーマン』ですね。また、ひとつこれまでとは違った形の世界での活躍ぶりを魅せてくれると期待しています。ぼくも乗りかかった船ですから、シリーズの完結まで楽しみに追っていきたいと覚悟を決めております!

マーゴット・ロビーが嬉々として演じる、ハーレイ・クインちゃんのプリケツを拝むだけでも観る価値アリです。

2016年9月23日金曜日

HiGH&LOW THE MOVIE


2016年/日本/130分
監督 久保茂昭
脚本 渡辺啓、平沼紀久、TEAM HI-AX
企画プロデュース EXILE HIRO
撮影 鯵坂輝国
音楽 中野雄太
音楽プロデューサー 佐藤達郎
出演 AKIRA、青柳翔、高谷裕之、岡見勇信、井浦新、TAKAHIRO、登坂広臣、岩田剛典、鈴木伸之、町田啓太、山下健二郎、佐藤寛太、佐藤大樹、岩谷翔吾、窪田正孝、林遣都、早乙女太一、天野浩成、中村達也、西岡徳馬、松澤一之、橘ケンチ、豊原功輔、YOU、小泉今日子、白竜

巷でいかほど話題なのかどうかは定かではありませんが、ぼくのTwitterのタイムライン上では今作を鑑賞して、ずぶりとハマった熱狂的なファンが、公開からしばらく経った今なお異様なまでの盛り上がりを見せており、友人・知人の中にも口を開けばHiGH&LOW話という地獄に陥った猛者が幾人かおりまして、ぼくとしてはさしたる、と言うか全くと言っていいほど興味のないジャンルの映画ではありましたが、ムービーウォッチメンで取り上げられると言うこともあり、重い腰を上げて劇場に足を運びました。

気乗りしないままスクリーンに対峙し、どうなるものやらと思いながら鑑賞したものの、予想通り、途中で退席しようかと何度か考え、時に襲われる睡魔と闘いながらのなかなかに辛みのある鑑賞体験となりました。もちろん、ドラマは未見、EXILEや三代目JSoulBrothersその他所謂LDHの面々もほぼ誰の顔と名前も一致しない、ましてや興味もなしと言ったぼくのステータスではありますが、押さえ所には井浦新や窪田正孝、豊原功輔など芸達者な俳優を配し、一応は豪華キャストとなっていますし、冒頭からその世界観を映像とナレーションで懇切丁寧に説明してくれるので(MUGENとは、雨宮兄弟とは、SWORDとは…etc.)、まったく置いてけぼりと言うわけではなかったです。

まあ、何がダメだったのかと問われると一言では言い難いですが、結局のところ「うん、その話、ぼくはどうでもいい」と言うことでしょうか。眼前をイケメン男子たちが見得を切りながらバイクに乗ったり、喧嘩をしたり、アツく叫んだりするのですけれど、そりゃあノレない人はノレんわなあ、と言う身も蓋もない感想に落ち着いてしまう今作ではあると思います。ただ、逆に言えばその世界観から登場人物、各エピソードの積み重ねがハマる人には十分にハマるだけの要素があることも理解できます。設定はガバガバなところが多いですが、その分ディティールはかなり微細に描きこまれている(ような気がする)ので。

全体としては常にバックグラウンドで音楽が流れていて、ひとつの大きなPVのような作りになっていますね。また、先に述べた見得の切り方もクラシカルで歌舞伎を想起もさせます。伝統芸能ってヤンキー文化まで脈々と続いてるんだなあ、と感心しちゃったりもしました。脚本も大筋は古典的なものですし、そういう意味ではある一定の層に受け入れられるのはすごく分かりますね。それと、動ける演者さんをたくさん使っているだけあってアクションシーンは相当に見応えがあります。SWORD連合総力戦、100人VS500人のシーンは圧巻でした。スクリーンに映らない部分も含めて、丁寧に演出してありますし、相当なリハを重ねたと思います。カメラワークも冴えていて、長回しでクローズショットからロングショットまでメリハリをつけた画作りになっていて、これは昨今の邦画の中でも出色の出来映えと言えるのではないでしょうか。

あと、物語を補填するために回想シーンが多用されるのですが、これと各登場人物の挿入的なエピソードを割に短いカットで重ねていくため、作品全体にブツ切り感があるのと、やっぱり実際の上映時間以上に体感時間が長く感じられるのですよね。ただ、終盤のVS琥珀さんシークエンスでの回想シーン内でさらに回想シーンと言う大技には「すわ、インセプションか!」と驚きと笑いを禁じ得ませんでした。しかも、なかなか決着がつかないうえに、決着がついたかと思うと、これにて一件落着みたいになっちゃって、肩すかしを喰らっちゃうんですよね。何にも解決していないように思うのですけれど。

そうは言ってもですね、やはり今作の放つ熱量というかそのハイカロリー具合は、ノレなかったぼくにもしっかりと伝わってきまして、その点は決して看過できるものではなく、突っ込みどころに浅く突っ込んで笑って終わり、では済まされないエネルギーとポテンシャルを持つ作品だと思いますし、それに応える受け手のエンスージアズムも羨ましさすら感じるほどです。ぼくの友人で今作にハマりすぎて、方々で「ハイロー話」を打つ、もはや「ハイロー漫談家」と化しているA君と言う好事家がいるのですが、彼なんかと話したり、話しを聴いたりしていると、その面白さがより深まってくるあたり、非常に懐の深い作品世界だなと思ったりもするわけです。と言うわけで、雨宮兄弟をフィーチャーする次作、『HiGH&LOW THE RED RAIN』もちょこっとだけ楽しみにしております。斎藤工のお兄ちゃんぶりにも期待したいですね。

お気に入りは、林遣都率いる達磨一家。「SWORDの祭りは達磨通せや」のキラーフレーズは痺れます。

2016年9月16日金曜日

グランド・イリュージョン 見破られたトリック


Now You See Me 2/2016年/アメリカ/130分
監督 ジョン・M・チュウ
脚本 エド・ソロモン
撮影 ピーター・デミング
音楽 ブライアン・タイラー
出演 ジェシー・アイゼンバーグ、マーク・ラファロ、ウッディ・ハレルソン、デイブ・フランコ、ダニエル・ラドクリフ、リジー・キャプラン、ジェイ・チョウ、マイケル・ケイン、モーガン・フリーマン

せっかくの機会だからと、前作の『グランド・イリュージョン』をAmazonビデオでレンタルし、鑑賞した翌日に劇場へ足を運んで今作に臨みました。結果的にこの予習が大正解と言うか、前作を観ていないと面白さ半減どころか、割に置いてけぼりを喰らう感じになるんじゃないかと思いました(序盤とか特に)。もし、ブログを読んでこの続編である『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』を鑑賞しようと言う方がいらっしゃいましたら、まずは前作を観ることを是非ともオススメします。ちなみに、この順番が逆(つまり二作目→一作目)の順で観ても、興醒めすること然りでぜんぜん面白くありませんのでご注意を。

それで、感想なのですが結論から言うとぼくは一作目の方が面白かったと思うし、好きでした。色々と理由はあるのですが、最も大きなポイントは一作目のヒロインだった、ぼくの大好きなメラニー・ロランが出演していないと言うことです!まあ、物語の都合上、出演していないのは当たり前なのですが、それにしても今作はヒロインと言う点でいささか魅力不足。前作でアイラ・フィッシャーが演じたヘンリーも降板、入れ替わりにメンバーとなったリジー・キャプラン演じるルーラはコメディエンヌぶりは良いものの、ちょっとパッとしないなあと言った感です。本筋とは全く関係ない、すごく個人的な話ですけれど。

ぼくは、マジックの類は案外好きでして、種明かしなども気にせずぽかーんと口を開けてやんややんやと楽しむクチなので、今回もマジックのシークエンスは(実際にキャストが演じているマジックにせよ、それがCGで描かれているにせよ)、素直にすげーとエンジョイできました。見所は物語の軸である「フォー・ホースメン」と呼ばれるマジシャン・チームが厳重なセキュリティの中、チップをトランプに隠して盗み出す一連の場面。パームトリックと呼ばれるマジックの手法を駆使して、そのカードを仲間に投げては受け、投げては受けを繰り返し、執拗なボディチェックをすり抜けて無事盗み出すのですが、俊敏に移動するカメラワークも冴えていて、大変にスリルがありました。もう一つは、ジェシー・アイゼンバーグが雨を自由自在に操るシーンですね。実際のところ、あんな風にはならんだろうと思いながらも、そこは映画と言うもう一つのフィルターを掛けることによって、単純に言っちゃえばカッコイイ!ってなフォトジェニックなシーンになっています。

ただですね、逆に言うと見所はそこぐらいで、総じて前作と比べると大味になっていると言うかスケールやパワーもアップしているようなんだけれど、脚本に締まりがないような気はしました。すごく気になったのが、催眠術万能すぎ!と言う点です。肝心要なところはほぼ催眠術無双なんですよ。何でもアリ感がたっぷりです。ラストも何だか釈然とせず首をかしげましたしが、どうやら、三作目の制作も予定されているようなので今作はブリッジ的な役割を果たすのかもしれません。そう言えば、ヒール役で元魔法使いのダニエル・ラドクリフが出演しているのですが、「ジャジャーン」と言いながらの登場シーンだけ良かったです。その後はトーンダウンで、うーん…イマイチ。とは言え、キャストは前作に引き続き、モーガン・フリーマン、マイケル・ケインと言った大物の芸達者な俳優陣も含めて役者が揃っていますので、その点は十二分に楽しめると思います。とりとめのない感想になりましたが、やはりこう言う映画は語るより、ズバリ観て楽しむべし!ですね。くれぐれも、一作目→二作目とご鑑賞いただきますよう。あと、余計なことは考えず、エンジョイ精神で!

前作『グランド・イリュージョン』からメラニー・ロランのキュートなオフショットです。

2016年9月2日金曜日

後妻業の女


2016年/日本/128分
監督 鶴橋康夫
原作 黒川博行
脚本 鶴橋康夫
撮影 柳島克己
音楽 羽岡佳
出演 大竹しのぶ、豊川悦司、尾野真千子、長谷川京子、水川あさみ、風間俊介、余貴美子、ミムラ、松尾諭、森本レオ、伊武雅刀、泉谷しげる、柄本明、笑福亭釣瓶、津川雅彦、永瀬正敏

「○○の女」と言うと、もちろん伊丹十三監督の『マルサの女』に始まる一連の作品を思い起こしますが、それにオマージュを捧げたであろう今作、予告編を幾度か目にしており、なかなかに面白そうだなと思っていたところへ、今週のムービーウォッチメンで取り上げられることとなり劇場に足を運んだ次第です。結論から申し上げますと、面白かったちゃあ、面白かったですけれど何だか中途半端な仕上がりと言うか…ちょっともったいない感じの出来でして、伊丹十三監督の再来ならず!と言ったところです。

俳優陣は総じて素晴らしかったです。今作は大竹しのぶありき、と言う側面もあり、その怪演ぶりはさすが。ただ、気になったのが大竹しのぶに限らず、ネィティブの関西人でない役者さんが喋る関西弁の違和感ですね。ぼくは学生時代を兵庫県は神戸市で過ごしており、広義の関西弁を生で耳にしていたため、やっぱりそのイントネーションを奇異に感じて、そこで「ちゃうやろ」といちいち冷めちゃうんですよね。もうちょっとその部分を丁寧に演出してほしかったですね。

それでも、大竹しのぶはあの独特のファルセットボイスと台詞回しで多少の違和感もひっくり返して持ってっちゃう力量は見事でした。彼女のチャームで映画がぐいぐいと引っ張られていく感じは充分にありましたね。尾野真千子との場末の焼肉屋でのぬるーいキャットファイトも笑いを誘いましたし、銀行相手に病床の夫の預金を解約させろと芝居を打つ、丁々発止のくだりも迫力がありました。結構な豪華キャストがちょいちょいと脇で出演しているのですが、ぼくは柄本明の動物病院のモグリ医者が好きでしたね。

お話は全体を通してブラックなコメディタッチで描かれ、128分と言うそこそこの長尺ながら、展開も早く、確かに退屈はしないんですけれど、後半に行くにしたがっていささかグズグズになっていく感はあります。特にラストは一応の因果応報的な締めくくりではあるんですけれど、何かスッキリしないと言うか今一つカタルシスを得られないんですよね。永瀬正敏演じる探偵がクズっぷりを発揮してからの間延び感や急に拳銃が出てきたり、トヨエツの暴かれた過去での暴力性のトーンがそれまでのコメディ部分との喰い合わせが悪く、アンバランスな感じも受けました。また、ちょくちょくお色気シーンがあるのですが、これがいかにもサービスショット的でとってつけたような印象を与えるんですよね。

とにもかくにも、伊丹十三監督の「○○の女」に比べると、今一つ骨太感が足りない感じで、うーん、もうちょっと面白くなったはずなのになあ、なんて考えてしましまいます。ところで、舞台は夏の場面が多いのですが鑑賞中、撮影が良いなあと思っていて、エンドロールでクレジットを見たところ、ご贔屓の柳島克己でした。さすが、夏のシーンを撮らせたら現在の邦画界でこの人の右に出る撮影監督はいないのではないでしょうか。これは嬉しいめっけものでした。

しかし、“後妻業”と言うこの題材、ぼくは遺す資産も雀の涙ほどすらない、しがない中間管理職なので関係ないっちゃないのですが、四十路を超えた独身男性として考えさせられるものはあります。水川あさみや樋井明日香ちゃんが演じた北新地のホステスとトヨエツの駆け引きなども含めてですね。今のところ結婚相談所にお世話になるつもりはないですし、キャバクラなんかの夜遊びも避けて通っていますが、思わず「傾城の恋は誠の恋ならで 金持ってこいが本の恋なり」と言う文句を思い出してうすら寒くなってしまいます。

場末の焼肉屋での若干温めなキャットファイト。最後は両者疲れ果てペチペチやってます。

2016年8月26日金曜日

ゴーストバスターズ


Ghostbusters/2016年/アメリカ/116分
監督 ポール・フェイグ
原作 アイバン・ライトマン、ダン・エイクロイド、ハロルド・ライミス
脚本 ケイティ・ディボルド、ポール・フェイグ
撮影 ロバート・イェーマン
音楽 セオドア・シャピロ
出演 クリステン・ウィグ、メリッサ・マッカーシー、ケイト・マッキノン、レスリー・ジョーンズ、クリス・ヘムズワース、アンディ・ガルシア、チャールズ・ダンス、ニール・ケイシー、カラン・ソーニ

2D字幕版で鑑賞してまいりました。オリジナル版の『ゴーストバスターズ』が1984年公開。映画は大ヒット、一大ムーブメントを巻き起こしましたね。例のテーマ曲があちらこちらで鳴り響いていました。今を遡ること32年前、当時小学生だったぼくは、友人たちと連れ立って劇場に足を運び興奮しながら鑑賞したことをおぼろげながら記憶しております。さて、今回はその主役を男性から女性4人組に挿げ替えたリブート作品。日本での公開前から賛否両論、また、主演の一人であるレスリー・ジョーンズに対するTwitterでの誹謗中傷など話題に事欠かない今作でしたが、ぼくは大変に楽しみましたし、愛すべきオバケ映画ならぬオバカ映画として笑いの渦に包まれた興奮の中で一息に鑑賞し、非常に満足度の高い一本となりました。

まず何と言っても主演4人のコメディエンヌ達の掛け合い、これが最高でしたね。劇場にはちらほら外国人の方もいらっしゃたのですが、もうところどころで我慢しきれず大声で笑ってるんですよ。こちらは字幕の為、若干遅れてフフッとなるのですが次第に釣られて意味も分からず同じテンポで爆笑してしまうと言うホットな体験もありました。お気に入りのクリステン・ウィグが相変わらず妙味を出していて、ぼくはこの人の笑いの「間」が好きなんですよね。大きな動きで笑わせるんじゃなくて割にミニマムなアクションやジェスチャーと台詞回しで笑いを誘うところが好きなんです。今作でのマイ・フェィバリットは、「家賃21,000ドルです」「おい!」の場面ですね。間が良いです。英語だと何て言ってるか失念しましたが、字幕も相当キレがあって良い感じでしたね。

そして、今作で一躍注目株となったのはマッド・サイエンティストのホルツマンを演じたケイト・マッキノンではないでしょうか。本国ではコメディ番組『サタデーナイト・ライブ』で人気を博している話題のコメディエンヌと言うことですが、ゴーストバスターズの武器担当としておいしい場面を何度もかっさらっていました。パッと見はクールビューティーなのですがそのキレっぷりは相当なもの。緊迫した場面でいきなりポテトチップスを食べだして「ポテチの誘惑には勝てない」とか二丁拳銃をべろりと舐めてからのゴーストバスターズ無双ぶりなど最高でした。彼女の魅力なしにはこのリブート版『ゴーストバスターズ』は語れないでしょう。本人も水を得た魚のように嬉々として演じているようで、観ているこちらもハイになっていく感じです。

オバカ秘書を演じたクリス・ヘムズワースもハンサムフェィスとマッチョなボディを逆手にとって存分に笑わせてくれましたし、オリジナル版の俳優陣がカメオ出演していたりと見所は存分です。もちろん、最新のCG技術を使ったビジュアルも抜群で音響と共に迫力があり、できればIMAX3Dで鑑賞したかったところ。オリジナル版へのリスペクトを感じさせながらも、今現在だからこそ魅せるリブート版『ゴーストバスターズ』として充分な完成度を保っているのではないでしょうか。ちなみにエンドロールは最後まで席を立たない方が良いヤツですのでご留意を。一点だけ気になったのが、終盤ゴーストたちとの対決もクライマックス、最終的にどうしようもなくなったら、ヨシ!核兵器だ!と言うのがうーん、アメリカンだなあ…と複雑な思いが胸に去来しました。まあ、それはさておき割に頭をからっぽにして娯楽映画をエンジョイしたい!と言う方にはオススメの映画です。ぜひ劇場に足を運んでご覧頂きたいですね。久々にアンディ・ガルシアの御尊顔も拝めますよ。

ホルツマンは最高にクールです!今後のケイト・マッキノンに注目!

2016年8月19日金曜日

シン・ゴジラ



2016年/日本/119分
総監督 庵野秀明
監督 樋口真嗣
脚本 庵野秀明
特技監督 樋口真嗣
撮影 山田康介
音楽 鷺巣詩郎、伊福部昭
出演 長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ、高良健吾、大杉漣、柄本明、余貴美子、市川実日子、國村隼、平泉成、松尾諭、渡辺哲、中村育二、矢島健一、津田寛治、塚本晋也、野村萬斎

Twitterのタイムラインも喧しく、ネタバレされても敵わんと公開早々にIMAXにエグゼクティブシートを陣取り鑑賞してまいりました。客入りもほぼ満員、熱気すら感じさせる劇場内でしたが、実はぼく、正直言ってそんなにノレなかったんですね。上映終了後、噂に聞いていた拍手があちらこちらで湧き起っていましたが、微妙な心持であったぼくは、うそーん!となってノレない自分にさらに気持ちが沈んでいくのでした。その後、Twitterをチェックしたり色々な方のレビューやブログを読んだりしましたが、皆一様に大絶賛。観客動員数もうなぎのぼりで興行収入もン十億円越え!と大げさに言えば社会現象にすらなっている様子。ぼくは「これがツマラナイと言うお前がツマラナイんじゃ!」「ふふふ…この良さが分からないとは、あんたバカァ」などの幻聴が頭の中を駆け巡り、鬱を患ってしまう程にまで落ち込んでしまいました。いや、面白かったんですよ。でも、なんか台詞は聴き取れないし、あ、あの人名前なんだっけ?とか、演出やカメラワークが何かのアニメの実写版みたいだし、ヤシオリ作戦に至ってはゴジラが歯医者で治療されてるみたいだし…とか様々なノイズが煩わしく頭に響いて、結果「そこまでのものかな」と言う感想に至った訳です。

そうして、鬱になり半ばひきこもり状態であったぼくは「これではいかん!」と、ちょうど北海道へ旅行に行っていたのですが(←ひきこもってない)、その最終日、ユナイテッドシネマ札幌で2回目の鑑賞へと立ち向かったのです。「サッポロでゴジラ」ってなんとなく響が良くないですか。それはともかく、2回目の鑑賞は初見の時のノイズがクリアされて、台詞も割に聴き取れ、演出や小ネタも含めてディテールも掴めましたし、随分と楽しめました。こちらも館内はほぼ満員の入りでしたが今回は上映終了後の拍手はありませんでしたね。初見の時はシリアスな場面にそれが挿入される為、「え?これ笑っていいの」と面喰ってるうちに話しが進んでいってしまってもやもやしたんですけれど、今回はちゃんと笑っちゃうところで笑えたのもポイントが大きかったです。嶋田久作は2回とも笑いましたけれど(あれ、笑って良いんですよね?)。

俳優陣が豪華で総勢328名とのことですが、オールスターキャストではないんですよね。むしろ普段脇で光る俳優さんとか、顔は良く拝見するんだけれど、名前が出てこない!って役者さん(それ以外の人も。原一男監督とか!)がたくさん出演していて、しかもそのキャスティングが激ハマリしてるって言うのが凄いですよね。そういう意味では全然煩くない。そして、長谷川博己と石原さとみですが、逆にこの2人以外にあの配役を演じ切れる人います?ってくらいベストなキャスティングだとぼくは思います。今作では舞台で大きなお芝居を演じるようなメソッドを持っている人が適材だし、過剰なまでに強いキャラクターでないと他に負けちゃいますし、ゴジラにも対せないですもんね。あと、ぼくが感嘆したのは國村隼の台詞回しの凄さ。これは初見の時から感じました。ボソボソ喋ってる感じなのにスッと台詞が頭に入ってくる。この人、どの映画でも基本的にメソッドは変えてないんだけれど、それぞれに馴染むんですよね。もちろん「仕事ですから」と彼は答えるでしょう。

ちなみに、少しエクスキューズしておきますと、ぼくはゴジラに関してはムービーウォッチメンで取り上げられた2014年のギャレス・エドワーズ監督『GODZILLA ゴジラ』(ぼくの感想はコチラ)、通称「ギャレゴジ」しか観ておりませんし、特撮怪獣映画にも特段の関心もありません。庵野秀明監督についても、もちろん存じあげてはいるものの『新世紀エヴァンゲリオン』を始めとしてその作品は観たことがありません。なので、そちら方面の切り口からは何も語ることができないわけです。ただ、今作に関して言えば、そういう人たちにこそ観に行って欲しいというオススメの語り口がありまして、確かに、3.11以降に作られた1本の邦画として、今後映画史に残るであろうエポックメイキングな作品になることは間違いないと思いますし、この映画は大傑作と太鼓判を押す方が多勢であろうことは理解できます。まだまだ、ネット上でも様々な評論や考察などが飛び交っておりますし、二次創作も活発なようです。語るに尽きない作品であることは確かですね。

さて、そんなわけでぼくも何とか2回目を鑑賞して少なからず今作を味わいだしたと言うところですが、やっぱりですね、別にそんな手放しで大傑作じゃん!と言うわけではありませんし、これは単なる好みの問題でしょう。でも、本当に作り手が心血を注いで面白いものを作ろうと思ったらこれだけのものが(予算などの制約がありながらも)作れるんだと言うのは誇らしい気もしますし、単純に娯楽作品として観ても遜色ない作品を仕上げてきた手腕は見事だと思います。あと、声に出して読みたい日本語がたくさん出てくるのも嬉しいですよね。しかも、汎用性が高い。「まずは、君が落ち着け」とか「骨太を頼むよ」、「え、今ここで決めるの?聴いてないよ」とかですね。挙げたらキリがありません。あ、書くの忘れてましたが2回とも唖然とスクリーンに釘付けになったシークエンスはもちろん、ゴジラが放射熱線で東京の街を焼き尽くす一連の場面です。絶望と恐怖が入り混じったシーンが悲愴的な音楽と共に眼前に拡がり、もう手の施しようのない災厄感がばんばんに出てて何とも言えない心持になりました。畏怖の念すら感じましたね。いずれにせよ、もし迷っている方がいらっしゃったらとりあえずは映画館で観ることをオススメしたい、リアルタイムでこの映画を体験してほしい、そんな作品ではあります。

カヨコ・アン・パタースン役を演じた石原さとみ。名言「ZARAはどこ?」を残しました。そして、「特殊なインクを使っているの。カピーは不可よ」は今年の流行語大賞です(ぼくの中の)。